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プロローグ
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眩しいぐらいの夕日が照らす小さな丘。カラスの歌が鳴り響いて皆が家への道を駆ける。
近所から漂う夕飯の美味しそうな匂いに僕達もそろそろ帰ろうかと、丘の上で黄昏れる彼女に声をかけた。
彼女__白木朱音は僕の声に振り向くといたずらっぽく言ったのだ。
「ねえ、翔くん。大きくなったら、結婚しようね!」
「うん!僕、朱音ちゃんと結婚する!」
5歳の僕と、5歳の彼女の、よくある約束だ。5時の鐘がなる、カラスの歌が何度も何度も流れ、早く帰れと促されているようにも感じた。
「さ、帰ろっか!」朱音が元気よく丘を駆け降りる。翔もそれに続いた。田舎の小さな小さな街、危険意識なんて全くなかった。だから___、
ドンッ
鐘よりも、歌よりも、一際大きな音が鳴り響き翔の動きが止まった。彼の目の前に広がっていたのは公園に突っ込んできた車、そして血まみれになって倒れている朱音の姿だった。
近所の人達が何事かと家から顔を出す。状況が読み込めないのだろうか、何が起こったのか翔に尋ねてくる人もいた。翔だって何が起こってるか知りたい。「朱音ちゃん、朱音ちゃん!!!」沈みかけた夕陽空に翔の声が虚しく響いた。
「翔、朱音ちゃんママがお話したいんだって。」どれぐらい経ったのだろうか、気付いたら警察署にいた。母親に声をかけられようやく現実に追い付く。
「翔くん、朱音と最後にお話したのってどんなことだったか教えてくれる?」ずっと放心状態だった翔の瞳から涙が溢れる。
そうだ、僕、朱音ちゃんと約束したんだ。結婚するって、結婚しようって言ったのに…突然途方も無い悲しみが翔を襲う。涙が止まらなかった。
「僕…僕……、朱音ちゃんと、けっこんするって、約束したんだ。」
この一言を言うのにかなりの時間を要した。
「翔、朱音ちゃんと結婚したかったねぇ…」
「結婚、やくそくしたのおおお…」涙が溢れる。幾つも幾つも大きな水滴が地面に落ちては消えてゆく。
_____
「今日は、夕焼けが綺麗だなあ。」
高校生ぐらいの男の子だろうか、小さな公園の小さな丘でめいいっぱい空に手を伸ばしている少年がいた。「ははっ、さすがに届かないか。」掠れた笑い声と共に地面に寝転ぶ。
「朱音、僕、この街に戻ってきたよ。」
少年、否、大林翔は真っ直ぐ空に手を伸ばす。夕焼けが綺麗な日はいつも朱音を思い出すのだ。
5時の鐘が鳴り、カラスの歌が聞こえてきた。そろそろ帰らなきゃな。翔は立ち上がり麓まで降りると丘をふりかえった。幼い頃の2人が笑ってる気がするのだ。そんな訳ない、顔をパンっと叩き溢れそうな涙を我慢する。
なんてたって、約10年振りにこの街に帰ってきたのだ。事故の後数年して、翔は父親の仕事の関係で遠い街に引っ越していた。大学生になったのを機に、この街の大学を受験し帰ってきた。
あの日、あの時の約束を守るために。
近所から漂う夕飯の美味しそうな匂いに僕達もそろそろ帰ろうかと、丘の上で黄昏れる彼女に声をかけた。
彼女__白木朱音は僕の声に振り向くといたずらっぽく言ったのだ。
「ねえ、翔くん。大きくなったら、結婚しようね!」
「うん!僕、朱音ちゃんと結婚する!」
5歳の僕と、5歳の彼女の、よくある約束だ。5時の鐘がなる、カラスの歌が何度も何度も流れ、早く帰れと促されているようにも感じた。
「さ、帰ろっか!」朱音が元気よく丘を駆け降りる。翔もそれに続いた。田舎の小さな小さな街、危険意識なんて全くなかった。だから___、
ドンッ
鐘よりも、歌よりも、一際大きな音が鳴り響き翔の動きが止まった。彼の目の前に広がっていたのは公園に突っ込んできた車、そして血まみれになって倒れている朱音の姿だった。
近所の人達が何事かと家から顔を出す。状況が読み込めないのだろうか、何が起こったのか翔に尋ねてくる人もいた。翔だって何が起こってるか知りたい。「朱音ちゃん、朱音ちゃん!!!」沈みかけた夕陽空に翔の声が虚しく響いた。
「翔、朱音ちゃんママがお話したいんだって。」どれぐらい経ったのだろうか、気付いたら警察署にいた。母親に声をかけられようやく現実に追い付く。
「翔くん、朱音と最後にお話したのってどんなことだったか教えてくれる?」ずっと放心状態だった翔の瞳から涙が溢れる。
そうだ、僕、朱音ちゃんと約束したんだ。結婚するって、結婚しようって言ったのに…突然途方も無い悲しみが翔を襲う。涙が止まらなかった。
「僕…僕……、朱音ちゃんと、けっこんするって、約束したんだ。」
この一言を言うのにかなりの時間を要した。
「翔、朱音ちゃんと結婚したかったねぇ…」
「結婚、やくそくしたのおおお…」涙が溢れる。幾つも幾つも大きな水滴が地面に落ちては消えてゆく。
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「今日は、夕焼けが綺麗だなあ。」
高校生ぐらいの男の子だろうか、小さな公園の小さな丘でめいいっぱい空に手を伸ばしている少年がいた。「ははっ、さすがに届かないか。」掠れた笑い声と共に地面に寝転ぶ。
「朱音、僕、この街に戻ってきたよ。」
少年、否、大林翔は真っ直ぐ空に手を伸ばす。夕焼けが綺麗な日はいつも朱音を思い出すのだ。
5時の鐘が鳴り、カラスの歌が聞こえてきた。そろそろ帰らなきゃな。翔は立ち上がり麓まで降りると丘をふりかえった。幼い頃の2人が笑ってる気がするのだ。そんな訳ない、顔をパンっと叩き溢れそうな涙を我慢する。
なんてたって、約10年振りにこの街に帰ってきたのだ。事故の後数年して、翔は父親の仕事の関係で遠い街に引っ越していた。大学生になったのを機に、この街の大学を受験し帰ってきた。
あの日、あの時の約束を守るために。
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