自分をドラゴンロードの生まれ変わりと信じて止まない一般少女

神谷モロ

文字の大きさ
5 / 151
第一章 我こそが

第5話 戦場跡②

しおりを挟む
「ついに目的地に着いたぞ。うーん……執行官の亡霊はどこだろう?」

 ルーシーは目的地である戦場跡に着くと周りを見回した。

 戦場跡とは言ってもそれらしい痕跡はない。
 マスター級の魔法使い同士の壮絶な魔法戦があったことは確かだが。それは20年ほど前の出来事であって、その痕跡は既に無い。

 マスター級は、最高レベルの魔法使いという扱いであり。
 戦闘ともなれば大規模な魔法の影響で地形に何らかの痕跡があるはずだと子供たち全員が期待していたのである。

 しかし、ただの林道に少しだけ開けた草原があるのみだった。
 近くには小川があるのでここでキャンプをするにはうってつけではある。

「女神様、ここが戦場跡なの?」

 アンナもここがかつてそんな惨劇があった場所のようには思えなかったようで、手の平をおでこに当てながら周りをぐるっと見回している。

 …………。
 日はすっかり昇っている。
 そろそろお昼だ。
 
 歩きっぱなしで子供たちはお腹ペコペコになっていた。

 ルーシーとて腹が減っては亡霊どころではない。
 さっきから「ぐぅっ」とお腹の音が止まらないのだ。

「うふふ、丁度良い時間かのう。では子供たちよ、お昼にしようじゃないか。とびっきりのサンドイッチを買っておいたのだ!」

 ベアトリクスは風通しの良い木陰を見つけるとそこにピクニックシートを敷き、その上に大きなバスケットを置いた。

 レオンハルトは姉が素直に昼食を取ることを受け入れたので少しほっとした。

 姉は何やら今回の冒険を楽しみにしている節がある。
 自称ドラゴンロードの魂がうずくらしいのだ。

 そのうずきに良い事などない。おかしな行動をするに決まっているのだ……。
 だから冒険よりも先に昼食を取ると言ったベアトリクスに文句を言うのではないかと思っていたのだった。

「姉ちゃんが普通に人間でいてくれてありがとう……」

「なんだ、レオ、急に変なことを言って。私は人間だぞ?」

 口の周りにサンドイッチのソースをつけながら行儀悪く喋る姉を見てレオンハルトはため息をつく。
 いつも変なことを言ってる姉にだけは言われたくなかった……。

「そうか、ドラゴンロードは人間の事なんだね……僕は分かんないや……。もう! 姉ちゃん! 口の周りが汚いよ!」 

 レオンハルトはハンカチを取り出すとルーシーの口の周りをふき取った。

「あはは、レオの方が兄貴みたいだな」

 二人のやり取りを見ていたジャンが笑いながら指さした。

「もう、ジャン君だって人のこと言えないじゃない。ほら口の周り」

 アンナはポーチからハンカチを取り出しジャンの口の周りをふき取った。

「うん? あ、ほんとだ。サンキューな、しかしアンナの口は綺麗なままだな。ルーシーとは大違いだ。あははは」

 ピクニックシートに座る4人の子供とドラゴンロードが一人。
 誰がどう見ても微笑ましいピクニックの風景である。

「ふむ、もう少し小さめのサンドイッチを注文すればよかったかのう。そうだ。今度、店主に提案してみようかの」

 ベアトリクスは今朝、海辺のレストランで購入した大きなエビと細かく刻んだ野菜に甘辛いソースのかかった具を挟んだ大きなサンドイッチを見ながら思ったのだ。

 子供の小さな口ではソースがはみ出すに決まっている。そんなことを思いながら水筒に入った紅茶をカップに注ぎ、子供たちに配っていった。 

「さて、久しぶりに来たが亡霊の類の気配はない。いや、隠れているだけかもしれんのう、私では矮小な魔力の残滓など見つけられないのだから……」

 風が軽やかに吹き抜ける草原のその先にある墓標に目を向けながらベアトリクスは一人呟いた。


 -----------
 
「さてと、子供達よ。ここから少し先に墓標がある。亡霊騒ぎが真実なら、そこに何らかのヒントがあるはずだろうて」

 ベアトリクスはピクニックシートを折り畳みバスケットに入れると、林道からそれた森の奥を指さした。

 森の奥は高い木々の枝葉が日光を遮っているためか、森の中は昼間とは思えないほどに薄暗かった。
 
 ここに来て初めて亡霊に相応しい光景が広がっていたため子供たちは若干の緊張を覚えた。

「ふむ、やっと亡霊とやらを見れるのだな。よし皆の物、私についてこい!」

 ルーシーは躊躇なく森の奥に足を進める。
 この時だけはレオンハルトは姉を頼もしく思ったのだった。

 目的地である墓標は思ったよりもすぐ近くにあった。

 森に侵入して数分も経たずに石で出来た十数個の墓標が規則正しく並んでいる広場に出た。

 森の中だというのに不自然に開けた場所。先に道があるわけでもない。
 それにわざわざ墓標を立てるために森を切り開くとも考えにくい、その場所こそがマスター級の魔法使い同士の戦闘で起きた痕跡だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

異世界カフェ食堂で皿洗いをしますと思ったら日本料理を創造する力が与えられていた!(もふもふ聖獣猫のモフにゃーと楽しく日本料理を創造します)

なかじまあゆこ
ファンタジー
可愛いもふもふ達とアリナは異世界でスローライフをします。 異世界召喚された安莉奈は幼女の姿になっていた。神様に与えられた能力を使い眷属聖獣猫モフにゃーや魔獣のライオン魔獣鳥に魔獣の日焼けとお料理を創造します! 熊元安莉奈(くまもとありな)は黄色のバスに乗せられ異世界召喚された。 そして、なぜだか幼女の姿になっていた。しかも、日本の地球人だったことを忘れていたのだ。 優しいモリーナ夫妻に養子として引き取れた安莉奈はアリナになった。 モリーナ夫妻はカフェ食堂を経営していたが繁盛しておらず貧乏だった。料理が出来ないアリナはお皿洗いなどのお手伝いを小さな体ながらしていたのだけど。 神様から日本料理を創造する力が与えられていた! その力を使うと。 地球では辛い生活を送っていた安莉奈が異世界ではアリナとしてお父さんに激愛され幸せに生きている。 エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

勇者召喚の余り物ですが、メイド型アンドロイド軍団で冒険者始めます

水江タカシ
ファンタジー
28歳独身、一般事務の会社員である俺は、勇者召喚に巻き込まれて異世界へと転移した。 勇者、聖女、剣聖―― 華やかな肩書きを持つ者たちがもてはやされる中、俺に与えられたのは聞いたこともないスキルだった。 【戦術構築サポートAI】 【アンドロイド工廠】 【兵器保管庫】 【兵站生成モジュール】 【拠点構築システム】 【個体強化カスタマイズ】 王は落胆し、貴族は嘲笑い、俺は“役立たず”として王都から追放される。 だが―― この世界には存在しないはずの“機械兵器”を、俺は召喚できた。 最初に召喚したのは、クールな軍人タイプのメイド型戦闘アンドロイド。 識別番号で呼ばれる彼女に、俺は名前を与えた。 「今日からお前はレイナだ」 これは、勇者ではない男が、 メイド型アンドロイド軍団と共に冒険者として成り上がっていく物語。 屋敷を手に入れ、土地を拠点化し、戦力を増強しながら、 趣味全開で異世界を生きていく。 魔王とはいずれ戦うことになるだろう。 だが今は―― まずは冒険者登録からだ。

転生幼子は生きのびたい

えぞぎんぎつね
ファンタジー
 大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。  だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。  神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。  たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。  一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。 ※ネオページ、カクヨムにも掲載しています

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

処理中です...