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第三章

第90話 歴史の授業(下)

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 アンネさん大丈夫だろうか、スヴェンソン先生の授業を聞いてたから余計に心配だ。
 俺とユーギとドルフ君が医務室の外で待機してると、ドルフ君は特に心配なのかそわそわしている。

「なあ、ドルフ君、ずっと側にいた君としては、彼女が謎の宗教団体とかそういうのと接触した記憶はないかい?」

「ない、と思う。でも今に思えば、そういう怪しい集団とは街であったことがある、ビラを貰っただけだけど、ひょっとしたら」

 医務室からシルビアとローゼさんが出てくる。

 俺は、シルビアとローゼさんに話をふる。

「アンネさんの調子はどうかな?」

「ええ、しばらくは安静にしてればいいっていってたけど、万が一もあるから実家にもどって主治医の診察を受けることになったの」

 アンネさんはしばらく実家に戻ることになった。

「ドルフ君どうかしたかい?」

「いや、うん、皆、僕もしばらくアンネの実家に付き添うよ」

(マスター、例の宗教団体、侮ると大変なことになるやもしれません、フリージアからの連絡で、その団体の本部がどうやらこの国にあるらしいのです)

 なるほど、これは早急に動く必要があるな。
 俺達で少し調べてみようか。

「皆、アンネさんの件もあるし、なにか良からぬことが起こらないうちにこちらも動いておこう、みんな、この後図書館に集合してくれ」

「あー、了解、でもアンネちゃんは違うかもしれないけどねー」

 ユーギめ何か知ってるのか? いや、こいつはよく思わせぶりな発言をするからな。
 それにまずいことがある場合は隠し事はしない。……はずだよな。

「そうだ、スヴェンソン先生にも付き合ってもらおう。彼女は専門家だ」

 ◆

「スヴェンソン先生、例のドラゴンヘッドって団体についてお話があります。俺たちの間でも、というか俺の祖国でちょっとトラブルがあったみたいで情報共有お願いできないでしょうか」

(マスター、竜王教会ですよ)

 おっと、まあ似たようなもんだろう。

「まあ、アールさんに皆さんも、分かりました。私も協力させていただきます」

 情報共有をする。

 スヴェンソン先生はいったん自分の研究室に戻ると、大量の書類を持ち出して図書館の会議室の大テーブルに広げる。
 これを一人で作ったのか、この人はガチの研究者だ。

 元の世界では社会学者といったところだな。
 書類をまとめると分厚い本が一冊出来るくらいはある。

 先生はそんな中から数枚、最近のレポートを取り出す。

 資料によると。
 数十年前からその存在はあったそうだ。
 初代の教祖はタートルロックにて慈善活動をしていた一般人だったようだ。

 彼は貧しくなく、比較的裕福な家に生まれて、考古学者として遺跡発掘に青春時代を費やした。
 ある時、彼は誰もが抱く善意から、社会全体に広がる貧富の格差を嘆いたそうだ。
 それから彼はドラゴンの遺跡での発掘活動を続けながらも、
地道に啓蒙と慈善活動を通して仲間を徐々に増やしていったそうだ。
 それは次第に国に認められ。国の支援事業として補助金が下りるようにまで成長していった。
 彼が死に、後を継いだ弟子達は彼を初代の教祖として、彼の発掘したドラゴンの遺跡の数々をご神体とした竜王教会が立ち上がったという。
 代が変わり、経済的に大きくなった彼らは国中に支部を持つようになっていった。

 現在の運営本部はこの街にあるそうだが、総本山はドラゴンの聖地でもあるタートルロックにあるようだ。

 最近までは慈善団体として大人しくしていたが、俺の国での不正が摘発されたせいか、組織の在り方にメスが入るようになったということだ。
 スヴェンソン先生はそれよりもずっと前から個人的に調査していたらしい。
 そこに最近の事件が重なり授業でも注意喚起をするようになったのだと。

 それこそ、当初は慈善活動をしていたらしい。街頭でもビラ配りや貧困女性への相談など、市民への評判もよかったらしい。
 いや、今でも彼らの評判はよい。情報に疎い下層階級の人には食べ物や医療を無償で施してくれる彼らの存在は救いなのだ。 

 しかし、最近は娼館に売られそうになったために逃げて来た少女の告発という事件が起きたため。
 少し話題になったことはある。
 行き過ぎた信者の暴走ということでその信者は追放されたと教団側の発表で世間の不安の声は沈静化したそうだ。
 
 女性支援を名目にしているのに娼館に売り飛ばすとは聞き捨てならない。
 俺達はこの辺りから調査をしようという話になった。

 一週間後。

 アンネさんが実家から戻ってきた。思ったより早かった。
 問題ないのだろうか。
 
「アンネさん、どうだった? マインドコントロールとかされてなかった?」

 どうやら、検査の結果は問題ないようだった。ではなぜ体調を崩したのだろうか。

 やはり大事を取って大病院に行った方がいいんじゃないだろうか。

 いや、我が国、魔法都市ミスリルなら呪い系の魔法のスペシャリストがいる、彼女を連れて帰るのも検討すべきか。 

 俺がそう彼女に伝えると。

「えっとね、うーん、違うのよ」

 ドルフ君はそわそわしている。

「えーと、その、……できちゃったみたい」

 ズコー、俺は往年のギャグマンガのようなズッコケをしてしまった。

「あはは、おめでとうアンネちゃん、やっぱりそうだと思ってたよ。お二人とも最近頑張ってたからねー」

 なるほど、ユーギはこれが言いたかったのか。
 とりあえずおめでたい話で良かった、良かった?
 いや良かったのだろう。
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