灰色の第四王女

神谷モロ

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おまけ2 共和国の誕生

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『皆さま、忙しいなか、お集まりいただきまして、感謝いたします。
 あの惨劇から一か月。ようやく街は少しだけ落ち着きを取り戻せました。
 しかし、惨劇の記憶はまだ私たちに鮮明に残っています。

 貴族達の傲慢な行いのせいで。ドラゴンの襲撃を招いてしまいました。
 愛する人や家族を失った方もいると思います。

 ですが、私達も前を向かないといけません。
 これからも困難な事はたくさんあるでしょう。悲しい別れもあるかもしれません。
 
 ですが貴族はもう居ません! 私は皆様に宣言します!
 エフタル王国は本日を持ってエフタル共和国として生まれ変わるのです!』

 拍手が起こる。
 まるで私が王様になったみたい。
 私はあくまで臨時政府の代表。
 いずれこの国は平等で平和な理想的な国家になる。

 そのためにもこの儀式は必要不可欠だ。
 私が目配せをすると。
 クロードはうなずき、顔を隠されたままの一人の人間がクロードに引っ張られて処刑台に上がる。

 私の兄だ。
 私も処刑台の側までくると、再び演説を始める。

『私は貴族とは違います。残虐な暴力は好みません。皆さんは不満かもしれませんが。これで復讐は終わりにしましょう!』

「クロード、お願い」
 私は小声でクロードに囁く。

「御意!」

 兄はクロードによって顔を被った布を剥ぎ取られると、その場に跪かされて、首を前に突き出す格好になった。

 私は、死んだ目をした兄に近づくとそっと耳打ちした。

「お兄様、これでお別れですわね。あら、もう何も言えなくなってしまったのかしら。
 私はもう少し我慢しましたよ? たった一か月で諦めるなんて案外ナイーブだったのですね。
 それに、ちゃんと王位の即位式をしてあげたでしょう?」

 その瞬間、兄は私を一瞬だけ見て震えだした。

 この王国の現在の国王は兄だ。

 王冠はドラゴンの襲撃によって喪失していたため、私は仕方なく王家の紋章を兄の身体に焼きつけてあげたのだ。

 複雑な紋章だったので、少し時間が掛かってしまった。
 兄は大好きな焼きごてを前に大声を上げて泣きながらよろこんで、そのまま疲れて寝てしまったかしら。

 本来なら兄からも王国の禅譲において一言いただきたいのだが。
 兄は虚言癖がある。

 私を見ると化け物としか言わなくなる。

 これでは兄の名誉に傷がつく。
 私は再びクロードに合図をする。

 クロードは剣を抜く。
 群衆によく見えるように、剣を大げさに振りかぶる。

「では、さようなら、お兄様。お父様によろしくお伝えください」

 ここにエフタル王国は崩壊し、今日、正式にエフタル共和国の建国を宣言した。

 ◆
 
 宴の会場は王城の広間だが、華美な装飾などなく。瓦礫の跡がまだのこっている。

 天井はまだない。
 ドラゴンブレスによってアイスクリームのように溶けた天井はそのままにしている。

 野ざらしというわけではない。所々に天幕を張っているため雨は凌げるだろう。

 今はパーティー会場にしているため、お客様達はそれぞれ料理の並べられた天幕に並んでいる。

 平民達が好きなお祭りとはこうだったらしいので、私はそれを全面的に取り入れた。
 ここには町中の皆が集まってきた。

 会場は満員で、身動きが取れないくらいだ。
 これこそがお祭りの醍醐味だとマーサは言った。

 私はお祭りがなんなのか分からなかったけど、天幕ごとにレストランがあるのは素敵だと思った。

 私はここでも宴の開催の挨拶をすることになった。
 演説はもう勘弁してほしい。

 それにお客の皆は余程お腹が空いていたのだろう。私の挨拶を無視してみんな料理に夢中だった。
 クロードを見ると肩をすくめていた。

 しょうがない、これは皆の為のお祭りだ。皆楽しそうだし、これこそが私の見たかった光景なのだ。

 
 夜が更けていく。
 宴はまだにぎわっているが。あとは皆に任せることにした。

 私は王城の一室にいる。
 ここは奇跡的に無傷だったため、部屋を改造して私のベッドルームにしてある。

 マーサは相変わらず私の世話を焼いてくれている。

 今日は念入りに体を洗われた。特に今日は贅沢で香水入りのお風呂に入れられたのだ。
 王女としては数回しか経験がない、この贅沢なお風呂。マーサにはこういう贅沢は嫌いだと言ってたのに。

 しかし、マーサは今回は聞く耳を持ってくれない。
 「特別な日です!」としか言ってくれなかった。 

「マーサ、この服はなに? 下着にしては装飾華美だし、
ドレスにしては露出が多いわ、意味が分からない」

「ああ、それは殿方のためです。姫様は既に覚悟をお決めになったのでしょう? 勝負服というやつですよ。
 姫様よろしいですか? マーサは思いますに、お互いの好意はもはや周知の事実ですが、お互いに付き合いが長いのでしょう。
 一向に進展しないお二人。これには皆も、やきもきしているのです。
 これはこの国にとって最重要課題だとマーサは思います。

 ですので。そのネグリジェです。それは貴族の間では流行している下着なのですよ。下着なのに華美な装飾、お分かりですか?
 そして、クロード様は今、お風呂に入っておられます。

 不潔はよくありません。姫様の騎士が風呂に入らないのはおかしいと力説して押し通しました。

 最初はごねましたが、姫様の身の回りも安全になったのですからと。

 風呂から上がったら、姫様の部屋に報告にくるようにとマーサは申しつけました。あと数分といったところでしょうか、さあ姫様お着替えを!」

 私は言われるがままに、このネグリジェという服を着せられた。
 布地が薄いのか肌が透けて見える。ほんと恥ずかしい服ね。

「では、マーサは本日の勤めを終えましたのでごゆっくり。
 あ、もし、なにかあったら大声を上げてくださいね、たまにあるのです。独りよがりで暴走する殿方が。
 私は姫様の味方ですから。隣に控えております」

 マーサがいつもと違う態度だったのが気になったが。
 そういうことか。でも、いいわ、私も後には引けないもの。

「分かったわ、マーサ。……でも、恥ずかしいから今晩は外泊許可をだします! まだお祭りは続いていますから、あなたも楽しんでらっしゃい!」

 …………。

 寝室にクロードが来た。

 彼はガウンを着ている。マーサが準備したのだろう、彼が来ているそれも装飾華美だった。

「姫様、急な要件とは何でしょうか」

 クロードは私の姿を見るとすぐに目を逸らした。

「これは、失礼を、出直した方がよろしいでしょうか、それに俺もこのような格好で」

 私も恥ずかしいけど、しっかりしないと。マーサがせっかくここまで準備してくれたんだから。
「クロード、構わないわ、……少しお話しましょう。立ったままだとあれだから、こちらに来てちょうだい」

 私はベッドに座ると、その隣にクロードを誘う。

「はい、クリスティーナ様、お言葉に甘えて失礼します」

 隣に座るクロード、彼の心臓の音が聞こえる。彼も緊張しているのだ。
 私は嬉しく思った。より彼を身近に感じたのだから。

「クリスと呼んでください……」

「しかし、それは……騎士としては……」

「しかし? もう! ここは寝室です! 私だって年頃の女です。わかってるでしょ?」

「しかし、それでも俺は……」

「もう! 黙りなさい!」
 私は強引に彼の口をふさいだ。唇と唇が触れる程度の軽いキスで。

 彼の表情は分からないけど、体は硬直したように動かない。
 数秒間、唇と唇が触れ合う。

「まったくもう! 女性からされるなんて騎士の恥じなんだから!
 これでわかった? ……ふぅ、ごめんなさい……クロード。
 私のこと大事に思ってくれてるのは分かってる。身分とかそういうのもあるかもしれない。

 でも、お願い、姫と騎士とか、そういう誓いは嬉しいけど、嬉しいけど切ないのよ。

 物語の騎士のように、私を抱いてください。お願いですから。もう、恥ずかしい……。
 クロード……なんか言ってよ。私ばかりが恥ずかしいのは不公平よ。私はクロードが好き。愛してます」


「……クリス。ごめん、俺は、いつの間にか型にはまってた。守らなければと、自分の感情を殺して我慢してた。でも、俺もクリスを愛しています。……もう一度、口づけをよろしいですか?」
 
 クロードは私を正面から見つめた。私はゆっくりと頷く。

「……はい、それから。私、その……初めてですから、優しくおねがいします」

 クロードは少しだけ強引に口づけをすると。そのままゆっくり優しく私をベッドに押し倒した。

 ………………。
 …………。
 ……。

 この日、エフタル王国は滅び、エフタル共和国が建国した。

 私達も姫と騎士の関係を改め夫婦となることが出来た。

 結婚式は控えた方がいいだろう。まだこの国にはやるべきことが多い。
 まだまだ封建的な面が残っているし治安も安定していない。
 少しずつ変えていけばいい。

 クロードが居てくれるだけで私はもっと頑張れる。
 そう、何も問題はないのだ。

 ――『灰色の第四王女』終わり。
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