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魔女見習いマリル
魔女見習いは王女の復讐の依頼を受けた
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ブリティアン王国とランセル王国は高い山脈に隔てられ、峰の重なる合間を縫う道の途中に国境の門が設けられている。
門を挟んだそれぞれの内側に監視塔が建てられているが、険しい岩肌が城塞の役目を果たすので、過去にあった戦争でこの道を使って進軍したものはいない。
山脈の中間辺りから裾野にかけては鬱蒼とした森林が広がっていて、地面に陽の光が届かないため昼なお暗く、森の奥まで来る者は稀だった。
ただし、そういう場所を好都合と考えて棲みつく者はいる。
ブリティアン王国側の山中には、辺りの緑に紛れるように緑の屋根の小屋が建っていて、サンサ・マックローブという年齢不詳の魔女と十二歳の魔女見習いマリル・カスバートが住んでいた。
「ねぇ、お師匠さまったら、いい加減私にも魔法の免許皆伝の認定証をくださいな。サンサさまは、いつも私の魔力量はすごいって感心して下さるじゃないですか。厳しい修行も頑張ってきたし、古代魔法だってもう少しで習得できそうなんです。ねっ、ねっ、お願いします」
亜麻色の髪を振り乱し、魔女サンサの周りを右へ左へ移動するマリルは、何とか主張を受け入れてもらおうとして、サンサがドアノブを掴む前に、魔法でドアを開け、杖をつく先の落ち葉や草を消す。
通常魔女が魔法を使う際に用いる杖や呪文を、マリルは必要としない。少し人差し指を上げて念じれば、指先から魔力が飛び出していく。肩で切りそろえた白い髪を揺らしてサンサが振り返り、肩を竦めてハァとため息をつく。
「全くマリルは落ち着くということを知らないんだからね。背も高くて体つきも早熟だから、一六歳くらいに見えるけれど、中身はまだまだ子供だ。なのに一端に免許皆伝だと寝言を言う。困った子だ」
そういうサンサの外見は、肌に皺もないのに、老成した言動と真っ白な髪に赤い目のせいで、実年齢が分からない。加えて纏うオーラの強さが、サンサを神秘的な女性に見せている。
魔術師は学校を出るか、高位の魔術師の弟子になって修行を積んだあと、魔法使いの認定証を受け取り、自分の名前と魔術量と得意魔法を魔法界に登録して仕事を得る。
魔力も強いサンサは、魔法界の中でも昔は一、二位を争うほど力があり、紹介が無くても直接仕事の依頼が舞い込んだようだ。
だが、今のサンサは、まるで世捨て人のようだ。誰にも会わない山中で暮らし、ご丁寧にも気配を消す結界を張っている。
マリルがサンサの噂を聞いたは、魔法学校に入った五歳の時。本当は七歳からしか入学許可は下りないのだが、マリルはある意味特別だった。
ほんの少しの魔力しか持たず、魔術師になれなかった両親から生まれたマリルは、突然変異と言っていいぐらいの魔力量を秘めていた。
産声を上げると同時に、まだ見えていないはずのつぶらなブルーグレーの瞳で母親の乳房を見つめ、小さな指を振った。すると母親の乳房から母乳が絞りだされ、弧を描いてマリルの口に消えたのだ。その逸話は魔術師の間でも驚きを持って迎えられ、今でも語り草になっている。
魔術師になるための学校で、マリルは魔法界の歴史に残るほど有名な大魔導師の名前を習った。
現代に生きる魔法使いの中で、大魔導師と呼べるのはたった二人。一人は王宮のお抱え魔導師になり、もう一人はサンサ・マックローブという女性で消息を絶っているということだった。
過去の大魔導師の名前をいくら覚えたところで、マリルの魔法量が上がるとは思えない。マリルは歴代の魔導師の名前を聞き流したが、行方不明のサンサには俄然興味が涌き、先生に訊ねた。消息を絶って十年近くも経つサンサが、どうして生きていると分かるのかと。
すると、魔法界に登録するときに使う魔法インクは、サインした者の生命が失われたのを察知して、登録台帳から名前を消す術がかけられていると答えが返ってきたのだ。
そんな使い方ができるんだ! マリルは初めて魔法が面白いと感じた。
生まれたときから魔法が使えるマリルは、強すぎる魔力量を持つため、両親から恐れられてもいた。
それでも両親は、何とか我が娘に愛情を示そうとは努力してくれたものの、限界があった。なぜならマリルが知りたいのは持て余した力の使い方で、両親は応えることができなかったからだ。
自分たちが役に立てない歯がゆさと我が子に対する引け目から、両親はだんだんとマリルから距離を置き、魔法学校に預けることを決意。去り際に、恐る恐るマリルを抱きしめた母が言った。
「あなたは、魔力量がとても多いから、誰もが畏敬の念を持つような大魔導師になるでしょうね。頑張って勉強をしてね。あなたは私たちの誇りよ」
誇りと言いながら、そそくさと帰っていく両親の背中を見て、マリルは胸が張り裂けそうになった。
魔力が多いから愛してもらえない。魔力なんて無ければ良かったのに……
マリルは涙を魔法で消して、両親には愛されなくても、他人から必要とされる大魔導師になろうと誓った。
親に遠ざけられていたために、人との距離が計れないマリルは、二歳も年上の新入生たちの中では、完全に浮く存在だった。
いつももじもじしながら、みんなの後をついていく。そんなマリルを、最初に気にかけてくれたのはミランダ・メイフェアというメイフェア伯爵の娘で、お気に入りの人形に似ているからというとんでもない理由からであったが、何かにつけて面倒を見たがるミランダに、マリルは少しずつ心を開いていった。
彼女の取り巻きもミランダに倣い、マリルを妹のようにかわいがったので、マリルはすっかり甘えん坊に。萎縮した心が外へと広がるにつれ、人にも学問にも興味が涌き、マリルは学校で教えられる知識と技術を、赤子のときに無心で求めた母乳のようにゴクゴクと飲み干して、九歳になるころには先生たちよりも魔法が使えるようになっていた。
それでも魔術師免許をもらうためには、まだ中等部と高等部を出なければならない。マリルは正直学校の授業に退屈しきっていて、進学をしないで済む方法を探し始めた。
見つけたのは高名な大魔術師の弟子になり、免許皆伝の認定証をもらうこと。もちろんサイン入りでないと魔法界では認めてもらえないから、贋作はできない。
マリルは決意した。伝説の大魔導士サンサを探そうと。
門を挟んだそれぞれの内側に監視塔が建てられているが、険しい岩肌が城塞の役目を果たすので、過去にあった戦争でこの道を使って進軍したものはいない。
山脈の中間辺りから裾野にかけては鬱蒼とした森林が広がっていて、地面に陽の光が届かないため昼なお暗く、森の奥まで来る者は稀だった。
ただし、そういう場所を好都合と考えて棲みつく者はいる。
ブリティアン王国側の山中には、辺りの緑に紛れるように緑の屋根の小屋が建っていて、サンサ・マックローブという年齢不詳の魔女と十二歳の魔女見習いマリル・カスバートが住んでいた。
「ねぇ、お師匠さまったら、いい加減私にも魔法の免許皆伝の認定証をくださいな。サンサさまは、いつも私の魔力量はすごいって感心して下さるじゃないですか。厳しい修行も頑張ってきたし、古代魔法だってもう少しで習得できそうなんです。ねっ、ねっ、お願いします」
亜麻色の髪を振り乱し、魔女サンサの周りを右へ左へ移動するマリルは、何とか主張を受け入れてもらおうとして、サンサがドアノブを掴む前に、魔法でドアを開け、杖をつく先の落ち葉や草を消す。
通常魔女が魔法を使う際に用いる杖や呪文を、マリルは必要としない。少し人差し指を上げて念じれば、指先から魔力が飛び出していく。肩で切りそろえた白い髪を揺らしてサンサが振り返り、肩を竦めてハァとため息をつく。
「全くマリルは落ち着くということを知らないんだからね。背も高くて体つきも早熟だから、一六歳くらいに見えるけれど、中身はまだまだ子供だ。なのに一端に免許皆伝だと寝言を言う。困った子だ」
そういうサンサの外見は、肌に皺もないのに、老成した言動と真っ白な髪に赤い目のせいで、実年齢が分からない。加えて纏うオーラの強さが、サンサを神秘的な女性に見せている。
魔術師は学校を出るか、高位の魔術師の弟子になって修行を積んだあと、魔法使いの認定証を受け取り、自分の名前と魔術量と得意魔法を魔法界に登録して仕事を得る。
魔力も強いサンサは、魔法界の中でも昔は一、二位を争うほど力があり、紹介が無くても直接仕事の依頼が舞い込んだようだ。
だが、今のサンサは、まるで世捨て人のようだ。誰にも会わない山中で暮らし、ご丁寧にも気配を消す結界を張っている。
マリルがサンサの噂を聞いたは、魔法学校に入った五歳の時。本当は七歳からしか入学許可は下りないのだが、マリルはある意味特別だった。
ほんの少しの魔力しか持たず、魔術師になれなかった両親から生まれたマリルは、突然変異と言っていいぐらいの魔力量を秘めていた。
産声を上げると同時に、まだ見えていないはずのつぶらなブルーグレーの瞳で母親の乳房を見つめ、小さな指を振った。すると母親の乳房から母乳が絞りだされ、弧を描いてマリルの口に消えたのだ。その逸話は魔術師の間でも驚きを持って迎えられ、今でも語り草になっている。
魔術師になるための学校で、マリルは魔法界の歴史に残るほど有名な大魔導師の名前を習った。
現代に生きる魔法使いの中で、大魔導師と呼べるのはたった二人。一人は王宮のお抱え魔導師になり、もう一人はサンサ・マックローブという女性で消息を絶っているということだった。
過去の大魔導師の名前をいくら覚えたところで、マリルの魔法量が上がるとは思えない。マリルは歴代の魔導師の名前を聞き流したが、行方不明のサンサには俄然興味が涌き、先生に訊ねた。消息を絶って十年近くも経つサンサが、どうして生きていると分かるのかと。
すると、魔法界に登録するときに使う魔法インクは、サインした者の生命が失われたのを察知して、登録台帳から名前を消す術がかけられていると答えが返ってきたのだ。
そんな使い方ができるんだ! マリルは初めて魔法が面白いと感じた。
生まれたときから魔法が使えるマリルは、強すぎる魔力量を持つため、両親から恐れられてもいた。
それでも両親は、何とか我が娘に愛情を示そうとは努力してくれたものの、限界があった。なぜならマリルが知りたいのは持て余した力の使い方で、両親は応えることができなかったからだ。
自分たちが役に立てない歯がゆさと我が子に対する引け目から、両親はだんだんとマリルから距離を置き、魔法学校に預けることを決意。去り際に、恐る恐るマリルを抱きしめた母が言った。
「あなたは、魔力量がとても多いから、誰もが畏敬の念を持つような大魔導師になるでしょうね。頑張って勉強をしてね。あなたは私たちの誇りよ」
誇りと言いながら、そそくさと帰っていく両親の背中を見て、マリルは胸が張り裂けそうになった。
魔力が多いから愛してもらえない。魔力なんて無ければ良かったのに……
マリルは涙を魔法で消して、両親には愛されなくても、他人から必要とされる大魔導師になろうと誓った。
親に遠ざけられていたために、人との距離が計れないマリルは、二歳も年上の新入生たちの中では、完全に浮く存在だった。
いつももじもじしながら、みんなの後をついていく。そんなマリルを、最初に気にかけてくれたのはミランダ・メイフェアというメイフェア伯爵の娘で、お気に入りの人形に似ているからというとんでもない理由からであったが、何かにつけて面倒を見たがるミランダに、マリルは少しずつ心を開いていった。
彼女の取り巻きもミランダに倣い、マリルを妹のようにかわいがったので、マリルはすっかり甘えん坊に。萎縮した心が外へと広がるにつれ、人にも学問にも興味が涌き、マリルは学校で教えられる知識と技術を、赤子のときに無心で求めた母乳のようにゴクゴクと飲み干して、九歳になるころには先生たちよりも魔法が使えるようになっていた。
それでも魔術師免許をもらうためには、まだ中等部と高等部を出なければならない。マリルは正直学校の授業に退屈しきっていて、進学をしないで済む方法を探し始めた。
見つけたのは高名な大魔術師の弟子になり、免許皆伝の認定証をもらうこと。もちろんサイン入りでないと魔法界では認めてもらえないから、贋作はできない。
マリルは決意した。伝説の大魔導士サンサを探そうと。
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