最後の手紙

マスカレード 

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Erased Dark Green

最後の手紙

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 タイトルの「みどりのゆび」を見ていたら、俊哉の文字が頭の中に浮かんできた。

 『るみちゃんは何色が好きですか?
  僕はみどり色が好きです』

 本の中には、チトが病院の中にも花を咲かせ、病気の女の子を笑顔にするシーンもある。
 普段は目も合わせようとしない俊哉だが、緑と花に包まれた病室のくだりが俊哉の本心を語っているようで、優しい労りが瑠実の心に流れこんでくるように思えた。

 その後、動いてもいいと許可をもらった瑠実は、喜んでベッドから脚を下したものの、筋肉が衰えた脚では一歩も動けないことに気が付いて動揺した。
 心配そうに手を差し伸べた祖母の向こうに、ちらりと「みどりのゆび」の本が見え、怯えた表情を隠して震える脚を何とか踏ん張る。廊下の手すりを掴みながら脚を前に出す訓練を繰り返し、数日後には退院の日が決まった。


 退院して真っ先に訪ねたのは俊哉の家だ。
 玄関に出てきた俊哉は、相変わらず不愛想だったけれど、耳だけが真っ赤に染まっているのを見て、瑠実は俊哉の態度は照れなのだということに気が付いた。
 その途端に、自分の耳まで熱を持つのを感じて、頬にまで広がるのを感じる。
 会ったら色々なことを話そうと思っていたのに、本のお礼だけを言うのがやっとで、早々に家に引き返してしまった。

「話したかったのに。どうして前みたいにできないんだろう?」
 
 後悔ともどかしさが募り、入院と同時に始めた日記帳に鬱憤を晴らすように、留美はじれったい気持ちを書きなぐった。

 一学年違う二人は、行動を共にすることがあまりない。芽吹いたばかりの感情に戸惑い、会いたいくせに、いざ廊下でばったり顔を合わせようものなら、どう接していいいか分からず、挙動不審な態度を繰り返す。
 恋しい気持ちとは裏腹に、強烈なジレンマも抱えることになった。

 そして留美は5年生になり、両親から念願のスマホを買ってもらった。
 ところがある日、SNSでやり取りをする友達の一人から、変な噂を聞くことに。なんでも、その友人の妹は、俊哉の妹の沙也加と同じクラスらしい。最近沙也加が元気がないので心配していたら、家に変な人がやって来て怖いと相談されたというのだ。
 
 そういえば今朝の登校の時も、俊哉と沙也加が他の友人から離れて、二人で元気なく歩いていたことを思い出した。居ても立っても居られず、瑠実はおやつのお菓子を持って、三崎家のインターフォンんを押した。

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