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第二章 逃避行
第25話 二人旅④
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草原を歩き続けた。
なにも変らない草原の景色だったが。変わったことが一つある。
最初は遠くにぼんやりと見えていた山脈は次第に大きくなり、輪郭がはっきり見えるようになってきた。
あの山脈はかなり標高が高い。実質的にあの山脈が国境なのは理解できる。
しかし、山道に入る前に大きな森に遭遇した。
地図には描かれていない。まあ無人地帯だからしょうがないか。
この辺まで来ると。エフタルの地図は当てにならないということだ。
しかし、俺はこんなに密集した森は初めて見た。南方の森か。
魔獣がいないのは知っているが、別にいても不思議に思わない。
そんな不気味さが目の前の森にはあった。
これだけ木々が密集した森林では狩りは俺達じゃ無理だろう。
だがこれも想定の範囲内だ。
あの後、俺達は相談した。その結果、余った肉の半分は干し肉に加工してあるし、保存の利く硬いパンも作ってある。
食料の備蓄は万全だ。
もちろん、もう半分の肉はすでに食べてしまったが……。
「よし、森に入るぞ。できれば今日中に森を抜けて山道の途中までは行きたい」
「どうして? せっかくの森だし木の実とか採取できないかしら」
「シャルロットよ。木の実は確かにあるだろう。これだけの密林だ、森の恵みは間違いなくある。だがそれは却下だ。これは君の為でもある。
ここは南方の森、しかもそろそろ夏本番だ。わかるだろう、シャルロットが最も嫌う生き物の存在を……」
シャルロットは急に顔が青くなった。
そう、ここは北方の森林と違って、わんさか出てくるのだ。シャルロットの嫌いな、ガサガサする奴やウネウネする奴が。
「わかったわ! さっさと行きましょう」
もちろんキッチンカーが可動中は低級の魔獣を寄せ付けない魔獣除けの魔法が発動している。
虫だってその対象だ。
虫たちはこの魔法を嫌がって近づかないのだが、降ってくる場合は別だ。この密集する高い木々がある限り、虫は上から降ってくる。
「ひっ!」
シャルロットが俺の腕に捕まる。
「おい、あんまりくっつくなよ。ただでさえ暑いんだ」
「右肩になにか冷たいものが落ちてきたのよ。カイル。お願いよ。取って頂戴!」
まったく、俺は彼女の肩を見る。綺麗な肩だった。しかし何もいない。
いや、水滴が落ちた形跡がある。なるほど上から葉っぱに溜まった雨水が落ちて来たんだろう。
「大丈夫だ。ただの水滴だよ。ほら、そんなにくっついてたら間に合わない、行くぞ」
それに俺の精神衛生上もよろしくない。
俺達はやや速足で森を歩く。
鳥たちの鳴き声が響くが、それに耳を傾けている暇はない。
シャルロットが限界に近い、水滴であの反応。本物が降ってきたらどうなることか。
数時間がすぎた。食事の時はキッチンカーの魔法結界のおかげか、少しリラックスしていた。
このまま落ち着いてくれればと思っていたが。甘かった。
俺は森をなめていた。だが結果としては思ったより速く森を抜けれたので良かったのだろうか。
森を抜け山道に来た時には全力疾走だった。
まだ明るい。夕方まであと一時間はあるだろうか。
予定よりも数時間早く山道まで来ていた。
まあ、わかる。ヒルのせいだ、ヒルが俺達に降ってきたのだ。
さすがに俺だって驚いたし、気持ち悪かった。
シャルロットはあろうことか火炎魔法を使うところだった。大森林のど真ん中で……。
だが、そこまで愚かではない。思いとどまったが状況は変わらない。
対策を考える暇はなかった。ヒルは降ってくるのだ。次から次に、まるでヒルの豪雨だ。
だから走った。俺もこれはさすがにきつい。走って逃げるしかない。
そしたら、いつの間にか森を抜け山道まで来ていた。
「はぁ、はぁ、ここまで来ればさすがに、ひっ! ちょっと! まだ中にいる。 ひぃいい!」
山道のど真ん中で彼女は全裸になった。まあ分かる、う、俺にもいるな。服の中に数匹いる。
俺もつられて全裸になった。幸いこの時間に森に入ろうとする商人はいないのか誰とも遭遇しなかった。
裸の男女が踊り狂っている姿は商人たちに良からぬ噂を広めてしまうだろう。そのせいで貿易に支障が出ては申し訳ない。
後で気づいたが。ヒルの豪雨の原因はキッチンカーの魔獣除けの魔法のせいだった。
魔法の効果で木の上にいるヒルは慌てて逃げようとして木から滑り落ちたのだ。
魔法も万能ではない、そういう事だった。
なにも変らない草原の景色だったが。変わったことが一つある。
最初は遠くにぼんやりと見えていた山脈は次第に大きくなり、輪郭がはっきり見えるようになってきた。
あの山脈はかなり標高が高い。実質的にあの山脈が国境なのは理解できる。
しかし、山道に入る前に大きな森に遭遇した。
地図には描かれていない。まあ無人地帯だからしょうがないか。
この辺まで来ると。エフタルの地図は当てにならないということだ。
しかし、俺はこんなに密集した森は初めて見た。南方の森か。
魔獣がいないのは知っているが、別にいても不思議に思わない。
そんな不気味さが目の前の森にはあった。
これだけ木々が密集した森林では狩りは俺達じゃ無理だろう。
だがこれも想定の範囲内だ。
あの後、俺達は相談した。その結果、余った肉の半分は干し肉に加工してあるし、保存の利く硬いパンも作ってある。
食料の備蓄は万全だ。
もちろん、もう半分の肉はすでに食べてしまったが……。
「よし、森に入るぞ。できれば今日中に森を抜けて山道の途中までは行きたい」
「どうして? せっかくの森だし木の実とか採取できないかしら」
「シャルロットよ。木の実は確かにあるだろう。これだけの密林だ、森の恵みは間違いなくある。だがそれは却下だ。これは君の為でもある。
ここは南方の森、しかもそろそろ夏本番だ。わかるだろう、シャルロットが最も嫌う生き物の存在を……」
シャルロットは急に顔が青くなった。
そう、ここは北方の森林と違って、わんさか出てくるのだ。シャルロットの嫌いな、ガサガサする奴やウネウネする奴が。
「わかったわ! さっさと行きましょう」
もちろんキッチンカーが可動中は低級の魔獣を寄せ付けない魔獣除けの魔法が発動している。
虫だってその対象だ。
虫たちはこの魔法を嫌がって近づかないのだが、降ってくる場合は別だ。この密集する高い木々がある限り、虫は上から降ってくる。
「ひっ!」
シャルロットが俺の腕に捕まる。
「おい、あんまりくっつくなよ。ただでさえ暑いんだ」
「右肩になにか冷たいものが落ちてきたのよ。カイル。お願いよ。取って頂戴!」
まったく、俺は彼女の肩を見る。綺麗な肩だった。しかし何もいない。
いや、水滴が落ちた形跡がある。なるほど上から葉っぱに溜まった雨水が落ちて来たんだろう。
「大丈夫だ。ただの水滴だよ。ほら、そんなにくっついてたら間に合わない、行くぞ」
それに俺の精神衛生上もよろしくない。
俺達はやや速足で森を歩く。
鳥たちの鳴き声が響くが、それに耳を傾けている暇はない。
シャルロットが限界に近い、水滴であの反応。本物が降ってきたらどうなることか。
数時間がすぎた。食事の時はキッチンカーの魔法結界のおかげか、少しリラックスしていた。
このまま落ち着いてくれればと思っていたが。甘かった。
俺は森をなめていた。だが結果としては思ったより速く森を抜けれたので良かったのだろうか。
森を抜け山道に来た時には全力疾走だった。
まだ明るい。夕方まであと一時間はあるだろうか。
予定よりも数時間早く山道まで来ていた。
まあ、わかる。ヒルのせいだ、ヒルが俺達に降ってきたのだ。
さすがに俺だって驚いたし、気持ち悪かった。
シャルロットはあろうことか火炎魔法を使うところだった。大森林のど真ん中で……。
だが、そこまで愚かではない。思いとどまったが状況は変わらない。
対策を考える暇はなかった。ヒルは降ってくるのだ。次から次に、まるでヒルの豪雨だ。
だから走った。俺もこれはさすがにきつい。走って逃げるしかない。
そしたら、いつの間にか森を抜け山道まで来ていた。
「はぁ、はぁ、ここまで来ればさすがに、ひっ! ちょっと! まだ中にいる。 ひぃいい!」
山道のど真ん中で彼女は全裸になった。まあ分かる、う、俺にもいるな。服の中に数匹いる。
俺もつられて全裸になった。幸いこの時間に森に入ろうとする商人はいないのか誰とも遭遇しなかった。
裸の男女が踊り狂っている姿は商人たちに良からぬ噂を広めてしまうだろう。そのせいで貿易に支障が出ては申し訳ない。
後で気づいたが。ヒルの豪雨の原因はキッチンカーの魔獣除けの魔法のせいだった。
魔法の効果で木の上にいるヒルは慌てて逃げようとして木から滑り落ちたのだ。
魔法も万能ではない、そういう事だった。
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