剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?

べるの

文字の大きさ
539 / 589
第13蝶 影の少女の解放と創造主

出立と悪巧みする冒険者たち

しおりを挟む



「それじゃ、私たちは行くよ。戻ってくるのは多分3日後だから、それまでにジーアは決めておいて」

「は、はいでしゅっ!」

 クロの村のみんなには手を振り、ジーアには決断を促して、マヤメと一緒に透明壁スキルに乗る。


「スミカさん、色々とありがとうございましたっ!」
「どうかこの旅先でもお気をつけてっ!」
「クロ様のお声をお聞かせ下さり感謝しますっ!」
「マヤメさんも頑張ってっ!」

「………………」

 空に向かって上昇する私たちに、みんなが揃って声援を送ってくれた。
 ただジーアだけは、どこか心あらずで、小さく手を上げるだけだった。


――――――――


「ん、澄香。計算間違ってる。3日じゃ足りない」
「なんで?」

 クロの村が見えなくなった頃、マヤメがそんな事を言ってきた。 


 今の私たちは、元々の目的地『トリット砂漠』に向かい、空を移動中だ。
 それはマヤメのマスターを回収するっていう、本来の目的があるからだ。

 クロの村に立ち寄ったのは本当に偶然だ。

 マヤメの偵察用ロボ(ロボカラス)が、魔物に襲われている村を発見したことから、マヤメの同意を得て、通りすがりに立ち寄ったに過ぎない。

 けど、そこがナジメのもう一つの領地だと知れたし、ジーアを含め、優秀な魔法使いがいる村だと知れたのは大きい。それとそこで育てていた多種多様な作物にも、気になるものがあった。

 だから、たまたまとか偶然なんかって、簡単な言葉で片づけたくない。
 私がこの世界に来れた事と一緒で、きっと意味があるんだと思う。

 そう考えた方がこれからも楽しいし、全ての出来事を軽視しなくて済む。
 何気ない出来事や出会いも、何かに通じてる可能性を否定できないからね。


 だから今回の、ジーアとの邂逅もきっと―――



「ん、澄香。クロの村に戻るのは、早くても5日はかかる」
「なんで? って、あ、もしかして往復の時間考えてる?」

 村を出る時に、3日後ってみんなに伝えたのを、まだ気にしているようだ。

「ん、そんなの当たり前。マヤの計算だと行くだけで3日かかる」
「計算?」

 ああ、ノトリの街からクロの村までの距離とかかった時間から、これから行く『トリット砂漠』までの時間を逆算したって事か。

 確かに、当初の私の見積もりでもそのくらいはかかる。
 それでもこの世界の移動手段より、5、6倍は早いんだけどね。 


「なら往復分の時間は考えないでいいよ」
「ん? なぜ?」
「帰りは恐らく一瞬だから」
「ん? ん?」
「それに着くだけが目的じゃないよね? 向こうで何があるかわからないし」
「ん?」 

 私の話を聞いて、メトロノームの様に、右に左に首を傾げるマヤメ。
 きちんと説明してないから、混乱するのは当たり前なんだけど。

 まぁ、新しい能力が増えた事、マヤメは知らないしね。
 裏世界と、こっちの世界のジェムの魔物を倒したこと自体、教えてないから。

 なにせ『裏』と『表』合わせて、ジェムの魔物を20体以上倒した。
 そのおかげで今まで欲しかった、移動系の能力を手に入れる事が出来た。


『本当は今すぐに教えてもいいんだけど、マヤメには色々と驚かされてるから、たまには仕返ししないとね、にっしし』

 なんて、澄まし顔のマヤメの横顔を見て、悪巧みしていると、

「ん、ジーアはどうする?」

 ふと思いついたように、私と目を合わせてくる。

「えっ! あ、ああ、どうだろうね? 私が出来る事はしたから、後はジーア次第じゃない? もうこれ以上、口を挟む事は出来ないよ」

「ん、澄香の言う通り」

 私の返答を聞いて、流れる景色の後方に視線を向けるマヤメ。
 その方角は、今はもう見えないが、さっきまで私たちがいたクロの村だ。
  
 
 実はあの後直ぐに、もう一度ナジメに連絡をした。
 今度は私ではなく、ナジメと直接話すように、ジーアにヘッドセットを持たせて。


「ク、クロさまっ!? は、はい、わたし、ジーアでしゅっ!」

 緊張し、萎縮しながらも、ナジメと通話するジーアの顔は、今まで見た事もないほど蕩けていた。口元を緩め、目元も下がり、視線は定まらず、そして鼻をヒクヒクさせていた。

 何も事情を知らない人が見たら、何かの発作か、ア〇顔に見える。
 だらしなく、緩み切ったその顔は、それでも私には幸せに見えた。 
 
 話の内容は、ジーアが水飲み鳥のように、しきりに頷くだけだったので、最後までわからなかった。

 けど、ジーアの望みをナジメは知っている。
 だからその事を言われたのは間違いない。
 その為ジーアには、考える時間として、3日間の猶予を与えた。

 長年暮らしていた、クロの村を離れて、ナジメの元に行くか否か、ゆっくり悩んで欲しいと。



「ん、澄香はどっちがいい?」

 視線を私に移して、少し神妙な顔で聞いてくるマヤメ。
 どっちとは、ジーアがコムケの街に来るか来ないかの話だろう。


「ああ、そうだね。ユーアたちも同年代…… じゃなく、同性の友達が増えて喜ぶかもね? ナジメも同じ種族だし、村の話を色々聞きたいだろうしね。それと――――」

 ここにはいない、みんなの顔を思い浮かべて、ちょっと楽しくなる。


「ん、違う。みんなじゃなく、澄香は?」
「あ、私? 私は来て欲しいよ。みんなの喜ぶ顔が見たいしね」
「ん、なんか違うけど、澄香らしいからいい」
「そう? だってそれがでしょ?」
「ん」


 ジーアの一番の望みを叶えたい、クロの村のみんな。
 憧れのナジメと、一番一緒にいたい、ジーアの願い。

 全てが一番なら、一番それがいい。
 二番や三番も悪くない。けど、一番には遠く及ばない。

 やっぱり一番いたい人といるのが一番だ。  
 だからジーアには真剣に悩んで欲しい。

 どれが本音の一番か。
 何が本心での一番か。

 見栄や義務感などの、余計なしがらみは取っ払って、純粋で素直な気持ちなままで、ジーアには決めて欲しいと。


 こうして私とマヤメは、クロの村を後にした。
 今度はマヤメの為に、マヤメのに会いに行く為に。



――――――――


  
 時はちょっと遡り、スミカたちがクロの村を出る二日前。
 フーナたちとの戦いを終えた、その次の日。

 とある街の中を、ガラの悪そうな男たちが歩いていた。


「おい、どうする? 今度はどの英雄に取って代わるんだ?」

 大通りを歩く、一人の冒険者の男が、背後に振り返り声を掛ける。
 その後ろには、屈強な4人の男たちが、街の中を眺めながら付いてきていた。


 ここはナジメが治めるもう一つの領地。
 スミカが本拠地とし、ユーアたちが住むコムケの街だ。

 その5人の冒険者たちは、商店街を歩きながら、更に会話を続ける。 


「あん? そうだな、この前の『沼地の泡姫』って奴は、全く稼げなかったしな」
「………………」
「ならよ、最近噂の『蝶の英雄』って奴はどうだ?」
「はん? 蝶の英雄って、こんなか?」

 仲間の一人の提案を聞き、ヒラヒラと両手を振る一人の男。
 恐らく蝶が羽ばたいている真似をしたのだろう。

「わははっ! そんなんで蝶に見えたら苦労しねえぜっ! 沼地の泡姫みてえに、全身に泥を塗りたくるまでやんねえとなっ!」

「いや、いや、あれは失敗でしたよ。そこそこ知名度があったようで、直ぐに偽物だって、看破されちゃいましたから。そもそも泥なんて塗ってなかったようですし」

「なら今度は葉っぱで羽根でも作るか? それこそ胡散臭いぜっ!」

「お、ちょうどそこに面白そうな店があるじゃねえか」

 一番後方を歩いていた男が、ある一軒の店の前で立ち止まる。

「はん? お、確かに面白そうじゃねぇかっ! おあつらえ向きに、蝶に化けられそうなモノがあるじゃねぇかっ!」

「でしたら、ここで調達しましょうか? 幸いにもここは大陸でも辺境にある街。人口も少なく、近くの街からもかなり離れてますから、誰も蝶の英雄の姿なんて知らないでしょうし」

「だな。ならここで買ってこうぜ。そんで街の中歩けばわかんだろ。蝶の英雄って呼ばれる奴が、どんだけ名が知れてるってことがよ」


 こうして、この街に突如来訪した5人の冒険者は、ある一軒の店に入っていった。

 ただし、店の2階に掲げてある看板には目もくれずに。 


 そして更に、


「な、なんだアイツら。なんでスミカ姉ちゃんの悪口言ってたんだ? なんか怪しいから、オヤジとユーアちゃんに急いで知らせないと」

 タタタタ――――

 そして更に、その様子を見ていた少年、ではなく、少女にも気付かなかった。

 その少女の名は『ゴマチ』

 とある想いのすれ違いで、父親の『アマジ』とは幼少の事から絶縁に近い状態になるが、ユーアとスミカとの出会いによって、誤解が取れ、長年のわだかまりから解放された。

 その結果、父親の代わりに、長年ゴマチの面倒を見ていた、貴族で祖父の『ロアジム』とも、親子関係が修復され、一家総出でスミカたちの事を大恩人だと思っている。


 そんなスミカたちとは深く関わりのある少女、ゴマチに見られてたとは、つゆ知れず、5人の冒険者たちは――――


「お、このマスクいいんじゃねえかっ!」
「そうですね、それとこの背負い袋もいけそうですよ」
「ならついでに買っていくかっ!」
「だな」
「………………」


 この街出身の『蝶の英雄』になりすます為に、蝶の英雄を推している『黒蝶姉妹商店』で、何も知らずに買い物を続けるのであった。  

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。 死の淵で覚醒したその能力は、世界の法則(システム)の欠陥(バグ)を読み解き、修正(デバッグ)できる唯一無二の神技だった! 呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。 「もう手遅れだ」 これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

魔眼の剣士、少女を育てる為冒険者を辞めるも暴れてバズり散らかした挙句少女の高校入学で号泣する~30代剣士は世界に1人のトリプルジョブに至る~

ぐうのすけ
ファンタジー
赤目達也(アカメタツヤ)は少女を育てる為に冒険者を辞めた。 そして時が流れ少女が高校の寮に住む事になり冒険者に復帰した。 30代になった達也は更なる力を手に入れておりバズり散らかす。 カクヨムで先行投稿中 タイトル名が少し違います。 魔眼の剣士、少女を育てる為冒険者を辞めるも暴れてバズり散らかした挙句少女の高校入学で号泣する~30代剣士は黒魔法と白魔法を覚え世界にただ1人のトリプルジョブに至る~ https://kakuyomu.jp/works/16818093076031328255

処理中です...