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秘密会議

アンドロイドは恋に落ちるか

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 翌朝、羽柴が出勤前に新見邸にやってきて、木呂場刑事に告げた。
犯人がいつケンディーの設計図を要求してくるか分からないので、昨夜羽柴は副社長とアポイントを取り、H・T・Lを訪問して設計図の隠し場所を聞いたところ、意外な答えが返ってきたというのだ。

 副所長が所長の新見研二から聞いていたのは、設計図は研究所にはなく、絶対に安全な場所にあり、誰かに悪用されるのを阻止できない場合は、新見がどこにいても削除できるようになっていると言ったそうだ。新見の作ったアンドロイドが傍にある場合は、アンドロイド自体のプログラムを止めることができるとも…

「となると、行動範囲が限られている新見の場合、研究所に置いていないのなら、隠し場所は家の中しか考えられないだろう。警察に通報するなと言われた以上、表立って守ってもらうわけにはいかないから、うちの子会社の警護&セキュリティー㏇からガードマンを手配しておいた。新見が無事に帰ってくるまでの間に、奏太君に何かあっては、親友としてあいつに顔向けできないからね。二十四時間体勢で警護されるから安心していい」

「ありがとうございます。何とお礼を言っていいか‥‥‥」

 奏太はお礼をいいながら頭を下げ、潤んでしまった目尻から涙がこぼれそうになるのを隠す。その様子に、木呂場がちょっといいかなと気遣いながら羽柴に話しかけ、警備会社の制服を何着か借りれないだろうかと訊ねた。
 すぐさま羽柴が手配をする。新見邸の客用の駐車場に、警備会社の名前入りのワゴンがこれみよがしに駐められたこともあり、警備会社のガードマンたちの中に、木呂場が呼び寄せた本物の刑事が紛れこんでいても、まるで不自然さを感じさせない。

 同じくガードマンの制服を着た木呂場の部下の相沢が、伝達係として出入りするため、玄関に近いゲストルームは、警察官たちの作戦会議室として使われることになった。
 羽柴が去り、高橋がやってきて、ダイニングで作戦会議をしていた奏太と莉緒に加わる。それを見計らったように木呂場がダイニングに現れ奏太に告げた。

「奏太君から、事件直後に盗聴器受信車がいたのではないかと指摘された件ですが、詳細は伝えられませんがアンドロイドがそちらに到着して以来、不審な車が数回新見邸の近くで徘徊しているのを住民が目撃し、通報しています」

「それは、私がナンバープレートを書き留めた新見博士をさらった車と同じ車種ですか?もしそうなら、持ち主が分かれば新見博士が囚われている場所が分かるんですよね?」

 勢い込んで立ちあがった莉緒が椅子を倒しそうになり、横に座っていた奏太が慌てて押さえるのを見て、木呂場が苦笑しながら首を振った。

「いや、残念ながら違いました。徘徊していた車のナンバーを調べた結果、偽造プレートを使用しているため、持ち主が判明しないものもあります。今言えるのはそれだけです」

 ゲストルームに戻るために木呂場がキッチンのドアから出たのを見届けると、奏太と高橋が軽い身のこなしでリビングを足音も立てずに横切っていく。
莉緒はパルクールのシーンを思い浮かべながら、男の子って大きくなっても、スパイや戦闘ごっこが好きなのかもしれないと笑いをかみ殺した。

 奏太と高橋の後を追ってダイニングの扉からリビングを覗き込んだ途端、十mほど先にあるリビングとダイニングを隔てる壁に、ヤモリのようにピタリと身体を張り付けて、耳をそばだてる二人の姿が目に飛び込んできたから堪らない。莉緒は慌てて口をふさいでキッチンに駆け込んだ。

「いい加減笑うのやめろよ」

「そうですよ莉緒さん。こっちは真剣に情報収集しているんですから」

「だ、だって警察相手に、コソ泥みたいなことしてるんだもん」

「シーッ。黙れって。じゃないといいこと教えてやらないぞ」

「な、なに?笑わないから教えて」

 そう言いながら目じりに溜まった涙を拭いて、なおも口元をひくつかせる莉緒を睨みつけながら、奏太は木呂場が部下と話した内容を伝えた。

「奏太君から、事件直後に盗聴器受信車がいたのではないかと指摘された件ですが、詳細は伝えられませんがアンドロイドがそちらに到着して以来、不審な車が数回新見邸の近くで徘徊しているのを住民が目撃し、通報しています」

「それは、私がナンバープレートを書き留めた新見博士をさらった車と同じ車種ですか?もしそうなら、持ち主が分かれば新見博士が囚われている場所が分かるんですよね?」

 勢い込んで立ちあがった莉緒が椅子を倒しそうになり、横に座っていた奏太が慌てて押さえるのを見て、木呂場が苦笑しながら首を振った。

「いや、残念ながら違いました。徘徊していた車のナンバーを調べた結果、偽造プレートを使用しているため、持ち主が判明しないものもあります。今言えるのはそれだけです」

 ゲストルームに戻るために木呂場がキッチンのドアから出たのを見届けると、奏太と高橋が軽い身のこなしでリビングを足音も立てずに横切っていく。
莉緒はパルクールのシーンを思い浮かべながら、男の子って大きくなっても、スパイや戦闘ごっこが好きなのかもしれないと笑いをかみ殺した。

 奏太と高橋の後を追ってダイニングの扉からリビングを覗き込んだ途端、十mほど先にあるリビングとダイニングを隔てる壁に、ヤモリのようにピタリと身体を張り付けて、耳をそばだてる二人の姿が目に飛び込んできたから堪らない。莉緒は慌てて口をふさいでキッチンに駆け込んだ。

「いい加減笑うのやめろよ」

「そうですよ莉緒さん。こっちは真剣に情報収集しているんですから」

「だ、だって警察相手に、コソ泥みたいなことしてるんだもん」

「シーッ。黙れって。じゃないといいこと教えてやらないぞ」

「な、なに?笑わないから教えて」

 そう言いながら目じりに溜まった涙を拭いて、なおも口元をひくつかせる莉緒を睨みつけながら、奏太は木呂場が部下と話した内容を伝えた。

「徘徊していた車の一台はある暴力団と繋がりがあるみたいだ。莉緒ちゃんが暗記したナンバープレートの国産車は盗難車で、多分同じ組が関与しているんじゃないかって話してた』

 奏太の説明を聞くうちに、莉緒の顔色が目に見えて青白くなった。

「そんな、暴力団が絡んでいるなんて。新見博士は大丈夫なの?」

「こっちが聞きたいよ。昨日計画した水野さんとの接触だけど、もし、水野さん自身もそっち系の人と付き合っていると危ないから、やめた方がいいかもな」

「そんなこと言っていたら、いつ新見さんに辿り着けるか分からないわ。警察は表立って行動できないんでしょ。水野さんから怪しまれずに話を聞きだすとしたら私しかいないわ。それに、水野さんに会えるようもうお兄ちゃんに頼んでしまったから、後は連絡が来るのを待つだけよ。話次第では帰りが危ないかもしれないから、どちらかが迎えに来てくれる?」

「分かった。高橋はバイトがあるから、俺が迎えに行く。俺も莉緒ちゃんが見たナンバープレートをつけた車を探しに出るつもりだから、日にちが決まったら教えてくれ。話が平穏に終わっても一人で帰ろうとするなよ」

 莉緒がオッケーと指で輪っかを作ったのに対し、奏太が口をへの字に曲げておでこを突っつく。

「痛っ。そんな大きな手で突っつかれたらおでこがへこむでしょ」

「俺の指は掌サイズかよ。って、軽く見ていたらだめだぞ。バックに何がついている奴らが何を企んでいるか分からないんだからな」

「仲がおよろしいことで。俺は退散した方がいいかな」

 冷やかす高橋に向かって、奏太が煩いと食ってかかるのを莉緒は微笑みながら見つめていた。
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