数字で恋する男爵令嬢

碧井夢夏

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 その日、私はカイの数字とシンさんの数字を見ながらニヤニヤしていた。
 この騎士団の中で圧倒的にスタイルがいいのはカイ・ハウザーだったけど、実は次点に他の団員と差をつけてシンさんのスタイルが良い。

 そんなことに気付いたら、私だけが知っている秘密みたいで嬉しかった。

 まあ、圧倒的にスタイルが良かったのはカイ・ハウザーで、流石ねってことなんだけど。

 残念ながら私とカイは必要最低限の会話しかしない。
 私が世間話を振っても大して答えてはくれないし、なんなら睨まれてしまう。

 学生時代に比べれば1日1回以上会話をしているのはすごいことだけど、ここまで脈が無いとさすがに凹んだりもする。
 会計士の腕は買ってもらえているみたいだけど、それ以上でも以下でもない。
 ただただ従業員としてしか見られてない。

 今日の分の仕事を切りよく終えて、私は帰る支度をしていた。

「あ、リリスちゃんだ。今日は帰り遅いんじゃない? 大丈夫? 送ってく?」
「えっ??」

 たまたま事務所に立ち寄ったシンさんに送って行こうかと声をかけられてしまった。

 送るって……馬? 2人乗り? 私、男の人と2人乗りなんてしたことないのに……。

「ああ、急に驚かせちゃったね。いや、女の子が1人で危なくないかなーって気になっただけだよ。家の人が迎えに来る?」
「はい。今日は家の馬車が来ているんですけど……」
「そっか。なら安心だね。でも、送りが必要な時は遠慮なく声かけてよ?」

 シンさんは、本当に人がいい。でも、そんな風に言ってるけど、こういうのって大抵の人は口だけだ。
 実際にお願いしたら理由をつけて断るに決まっている。

「じゃあ、明日シンさんの馬に乗せてもらっても良いですか?」
「おっ。乗りたいの? いいよ! 送ってってあげる」

 え? 本当に良いのかしら? そんなに簡単なの? 
 私の家がどこか知らないくせに、あっさりしてるなあ。
 お人好しの人なんだなあ。

 シンさんは優しくて……女の人と話すことに慣れていそうだなと思う。
 特別なことじゃないんだろうなと分かるから、こういうのが初めての私は複雑。

「じゃあ……明日、よろしくお願いします」
「うん、楽しみにしてる」

 シンさんはにこにこしながら、笑顔で手を振って事務所を出て行った。

 なんだかつられて笑いそうになる人だ。
 私は男の人になんか全く慣れていないのに、誰よりも話しやすい。
 こういう人ばかりだったら、私だって今までもっと男の人と話せたんだろう。

 私は遠ざかっていくシンさんの後ろ姿を見ながら、男の人と約束しちゃったんだ……って急に動揺した。

 明日、お迎えは要らないってパパとママに言っておかなきゃ。

 理由を聞かれたら素直に答えるべき??
 恋人でも何でもない同僚の男の人に、送ってもらうから……って。

 なんか不自然じゃないかしら。
 でも、相手は騎士なんだから女性を守るのも普通なのかも。

 初めて約束をした。
 ただの同僚の男の人。優しくて、話しやすい……数字の良い人。
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