3024年宇宙のスズキ

神谷モロ

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エピソード3

ザギン・デ・シースー4/4

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 せいろから勢いよく白い湯気が上がる。
 同時に芳醇なカニの香りが周りに広がる。

「カニは刺身も美味いんですが、蒸すとより旨味を引き出すんですよ。さあどうぞ召し上がってください」

 真っ赤に蒸しあがったズワイガニ。
 欠損がなく立派なハサミを持った大きなカニだ。

 八本の足も太くたくましい、カニの世界では間違いなくイケメン枠に属するだろう。
 そういえばカニ料理のお店には、こんな看板があったのを思い出す。

 それ位に見事なズワイガニだった。

「どれどれー。じゃあさっそくいただきまーす」

 ボキッ、ガッ。ツルン!

 シズカは躊躇なくカニの足をもぐと、綺麗な薄ピンク色の身がぶるんと出来てきた。

「お! お嬢さん。カニのむき方がプロですね。道具なしでそこまで綺麗にむける人は最近では滅多にいないですよ」

「まーね、アタシ、カニむきのバイトやってたことあるし。プロって言われればプロよねー」

 そして一口でカニ足を頬張るシズカ。
 食いっぷりも良いようだ。

「うーん、少し雑味があるかも……それに少し身がやせてるかんじ?
 大将さんには悪いけど、ブラックロッククラブには少し劣るかも……」

 美食家女子高生の誕生だ。
 いきなり辛口のコメントである。

 ……まあ、黒いスーツを着た、たれ目の究極のクレーマー新聞記者よりは華があっていいか。
 実際ギャルに言われても、そこまでムカつかないからな。やはりギャルしか勝たんのか。

 どれ、俺も一本頂くとしよう。
 蒸したカニなんて初めてだな。大体は茹でたのか焼いたのしか食べてない。

 酢醤油をつけて食べる。

「う、うまい! カニのうまみがこれでもかって口に広がる。
 なるほどな、カニ本来の味を堪能するには蒸すが正解だったんだ!」

 俺は美食家ではない。旨い物には旨いと正直に言う派だ。
 グルメ漫画でいうところの副部長ポジションである。

 黙々と殻をむいてはしゃぶりつく。

 さすがにカニむきは得意ではない。
 大将がカニ用スプーンを出してくれたので、ほじくりながらゆっくりと味わう。

「そういえば、この間は焼いてしまったっけか。
 あれは香ばしくて美味かったけど、これこそが究極のカニ料理だったのだな」

「あー、イッチローお兄さんは焼いちゃったんだ。
 もちろんそれも有りだけど、ちょっともったいないかもね。
 でもまあ好きに食べれば良いと思うよ? 私はお家ではカニ鍋が一番好きだし。
 しめの雑炊とか最高じゃん。お腹いっぱい食べるなら、やっぱ鍋だよねー」

「あ、私もー。家族でお鍋囲むの楽しいもんねー」

 次々とカニの足をもぐ一行。ソウジも一口。

「美味いでござる。拙者はこれ以上美味い物は食べたことが無いでござる。
 シズカちゃん殿は先程は雑味がどうとかケチをつけていたでござるが……」

「ああー。それ言っちゃう? 別にアタシは専門家じゃないけど、何ていうかなー。雑味っていうか? ……口に出すのは難しいっていうか?」

 大将は使い終えた包丁や、まな板を清潔な白い布巾で拭きながら答える。

「ああ、お嬢さんの言ってることは正解ですね。……そう、雑味の正体は海が汚れているからですよ。
 人類は誕生以来、海を汚してきました。もちろん現在の政府は頑張っています。
 毒素の浄化装置などの技術の進歩は素晴らしいです。ですがたった数百年で汚れた海を元通りにするのは難しいのでしょう」

 そういえば、移民船ロナルド・トランプの映像記録では宇宙戦艦が放った一発の主砲で地球環境は汚染されまくったって言ってたな。
 それでも人類は頑張っている。
 いやずっと頑張っているんだ。たまに間違えるけど、こうして美味しいカニが食べられるんだから人類はまだまだ捨てたもんじゃないってな。

「おい! 美食家ギャル共。こんなに旨いズワイガニに失礼だぞ。マズいって言うなら後は俺達地球組で食べる。
 お前等はトロでもなんでも食べればいいだろ! 俺は美食家気取りで人様の料理にケチを付ける輩が嫌いなんだ!」

『マスター大人げないですよ? 飲み過ぎでは?』

「うん? 飲み過ぎだと? こんな水みたいにすーと入る酒、飲んだうちにはいらないだろ! それに漫画の話だ! 俺はグルメ漫画が社会問題を語るのが嫌いなだけだ!
 グルメは人情! 年越しうどんの回が最高なんだ!」

『はいはい、飲みすぎですね。ちょっとウザくなっています。
 ミシェルさん、マスターのことよろしくお願いしますね。酔っ払いの介抱も福祉事業の一つです、頑張ってください』

「え? …………はい、あのイチローさん。大丈夫ですか? あの大将さん、お茶をお願いします」

「よーし、じゃあこのカニは俺達が貰っていく。
 おいサガ兄弟! カニを肴に飲もうじゃないか! この際聞いてやる。お前等のオタク趣味について男同士語り合おうじゃないか!
 ミシェルさんは女子共をよろしく頼むぜ!」

 …………。

「あのー、ミシェルさん。イチローさんってお酒弱いんですか?」

「え? そういえば、普段はあまり飲まない方でしたね」

「あーね、日本酒は飲みなれてないと、やらかすってホントだったんだ。
 あれっしょ、大将さんが言ってたのって、女の子に飲まして、そのままお持ち帰りする輩が多いってやつっしょ?」

「へい、おっしゃる通りで。ですので日本酒を出す場合は少し注意をするようにしてるんですよ……」

『ふふふ、マスターにはその気概はありませんけどね。ヘタレですから。まあ、マスターのお持ち帰りはミシェルさんにお任せいたします』

「……わかりました。責任をもってアマテラスまで帰還させます」

「あ、アタシも手伝います!」
「もちろん私も!」

 元気よく手を上げるシズカとシズネ。

「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて。……さてと、もっと食べようか。次は何食べたい?」

「アタシ大トロ食べたい!」
「私も大トロください!」


 …………。

 ……。


 男三人、テーブル席にて。

「……ふむ、じゃあ何か? マードックさんはMやL、つまりメカフィリアでもロリコンでもないと? 嘘を言うなよ、マリーさんは超絶ロリ美少女アンドロイドだぞ!」

 女子達が座るカウンター席から少し離れ、テーブル席で男三人はカニ味噌を肴に熱燗をちびちびとやりながら、オタク談議に熱を上げる。

「イチロー殿、声がでかいでござる。しかし、話を聞く限りでは最初の出会いの時点では、マードック殿という方は10歳にも満たない少年だったでござるな?」

「うむ、イチロー殿。これはどちらかと言えばおねショタに当たるのでは?
 時が過ぎ成長した彼と、一切成長しないアンドロイドの少女……尊いじゃないですか」

「そうでござる。我々の業界では究極の恋愛ジャンルでござるよ。そういう作品は全俺が涙するテーマでござる。映画化待ったなし! でござる」

 確かに、この二人の言っていることはそうかもしれない。
 マードックさんとマリーさんの関係にはちゃんと深い歴史があるのだ。

 だが、マードックさんは確実に年を取る。ブーステッドヒューマンだって寿命はあるのだ……。
 もし、その時が来たらマリーさんはどうするのだろうか……。

 ……まあ、完全に余計なお世話だ。外野がどうこう言う事ではない。

 それに、その時には俺だって生きてるか怪しいし。
 考えるだけ無駄だろう。


 ――その後の事はよく覚えていない。

 気持ちよく飲んで……お会計はミシェルさんがしたような? ちゃんと領収書も貰ってある。

 はめを外し過ぎたか……。

 だが、二日酔いにはならなかった。最後に飲んだお茶の効果だろう。
 技術の進歩は凄いと感心したのだった。

 サガ兄弟とは二次元と三次元のアイドルについて語り合った記憶はぼんやりとある。

 熱い議論だった……覚えてないのが残念だ……。
 いや、忘れた方が幸せなことだってあるだろう。

 高級な日本酒は3024年現在でも危険な飲み物だと思った。

 ミシェルさんには後で謝らないとな……。



 -----終わり-----

 あとがき。

 ここまで読んでいただき本当に感謝申し上げます。
 今回は日常会、ただ寿司を食べるだけの緩いお話でした。

 次回からはやや伏線回収をしていこうと思いますがどうなることでしょう。


 続きが気になる、面白いと思って下さった読者様、できれば♡応援、お気に入り登録いただけると創作意欲につながりますのでよろしくお願いします。
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