殉愛の狂ゲーマー 〜俺は終末世界で推しキャラの最強を証明する〜

一味違う一味

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◆デパート1階 ???side







 それは唐突だった。金属のひしゃげる鈍い音と、ガラスが割れる甲高い音が同時に聞こえたのは。音源を考えるに玄関のバリケードが破られたのだろう。

 それだけでも大変なのに、上の階から化物が騒ぐのも聞こえてきた。恐らく、バリケードが破られる音に反応して下へ降りてくるつもりなのだろう。

 階段にもバリケードはあるが化物がいない隙に突貫工事で作った有り合わせの、なんちゃってバリケードだ。せいぜい逃げるための時間稼ぎなればいいな、という程度の。

 かつてない不幸が私を襲うが、不幸はそれで終わらなかった。



「もう嫌っ!」



 一緒に避難していた女性が騒ぎ出したのだ。

 元々、彼女はヒステリー持ちで思い通りにならなければ癇癪かんしゃくを起こしていた。頻繁に騒いでいた昨日までの勤務態度を考えれば、よくここまで静かに出来たと褒めるべきなのかもしれない。

 だが、平和だった昨日までとは違う。緊急事態である今現在において、彼女は間違いなくただのお荷物だった。



「んーっ、んーっ」



 彼女の口を抑え、隠れ場所から出さないようにする三人の同僚と、彼女へ音を立てないように身振り手振りで静かにするよう伝える私。

 傍からみれば、なんと滑稽な姿だろうか。昨日までなら絶対しない不細工な表情にもなっているだろう。

 しかし、プライドまで捨ててなぐさめても、それは無駄な努力に終わる。

 隠れた場所から階段を覗き見れば、五人で必死に作ったバリケードの残骸が降ってきたのだ。

 たしかに長時間の足止めは無理だと思っていた。だが、こんな数秒で破壊られるなど想定しておらず放心して固まってしまう。



「……」



 ……どうやら私が崩壊したのは自信だけでなく、尊厳も含まれたらしい。下着が汚れて気持ち悪いが、替えの下着もなく、そもそも着替えてる時間もない。ほんとにもうヤダ。



「いやぁぁぁっ!」


「落ちつけって」



 何時まで経っても静かにならない女に業を煮やしたのか、小声ではあるものの注意する同僚。しかし、そんなものは意味がなかった。



「離してよ! てか、彼氏でもないくせに触らないで!」


「てめぇ、状況わかってんのか。こっちだって触りたくて触ってんじゃねぇんだよ」



 同僚達の手を振りほどき、さらにパニックになる彼女。ああ、もうっ! 騒いで状況を悪化させるだけとか本当に害悪っ!

 ついには、隠れ場所から飛び出した。しかし、出た後のことは何も考えていなかったのだろう、すぐ近くにある階段から降りてきた人間の子供くらいの大きさの鬼に追われていた。

 奴等は見た目に反して、成人男性よりも遥かに力が強い。捕まれば脱出はほぼ不可能なのだ。そして捕まったが最後、彼女は女性として最悪の死を遂げるだろう。

 彼女もそれは知っているのだから、必死の形相で逃げ始める。助けを期待できる方向へ。



「助けてっ!」



 もちろん私達のいる場所へ、だ。

 よし、見捨てよう。ついでに他のヤツも。








◆ルーベンside








 俺は軽快なノックで扉を開けた後、少し驚いていた。



「助けてっ!」



 それはデパートに入って最初に見たのが人間だったからだ。それも五人も。

 デパートへの道中では二~三人ほどしかいなかったので、意外と生き残っているのものだと感心する。



「ひぃ、痛い気持ち悪い痛いヤメテいたいイタイイタイイタイイタイイタイィィィ」


「クソッ、来るな! 河辺てめぇ、俺達も見捨てる気か!?」



 まあ、五人中四人は死ぬ直前だったが。

 男と女が二人ずつで、四人は見る見るうちに『ゴブリン・ゾンビ』によってダルマ・・・と腐汁袋になった。

 残る一人の河辺(?)は後ろの二人に見向きもせず、俺へ縋り付くような目を向けながら走り寄ってくる。

 ああ、これは──


〔裏切り者は殺して。たとえそれが私に対するものでなくてもよ? 気分が悪いわ〕



 面倒くさそうなヤツだ。そう言おうとしたところ、エリカから俺に命令おねだりが入る。

 もちろん快諾だ。半身であり、最愛の人でもあるエリカからの頼みなのだから当然である。むしろ、彼女のストーリー過去を考えれば十分に察せる筈だった。それなのに、言われるまで気付かなかった自分が情けない。



「了解だエリカ。任せてくれ」



 名誉挽回のため張り切って臨むとしよう。

 興味本位で『ゴブリン・ゾンビ』に群がられる四人を見れば、憎しみに燃える目で河辺(?)裏切り者を見ていた。

 言葉を話す余裕があれば、間違いなく溢れる憎悪のままに罵倒しているであろう表情。生きているのもギリギリだろうに、彼等の憎しみの深さが伝わってくるようだった。

 もしかしたら、四人の抱く憎しみは逃げてくる彼女にとって理不尽なものかもしれない。だとすれば、世間一般的には褒められたものではなく、むしろ非難されるものなのだろう。

 だが、知ったことではない。憎しみとは理性や理屈で抑えられるほど安い感情ではないのだ。

 憎しみや復讐は何も生まない、なんて言うがそれは当然だろう。

 なにせ───



「恨みは『晴らす』ものなんだからな」



 恨みは『晴らし』復讐は『果たし』汚名は『雪ぐ』。

 これらはマイナスになった分を取り返し、身についた汚れを落としているだけなのだから。



〔アンタにしては良いこと言うわね〕


「っ!」



 あのエリカが初めて俺を褒めてくれた。ストーリーで一切デレなかった、あのエリカが!

 ヤバい、剣にハグしたときより嬉しいし幸せだ。最初にエリカの声を聞いたときに匹敵するかもしれない。

 滂沱のごとく涙が溢れ、腰が抜けそうなほど快楽が流れ込む。

 駄目だ、まだ倒れちゃ駄目だ。エリカにまだ、お礼すら言えていない。それで、お礼をしたらエリカと初会話をするんだ。このタイミングならエリカも会話に応じてくれるかもしれない。

 今のエリカは機嫌が良さそうだ。ならば、この機を逃すわけにはいかない。頼む、それまで持ってくれよ俺の体!



「エリカ、俺は……」


「お兄さん、助けて下さいっ!」


「……はっ?」



 河辺(?)……クソアマに声を掛けられた途端、体から火照りと喜びが抜けるのを感じる。変わりと言わんばかりに怒りと哀しみが俺を支配した。

 寄りにもよって、このタイミングで言葉を遮りやがった。全身全霊で交じり合い会話をするべく動いていたというのに、それを台無しにしやがった。こんなチャンス、早々ないだろうに。

 


「お願いします。何でもするから助けて下さい!」



 気色悪いことに、抱き着いてきたクソアマをスキルの範囲外まで投げ飛ばすと、じゃれ合っている連中を【同胞渇望】で排除する。



「上等だよ、何でもして貰おうじゃないか」



 エリカの頼みは殺すことだ。ならば張り切って殺そう。

 あの女、楽には殺さない。
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