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第13蝶 影の少女の解放と創造主
救出と攫われる者
しおりを挟む「んくっ!」
「マヤメ、大丈夫っ!」
『…………』
肩を貫かれ、宙づりのまま、痛みで表情を歪ませるマヤメ。
そのジェムの魔物は、追いかけてきた私を警戒するように動きを止める。
「ん、傷は大したことない、けどエナジーが……」
「なら、そこから脱出――――」
「は、不可能。なんだかチカラが入らない…… だから――――」
「………………」
「だから、マヤを置いて、澄香だけは…… 逃げて」
「いや、そんなの今はいいから」
「ん」
これでは手が出せない。
マヤメの能力『潜影』なら、脱出が容易かと思ったが、エナジーの残量のせいか、はたまた、ジェムの魔物に触れられてる影響かはわからないが、身動きが取れない状況だった。
マヤメを空に連れ去った、ジェムの魔物。
取り巻きを人型に全滅させられ、条件が揃ったことで現れた。
蝶の魔物と大きさ自体は大差ないが、見た目はかなり違っていた。
100センチほどの大きさと、黒蝶のような8枚の羽根と6本の手足。
ここまでは変わらない、が――――
『…………人間、なんだよね? 見た目は……』
漆黒ではなく、人間のような肌の色をしていて、頭部は管ではなく、複眼が二つ付いた、蝶のお面を被ったような見た目をしていた。
尚且つ、更に特徴的なのは――――
『…………管じゃない。指がある』
6本の手足が、ストロー状の管ではなく、全て、人間の腕のようになっていた。
その内の1本がマヤメの肩を貫き、他の3本が両腕と頭を掴んでいた。
『この状況では迂闊に動けない。また消えられたら、しかも、マヤメを連れたままで逃げられたら最悪だ…… それとさっきの動きは、あの取り巻きよりもかなり厄介だし』
蝶の魔物は『起動力』という、変幻自在な動きが武器だった。
ならその上位互換のジェムの魔物ならば、他にも何かを持っている。
マヤメに察知される前に攻撃し、私やジーアに気取られる事なく、しかも数々の木や枝葉が生い茂る森を抜け、瞬く間に空に移動した。
その動きをから推測できる能力は『起動力』+『機動力』。
しかも、風圧や空気の振動さえも無効化していると思われる。
そうじゃないと説明できない動きだった。
目の前からマヤメを連れ去り、物音ひとつ立てずに森を抜けるなんて芸当は、そう考えないと説明できない。
私にはそれがまるで、無重力空間を飛んでいるようにも思えた。
『…………マヤメのエナジーは恐らくまだ大丈夫。軽口言える余裕も残ってるし、吸収された分はメンディングロッドで補充しているだろうから。けど、それもいつまで持つかわからない以上、早めに何とかしたいんだけど』
攻める方法はいくらでもある。
が、マヤメが人質に取られてる以上、迂闊に動くこともできない。
攻撃を気取られたら最後、マヤメごと見失う可能性もあるし、直接マヤメに攻撃してくる恐れもある。
『なら逃げられる前に、一撃で倒すか、それかスキルで囲んで、徐々に行動範囲を狭めて…… は、得策じゃないな。そこまで悠長に時間をかけられないし。せめてもっと接近できて、動きが見えれば――――』
「ス、スミカしゃんっ!」
「…………え?」
「避けてくださいっ!」
「さけてって?…… はあっ!?」
地上から、空にいる私に向かって、ジーアが声高に叫ぶ。
すると無数の小さな火の玉が、ジェムの魔物と私をも取り囲んでいた。
「い、いつの間にこんなの用意してたのっ!?」
私はその光景に目を見張る。
ビー玉サイズの無数の火球が、私たちを包囲していたからだ。
「ちょ、ちょっと待ってっ!」
ただその数が尋常ではなかった。
その数を例えるなら、降り注ぐ無数の雨が、そのまま時を止めたかのように、映る視界の全てが炎のビー玉で埋め尽くされていた。
ジーアが避けろなんて叫んでいたが、そんなことは不可能だ。
どこかの弾幕ゲー並みに、密度が濃すぎて、これは無理だと一目で理解できた。
「無茶ぶりし過ぎだってっ! 私はいいけど、マヤメだっているんだよっ! 一体なに考えてんのっ!」
地上に向かって大声で叫ぶが、その当の本人は、
「はわわわわわ~、ど、どうしよう、思わず怖くてありったけの魔力を使っちゃったでしゅっ! だってあんな人間と魔物が混ざったのなんて―――― むにゃむにゃ」
パタン
どうやら今の魔法で全力を出し切ったようで、話の途中で仰向けに倒れてしまった。
いや、倒れたっていうよりかは、
「いやいや、食事の最中にいきなり寝る赤ちゃんかっ! これどうするのっ!」
空に向かって、間抜けな寝顔を見せる、ジーアに突っ込む。
私たちの周りには、まだ無数の火球が残ったままだ。
「って、なんかこっちに来てるんだけどっ!」
気が付いたら、全ての火球がゆっくりと動き出した。
包囲網を狭める様に、ジリジリと迫ってくる。
本来なら、高速で撃ち出すものだったのであろうが、術者が意識を失った為か、滅茶苦茶ゆっくりと進んでいる。
もちろん速いよりは避けやすいが、その数が膨大過ぎる。
そもそも遅かろうが早かろうが、雨粒の間を抜けるなんて、物理的にも不可能だ。
『まぁ、こっちはどうとにもなる、けどっ――――』
自身にスキルを張るか、少々荒っぽいが、弾き飛ばせば何ら問題はない。
けど、身動きが取れないマヤメは、このままでは危険だ。
『どうする? 迂闊に手を出すと、逃げられる可能性もある。そうじゃなくてもマヤメを盾に突破されたら最悪だ。なら魔法はスキルで防ぎつつ、マヤメの元まで一気に強行突破するしかない』
ググッ
覚悟を決め、片足に力を入れる。
手を出そうが出さまいが、このままではマヤメが危険だ。
なら手を出した方が、予想外の結果に転がる可能性もある。
ところが、私が行動を起こす前に事態が動いた。
『……………』
パサ
ジェムの魔物の羽根が、一瞬揺らいだ瞬間に、
ビュオォォォォ――――――ッ!
ガガキンッ!
「くっ」
強烈な突風と、鋭く見えない何かが私を襲い、咄嗟にスキルで防ぐ。
「あっぶなっ! これって、空気の刃みたいなもの?」
スキルで防いだものが見当たらない。
なのでカマイタチみたいなものだと判断する。
どうやらあの風圧の中に、真空の刃を混ぜていたようだ。
しかもジーアの魔法まで消えている事から、火球を吹き飛ばすと同時に、私にまで攻撃してきた。
「くっ! やってくれた、って逃げたっ!?」
視線を戻すと、ジェムの魔物の姿が掻き消えていた。
しかもあろうことか、捕まっていたマヤメの姿も見当たらない。
「最悪だっ! 油断してたわけじゃないけど、それよりも一体どこに?」
目線だけで周囲を見渡すが、ジェムの魔物の姿が見当たらない。
恐らく『機動力』と『軌道力』を使って、ここを離脱したのだろう。
「あ、マヤメっ!」
その代わりにマヤメの姿を発見する。
地上に向かって落ちていく、羽根の生えたリュックを見付ける。
「って、意識がないのっ!?」
見付けたはいいが、その異変に気付く。
起きていればマフラーで減速する筈が、何の抵抗もなしに自由落下している。
「今から追っても間に合わない、なら――――」
トスン
マヤメの下に透明壁スキルを展開し、その上に着地させた。
その際に『Gホッパー』で衝撃を和らげたので、身体にダメージはないはずだ。
「ふぅ、間に合って良かったよ」
マヤメの無事を確認するために、スキルを蹴って後を追う。
今のでも意識が戻らないことが気がかりだ。
トンッ
「マヤメ、大丈夫っ!」
マヤメの隣に着地し、その様子を見る。
貫かれた肩以外は、外傷がないように見える。
「うん、魔法による火傷もないね。ならエナジーを急激に吸収されたショックかも…… 肩の傷はこれで塞いでいれば――――」
治療のために、私とマヤメをスキルで覆う。
肩の傷にはマシナリー系の修理に使う『リペアパッド』を貼り付ける。
「よし、これくらいなら半日で傷は塞がるかな? 意識の方は――――」
ここでふと顔を上げる。
私とマヤメの上に、ヒラヒラと動く影が差したからだ。
「…………やってくれるね、一度ならず二度までも。正直そのやり方、今までで一番頭に来るんだけど」
上空に浮かぶ二つの影に、鋭い視線を向ける。
マヤメの身体の状態に、安堵したのも束の間、
「うう、痛いでしゅ――――」
『…………』
地上で気を失っていたはずのジーアが、ジェムの魔物に囚われていた。
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