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第13蝶 影の少女の解放と創造主
マヤメの依存とトテラの事情
しおりを挟む傷や気力の回復の為、半刻程の休憩を終えた私たち。
案内役のマヤメを先頭に、トテラ、私と続き、薄暗い洞窟内を進んでいく。
ただ洞窟とは言っても、『巨大な地下施設』と言った方がしっくりくる。
壁や地面の殆どは自然物だが、所々は人工物で出来ており、手すりや階段、一部の柱に至っては、加工された金属が使用されていた。
だとすると、この地下広場は元々あったもので、利便性を上げるために、マヤメの創造主のマスターが手を加えたものだろう。
しかも隠れ家としては最高だ。
渡航が過酷で困難な、広大なトリット砂漠の中心部にあり、しかもこの真上には、絶えず砂嵐が舞っている。
エニグマ(謎の組織)を抜け出し、追われる身としては、最適な場所だっただろう。
創られて間もないマヤメを連れていたならば尚更だ。
だが、その生みの親であるマスターは、数年前に命を落としている。
細かい詳細は不明だが、Rシスターズのリーダー、タチアカの手によって。
その亡骸が今も保管され続けている。
マヤメの元拠点ともいえる、この地下施設の何処かに。
――――――――――
「あのさ、ここって魔物とか出ないの?」
『発光』を使い、周囲を照らしながら、先頭のマヤメに問いかける。
夜目が利くと言っても、僅かな凹凸を見落とす可能性があるからだ。
「ん? 魔物はいない。けど、生き物はいる」
「へぇ~、どんなのっ? どんなのっ!」
質問した私ではなく、目の前のウサ耳がブンブンと揺れる。
「ん、ネズミやコウモリ。後はトカゲや虫もいる」
「本当っ! なら捕まえてもいいの?」
「はあ? それ捕まえてどうするの?」
マヤメに詰め寄るトテラに聞いてみる。
なんか突然テンション上がってるし。
「もちろん、みんなに持ち帰るんだよっ!」
「いや、それをなんでかって聞いてるんだけど。みんなって、兄妹たちのこと?」
「うん、そうだよっ! どれもみんな栄養があって美味しいのっ! だからお土産にしたくってっ!」
「却下。そんなの食べたら余計体調悪くなるって。だからダメ」
有無を言わさずトテラの話を寸断する。
虫やトカゲは知らないけど、ネズミやコウモリなんかは病原菌がヤバそうだし。
「で、でも、今までも食べてたよ?」
「いいから、今度からはやめておきなよ。その代わり、もっと栄養のある食べ物あげるから。この件が終わってからだけど」
「うん、わかった。スミカちゃんがそう言うなら……」
渋々ながら了承してくれた。
その代わりに耳がへなへなになっちゃったけど。
「ん、トテラ。澄香のいう事は絶対。だからちゃんと聞く」
「う、うん。マヤメちゃんもそう言うなら」
そしてマヤメにも言われてしまい、更に耳がペタンとなってしまう。
『う~ん…………』
てか、マヤメの注意は意味がなんか違うよね?
栄養や病原菌の心配じゃなく、『私が言ったから』みたいになってるよね?
こんな感じの事は以前からあった。
私の起こす、行動や言動、考えの全てが正しいと。
どこか盲目的、かつ妄信的に、私の全てが絶対だと。
『多分これって、私の影にマスターの面影を重ねてるんだろうね? 生みの親、育ての親でもあるマスターが、突然いなくなった事でさ。私が似てるって、前に言ってたし……』
マヤメにとってマスターは、絶対的創造主で、不変的な存在だったはず。
そんなマスターにかなり依存していたのだろう。
でもそれは無理からぬ事。
突然マスターと言う、大きな灯火を失い、世界と言う大海原に放り出された。
その後、右も左も心の傷も癒えぬまま、エナジーの供給をエサにエニグマの一員となり、手足の様に働かされていた。そこに自分の意志も意味も、生きる目的も見付けられないままで。
『で、そこで偶然私を見付けたと。容姿や見た目が似ているってわけじゃなく、きっとマヤメだけが感じる、何かがあるんだろうね。マスターも元プレイヤーだったろうし』
信用してくれるのは嬉しい。
信頼されるのも悪くない。
けど、盲目的に依然するのは、マヤメの成長にとってはマイナスだ。
仮に、私がいなくなった際に、また繰り返してしまうだろう。
誰かに拾われて、搾取され続け、利用されるだけの人生に。
思考を停止し、ただただ操られるだけの人形に。
『……なんてちょっと心配してたけど、その可能性は随分低くなったかな? 偶然だけどこの子に会えたから』
目の前で楽しそうに揺れている、2本の白い長耳。
前を歩いていたマヤメと並び、他愛のない話に花を咲かせている。
トテラとの出会いは、僅かながらマヤメに変化をもたらした。
自我を持ち始めた。なんて大袈裟かもしれないが、それでも変わったことは確かだ。
『……そんなトテラも問題を抱えていて、数週間、衰弱し続ける兄妹たちの為に、あるモノを探しに来たんだよね。で、その結果如何によって、エニグマの誘いにも乗るつもりだったと』
つい先ほど、レストエリアで聞いた、トテラの話を思い出す。
未知の魔物に襲われ、今も衰弱が進行している事を。
どうやら冒険者の仕事で、家を留守にしている間に襲われたらしい。
『でもまだ幸いなのは、トテラたちが生命力の高い種族だったって事かも。混血種とはいえ、普通の人間よりも生命力が高いだろうし。で、そのタイミングでエニグマが接触してきたと。まるで図ったかのようなタイミングで……』
数日後、治療法が見つからず、途方に暮れるトテラの前に『マコイ』と名乗る少女が現れ、Rシスターズへの加入を条件に、治療を施すと言ってきた。
だがトテラは一度、その条件に首を横に振ったらしい。
兄弟たちと別れる事に、大きな抵抗があったのと、とある"お宝”がトリット砂漠にあると、そんな情報を耳にしていたからだ。
その結果、トリット砂漠に訪れる事となったトテラ。
お宝と言う名の、規格外の効力を持つ、回復アイテムを探しに。
私の勘では、そのアイテムは『リカバリーポーション』。
もちろん、この世界のものではなく、私が持っているものと同じもの。
話に聞くと、元々はこの砂漠の周辺で売られていたらしい。
だが突如、その売り手が消息不明となった。
ある時を境にパタリと姿を現さなくなった。
その後、ある噂が流れた。トリット砂漠にそのポーションがあると。
売り手が砂漠を出入りしていた事から、その何処かにあると思われたのだろう。
『恐らく、その売り手はマヤメのマスターで、生活費や研究費を工面するために、地下から出て売っていたんだと思う。でもタチアカたちに殺されて――――』
供給が止まり、その情報が冒険者であるトテラの耳にも入った。
兄弟たちと離れるよりかは、一か八かだが、お宝の存在に賭けたのだろう。
『でもあの時、トテラはエニグマを選んだ。タチアカに苦戦している私を見て、苦渋の選択をしてくれたんだと思う。それも私たちのために……』
二度目の勧誘に、トテラはRシスターズへの加入を選んだ。
自分がタチアカに着いていけば、私とマヤメが見逃されると思って。
その時の心情と決断の重みは、トテラにしかわからない。
きっと辛かっただろうなんて、安易な言葉では語れない。
だがトテラの件は、私がアイテムを譲る事で、一応解決に向かっている。
自分自身でアイテムを使い、その効果に納得したからだった。
『なんて、それぞれに事情を持つ二人だけど、きっと全てが片付いた時には、今よりも心の底から信頼し合い、更に笑顔が増えるんだろうね……』
楽し気に響くトテラの笑い声と、微かな笑みを浮かべるマヤメ。
そんな二人の背中を眺めながら、全力で手助けすると、再決意したと同時に、いつも自分の背中に隠れていた、あの小さな背中を懐かしいと思った。
――――――――――
「ん、ここから先は狭い。でももう少し」
三人で進むこと約半刻、恐らくここが最深部なのだろう。
幅5メートル、高さが約3メートルの横道が、口を開けていた。
パチッ
私たちが通路に入ると、眩い光が点灯し、白くて長い廊下が映し出された。
「うわっ! 眩しいっ! あ、なんかここって?……」
照らし出された風景に、トテラの耳がピンと立つ。
恐々と通路を見渡し、背後の私に振り返る。
「うん、そうだね。似てるね」
周囲の景色を見ながら答える。
トテラが怯えるのも無理はない。
何せここは、あの雰囲気にそっくりだ。
トテラがタチアカによって連れ去られた、裏世界のあの白い部屋と。
「だ、だよね?」
「ま、でもここはマヤメの家みたいなものだから、あんまり心配しなくていいんじゃない? 危険な魔物なんているわけないし」
「う、うん」
「それに、何かあったら私とマヤメもいるからさ」
「そ、そそ、そうだよね?」
「ん?」
「なんでもない。それよりもうすぐなの? マスターの工房って」
恐がるトテラの背を叩き、励ましながらマヤメに答える。
「ん、分かれ道や部屋がいくつかある。でもマヤが知ってる」
「そうだよね。なら引き続き案内よろしく」
「ん」
マヤメを先頭に、再び歩き出す。
カツ、カツ、カツ、
まるで病院か、はたまた何処かの研究施設かのような、物音を立てる事に躊躇うほどの雰囲気を感じながら、真っ白で無機質な通路を、奥へ奥へと進んでいく。
その道中には、いくつかのドアが並んでいたが、全ての部屋に窓がないため、中の様子がわからなかった。
「ん、ここ左に曲がるともうすぐ」
通路が二手に分かれている、分岐点に到着する。
ここからもう少しだと、マヤメが左に曲がった直後、
ガチャッ ×5
「なっ!?」
突如、目の前に、見慣れた5体のヒト型が現れた。
「機械兵っ! な、なんでここにっ!?」
通路を塞ぐように現れたのは、軽機兵3体に、その後ろには重歩兵が1体。
更にその奥には、ライフルを構えた狙撃兵がいた。
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