5 / 5
第5話
しおりを挟む
「ルカ様、……腕は治らないそうです。時間が経ち過ぎました。あのときすぐに最上位の回復魔法を施していれば間に合ったのですが……いえ、申し訳ありません。私の影縫いでもう少し時間を稼げれば腕を失うこともなかったのです」
たしかに、傷を負ったすぐに最上位の回復魔法を受けたなら、失った腕は元通りに回復しただろう。
だが、時が経ち、身体が欠損した状態を受け入れたなら、どんな回復魔法でも失った腕は元には戻らない。それは回復魔法の常識だ。
あの時にあの状況でそれが出来ただろうか、いや無理であろう。それに吾輩の手を奪ったのはベヒモスであってセバスティアーナではない。
「セバスちゃんよ、そう落ち込むな、あれにはどんな魔法も効かんだろう。それにだ、吾輩だけ五体満足で帰還してみろ。それのほうが問題であろうが?」
先ほどからセバスティアーナは自分の忍術が失敗したことを反省している様子だ、しかし、あれは決して影縫いが失敗した訳ではない、恐るべき膂力で地面ごと影縫いの効果を引っこ抜いたのだ。
吾輩としては勉強になる。もしかしたら今までの結界魔法を根底から崩しかねない発見だ、そう、今、思いついただけでも現在の結界は穴だらけだ。
例えば、王城の城壁には多重魔法結界が施されている。
だが。地下室を爆破してしまったら? 城壁ごと瓦礫になるだろう。魔法結界とはなんだったのか……。
まあ、それはそれで、吾輩としてはどうでもよい、問題は珍しく落ち込んでるセバスちゃんを立ち直らせないと、それが最優先事項だ。
「あの後、王城では、誰が責任を取るのかで大いにもめたぞ、結局は責任者であるレーバテイン公爵が爵位の降格と、自身は隠居という処分となった。
いくら王の叔父という身分でも貴族は隙あらば足を引っ張る、そういう化け物の集団なんだよ。
吾輩の方は左腕を失うということと、ベヒモスを殺せはしなかったが一矢報いたということで、罪には問われなかったしな、もし私がピンピンして帰還したら地位を奪われたのは吾輩の方であったよ。わはは」
「なるほど、貴族とは度し難いものなのですね」
今、吾輩は自身とセバスちゃんの為だけに研究をしている。
よし。完成だ。
「あの、それはガントレットでしょうか……肩まで覆うのは初めて見ましたが……」
「うむ、半分正解だ、それ、セバスちゃんよ。ちょっと装着を手伝ってくれたまえ」
「はい、……なるほど、これはルカ様の義手ということですね、…………ひゃ! どこを触ってるんですか」
「さあのう、どこかのー、吾輩の義手が勝手に暴走したことゆえ、わからんのー、しかし、セバスちゃんよ、最近ちょっと太ったのかのー、おしりの肉厚がバージョンアップしてるような気がするぞい」
「ルカ様! まったくルカ様はいつもの戯れの為に魔法の義手を開発されたのですか? これでは今までと何も変わらないではないですか、あっ! …………」
「そうだぞ、いつも通りだぞい? セバスちゃんよ、ちなみに君はこの後、吾輩に言葉と物理のげんこつを浴びせるのが今まで通りのルーティーンだぞ?」
「はい、……ですが、いえ、私が勝手にくよくよして申し訳ありませんでした。今後ともルカ様の従者として、このセバスティアーナは変わりなくお仕えすることを誓います。
ですが太ったとは聞き捨てなりません。鍛えなおしていたのです、その成果を物理的にお見舞いしてみせましょうか?」
いつもの調子に戻って吾輩も嬉しいよ。正直、湿っぽいセバスちゃんも、それはそれで可愛いが、よそよそし過ぎて……な。少なくとも身内だけは笑いあっていたいのだ。
義手にもなれて、魔力も回復した頃、再び王城に呼ばれた。
「ルカ・レスレクシオン辺境伯、今回の一件、貴殿の片腕の喪失、まことに申し訳なく思う。それでも貴殿の貢献は我が王国に多大な利益を――」
長ったらしいので要約すると。
吾輩の罪はベヒモスを逃してしまったことだけど、それを言うと、指揮権を持っていたレーヴァテイン公爵の名誉を傷つけるから。
どうにか、いい感じで落としどころを付けたい。貴族間の派閥闘争も過激化しつつある。これもなんとかしたい。そうだ、ベヒモスを再討伐すればいいんじゃね?
だから、王家としては、次の仕事として、ベヒモスに対しての最強の武器を作ってほしい、財源は国庫から半分、残りは今解体中の公爵家から捻出するということであった。
言いたいことは完結明瞭に話せと、いやそれはいい、吾輩としては受けざるを得ない。
それにラングレン夫妻のような、生まれたばかりの子を孤児にしてしまうような悲劇が繰り返されないためにも最強の武器を作らないとな。
「王よ、そのご命令、承りました。吾輩も先の遠征で思うところありましてな、最強の武器、それこそベヒモスなど一刀両断できる武器を考えておったのです」
こうしてルカ・レスレクシオンは王国で最も名高い魔法機械技師として、最後の研究を始めたのだった。
たしかに、傷を負ったすぐに最上位の回復魔法を受けたなら、失った腕は元通りに回復しただろう。
だが、時が経ち、身体が欠損した状態を受け入れたなら、どんな回復魔法でも失った腕は元には戻らない。それは回復魔法の常識だ。
あの時にあの状況でそれが出来ただろうか、いや無理であろう。それに吾輩の手を奪ったのはベヒモスであってセバスティアーナではない。
「セバスちゃんよ、そう落ち込むな、あれにはどんな魔法も効かんだろう。それにだ、吾輩だけ五体満足で帰還してみろ。それのほうが問題であろうが?」
先ほどからセバスティアーナは自分の忍術が失敗したことを反省している様子だ、しかし、あれは決して影縫いが失敗した訳ではない、恐るべき膂力で地面ごと影縫いの効果を引っこ抜いたのだ。
吾輩としては勉強になる。もしかしたら今までの結界魔法を根底から崩しかねない発見だ、そう、今、思いついただけでも現在の結界は穴だらけだ。
例えば、王城の城壁には多重魔法結界が施されている。
だが。地下室を爆破してしまったら? 城壁ごと瓦礫になるだろう。魔法結界とはなんだったのか……。
まあ、それはそれで、吾輩としてはどうでもよい、問題は珍しく落ち込んでるセバスちゃんを立ち直らせないと、それが最優先事項だ。
「あの後、王城では、誰が責任を取るのかで大いにもめたぞ、結局は責任者であるレーバテイン公爵が爵位の降格と、自身は隠居という処分となった。
いくら王の叔父という身分でも貴族は隙あらば足を引っ張る、そういう化け物の集団なんだよ。
吾輩の方は左腕を失うということと、ベヒモスを殺せはしなかったが一矢報いたということで、罪には問われなかったしな、もし私がピンピンして帰還したら地位を奪われたのは吾輩の方であったよ。わはは」
「なるほど、貴族とは度し難いものなのですね」
今、吾輩は自身とセバスちゃんの為だけに研究をしている。
よし。完成だ。
「あの、それはガントレットでしょうか……肩まで覆うのは初めて見ましたが……」
「うむ、半分正解だ、それ、セバスちゃんよ。ちょっと装着を手伝ってくれたまえ」
「はい、……なるほど、これはルカ様の義手ということですね、…………ひゃ! どこを触ってるんですか」
「さあのう、どこかのー、吾輩の義手が勝手に暴走したことゆえ、わからんのー、しかし、セバスちゃんよ、最近ちょっと太ったのかのー、おしりの肉厚がバージョンアップしてるような気がするぞい」
「ルカ様! まったくルカ様はいつもの戯れの為に魔法の義手を開発されたのですか? これでは今までと何も変わらないではないですか、あっ! …………」
「そうだぞ、いつも通りだぞい? セバスちゃんよ、ちなみに君はこの後、吾輩に言葉と物理のげんこつを浴びせるのが今まで通りのルーティーンだぞ?」
「はい、……ですが、いえ、私が勝手にくよくよして申し訳ありませんでした。今後ともルカ様の従者として、このセバスティアーナは変わりなくお仕えすることを誓います。
ですが太ったとは聞き捨てなりません。鍛えなおしていたのです、その成果を物理的にお見舞いしてみせましょうか?」
いつもの調子に戻って吾輩も嬉しいよ。正直、湿っぽいセバスちゃんも、それはそれで可愛いが、よそよそし過ぎて……な。少なくとも身内だけは笑いあっていたいのだ。
義手にもなれて、魔力も回復した頃、再び王城に呼ばれた。
「ルカ・レスレクシオン辺境伯、今回の一件、貴殿の片腕の喪失、まことに申し訳なく思う。それでも貴殿の貢献は我が王国に多大な利益を――」
長ったらしいので要約すると。
吾輩の罪はベヒモスを逃してしまったことだけど、それを言うと、指揮権を持っていたレーヴァテイン公爵の名誉を傷つけるから。
どうにか、いい感じで落としどころを付けたい。貴族間の派閥闘争も過激化しつつある。これもなんとかしたい。そうだ、ベヒモスを再討伐すればいいんじゃね?
だから、王家としては、次の仕事として、ベヒモスに対しての最強の武器を作ってほしい、財源は国庫から半分、残りは今解体中の公爵家から捻出するということであった。
言いたいことは完結明瞭に話せと、いやそれはいい、吾輩としては受けざるを得ない。
それにラングレン夫妻のような、生まれたばかりの子を孤児にしてしまうような悲劇が繰り返されないためにも最強の武器を作らないとな。
「王よ、そのご命令、承りました。吾輩も先の遠征で思うところありましてな、最強の武器、それこそベヒモスなど一刀両断できる武器を考えておったのです」
こうしてルカ・レスレクシオンは王国で最も名高い魔法機械技師として、最後の研究を始めたのだった。
1
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
キモおじさんの正体は…
クラッベ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生し、ヒロインとなったナディア。
彼女はゲーム通りにいかない悪役令嬢のビビアンに濡れ衣を着せ、断罪イベントの発生を成功させる。
その後の悪役令嬢の末路は、ゲーム通りでは気持ち悪いおっさんに売られていくのを知っているナディアは、ざまぁみろと心の中で嘲笑っていた。
だけどこの時、この幸せが終わりを迎えることになるとは、ナディアは思っても見なかったのだ。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
どうぞ添い遂げてください
あんど もあ
ファンタジー
スカーレット・クリムゾン侯爵令嬢は、王立学園の卒業パーティーで婚約もしていない王子から婚約破棄を宣言される。さらには、火山の噴火の生贄になるように命じられ……。
ちょっと残酷な要素があるのでR 15です。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
(ネタバレ有り公開注意)
残された孤児が『…ベヒモス』の主人公だったのですね。先行きのお話を期待して待ってます。
感想ありがとうございます。
アルファポリスが不慣れ故、本日確認しました。申し訳ございません。
とても励みになりました。しばらく短編をだして世界観を広げつつできれば長編化したいと思う次第です。