翼を狩る者と運命の乙女 2024年8月に出版のため、第二章から非公開です。

マスカレード 

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翼を狩る者と運命の乙女

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「どうしたカミーユ。何かいたのか?」

 旅館の日本庭園を散策していたカミーユは、垣根の西側にある民家の二階を振り仰いだまま、身動ぎもせずじっとを見つめている。

「いや、今、視線を感じたんだ。振り返ったらカーテンが閉められた」

「怪しいな。この旅館に入った途端に羽が消えてしまったから、翼の乙女に会えるんじゃないかと期待したが、何だか警戒されているみたいだ」

「ああ。レオがカルテに記入した住所を見たあと、若女将の態度が明らかに硬くなった気がする。多分俺たちが何者か分かったのだろう」

「だとしたら、俺たちは歓迎されていないことになる。ヴァルハラでは、ruler(ルーラー)(支配者)
側が望めば、乙女たちは定めに従ってやってくるのに、日本では権力も通じないか」

「そうだな。大昔、翼の乙女が乱獲されるのを救うために、ヴァルハラの祖先たちと彼女たちが交わした契約が、こちらの種族に適用するかどうかは分からない。もしかして、王族と教皇の権力争いで双方の関係に亀裂が入った時代に、脱出した翼の乙女たちが生き残ってこの地に辿りついたのかもしれない」

「なるほど。教皇が王族の力を削ぐために、翼の乙女を魔女として狩り、多くが犠牲になったんだったな。海外へ脱出した翼の乙女がいたという話は聞いているが、その子孫ということか」

 レオの言葉にカミーユが頷き、逃亡した翼の乙女にしても、別派生の種族にしても、王族の庇護を必要としない者たちに、今までのルールは通用しないと告げた。
 その時、カミーユのスマホが振動した。ポケットから取り出して表示を見ると、カミーユたちを目立たないように警護しているSPのリーダー、ジルだった。

「どうした?コナーが?……そうか、分かった。引き続きコナーの行動を見張るのと、つけていた男と、彼の部屋で待機していた女の関係、この旅館との繋がりを調べてくれ。もしコナーが、この旅館に押し入るような強硬手段を取ろうとしたら、事前に阻止してくれ」

 カミーユが電話を切ると、待ちかねていたレオが詳細を求める。
コナーが沖縄にいるカミーユたちのダミーを見破って、ナディアと共に三保に来たこと、カミーユたちをつけていた怪しいアジア人の男の居場所をつきとめたことなどを聞き、レオは顔をしかた。

「俺たちがつけられていた?羽に夢中になり過ぎて気づけなかったのか?信じられん」

「殺意が無かったのもあるな。スーパーの倉庫の上に住み込んでいる普通の日本人のようだ。部屋で待っていた若い女に、俺たちが旅館に入ったことを電話で告げたそうだ。つけた理由が気になるから、今この旅館との繋がりを調べさせている。それとコナーはこの近くのホテルに部屋を取ったようだ」

「どうする?このまま報告を待つか?旅館の者に、ここに翼の乙女がいるかどうか直接問いただすか?」

「ダイレクト過ぎれば、逃がされる可能性もある。They are trying to out fox each other.(狐とタヌキの化かし合い)を演じながら、探るしかない。あくまで客のふりをして、旅館内を隅々まで探そう。夜になったら、あの窓を覗いてみてもいい」

 カミーユが先ほど見上げていた隣家の二階の窓を見て、レオが肩を竦めた。

「不法侵入で捕まらないでくれよ。だけど、この旅館の壁の色と揃えてあるってことは、旅館のオーナーの家かもしれないから、やってみる価値はありだな。題してキツネ狩りか」

「キツネ狩り?いや、小さく怯えていた小鳥には似合わないな。あれは本当に愛らしかった」

「単なる言葉のあやだよ。そうムキになるな。それにしても夜が楽しみだ。ところでカミーユ。俺は露天風呂に興味があるんだが、夜までの骨休めに行ってみないか?」

「ああ、いいな。このところコナーの後始末で休む間も無かったし、長旅でさすがに俺も疲れた。探るついでにいってみるか」

 二人は連れ立って、旅館の中に入っていった。


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