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お見合い開始
アンドロイドは恋に落ちるか
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莉緒が訪問する二日前、二人分のお見合い相手のデーターが届いたと、兄の部下で研究チーフの杉下亮から連絡があり、奏太は兄と一緒にラボに向かった。
出迎えた杉下亮に紹介されたが、額が広く、顎が尖った細長い顔の杉下は、兄が見ていないときに、猜疑心を丸出しにしたような表情を浮かべて奏太を見る。
奏太が大学院を卒業したらラボに入ることを希望していることは、兄の口から所員たちに伝わっていて、一応学業では優秀な成績を収めている奏太は、所員たちから入社を歓迎されているとのことだった。
しかし、杉下のように責任のある立場の者には、まだ大学生の身で極秘の研究を行っているラボに入るのを快く思わないのは当然のことなのかもしれない。
ただ、杉下は知らないだけで、所員たちが帰宅したラボに、奏太は研二と共に毎晩やってきて、ケンディーの不具合の原因を突き止めるために、初のデーターを読み込んだ時から順を追って記録に目を通していた。
研二の話によると、ケンディーは最初のうちは外部データー受信で上手く変化できたという。
ところがある日を境に、外部入力をすると、別の人格が混じり込み、本人らしからぬ言動をしたというのだ。
「それって今のケンディーみたいに、兄貴の顔に俺の性格って感じなのか?」
「いや、全部が別人格じゃなくて、所々変なんだ。例えばいきなり女言葉を使ってみたり、好みの色と正反対のものを選ぼうとするんだ」
「プログラムミスじゃないんだよな?」
「ああ。何度もチェックしているし、アンディーと比べても間違いはないとのことだ」
「変化があった日より前に、ラボ内で誰か移動になったり、新入生が入ってこなかった?」
「ああ、そういえば。ラボの中の事務所にあるコンピューターがウィルス感染したことがあって、羽柴の紹介で、ウィルス駆除と対策をしてもらったことがあったな。今度莉緒ちゃんとお見合いする牧田計也君はプログラマーで、ウィルやサイバー攻撃に関しても詳しいんだ」
「‥‥‥」
黙り込んだ奏太の考えを読んだように、研二が言った。
「莉緒ちゃんがいる間、アンディーにおかしなところがないか見張っていてくれ」
「分かった。一応聞いておくけれど、もう一人の莉緒ちゃんの相手はどんな奴?」
「杉下チーフの話では、水野正人君は新規事業開発部門のホープらしい。頭の回転が速くて、人当たりもいいそうだ」
「なんで杉下チーフが、羽柴社長の部下を知っているんだ?」
「杉下と水野君は大学の同期で、サークルが同じだったそうだ」
「ふぅ~ん。ケンディーの記録を調べるより、生身の人間を調べた方がよさそうな気がする」
「証拠は何もない。それに、もし彼らがケンディーを欲しがるとしたら、完璧なままで入手した方が良くないか?」
「確かに。まずはケンディーの調子を狂わせたのがどんな手段によるものか調べてみるよ」
それから毎晩チェックを続けているのだが、分析結果も出ないうちに真昼のラボに呼び出され、水野と牧田から送られてきたデーターをアンディーにインプットして動作をチェックすることになった。
ケンディーの方はというと、あれからどんなに検分しても、ケンディー本体が作動することはない。
ただし、奏太が中へ入ろうと思えばアンドロイドの中に入って操れることを発見して、莉緒が滞在する一週間だけ誤魔化すことができないだろうかと、兄に持ち掛けてみた。
始終ケンディーを見張っているわけにはいかず、奏太の身体がどのくらい耐えられるか分からないからと反対した研二の気持ちを動かしたのは、奏太のチャレンジ精神に尽きる。
ケンディーから奏太の身体に戻るには、研二のコマンドを必要としたが、何度か出入りするうちに、奏太の意思で自由に行き来できるようになったのだ。
もし、ケンディーの身に何かあったときに離脱できる。それがその場しのぎの対策を後押しすることになった。
ケンディーと違い、顔だけ変化するもう一体は、複数のデーターを入れても正常に動いているのだから、完全な失敗作ではない。
見合い状況を確認もできずにストップがかかれば製品化がかなり遅れることになだろう。
研二と性格が違い過ぎる奏太が中にいることがバレないようにするためと、長時間奏太の身体から魂といえるのか分からないが、それが抜けてしまうことで肉体に与えるダメージを考えて、ケンディーの稼働は一二時間と話し合いで決めた。
そして、羽柴莉緒が水野と牧田の入ったアンディーとお見合いをするために、新見家にやってきた。
ーかわいい!
莉緒を初めて目にしたケンディーの中の奏太は、跳び上がらんばかりに喜んだ。
ーこんなかわいい娘と一週間過ごせるなんて、何てラッキーなんだろう。
だが、すぐにその高揚した気分はひしゃげてしまった。
出迎えた杉下亮に紹介されたが、額が広く、顎が尖った細長い顔の杉下は、兄が見ていないときに、猜疑心を丸出しにしたような表情を浮かべて奏太を見る。
奏太が大学院を卒業したらラボに入ることを希望していることは、兄の口から所員たちに伝わっていて、一応学業では優秀な成績を収めている奏太は、所員たちから入社を歓迎されているとのことだった。
しかし、杉下のように責任のある立場の者には、まだ大学生の身で極秘の研究を行っているラボに入るのを快く思わないのは当然のことなのかもしれない。
ただ、杉下は知らないだけで、所員たちが帰宅したラボに、奏太は研二と共に毎晩やってきて、ケンディーの不具合の原因を突き止めるために、初のデーターを読み込んだ時から順を追って記録に目を通していた。
研二の話によると、ケンディーは最初のうちは外部データー受信で上手く変化できたという。
ところがある日を境に、外部入力をすると、別の人格が混じり込み、本人らしからぬ言動をしたというのだ。
「それって今のケンディーみたいに、兄貴の顔に俺の性格って感じなのか?」
「いや、全部が別人格じゃなくて、所々変なんだ。例えばいきなり女言葉を使ってみたり、好みの色と正反対のものを選ぼうとするんだ」
「プログラムミスじゃないんだよな?」
「ああ。何度もチェックしているし、アンディーと比べても間違いはないとのことだ」
「変化があった日より前に、ラボ内で誰か移動になったり、新入生が入ってこなかった?」
「ああ、そういえば。ラボの中の事務所にあるコンピューターがウィルス感染したことがあって、羽柴の紹介で、ウィルス駆除と対策をしてもらったことがあったな。今度莉緒ちゃんとお見合いする牧田計也君はプログラマーで、ウィルやサイバー攻撃に関しても詳しいんだ」
「‥‥‥」
黙り込んだ奏太の考えを読んだように、研二が言った。
「莉緒ちゃんがいる間、アンディーにおかしなところがないか見張っていてくれ」
「分かった。一応聞いておくけれど、もう一人の莉緒ちゃんの相手はどんな奴?」
「杉下チーフの話では、水野正人君は新規事業開発部門のホープらしい。頭の回転が速くて、人当たりもいいそうだ」
「なんで杉下チーフが、羽柴社長の部下を知っているんだ?」
「杉下と水野君は大学の同期で、サークルが同じだったそうだ」
「ふぅ~ん。ケンディーの記録を調べるより、生身の人間を調べた方がよさそうな気がする」
「証拠は何もない。それに、もし彼らがケンディーを欲しがるとしたら、完璧なままで入手した方が良くないか?」
「確かに。まずはケンディーの調子を狂わせたのがどんな手段によるものか調べてみるよ」
それから毎晩チェックを続けているのだが、分析結果も出ないうちに真昼のラボに呼び出され、水野と牧田から送られてきたデーターをアンディーにインプットして動作をチェックすることになった。
ケンディーの方はというと、あれからどんなに検分しても、ケンディー本体が作動することはない。
ただし、奏太が中へ入ろうと思えばアンドロイドの中に入って操れることを発見して、莉緒が滞在する一週間だけ誤魔化すことができないだろうかと、兄に持ち掛けてみた。
始終ケンディーを見張っているわけにはいかず、奏太の身体がどのくらい耐えられるか分からないからと反対した研二の気持ちを動かしたのは、奏太のチャレンジ精神に尽きる。
ケンディーから奏太の身体に戻るには、研二のコマンドを必要としたが、何度か出入りするうちに、奏太の意思で自由に行き来できるようになったのだ。
もし、ケンディーの身に何かあったときに離脱できる。それがその場しのぎの対策を後押しすることになった。
ケンディーと違い、顔だけ変化するもう一体は、複数のデーターを入れても正常に動いているのだから、完全な失敗作ではない。
見合い状況を確認もできずにストップがかかれば製品化がかなり遅れることになだろう。
研二と性格が違い過ぎる奏太が中にいることがバレないようにするためと、長時間奏太の身体から魂といえるのか分からないが、それが抜けてしまうことで肉体に与えるダメージを考えて、ケンディーの稼働は一二時間と話し合いで決めた。
そして、羽柴莉緒が水野と牧田の入ったアンディーとお見合いをするために、新見家にやってきた。
ーかわいい!
莉緒を初めて目にしたケンディーの中の奏太は、跳び上がらんばかりに喜んだ。
ーこんなかわいい娘と一週間過ごせるなんて、何てラッキーなんだろう。
だが、すぐにその高揚した気分はひしゃげてしまった。
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