リッチさんと僕

神谷モロ

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第6話 先生と生徒

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――数十年前に遡る、ここは、とある王国の王城地下にある研究室――

「しかし、君たちはこれでよかったのかい?学院のなかでも上位三位の天才だろ? 就職先なんか選びたい放題だったんじゃないかい?」

 彼ら三人は皆、魔法学の成績は同率一位であり、序列の差は魔法とは関係ない基礎教養の成績の優劣によるものだった。

「何をおっしゃいます、この国で魔法使いの就職先といったら、先生の研究室がもっとも名誉あることだと思っていますわ」

 彼らの中で唯一の女子生徒は目を輝かせながら言った。面と向かって言われると照れるが、客観的にみても僕の研究はとても子供じみていて現実的ではないんだけどな。

 今さらだが、彼らの輝かしい未来を僕のわがままで台無しにしてしまうんじゃないかと不安でもある。

「そうですとも、しかも先生が長年かけても到達できなかった難問に取り組めるとあらば、僕ら三人は微力ながらお手伝いします」

「おう、当然だ、だが俺は微力じゃないぜ、全力で手伝うに決まってるぜ!」

 二人の男子生徒も女子生徒に対して相槌を打ちながら、それぞれの思いを熱く語った。
 
 なるほど、僕の大した成果のない研究でも、彼らのように理解してくれることもあるのかと嬉しく思った。

「あら、お手伝いなんて随分と上から目線なのね、私はこの研究テーマには前から興味があったの、あなたたちは子供の夢だって馬鹿にしてたでしょ?
 だから、今からわくわくしてるわ、先生と一緒なら夢が叶うはずだもの」

 どうやら、この女子生徒が主導権を握っているのだろう、他の男子たちはお互いを見つめ肩を竦めながら頷いていた。
 なんだかんだで、仲も良いようで何もかもうまくいきそうだと思った。


 ――数日が経ち、しばらく研究は続いたが、やはり僕が以前、あきらめたところで研究は頓挫した。

「困りましたね、ここはひとつ原点回帰といきますか。僕が開発した魔法の中で失敗作、および禁呪指定を含めてすべて紙に書きだしてみますので。
 それを皆さんで隅々まで読み解いてみませんか。何かわかるかもしれませんよ?」

「せ、先生、それは魔法使いとしての全てともいえるものですよ? 財産すべて投げ出すのと同じだわ」

 彼女の言うことは正しい。魔法使いはその研鑽の証である魔法の知識は秘匿すべきであり、それは一族の中でも家督を継ぐ者のみに継承すべきが正し考え方だった。
 
 しかし、そんなことは僕にとってはどうでもいい、独り身だしね、それに彼らはそれに値すると思っていたのだ。

「もちろん知ってるよ、だから絶対とは言わないけど、ここだけの秘密にしてくれると嬉しいな。もちろんこれらが役に立つなら君たちの将来のために喜んで差し出すつもりだったけどね」

「もちろん秘密にしますよ。なぁ、みんなもそうだよね?」

「おう、もちろんだとも、こんなのが世間に知られたら、上の連中、絶対によくないことに利用しようとするだろうし」

「ああ、あの連中ときたら、必ず戦争に利用するか金儲けしか考えてないんだから。王様だってわかったもんじゃない」

 そんな彼らに僕は安心した、彼らは本当にいい弟子だと心の底から思った。
 
 でも彼らは若干、上の人たちを馬鹿にしているところがある。これは少し問題かな、何より喧嘩腰なのはよくない。

「おいおい、一応、この研究室は君らがいうところの、そんな連中、のおかげで成り立ってるってこと忘れてないかい?」

「そうよ、先生のおっしゃる通りよ、これは政治的な判断なのよ。まったくやたら正義正義と……男子ったらほんとうに」

「なにを、お前は政治について何が分かるんだ? 政治と言ったら悪がはびこるだろうが、俺たちは魔法で世界を幸せにするのが夢なんだ。だから悪い奴らは倒さないといけないのさ」

「そうさ、僕たちだって政治なのはわかってる、話し合いで解決できるならそれに越したことはない。でもどうしてもそれが無理なことだってあるんだ。だから僕たちは正義の魔導士としていつかこの国を変えて見せる」

 男子二人は腕を組んで息ぴったりだった。なるほど、正義の魔導士コンビか、純粋な男の子たちだ。僕はうなずきながら彼らの思いを聞いて感動していた。

「そんなことより、お前は先生と『お話』はできたのかよ、悪いけど俺達にはバレバレだからな」

「な、なによ……、今の話と関係ないじゃない……。さあ、無駄話はこれくらいにして、先生、研究を続けましょう。」

 彼女は顔を真っ赤にして怒った。いつも冷静な彼女でもここまで激高することがあるのかと思ったが、一息つくと、僕たちは元通りに研究に戻るのだった。

 やはり、優秀とはいえまだまだ子供なのかな、男子が二人で女子が一人だとたまに、こういった口論が生まれるのだ。
 
 やはり彼女にはもう一人、同性の助手を呼ぼうかと提案したが、なにより彼女がそれを断ったのだった。

 彼女曰く、私たち三人を除いて、優秀な助手などいないと、それはもうきっぱりと断ったのが印象に残った。

 二人の男子に同じことを聞いても、なにやら、ため息をついて、先生は鈍感だなぁと、取り合ってもくれなかった。

 そうか、人数が増えればいいというものではないかも、僕は魔法以外のことはからっきしだから、彼らの言う事ももっともだなとおもった。
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