転生後、勇者として女神様から授かった刀はプラスチック製でした。

夢見月まひわ

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三幕 "騎士養成学校"

【二十四話:御影流】

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「ーーーであるためこの魔術は風が吹くというを生み出しているに過ぎず、動力となる魔力の性質に左右されない。つまり極端な話だが術の発動だけならば才能など一切不要とも言える。なにせ魔力を注ぐだけでいいのだからな。古くから『魔法は才あるものの特権であり、魔術こそが人類の叡智である。』そんな風に語り継がれてきた。これに関して様々な解釈もあるが、当方としは魔術こそが皆に平等に与えられた才能だと確信している。したがってこの場では魔法という才能ありきの非効率極まる代物ではなく、誰でも扱える人類の至宝ーーー魔術を君達に教えていく」

 そうして教壇に立つホウライ=リアライズに対してカイトがこう疑問を口にする。

「なぁ……なんであいつが何事もなかったかのように先生やってんだ?」

「あいつじゃないよカイト。ホウライ=リアライズ先生だよ」

「気が散るからバカは寝てなさい」

「……っ、はいはい……てめぇらがいいならいいんだよ……俺は実害なかったわけだしな」

「……あたしだって……」

 リンは唇を噛み締め、言葉を切った。

 入学式から三日が経ち、私たちは初めての講義を受けていた。そしていくつかある講義の中の魔術学というものの担当教師が、あのホウライ=リアライズだったのだ。

 あの出来事の顛末、その結果だけを見れば全員無事とも言えるだろうが。色々な事が起こり過ぎて、現実問題、これで良かったのかが怪しいところだった。
 魔法でパニックを起こした人達はその日のうちに皆んな目を覚ましたし、その翌日には元気になっていた。
 そしてエマの正体が白日の元に晒されたにも関わらず、今でも寮は変わらず、貴族制服も身に付けずと、我儘なお姫様っぷりを発揮していたし、なによりその事件を起こした張本人であるクライヴに関しての裁量がなんとも頭を傾げる結果となっていた。



 裁判も起こさずに皇女殺人未遂という極刑ものの事案を示談で済ませたのだ。
 それはエマ曰く、『神がそう決めたのよ』との事だった。
 そしてクライヴに関していうならもう一つ驚く事に、なんとそのまま学校に入学することさえ許されたのだった。

ーーーもう懐が広いってレベルの話じゃないよね……もちろん私としてはとても嬉しいけどさ、エマはどういうつもりなのかな?

『神に似た魔力を帯びていて、神の能力スキルを持つ人間の姫。はたから見ても要注意人物だよ。向こうも色々隠したいみたいだから、こっちの事情を聞いてこないけど、それもお互い様だし、こっちから聞かなきゃ教えてくれないだろうね』

ーーー……知らない事、知りたい事ばかりが増えてくよ。いっそのこと相手の考えを読み取れるような魔法があればいいのに……

『向こうは持ってたけどね』

「へぇ~、そうなんだ……………………………………………っえ?」

「どうした、そこの幼女。質問でもあるのか?」

 私の驚きの声にリアライズが反応したが、私はそれを慌てて誤魔化し、講義は再開する。

ーーーそれってもしかして、この前ののこと?

『そうそう。あれは対象の肉体、精神を自分の物とする神の能力スキルの一つなんだけど、それを使えば相手の考えぐらい手に取るように分かるだろうさ』

ーーー神のスキルって……どうしてあのお姫様は私よりチート能力持ちなわけ?

『人間基準で見れば主も十分【過剰能力者チーター】だよ。私め含めてさ』

ーーー……まぁね。はぁ、これからどうすればいいんだろう……

 ◇

 魔術学の講義が終わると、次は剣の実技演習ということで修練着と呼ばれる無地の簡素な服に着替え、クラス一同演習場にやってきていた。
 私は予めその服を身に付けていたため、更衣室にも入らず演習場に向かっていた。
 そのせいでか周りからは遊びたい盛りのおてんば娘のように温かい目で見られていた。

ーーー悪いことではないはずだけど……流石に気が引けるよ……

 そうして皆んなが演習場に集まると、細身の男性教師がこう声を上げた。

「よぉし! 全員揃ったな! 俺の名はイナミ=フラーラだ! 君たち一年の実技演習を担当することとなった。よろしくな! それじゃあまずは各自得意とする武器をそこから選び、中央に集まってくれ!」

 フラーラ先生の指示に従い、私は剣(模造)を手にした。

「試験の時もだけど、やっぱり剣なのね。それに貴女の兄君達も」

 そうエマが話しかけてきた。

御影ミカゲ流って聞いたことない? 私たちは皆んな一人の師匠について剣の稽古だけをしてたからね。……あ、私は直接習ってないんだった……」

「いいえ、聴いたことはあるわよ。でもそうね……古くから伝わる剣術、程度しか知らないわ」

ーーーうーん、タゴアおじさんも気にしてたけど、あんまり御影流って浸透してないんだね……それに比べて。

「私のは四神シシン流槍術というのよ。この国の一般的な流派だから意外性には欠けるけどね」

 この国、ルミエール王国で広く伝わっているのが四神流だった。初代ルミエール王国の国王が四神流だったことに始まり、また数多くの武器の武術の心得があるため、この国で主流となっていた。

 皆んなが武器を手に取り中央に集まるとフラーラ先生が声をあげた。

「今から実技演習を始めるが、その前に余興試合エキシビションマッチをしようと思う。誰か私と剣を交えたいと思う勇敢な者はいないか?」

 その問いにクラスが騒ついたが、すぐに一人の生徒が手を挙げた。
 その生徒は修練着の背中に出自を表す家紋が大きく縫われていた。つまりは貴族ということだ。

「僕がその相手になります」

「確か君はリングラット家の御子息だったな。あの鬼神と恐れられたホーク様のお孫さんか。うん、いいだろう。きっと皆んなにもいい刺激になるはずだ」

 先生の認可も通り、二人は演習場の中央で向き合い、それぞれ構えた。

「それじゃあ互いに口上を述べよう。これは互いに正々堂々勝負をしようという誓いであり、正式な試合では必ず行うものだ。もちろん演習で模擬戦を行う際にも君たちには名乗ってもらうから、忘れないように」

 そう説明をしたのち、咳払いをしてからフラーラ先生が名乗る。

「四神流剣術師範代、イナミ=フラーラ」

「気功流剣舞術三段、スワーロ=リングラット! 全身全霊勝ちに行きます!」

「ッ当然!!!」

 互いの口上が終わるとゴングも無しに試合は始まった。

 まず先に仕掛けたのは生徒のスワーロ。彼は軽やかなステップで距離を近づけ、一太刀入れようと剣を振るった。その姿は剣舞術と言うだけあり、そこまでの一連の流れがまるで踊りのように華麗であった。
 しかしフラーラ先生はその攻撃を微動だにせず、剣一本でいなして見せた。

「ーーーーッ!!?」

 攻撃をいなされたことで出来た僅かな隙をフラーラ先生は見逃さず、軽く身体をよじり背中に模造剣を打ちつけた。

「はい、決まり」

 スワーロは慌てて起きあがって剣を再び構えたが、すぐにその剣を下ろし、深く礼をした。

「ありがとうございました」

「綺麗なまいだったが、だからだろうな。その動作が意図しない形で崩れた時に出来る隙が余りにも大きい。本来の剣舞術ならその隙さえ一連の流れに組み込んでみせるものだ」

 スワーロとの一戦が終わると、フラーラ先生はまた生徒に呼びかけ、対戦者を募っていた。
 そしてまた手が挙がった。

「ーーー強者との戦いこそが一番の糧になるってタゴア師匠が言ってた。だから僕と戦って」

 手を挙げたのはイシュカ村出身のジルだった。

「オーケー、かかってこい」

 ジルが前へと出る。

「頑張れよ! ジル!」
「かっ飛ばしてやりなさい!」
「無理しないようにね」
「ジル君、落ち着いて冷静に!」

 カイト達の声援が飛び交う。
 それに負けず私も応援する。

「ジルお兄ちゃん! 頑張ってー!!!」

 フラーラ先生が構えて言う。

「俺はさっき名乗っているから、そちらが名乗ったら始めるとしよう」

 それに対してジルが頷き、名乗り始める。

「僕は御影流剣術初段、ジル。皆んなに応援された、だから無理せず頑張る」

 ジルの名乗りが終わると、今度はフラーラ先生がすぐさま仕掛けていった。
 それをジルは後ろに飛び退き、躱した。
 すると今度は互いに距離を保ちつつ、間合いを測っていた。

「ユナちゃん、御影流ってどんな流派なの?」

 エマがそう尋ねてきた。

「一撃必殺のカウンターを狙う技が多いかな。だから基本は相手の攻撃をいなして躱して隙を見て攻撃に移る、対人戦に特化した流派だよ」

「……なら先生が間合いを取ったのもカウンターを恐れてのこと?」

「うーん、どうだろう……私剣術に関してはからっきりだし……」

 そう私が頭を傾げていると、リンが近寄ってきて言った。

「それ、たぶん違うわよ。あの人ジルの動きに合わせてるから、むしろカウンターを決める気でいるんだと思う」

「カウンターで? もちろん四神流にもカウンターの心得はあるけれど、カウンター対カウンター勝負なんて決着つかないんじゃないの」

「それを分かってやっているんでしょ。本当に腹立たしいわね」

「……あーそういう」

 御影流は『護りの剣』と呼ばれている。その理由は御影流の教えに『大切な人を護るために剣を握れ』というものがあるためだが、周囲からは自ら攻められない臆病者の剣術だと揶揄される事もあった。

ーー確か試験官も田舎剣術だと馬鹿にしていたし、その実御影流を受け継ぐものはほとんどいないとタゴアおじさんも嘆いていた。だけど、それは違う。真の御影流を知る私なら、そう断言できる。

「負けないよ。なんたって私の騎士様おにいちゃんだからね」

「ええ。それにあそこはもうあの子の間合いだし」

 そのリンの言葉にエマが困惑し、こう聞き返した。

「……槍でも届かない距離でしょ?」

「御影流を侮っちゃいけないわよ、エマ。御影流は見切り、体捌き、その他の技量全てを高く必要とされるカウンターを得意としているのよ。凡人の間合いと同じわけないじゃない。まぁ見てなさい」

 リンの言葉でジルを見ると、ちょうどジルが肩慣らしに軽く剣を振っていた。
 ジルはカウンターを捨て、先生の誘いに乗ろうというのだ。
 そしてジルが言う。

「『御影流は護りの剣だ。護りってのは護りたいものを護る力って意味で保身という意味じゃない。だから最強なんだ。』ってタゴア師匠が言ってた。僕は勝つよ、御影流が最強だから」

 ジルが小さく右脚を前に出す。
 それに仕掛けてくると思ったフラーラ先生はより集中し、相手の動きを把握し、カウンターを決めようとしていた。
 しかし、ーーーー。

「御影流《一ノ極意いちのごくいはじまり》ーーー【垓歩がいほ】」

 瞬く間にジルはその剣先をフラーラ先生の喉元に突き付けていた。
 その瞬間に音はなく、風の揺らぎさえ感じられない。気配さえ置き去りにし、ジルはフラーラ先生の懐に入っていた。

「…………ま、参った」

 その一言で試合は決した。
 油断があったとはいえ、ジルは教師を相手に勝利した。

「……あれってユナちゃんが試験に使っていた技よね? 凄い静かだっけど……」

「えーと……同じじゃないよ。私はあくまであれを真似ようとしただけだから」

「あー、やっぱりあの時使ったんだ。凄い音したからそうだとは思ったけど、確か《ハタタガミ》だっけ?」

 そうリンが言った。

「それは小天こあめがね……」

 御影流のあの技を見て、どうにか物に出来ないかとヨミとリン達に教えを乞い、そしてそれに名前を付けたのが小天こあめだった。
 本来私の剣術は《御影流もどき》とでも呼ぶべきなんだろう。

「カイトにぃ、勝ったよ。僕、強くなれた?」

 そうジルは何事もなかったかのようににこやかに微笑むのだった。
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