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第3話 メンテナンス

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 翌朝。

 俺達は早朝のさわやかな空気に包まれながら、小鳥たちの鳴き声がする心地よい街路地を歩いていた。

「うー、昨晩の記憶がない、思い出せない。……それに頭が痛いし気持ち悪いわ、私、死んじゃうのかしら」

「ただの飲み過ぎだよ。ほら、これを少しずつ飲むといい。昨日バーキンさんから貰ったハーブを使った飲み薬だ」

 バーキンさんとは昨日の酒場のウェイトレスさんだ。
 さすがはプロ、翌朝にはこうなるだろうと帰りに手渡してくれのだ。

 まあ、これは誰しも経験することだ。俺だって16歳になったとき、それは飲まされたものだ。
 いい大人になってから粗相をしないように、せいぜい今のうちに後悔するといい。

「おめでとう、二日酔いは大人の証だ、ようこそ大人の世界へ」

「何よ、偉そうに、うぅ、こんなになるんだったら二度とお酒なんて飲まないわ」

「それは、嘘だね、俺はそう言って、実際に飲まなくなった人間を知らない」

「ふん、偉そうに、それにあんた、私に変なことしてないでしょうね」

「……してないさ。あえて言えば、俺が変なことをされそうになったんだけど、憶えてないのかい?」

 …………。
 黙り込むシャルロット。まあ、さすがにあの醜態をばらすのは可哀そうか。
 俺の記憶にしまっておくよ。

 というわけで、俺達は街の中央にある宿屋から歩いて郊外まで来ていた。

「ルカ、いるかな」

 ルカ・レスレクシオン。
 エフタルが共和国に移行する前の王国だったころに辺境伯だった女性。

 彼女はエフタル王国が滅ぶずっと前にカルルク帝国に亡命し、迷宮都市タラスを拠点に魔法機械技師として第二の人生を歩んでいる。
 ちょっとした有名人だ。

 俺達は彼女から授かった魔剣のメンテナンスに来た。
 武器の手入れは冒険者にとっては当たり前、だが魔剣は普通の鍛冶屋では扱えないため休暇の時は必ず通うようにしている。
  

 ルカの家は、一見普通の民家のような外観をしている。

 それでも10人以上は住める大きさはある。
 やや裕福な一般人といった感じだ。

 壁は土や石を使っており、床は木製、窓は木の枠でガラスが張られている。
 装飾などはなく、質素な作りの一般的な中流階級の家だ。

 だが、この家の真価は地下室にあった。

 地下室は、天井から壁一面にかけてミスリル鋼板が張られていてあらゆる魔法攻撃に耐える。

 それを支える柱は金属がむき出しでデザイン性などなく、まるでシェルターのような頑丈な作りだった。

 それでいて地下室全体は上の建物よりも広大な空間が作られている。

 広さといえば階級の高い貴族の邸宅にある、ダンスパーティーなどで使う大広間と同じくらいはあった。

 しかし、その空間は当然だがダンスホールのためではない。

 大小、様々な魔法機械が空間の半分以上を占拠しており、地下室の入り口の近くに、かろうじで生活できる小部屋があるだけだった。
 ルカはその小部屋を事務室にしており、大抵はここで過ごす。

 地上の家は、食事をするか寝床でしかない。
 たまに俺達のような客が来た時につかう応接間という感じである。


 俺達は特別に出入りの自由を許可されているため、そのまま家に入り、地下室への入り口に向かった。

 地下室への入り口はルカの寝室にある。
 無断で侵入していきなり寝室に侵入するのは未だに抵抗があるが。まあ、ルカ本人が良いと言ったのだ。

 ベッドは綺麗なままだった。
 ルカはほとんど地下室のソファーで寝ている。

 それでもルカの寝室は、綺麗に掃除されており、埃ひとつない。

 それに早朝だというのにベッドのシーツにシワは無く綺麗にベッドメイキングされているようだ。

 ルカには使用人が一人いる。
 名前はセバスティアーナという、長い黒髪と黒い瞳の綺麗なメイドさんだ。
 今は街に買出しにでも出かけているのだろうか、出迎えはなかった。

 たまにはベッドを使ってやってほしいのだが……。

 まあ、あの人は、研究に熱が入ると食事も忘れてしまうような人だからな。

「セバスティアーナさんが可哀そうだな。綺麗に使うならまだしも、未使用ってのはどうなんだろう、愛想尽きて辞めなければいいんだけど」

 しわ一つない、真っ白なシーツが敷かれたベッドを見ながら俺はため息をつく。

「それは無いんじゃない? あの二人はそれなりの距離感で自由に生きてる感じがしたわよ。
 それに主従関係というよりは、相棒といった感じで、どちらかといえば私たちのような関係に近いんじゃない?」

 たしかに、セバスティアーナさんは、ルカのことは様付けで呼んではいるが、結構辛辣なことを言ってルカをからかっている様子が伺えた。

 地下室に降りると、目の下のクマが目立つ女性、ルカ・レスレクシオンが事務室内にいた。

 白いシャツと黒いズボンに大きめの白衣を着ている。
 彼女は机の前で、ぶつぶつ独り言を言いながらペンを走らせていた。
 明らかに徹夜したような様子だった。

 俺達に気付いたルカは眼鏡を外すとこちらを見た。 

「おう、君達か、今回も大活躍だったのう。常連たちがお前たちの話をしておったぞ」

「そんな、これもルカ様にいただいた魔剣のおかげです」

「まさに、そのおかげじゃな。さて、二人とも魔剣のメンテナンスに来たのじゃろう、さっそく取り掛かろうかのう」
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