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大切な授業 1
揺らめくフレッシュグリーン
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「理花。良かったね。私のせいで‥‥‥本当にどうしようかと思った」
薫子が理花の方に顔を寄せ、小声で囁いた。嬉しいはずなのに、理花の胸の中にあるわだかまりは晴れなかった。
「私、このままじゃいけないと思うの」
「えっ?どうして?大智君がみんなの誤解を解いてくれたじゃない」
「だって、私の誤解を解いただけだと、発達障害や自閉症の人に限らず、みんなと違う意見を持ったり、一緒の行動を取らない人に対して差別する環境はなくならないもの」
この件はこれで終わりと片付けてしまったら、今度もし大智が何かミスをしたときや、他のひとからちょっと外れた行動をとったことがきっかけで、兄の大智も弟と同じなのではないかと好奇な視線を向けられるかもしれない。
そんなことになったら、大智の勇気ある行動が無駄になるし、理花には耐えられないだろう。
何か……何か方法はないだろうか。人は自分たちと違ったものを恐れる。だとしたら、感じ方を変えればいいのかも。
理花は勇気を振り絞って、みんなの輪の中心にいる大智に話しかけた。
「大智君。キャンプの時に弟さんのことを、大事な弟だって話してくれたよね?大智君はリーダーシップがとれるし、頭がいいし、えっと、顔もいいし……」
大智君がおやっという顔をしたので、生徒たちが話の途中でクスクス笑う。
「何でもそろっている大智君から愛されている弟さんが、うらやましい…です」
大智が守ろうとしてくれた気持ちに報いたい。その一心で、理花は自分の全てを晒そうと思った。
人を敬うという気持ち、その人を好きな気持ちは、まっすぐにみんなの心に届くはずだから、恥ずかしいなんて思わなかった。
「大智君は人の痛みが分かる優しい人だと思う。大智君がこんな素敵な人になったことに弟さんが一役買っているなら、私は弟さんの話を聞きたい。冷やかしとかじゃなくて、真剣に知りたい」
薫子が隣でうんうんと力強く頷き、理花に向かって最初にごめんって謝っておくねと意味深なことを告げてから、大智に声をかけた。
「私も興味本位とかじゃなくて、人を区別や差別をしないために、私たちがどういう態度をとったらいいのかを知りたいです。だって、私も理花も大智君の彼女希望だから、大智君の大切な人への接し方を知りたいもん」
突然の告白に、おお~っ!とクラスが湧いた。
理花はいきなり薫子にすっぱ抜かれ、何で今?と焦った。反射的に大智を見ると、大智も困惑した表情を浮かべている。
ところが、理花が一瞬無謀だと思った薫子の告白は、意外な方向に働いた。
区別や差別をしたクラスメートたちを諫めるような願いなのに、薫子はクラスメートの一員として、また好きな人のことだから知りたいと言ったため、クラスメートたちにも受け止めやすくなったのだ。
理花に対して誤った態度を取り、罪悪感を抱いていたクラスメートたちが、自分たちも知りたいと大智に声をあげた。
ちょうどその時、始業の合図が鳴り、みんなが恨めし気にスピーカーを仰ぐ。大智が一礼して教室から去ろうとしたのを、いつの間に入口に立っていたのか、現代国語担当の畠山みどり先生が引き止めた。
「A組の瀬尾大智君だったわね?先生も話の続きが聞きたいわ。大智君を10分ほどレンタルできないかA組の先生に聞いてくるから、ここで待っていてね」
大智はためらいがちに頷いたあと、すぐに先ほど使った用紙の裏側に、さらさらとペンで何かを書きを始めた。
大智の邪魔しないように、みんなは静かに見守っている。その中の何人かの女の子が、恋愛感情に疎かった理花にもわかるほど、熱い目で大智を食い入るように見つめていた。
薫子にしてやられたと思ったけれど、先に彼女に立候補するのは賢い手だったのかもしれないと思い直す。それに薫子は抜け駆けできたはずなのに、自分だけ告白することはせず、理花の名前を連名にしてくれたのだ。
ちらりと横を見ると、感謝してよねとでも言うように、顔を斜めに傾けてニッと笑う薫子が目に入る。得意げに見えたのはほんの一瞬で、瞳が揺らぎ、これで許してくれるかなと窺うような表情を浮かべた。
応えるように理花は指でオッケーサインをしてから、グッジョブと親指を立ててみせる。すると、薫子の顔にまぶしいくらいの笑みが広がり、理花の胸を熱くした。
薫子が理花の方に顔を寄せ、小声で囁いた。嬉しいはずなのに、理花の胸の中にあるわだかまりは晴れなかった。
「私、このままじゃいけないと思うの」
「えっ?どうして?大智君がみんなの誤解を解いてくれたじゃない」
「だって、私の誤解を解いただけだと、発達障害や自閉症の人に限らず、みんなと違う意見を持ったり、一緒の行動を取らない人に対して差別する環境はなくならないもの」
この件はこれで終わりと片付けてしまったら、今度もし大智が何かミスをしたときや、他のひとからちょっと外れた行動をとったことがきっかけで、兄の大智も弟と同じなのではないかと好奇な視線を向けられるかもしれない。
そんなことになったら、大智の勇気ある行動が無駄になるし、理花には耐えられないだろう。
何か……何か方法はないだろうか。人は自分たちと違ったものを恐れる。だとしたら、感じ方を変えればいいのかも。
理花は勇気を振り絞って、みんなの輪の中心にいる大智に話しかけた。
「大智君。キャンプの時に弟さんのことを、大事な弟だって話してくれたよね?大智君はリーダーシップがとれるし、頭がいいし、えっと、顔もいいし……」
大智君がおやっという顔をしたので、生徒たちが話の途中でクスクス笑う。
「何でもそろっている大智君から愛されている弟さんが、うらやましい…です」
大智が守ろうとしてくれた気持ちに報いたい。その一心で、理花は自分の全てを晒そうと思った。
人を敬うという気持ち、その人を好きな気持ちは、まっすぐにみんなの心に届くはずだから、恥ずかしいなんて思わなかった。
「大智君は人の痛みが分かる優しい人だと思う。大智君がこんな素敵な人になったことに弟さんが一役買っているなら、私は弟さんの話を聞きたい。冷やかしとかじゃなくて、真剣に知りたい」
薫子が隣でうんうんと力強く頷き、理花に向かって最初にごめんって謝っておくねと意味深なことを告げてから、大智に声をかけた。
「私も興味本位とかじゃなくて、人を区別や差別をしないために、私たちがどういう態度をとったらいいのかを知りたいです。だって、私も理花も大智君の彼女希望だから、大智君の大切な人への接し方を知りたいもん」
突然の告白に、おお~っ!とクラスが湧いた。
理花はいきなり薫子にすっぱ抜かれ、何で今?と焦った。反射的に大智を見ると、大智も困惑した表情を浮かべている。
ところが、理花が一瞬無謀だと思った薫子の告白は、意外な方向に働いた。
区別や差別をしたクラスメートたちを諫めるような願いなのに、薫子はクラスメートの一員として、また好きな人のことだから知りたいと言ったため、クラスメートたちにも受け止めやすくなったのだ。
理花に対して誤った態度を取り、罪悪感を抱いていたクラスメートたちが、自分たちも知りたいと大智に声をあげた。
ちょうどその時、始業の合図が鳴り、みんなが恨めし気にスピーカーを仰ぐ。大智が一礼して教室から去ろうとしたのを、いつの間に入口に立っていたのか、現代国語担当の畠山みどり先生が引き止めた。
「A組の瀬尾大智君だったわね?先生も話の続きが聞きたいわ。大智君を10分ほどレンタルできないかA組の先生に聞いてくるから、ここで待っていてね」
大智はためらいがちに頷いたあと、すぐに先ほど使った用紙の裏側に、さらさらとペンで何かを書きを始めた。
大智の邪魔しないように、みんなは静かに見守っている。その中の何人かの女の子が、恋愛感情に疎かった理花にもわかるほど、熱い目で大智を食い入るように見つめていた。
薫子にしてやられたと思ったけれど、先に彼女に立候補するのは賢い手だったのかもしれないと思い直す。それに薫子は抜け駆けできたはずなのに、自分だけ告白することはせず、理花の名前を連名にしてくれたのだ。
ちらりと横を見ると、感謝してよねとでも言うように、顔を斜めに傾けてニッと笑う薫子が目に入る。得意げに見えたのはほんの一瞬で、瞳が揺らぎ、これで許してくれるかなと窺うような表情を浮かべた。
応えるように理花は指でオッケーサインをしてから、グッジョブと親指を立ててみせる。すると、薫子の顔にまぶしいくらいの笑みが広がり、理花の胸を熱くした。
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