6 / 21
組織 2
しおりを挟む
「シンさんって、ブリステ公国のハウザー騎士団で副団長をされている方ですよね?」
「ああ」
「ライト商事のロキ社長と親友だとかいう……」
「ああ」
カイは、その有名人の存在を忘れていた。
かつてカイの部下だったロキは、今やすっかりブリステ公国の富豪代表だ。カイの親友でもあるロキは、会社を大きくしながら世界中に拠点を作っていた。
「そのロキは、なんと女王に惚れていたんだ」
「ええっ?!」
部下が一斉に驚いていた。
ロキと言えば女性に困ってなどいない青年実業家で、交友関係も派手だった。
平民出身という身分で、王侯貴族などの上流階級を好まないと言われている。
「どれだけ女王が男を狂わせるのか分かるだろう……」
「それは……想像以上なのでしょうね……」
部下たちが騒然としていた。レナは絶世の美女というのにはどこか素朴で少女のような印象を与える女性だ。
そんな女王が、ブリステ公国でも特に派手な青年実業家の想い人だったという事実を知る。
ブリステ公国の公王、アロイス・ブリステもかつては女王に恋い焦がれてカイの結婚を邪魔していたのも有名な話だった。
「総督も、女王陛下に狂わされた一人ですもんね」
「……いや、狂わされたつもりはないんだが」
「女王陛下と一緒の時の総督は、随分と様子が狂っていましたけど……」
部下の鋭いツッコミにカイは無言になった。
レナといる時の自分はそんなにおかしいのだろうか、カイ本人は全く気付いていない。
「でも、任務とはいえ自分たちが守る国と女王様のことは、もっと色々知りたいです」
「そうですね、命を懸けるわけですし」
部下の何名かがせがむように言うので、カイは「産後、落ち着いたらここに連れて改めて紹介しよう」と安請け合いをした。
レナは嫌がらないだろう。ただ、産後に落ち着くことなどあるのか、カイはよく分からなかった。
*
カイは一日の業務を終えて金曜の城下町を愛馬のクロノスと共に眺める。
ナイトマーケットが開かれているのを横目に、クロノスの手綱を引いてゆっくりと歩いた。
この日はすっかり遅くなってしまった。
空にはすでに星が輝いている。肌寒い夜の喧騒を抜けて、レナのいる城に戻ってきた。
カイはクロノスを厩舎に預けていつも通りの階段を上り、最上階の部屋に向かう。
もう、レナは寝ているのかもしれない。
静かに扉をノックし、反応がないのでゆっくりと扉を開けた。
暗い部屋に、ソファ脇に置かれたランタンの灯りがぼんやりと明るい。
「レナ……?」
部屋のどこかにレナの「気」を感じるのに、姿が見えない。
カイは焦って部屋に入り、ランタンを持ちあげて部屋中を探す。
「レナ?!」
ベッド脇で、しゃがみ込んで脂汗を浮かべるレナが小さく呻いていた。
「遅くなってすまなかった、どこか痛むのか?!」
レナは呻き声を上げるばかりで、喋ることすらできていない。
「誰か!!」
カイは焦って使用人を呼んだ。バタバタと忙しない足音がして数名が駆け付ける。
「女王陛下が! 誰か診られる者を!」
カイはレナを抱き上げてベッドに寝かせながら、初めて見る様子に不安ばかりが募る。
(大丈夫だ、きっとこれは異常ではない。きっと……)
レナの頭をゆっくりと撫でながら、何もできない自分に胸が搔きむしられた。
(落ち着いたら、部下に紹介すると約束して来たばかりなんだ。早く、いつも通り笑ってくれ……)
駆け付けた医師と産婆に、レナは服を脱がされて腹部の触診をされている。
その様子を診ながら、カイはただ祈ることしかできなかった。
「ああ」
「ライト商事のロキ社長と親友だとかいう……」
「ああ」
カイは、その有名人の存在を忘れていた。
かつてカイの部下だったロキは、今やすっかりブリステ公国の富豪代表だ。カイの親友でもあるロキは、会社を大きくしながら世界中に拠点を作っていた。
「そのロキは、なんと女王に惚れていたんだ」
「ええっ?!」
部下が一斉に驚いていた。
ロキと言えば女性に困ってなどいない青年実業家で、交友関係も派手だった。
平民出身という身分で、王侯貴族などの上流階級を好まないと言われている。
「どれだけ女王が男を狂わせるのか分かるだろう……」
「それは……想像以上なのでしょうね……」
部下たちが騒然としていた。レナは絶世の美女というのにはどこか素朴で少女のような印象を与える女性だ。
そんな女王が、ブリステ公国でも特に派手な青年実業家の想い人だったという事実を知る。
ブリステ公国の公王、アロイス・ブリステもかつては女王に恋い焦がれてカイの結婚を邪魔していたのも有名な話だった。
「総督も、女王陛下に狂わされた一人ですもんね」
「……いや、狂わされたつもりはないんだが」
「女王陛下と一緒の時の総督は、随分と様子が狂っていましたけど……」
部下の鋭いツッコミにカイは無言になった。
レナといる時の自分はそんなにおかしいのだろうか、カイ本人は全く気付いていない。
「でも、任務とはいえ自分たちが守る国と女王様のことは、もっと色々知りたいです」
「そうですね、命を懸けるわけですし」
部下の何名かがせがむように言うので、カイは「産後、落ち着いたらここに連れて改めて紹介しよう」と安請け合いをした。
レナは嫌がらないだろう。ただ、産後に落ち着くことなどあるのか、カイはよく分からなかった。
*
カイは一日の業務を終えて金曜の城下町を愛馬のクロノスと共に眺める。
ナイトマーケットが開かれているのを横目に、クロノスの手綱を引いてゆっくりと歩いた。
この日はすっかり遅くなってしまった。
空にはすでに星が輝いている。肌寒い夜の喧騒を抜けて、レナのいる城に戻ってきた。
カイはクロノスを厩舎に預けていつも通りの階段を上り、最上階の部屋に向かう。
もう、レナは寝ているのかもしれない。
静かに扉をノックし、反応がないのでゆっくりと扉を開けた。
暗い部屋に、ソファ脇に置かれたランタンの灯りがぼんやりと明るい。
「レナ……?」
部屋のどこかにレナの「気」を感じるのに、姿が見えない。
カイは焦って部屋に入り、ランタンを持ちあげて部屋中を探す。
「レナ?!」
ベッド脇で、しゃがみ込んで脂汗を浮かべるレナが小さく呻いていた。
「遅くなってすまなかった、どこか痛むのか?!」
レナは呻き声を上げるばかりで、喋ることすらできていない。
「誰か!!」
カイは焦って使用人を呼んだ。バタバタと忙しない足音がして数名が駆け付ける。
「女王陛下が! 誰か診られる者を!」
カイはレナを抱き上げてベッドに寝かせながら、初めて見る様子に不安ばかりが募る。
(大丈夫だ、きっとこれは異常ではない。きっと……)
レナの頭をゆっくりと撫でながら、何もできない自分に胸が搔きむしられた。
(落ち着いたら、部下に紹介すると約束して来たばかりなんだ。早く、いつも通り笑ってくれ……)
駆け付けた医師と産婆に、レナは服を脱がされて腹部の触診をされている。
その様子を診ながら、カイはただ祈ることしかできなかった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる