異界転生譚短編集

長串望

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【ゴスリリ】日本酒を飲むリリオとトルンペート

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作者の人がTwitterで募集した、
#リプされた酒をキャラが飲む小説書く
という企画のリクエストで、「日本酒を飲むリリオとトルンペート」です。
未成年の飲酒は御法に触れますので、お酒は所属国家の法律を確認の上お楽しみください。





「まるで水みたいな酒ね」

 というのはトルンペートの評価で。

「はあ、きれいなお酒ですね」

 というのがリリオの評価だった。

 港町ハヴェノは、外国との交易もあるというだけあって、実に様々な品々が市場に並ぶ混沌とした街だった。
 例えばそれは、醤油ソイ・サウツォだったり、香辛料だったり、豆茶カーフォだったり、そして日本酒だったりした。

 最初に見かけたときはまさかと思ったし、実際飲んでみてもまさかという気持ちだったが、これは紛れもなく日本酒、清酒だった。

 西方の島国で作られた酒だという触れ込みで売られていた甕酒で、お値段はさすがにお高かった。

「それでポンと甕で買っちゃうあたり狂ってるわよね」
「他に使う当てがないからね」
「でもウルウ、あんまりお酒飲まないですよね」
「まあ、ちまちまやるよ」

 とはいえ、もともとお酒をあまり飲まない方であるし、一人で消費していくのは相当時間がかかる。なので、小さいくせになかなかの呑兵衛である二人にもおすそ分けすることにしたのだった。

 東部で購入した名物の硝子製の酒器に注いで手渡してやれば、二人はこの透き通った液体をまじまじと眺めて先のような言葉を吐いたわけである。

 確かに、帝国ではこんな見た目の酒はまず見ない。
 林檎酒ポムヴィーノにしろ葡萄酒ヴィーノにしろ蜂蜜酒メディトリンコにしろ、また火酒にしろ、何かしら色がついているものだ。

 トルンペートなどは本当にこれは酒なのだろうかと疑り深い顔だし、リリオは素直に感心している。

 帝国の言葉、つまり交易共通語リンガフランカとやらではサケーオまたはサキーオ、あるいは原料から米酒リズヴィーノと呼ばれているこの酒は、私の感覚では現代の日本酒とそう大差はないように思われた。

 トルンペートは舌先に乗せて口に含むように慎重に、リリオは純粋に楽しもうという具合に軽く口に含んだ。

 そして吹きかけた。

「んっ!?」
「くふうっ!?」

 私としては味が慣れないのかななどとのんきなことを考えていたのだけれど、どうもそうではなかったようだった。

「なにこれ……!? 見た目うっすいのに辛いわね……!」
「思ったより強いお酒ですね、これ!」

 それで思い出したのは、清酒は意外と度数が高いということだ。
 醸造酒としては、清酒が一番度数高いと以前聞いたことがある。
 十五%くらいがよく見かけるかな。高いもので二十くらいもある。
 こっちのお酒は、麦酒エーロがエールだとして三、四パーセントくらい。
 林檎酒ポムヴィーノ、シードルも似たようなものか、少し強いくらい。
 葡萄酒ヴィーノ、ワインは清酒に近いかちょっと弱いくらいだけど、水代わりに飲むからか、水で薄めることが多いんだよね。

 なので意外と、生の清酒は度数が高いんだ。

 お酒にあんまり強くない民族なのに、お酒大好きなんだよね、日本人。

 最初こそその強さに驚いたらしい二人も、元が酒に強いから、慣れればすぐに楽しみだす。

「果物っぽいというか、甘い感じもしますね。でも甘ったるいって感じじゃなくて」
リーゾっぽい感じはないわよね。すっきりしてる」
「鼻に抜ける感じがさわやかですね」
香甜酒リクヴォーロみたいに色々入れましたって感じじゃないのよね」
「削ぎ落していったって感じの突き詰め方ですよねえ」

 なかなか気に入っていただけたようで幸いなんだけど。
 なんだけど。

「飲み干す気か」
「えー、もうちょっといいじゃない」
「そうですよー」
「はいはい、高いんだから」

 酔っぱらいどもの相手が面倒なのは、どの世界でも同じらしい。





用語解説
米酒リズヴィーノ
 清酒。米を原料とした醸造酒。西方の島国で作られたものらしい。

香甜酒リクヴォーロ(rikvoro)
 蒸留酒に薬草や果実を加えて香りを移し、砂糖や香料、着色料を加えた混成酒。
 もとは薬用であったが、やがて風味や味わいを重視したものが作られるようになっていった。
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