自分をドラゴンロードの生まれ変わりと信じて止まない一般少女

神谷モロ

文字の大きさ
101 / 151
第六章 帰省

第101話 帰省⑪

しおりを挟む
 食事が終わると、大人たちはそのまま夜の繁華街に消えていった。
 馴染みのバーで、お酒を飲むためだろう。

「やれやれ、大人たちはしょうがないんだから」

「姉ちゃん、実はうらやましかったり?」

「そ、そんなことはない。お酒は嫌いだ。美味しくないし」

「そうかなー。甘いお酒ならルーシーちゃんでも大丈夫だと思うけどなー」

「おいおい、アンナ。ルーシーはまだ子供だぞ。さすがにまだ早いだろう」

「ぬ? その口ぶり。ジャン君とアンナちゃんは飲んだことがあると?」

「ああ、ちょっとだけだがな、まあ、俺にはまだ早かったな。あれは人の精神を破壊する呪いの液体だ、アンナは人が変わったようにべたべたしてくるしな」

 呪いの液体という言葉に少し心惹かれるルーシーであったが、このまま立話してもしょうがない。

「ところで皆はこれからどうするの?」

「そうね、私達は宿に戻ってもやることがありませんわね。セシリアさんはどうされます?」

「うん、私も特に予定は無い」

「ふふふ、そう言う事なら、ソフィアさんとセシリアさんにはぜひグプタの海を堪能してもらいたい!」

「え? 今は夜だというのに。泳げるのですか?」

「いやいや、さすがに泳げないけど、夜の海もまた素敵なのだ。私は眠れない夜はこっそりと浜辺に出て、夜の波の音を聞いていたものだ。
 街の明かりが海に反射して、とっても綺麗なんだから」

「そだねー、夜の海、私も好きだなー。ジャン君もだよねー」
「おう、だが、ちょっと不気味だよなー、真っ黒な海ってのは船乗りでも緊張するんだぜ?」

「ジャン君は別に船乗りじゃないでしょ。ははーん。さては夜のお化けが怖いと見えるな? いでよ!『ハインド君』」

 ぼふん、黒い煙と共に現れる黒いローブの骸骨。

『マスター、失礼ですよ。私にもジャン殿にも……。ちなみに私はお化けではありません。闇の執行官ハインドだと言ったじゃないですか、それにジャン君はお化けが怖いわけではありませんぞ?』

「お、おう。だが、お前がいきなり現れるとさすがにビビるぜ。まあそれはそれとして。
 夜の海ってのは視界が悪くてな。船にとっては危険なんだよ。
 それに浜辺だって足場が良く見えないから、そのまま波にさらわれたりな、子供の頃は近づくなって言われなかったか?」

「ふん、今の私は大人だ。なら何も問題ない。では皆で海まで行きましょう!」

「はぁ、お前が一番心配なんだよ。レオ、良く見張っとけよ?」

「うん。当たり前だよ……」

 レオンハルトは、姉の別の一面を知って驚いた。
 まさか綺麗な夜の海が見たいと言うとは思わなかったのだ。

 少し離れているあいだに、すっかり普通の女の子になったようだ。

 これも、ニコラスという奴の影響なのかと不安にはなるが、それでも姉はちゃんと成長していたということだ。

 だが同時に少しだけ寂しくもある。たまには昔の様に眷属として引っ張りまわしてほしいと思うのだった。

 …………。

 街の喧騒から離れた浜辺は少し肌寒い潮風と、街の明かりが揺らぐ海面、波が砂を打ち付ける音だけが響いていた。

 全員言葉を無くしてしばらくその風景と音を楽しんだ。


 そろそろ戻ろうかという時にレオンハルトはそっとルーシーに告げる。
 
「姉ちゃん。僕も来年オリビア学園に行くから。父上も騎士学科へ推薦状を書いてくれるって言ってたし」

 ◇◇◇

 光に溢れた繁華街にひっそりとたたずむバーにて。

 ここは表の喧騒とは違って静かに会話を楽しむことが出来る、地元の住人にしか知らない隠れ家的な場所だった。

「――そう、クリスティーナ。エフタルでそんなことがあったのね」

「どう? 私を殺したくなった? 私はエフタル貴族の仇敵なのだから」

 シャルロットとクリスティーナはお互いに過去の話をする。
 旧エフタル王国で起こった事件の全貌を。

 灰色の第四王女と蔑まれたかつてのクリスティーナの人生を。

 そして。エフタル事件に巻き込まれた、カイルとシャルロットの冒険の話を……。
 

「……殺すだなんて、とんでもないわ。確かに貴女のしたことを全面的に肯定はしないけど。あの時あの状況、そして貴女の境遇を考えたら、どうすればよかったなんて言えないもの、でも呪いのドラゴンロードだけは……」

「じゃがな、シャルロットよ。吾輩はクリスティーナのしたことは歴史的に見てなかなかの偉業ではあるぞ。
 結果的に共和国に生まれ変わったエフタルは上手く行っておる。
 それになろうと思えば独裁者にもなれたが、クリスティーナは最高議長の4年の任期を守り、二度と政治に関わることはなかった。
 今では二児の母としてしっかりと子育てをしておる。ルーシーはなかなか面白い子に育っておるようだしな」

「そうね、ルカ様のおっしゃるとおりね。私からはソフィアの命の恩人であるルーシーちゃんを悲しませるようなことは絶対にないわ。
 むしろ私達親戚なんだから。これからも時々こうしてお酒を飲んで楽しい余生を送る関係でいたいわね」

「ありがとうシャルロット……。すっかり話しこんじゃったわね。そろそろ帰りましょうか。あら? クロードは?」
「あれ? カイルもいない」

「ああ。男共は向こうの席で男同士の交流をしておるようじゃ」

 カイルとクロードはテーブルで何やら腕相撲をしているようだった。
 ベアトリクスがレフェリーをしている様子だ。

「さすがはカイル殿。英雄王の名は伊達ではないな。だが俺も騎士だ。このまま全敗では納得できん。どうかな、明日、剣での模擬戦を申し込みたいのだが」

「ええ、クロードさん。俺の腕力は生まれつきですので、それで勝っても納得は出来ませんから」
 
「もう、男の人ってすぐこれだもの」

「あっはっは。良いではないか。ちなみに男の全てがこうではないぞ? なあ、セバスちゃんよ」

「はい、私の夫にも、少しは見習ってほしいと思いますが……まあ人それぞれということです。では剣の試合ということですのでレフェリーはこの私が務めさせてもらいます」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】幼馴染に裏切られたので協力者を得て復讐(イチャイチャ)しています。

猫都299
青春
坂上明には小学校から高校二年になった現在まで密かに片想いしていた人がいる。幼馴染の岸谷聡だ。親友の内巻晴菜とはそんな事も話せるくらい仲がよかった。そう思っていた。 ある日知った聡と晴菜の関係。 これは明が過去に募らせてしまった愚かなる純愛へ一矢報いる為、協力者と裏切り返す復讐(イチャイチャ)の物語である。 ※2024年8月10日に完結しました! 応援ありがとうございました!(2024.8.10追記) ※小説家になろう、カクヨム、Nolaノベルにも投稿しています。 ※主人公は常識的によくない事をしようとしていますので気になる方は読まずにブラウザバックをお願い致します。 ※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。関連した人物も、たまに登場します。(2024.12.2追記) ※番外編追加中・更新は不定期です。(2025.1.30追記)←番外編も完結しました!(2025.9.11追記) ※【修正版】をベリーズカフェに投稿しています。Nolaノベルでは全話限定公開・修正中です。(2025.10.29追記)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...