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44. あたたかな言葉
しおりを挟む――広場での余興も終わり、お祭りは夜の深まりと共に幕を閉じた。
私たちは衣装を返すため、教会に戻って来た。
「大切な衣装を汚してしまって申し訳ありませんでした」
「いえいえ。クマの脅威から街を護っていただいたのですから、これくらい。本当にありがとうございました」
私の身体からアクセサリーを外しながら、司祭様が言う。
「実は……女神・エルフィネラは、あなたと同じ<精霊獣使い>だったのではないか、という説があるのですよ」
「え……そうなのですか?」
「えぇ。かつて川の水が干上がったのは、上流でハシガケネズミが流れを堰き止めたせいで、エルフィネラ様が彼らを説得したため再び川が流れるようになったのではないか、と……そう唱える学者様もいるのです」
ハシガケネズミ……木の枝や皮を集めて川を堰き止め、魚を捕る大型の齧歯類だ。
女神の伝説は何百年も前のお話らしいし、現代と違って<精霊獣使い>がたくさんいた時代のはずだ。だとすれば、その説は……
『本当だと思うわよ、それ』
と、鏡の上に留まり、ピノが言う。
『聞いたことがあるの。昔、アンテローズの森を出て行った<精霊獣使い>が、とある街を不作から救った、って。ハシガケネズミに引っ越しするよう呼びかけて、ワタモグラに畑を耕すようお願いしたらしいわよ?』
それを聞き、私の中で話が繋がる。
農夫が乙女と出会ったのは、西にある森だと云われているけれど……それこそがアンテローズの森だったのだ。
「ピノはその話、誰から聞いたの?」
不思議に思い尋ねると、ピノはぷるっと羽を震わせながら、こう答えた。
『――パルエレミア様よ。あのお方は、<精霊獣使い>に纏わるお話はなんでも覚えているからね』
パルエレミア様……
かつて存在していた、精霊獣の長の名前だ。
竜魔戦争以降は他の精霊獣と共に姿を消したが、その魂は今もアンテローズの森の大樹に宿っている。
動物たちは、大樹を通してパルエレミア様の声を聞き、会話することができるらしい。
けれど、人間である私はそのお声を一度も聞いたことがない。
だから、これまでもピノや森の仲間たちから何を話しているのかを伝え聞くことしかできなかった。
「その小さなご友人はなんて?」
ピノと会話する私に、司祭様が問う。
「エルフィネラ様が<精霊獣使い>だった可能性は高いだろうと言っています。ハシガケネズミに引っ越すよう呼びかけ、モグラを使役して畑を耕したのだと」
「まぁ。確かに、モグラの協力があれば土も蘇るかもしれませんね」
ふふ、と上品に笑う司祭様。
そして、彼女は私の身支度を終えると、
「今日という日は、伝説に残すべき特別な日となりました。エルフィネラ様と同じ<精霊獣使い>であるあなたが、偶然ここを訪れ、暴走するクマから街を救ったのですから」
「で、伝説なんて……大げさです」
「いいえ。テスティア様とウェイド様は、この街の新たな英雄です。来年もその先も、お二人のご活躍は人々の間で語り継がれることでしょう」
言って、司祭様は私に向き合い……
目を細めながら、こう言った。
「アスティラルダ領に<精霊獣使い>の力を持つご令嬢がいるとの噂は聞いておりましたが……こんなにも勇敢で聡明な方だとは思いませんでした。お会いできて光栄でしたよ」
「そんな……私は本当に、大した人間ではなくて……」
「そうおっしゃらないで。あなたは素晴らしいお方です。その誠実さと勇気があれば、何があってもきっと大丈夫。この先の旅路も、どうかご武運があらんことを……またこの街にお立ち寄りくださいね。ぜひ、ウェイド様とご一緒に」
その、優しく慈愛に満ちた言葉に……
涙が、じわりと込み上げた。
私は、司祭様のお言葉を胸に深く刻み込むと、
「ありがとうございます……必ずまた来ます。すべてを終わらせて」
目尻を拭いながら、そう微笑み返した。
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