幼稚な神様、もっともっとスタディ中

神谷モロ

文字の大きさ
12 / 12

エピローグ・モガミの里

しおりを挟む
 エフタル王城。

 夜の暗闇に包まれた宮殿の一室。

 部屋の中には柔らかな薄明かりが灯り、大きなベッドが中央に据えられている。
 ベッドの上には一人の醜く太った男と裸の女性が眠っている。

 その部屋には、場違いな黒衣に身を包んだ人影が二人、ベッドでいびきを掻く太った男を見下ろしていた。

 そして黒衣の人影は吹き矢を取り出し太った男の首に毒矢を撃ち込む。
 いびきを掻いていた男は一瞬で静かになった。

 裸の女性の静かな寝息だけが聞こえる。

「天罰は下った。さて、帰ってママ先生に報告だ」

「証拠は隠さないでいいの?」

 もう一人の黒衣の女性が部屋の周囲を見ながら言った。
 部屋にはベッドで寝ている女の物であろうドレスが脱ぎっぱなしにされていた。
  
「毒矢はそのままにしておく。暗殺者の侵入があったことが分かれば、この妾の女の冤罪は免れるだろう」 

「それもそうね。そうだ、せっかくだしこのドレス持って帰ろうかしら。クレアお姉ちゃん、まだ忍装束を着るのを恥ずかしがってるし」

「やめとけよ、そんな娼婦の格好をクレア姉にさせられるか。どうせならもっといい服をプレゼントしたい。純白で……天使の様な彼女に相応しいドレスを」
「それってなに? ウエディングドレスとか? その前に告白が先でしょ?」


 ◆

 僕たちがエフタル王国から逃れてから数年が経った。


 僕たちはバシュミル大森林で小さいが安全に生活できる里を作ることが出来た。
 最初のうちはモンスター達は何度も襲ってきたが。やがて彼らもここが僕たちの縄張りだと認識したのか。滅多に襲われることはなくなった。
 
 僕たちは戦った。ハンス君もクレアちゃんも……。
 そして子供達も成長し、皆強くなった。

「ママ先生! 僕、初めてマンイーターを倒せました。忍法『火遁・ほむら』です、凄いでしょ?」

 焼け焦げたマンイーターを重そうに引きずりながら一人の少年が僕に近づいてきた。

「あはは、凄い! ユーは今日のヒーローだよ! でもマンイーターの丸焼きは美味しくないぞっ!」

 3歳だった子供も大きくなった、まだ少し幼さは残るが、それでも大人顔負けに忍法を使いこなしている。
 
 ほんと、子供たちの成長には驚くばかりだ。

 もう僕の役目は終わりかもしれないね。それは良い事だ。

 子供たちは、まるでスポンジのように新しい知識を吸収していく。
 それは忍法だけではない。僕が地球で得た色んなサバイバル知識や物理化学など。

 まあ外部には秘匿するということで、女神シャルロッテには許してもらおう。
 それに地球の知識を使った機械等は教えていないし、この世界に影響を与えることはないだろう。

 もっとも最初の頃は森を開拓するためにいくつか機械を作ろうとしたんだけど、女神が現れて説教された。

 女神の価値観的には滑車などの原始的な機械はセーフで、電磁気学はアウトだった。
 たしかに、あれは悪魔の発明と言えるかもしれない。知らんけど。


 やがて子供たちは大人になり。そして彼らも子を持ち親になった。

 ちなみに僕はハンス君の子供を身ごもった。

 ――約束だからと。
 彼は大人になっても僕が好きだと言ったのだ。

 さすがに今回は断る理由は無いし、正直嬉しかった。

 でも僕の子供は神の力を得るのだろうか、少し心配だった。
 幸い生まれた子供は神力のない普通の人間だった。

 だが、この先の子孫たちがそういう力を持って生まれないとは限らない。

 だから里の掟を追加する。

 強すぎる力を持つ者、またはそれを望む者は人間社会に関わってはいけない。
 名前を捨ててひっそりと孤独に生きるべし。と。


 そういえば、クレアちゃんは一生独身でいると言ってたけど。
 彼女も結局、彼女を慕う年下の子に猛烈アタックをされ、次第に考えを改め結ばれることになったのだった。


 ちなみに現在の僕たちはエフタル王国との交易はわずかにだがある。
 あくまでレーヴァテイン公爵家を経由したもので国王派には僕らの存在は一切秘密にしている。

 エフタル王国はあの後、内戦に突入し、長らく政治は不安定になった。

 貴族をまとめた現国王派閥とレーヴァテイン公爵家を筆頭とした旧国王派閥の泥沼の戦争になったのだ。

 数年続いた内戦は現国王の謎の暗殺事件を境に派閥は分断し。形勢は逆転した。
 まあ、戦争が続くと平民達にとっては何も良い事が無いし、僕らとしてもレーヴァテイン公爵には恩義がある。
 ちょっと忍者っぽい仕事をしただけだ。問題はないだろう。

 次期国王はレーヴァテイン公爵家から選出された。


 ――さて、やることは終わったかな。

 後はゆっくりとした時間を過ごすのみだ。
 シスター・テレサがそうであったように子供たちの面倒を見ながら……。

 …………。
 ……。


 僕の体は推定80歳くらいから急に老化が始まった。
 髪の毛はすっかり白髪だらけになり顔も年相応になった。
 
 やれやれ17歳が長すぎたけど、僕もちゃんと人間だったということだ。

 そろそろ寿命という事だろう。

 おっとそうだった、ベアトリクスに再会を約束してたんだっけか。忘れてた。まあ手紙を送ったしそれで勘弁してもらおう。

「ユーギ様、お客様がお見えです」
「おや、だれかな? お客とはめずらしい」

 訪ねてくる客といえばレーヴァテイン家の使いくらいしか心当たりがない。
 だが、青いドレスを着た女性を見てすぐに思い出した。

「あー、ベアトリクスか、久しぶり。君は相変わらず青なんだね」

「ええ、そうよ。私のイメージカラーですもの。……それにしても、あなた思ったよりちゃんとした人間だったのね」

「あはは、実は僕も案外普通で驚いてるよ。さて、それでは近況報告でも、まず、ベアトリクス君は人間と仲直り出来たのかな?」

「うふふ、もともと喧嘩してた訳じゃないわよ。でもそうね、前よりももっと上手く付き合えるようになったわ。皆仲良く過ごしているわよ」

「あはは、それはいい。その辺詳しく聞こうじゃないか。ドラゴンと人がどうやって上手く付き合っていくのか興味があるよ」

 終わり
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

藤礼
2023.07.21 藤礼

モガミ・ユーギも、無事、『最後の試練』を終えて、幼稚な神様卒業ですね。
完結、お疲れ様でした。

2023.07.21 神谷モロ

ユーギ君は勝手にキャラが動いてしまいましたね。
最初はチェーンソーで真っ二つのかませ神様でしたけど。まさかこんな奴になるなんて私も予想していませんでした。ここまで読んでいただいてありがとうございます。

解除

あなたにおすすめの小説

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。