魔女見習いは王女の復讐の依頼を受けた

マスカレード 

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晩餐会

魔女見習いは王女の復讐の依頼を受けた

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 晩餐会に出席するために、侍女セーラが選んだドレスを身に着けたエリザ王女は、鏡の前に立って最終チェックを行い、満足気にほほ笑んだ。
 色が抜けるように白いエリザ王女は、淡い色がよく似合う。今夜のドレスは光沢のあるペールグリーンのドレスで、カナリーイエローとアイボリー色のリボンとレースでアクセントがつけられ、清楚でありながら若々しく輝いて見える。マリルはエリザ王女をうっとりと眺めながら言った。

「エリザ王女さま、とても美しいです。小さな頃読んだ童話の挿絵の王女さまみたい。あっ、いけない。エリザさまは本物の王女さまでした」

 これには、エリザ王女も、裾のリボンを直していたセーラも噴き出してしまった。

「まぁ、マリルったら、あなたもセレストブルーのドレスがとてもよく似合っているわよ。ブルーグレーの瞳がドレスの色にマッチして、お人形みたいにきれいだわ」

 えへへへっと照れ笑いしたマリルは、ドレスの裾を摘まんでくるりと回転してみせた。

 今夜の晩餐会は、エリザ王女の歓迎を兼ねて王族だけで行われるので、マリルは出席できない。
 食事のマナーや立ち振る舞いは、将来どこの名家の仕事を請け負っても恥ずかしくないようにという魔術学校側の考慮から、授業にマナー講習が組み込まれてはいたのだが、マリルは9歳で学校を飛び出してしまったために完璧とは言えず、忘れてしまったマナーをエリザ王女の侍女のセーラから習うことになっている。

 セーラは王女づきの侍女に選ばれるだけあり、由緒ある伯爵家の三女で、小さな頃から作法は叩き込まれている。マリルの手本にはもってこいの上、栗色の髪と瞳がリスを思わせる愛らしく親しみの持てる少女だった。
 性格も控えめで主人の気持ちを汲むことができるので、マリルが訳ありで社交術に欠けることも察してくれている。マリルがあれこれ質問をしても、嫌がらずに答えてくれるのがありがたかった。

 では、出席を許されていない晩餐会のために、どうしてマリルが着飾る必要があるのかというと、ある仕掛けを用意していて、こっそりエリザ王女についていくことにしたからだ。
 ただ、セーラにはマリルが魔法を使えることを伝えていないので、マリルは晩餐会の間はコンパニオンの控室で待機するということになっている。

 時間になると、係の者がエリザ姫の部屋に迎えに来た。マリルはセーラに別れを告げてエリザ王女のあとからついていく。階段に降りる手前で王女を見送るフリをして一旦別れ、周囲を見回し誰もいないことを確かめると、身体を小さくしてから王女のブローチの中に転移した。

 ずっと立っているのも大変だと考えたマリルは、部屋に置いてあったような猫足の椅子を魔法で出して、まるでミニチュアドールのように腰かけた。
 王女の右肩のリボンと花を留めてあるアンティーク調のブローチは、ロケットペンダントのように、中に写真を入れられる珍しいものだった。

 普通のロケットは写真が見えないように蓋があり、蓋の上にはカメオや宝石などがあしらわれているのだが、エリザ王女の肩を飾る楕円形のブローチは、直系4cmと大振りなだけでなく、彫金を施した蓋の上にペールオレンジのガラスがドーム状にかぶさっている。ガラスの中に花や小物や宝石を入れてアレンジできる優れものだった。

 そこに小さくなったマリルが入って、晩餐会に潜り込もうというのだ。直接の会話はできないが、ブローチの周りにあしらったリボンと花の中から、不自然に見えないように茎を耳元まで伸ばし、小さく開いたラッパ状の花からマリルの声を伝えるようにしている。
 階段を降り切ったところにハインツが立っていて、エリザ王女をエスコートして部屋に入っていった。

 部屋の中央には、三十名は座れそうな大理石テーブルがあり、天井からつるされたシャンデリアに板面を反射させている。テーブルには九名ほどが腰かけていて、国王と王妃の他に四名が左側の席に寄り、間をあけて三名が右側に位置するというおかしな配席だった。

 ドアから真っすぐテーブルに進み、テーブルの中央から右寄りの位置に立ったエリザ王女は、戸惑いながら左右を見比べている。その肩にいるマリルも、どうしてこんな距離を開けているのだろうと不思議に思ったが、王女に礼を取るべく立ち上がった右側の席のアルバート王子とザイアン王子を見て、王族内には格差があるのだと悟った。

 ミッドナイトブルーの上着を着たアルバートの横の末席には、ラベンダー色のドレスを着た痩身の美しい女性が腰かけている。面差しがアルバートによく似ていることから、母親だろうと察しがつく。こちらを向いたその女性が会釈をした。

 アルバート王子の向かいの席には、ダークグリーンの上着とそれに合わせたダークブラウンの眼帯をはめたザイアン王子が立っている。どちらも堂々としていて王子と呼ぶのにふさわしい姿だが、他の王族からこんなにも席を離された現状が、彼らの普段の扱いを物語っていた。

 多分エリザ王女に、誰を選ぶかで自分の未来の位置が決まるのだと見せつける意味もあるのだろう。
 ただ、選んだ相手が皇太子になれば、エリザ王女ならこの現状をひっくり返すだろうと思いつつ、マリルは王子二人があからさまな差別を受けて育ってきたことに、同情の念を抱かずにはいられなかった。もちろん、ザイアン王子には大いに同情して、アルバート王子に対してはほんの僅かにという差はあるが。

 眼帯をつけたザイアン王子がエリザ王女に笑いかけ、王女がそれに応えて会釈する。アルバート王子はこちらを見もしない。
―――や~な男! —――
 マリルは顔を突き出して、思いっきり舌を出した。
 ブローチの中の小さなマリルを気にする人などいないと思っていたのに、アルバート王子の横に座ったご婦人が、あら、まあ、ブローチの中のお人形が! と驚きの声をあげ、アルバート王子が女性を気にかけて訊ねた。

「母上、ブローチがどうかしましたか?」
「いえ、きっと目の錯覚だわ。中のお人形が動いたように見えたの」

 怪訝な表情を浮かべたアルバート王子が、エリザ王女の肩に留めてあるブローチを注視する。マリルはどうしようと焦りながらも、椅子に座った姿勢を崩さないように踏ん張った。ただ、エリザ王女が見下ろした目つきが鋭すぎて身じろぎしたくなったが、何とか堪えた。

 左側の端にはパウロン王と向かいに金色のドレスを着た赤毛の王妃が座っている。赤い髪だけでも目立つのに、宝石を散りばめたゴールドの衣装がシャンデリアに反射して、眩しいほどだ。マリルは何度も瞬きをして目の痛みを散らした。
 瞬きだけは止められないので、ガラスドームに入っているうちは、目がずっと開いて見える効果魔法をかけてある。マリルがいくら目を瞬こうが、人の目を気にする必要はなかった。

 そっと視線を王妃から王にむけると、パウロン王は既に酔っているのか赤ら顔で、アルバート王子と同じ色のエメラルドグリーンの瞳はどんよりと濁っていた。
 王の横は空席で、主賓である王女はそこに案内されると思われる。空いた席の隣には、グレーの髪をアップにした品のある女性が王女に微笑みかけている。エリザ王女と少しだけ似た面差しから、マリルはこの女性が前王妃で、フランセン王国に密書を認めたエレイン・ラインブリッジ公爵なのではないかと見当をつけた。
 エリザ王女から聞いていた王族の出席者から察するに、あとの三人は王弟とその妻と娘だろう。
 エリザ王女は王にカーテシーをして、王の言葉を待つ。酒で枯れた声が以外なことを告げた。

「ようこそ、ブリティアン王国へ。今夜はエリザ王女を歓迎する会だ。そなたの好きな席に腰かけて楽しむがよい」

 そんなのってあり? マリルは思わず言葉を漏らし、それは茎を伝ってラッパ型の小さな花から王女の耳に届いた。
 王女が僅かに頷き、マリルの困惑に同意を見せる。ガルレア王妃はパウロン王を睨みつけたが、王は素知らぬ顔で給仕に食前酒はまだかと訊ねる始末。お酒で頭がいかれていてエリザ王女にとんでもない提案をしたのか、いかれているフリをしているのか、マリルには検討がつきかねた。

 王妃の隣に席を取っていたハインツ王子は、自分の前の席に王女を案内するつもりで伸ばした手を、王の一言でおずおずと引っ込めて、自分の席へと退散していく。もしハインツ王子が悪賢い王子でガルレア王妃と組んでいたら、ブリティアン王国はもっと前にジャンマンの支配下に置かれていたのかもしれない。
 王弟とその家族たちも息を潜めてエリザ王女を窺っている。
 エリザ王女は長いテーブルを端から端まで眺めた後、決心したように歩き出した。

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