149 / 221
the 23rd night 騎士の報告
しおりを挟む
カイは、その夜にレナの部屋をノックした。
「どうしたの?」
中から声がして、レナが扉を開ける。そこには護衛中のはずのカイが立っていた。
「……さっき、外国人兵が城に出たのは、聞いたか……?」
カイが静かにレナに尋ねる。
「……負傷者が出たという報告は聞いたわ」
レナはカイの様子がどこかおかしい気がして、カイを部屋に招き入れた。とりあえずゆっくり話を聞きたいと言って、隣り合ってテーブルの席に着く。
「サラを襲った者と同じグループだと思われる外国人兵4名が、城を襲った。門番が1名、負傷している」
カイはそこまで言うと、その後の報告を渋っている。
「それで、その兵は……今は?」
レナが当たり前のように尋ねると、カイは言いにくそうに、
「俺が、殺した」
と言ってそれ以上は何も言わなかった。
「そう」
レナはそれだけ言うと、カイをじっと見つめている。
「ありがとう。あなたを雇っているのは私なのだから、その4人の兵士を殺したのは、私ということになるわね」
レナが当然のように言ったので、カイは自分の耳を疑った。今迄雇われて人を殺めなければいけないことは何度もあったが、それが主人の責任だと言い切った雇用主には会ったことがない。
「あなたが、今、思っていることを私に教えて。それは本来、あなたではなく私が負うべき感情なのだから」
レナが言うと、カイは少し言いづらそうに語りだした。
「それまで生きていた人間を殺めるということは、未来を奪うことだ。やらなければやられると分かっているから躊躇はしないが、毎回自分の手が血で染まるのは気分の良いものではない。特に、この国のような武力を持たず争いのない国では、殺しなどしたくなかった」
レナは、いくつもの戦場を経験した騎士団長でも、人を殺めることには抵抗があるのだと知る。
「そう。あなたはもっと割り切っているのかと思っていたから、それを聞いて安心したわ」
レナはそう言って、テーブルの上に置かれたカイの手に触れる。
「この手は、血で染まってなんかいない。あなたが私の命を守ってくれたから、私は今、ここにいるのよ」
そう言ってカイに触れたレナの手は、少し冷たかった。カイの手に比べ指は随分と細く、小さくて頼りない。
カイは、その手が持つ責任や覚悟を初めて知った。こんな戦いに向いているはずもない小さな手こそが、どんな強靭な戦士の手よりも、強いのだと。
「まさか、農業国の王女にそんなことを教えられるとはな」
カイは呟くように言うと、レナをじろりと見る。
「何よ?」
「いや?」
カイはそれ以上、何も言わなかった。
主従関係は金額の上に成り立っているものだと思っていたカイは、尽くすべき主人もこの世にはいるのかもしれないと、柄でもないことが頭によぎる。が、何を血迷っているんだと慌てて頭の中からその考えを消し、レナから目を逸らした。
重ねられたレナの手は、少しだけカイの手を包むように握られている。決して力の強くない小さなその手を、カイは振り払うことができそうになかった。
「どうしたの?」
中から声がして、レナが扉を開ける。そこには護衛中のはずのカイが立っていた。
「……さっき、外国人兵が城に出たのは、聞いたか……?」
カイが静かにレナに尋ねる。
「……負傷者が出たという報告は聞いたわ」
レナはカイの様子がどこかおかしい気がして、カイを部屋に招き入れた。とりあえずゆっくり話を聞きたいと言って、隣り合ってテーブルの席に着く。
「サラを襲った者と同じグループだと思われる外国人兵4名が、城を襲った。門番が1名、負傷している」
カイはそこまで言うと、その後の報告を渋っている。
「それで、その兵は……今は?」
レナが当たり前のように尋ねると、カイは言いにくそうに、
「俺が、殺した」
と言ってそれ以上は何も言わなかった。
「そう」
レナはそれだけ言うと、カイをじっと見つめている。
「ありがとう。あなたを雇っているのは私なのだから、その4人の兵士を殺したのは、私ということになるわね」
レナが当然のように言ったので、カイは自分の耳を疑った。今迄雇われて人を殺めなければいけないことは何度もあったが、それが主人の責任だと言い切った雇用主には会ったことがない。
「あなたが、今、思っていることを私に教えて。それは本来、あなたではなく私が負うべき感情なのだから」
レナが言うと、カイは少し言いづらそうに語りだした。
「それまで生きていた人間を殺めるということは、未来を奪うことだ。やらなければやられると分かっているから躊躇はしないが、毎回自分の手が血で染まるのは気分の良いものではない。特に、この国のような武力を持たず争いのない国では、殺しなどしたくなかった」
レナは、いくつもの戦場を経験した騎士団長でも、人を殺めることには抵抗があるのだと知る。
「そう。あなたはもっと割り切っているのかと思っていたから、それを聞いて安心したわ」
レナはそう言って、テーブルの上に置かれたカイの手に触れる。
「この手は、血で染まってなんかいない。あなたが私の命を守ってくれたから、私は今、ここにいるのよ」
そう言ってカイに触れたレナの手は、少し冷たかった。カイの手に比べ指は随分と細く、小さくて頼りない。
カイは、その手が持つ責任や覚悟を初めて知った。こんな戦いに向いているはずもない小さな手こそが、どんな強靭な戦士の手よりも、強いのだと。
「まさか、農業国の王女にそんなことを教えられるとはな」
カイは呟くように言うと、レナをじろりと見る。
「何よ?」
「いや?」
カイはそれ以上、何も言わなかった。
主従関係は金額の上に成り立っているものだと思っていたカイは、尽くすべき主人もこの世にはいるのかもしれないと、柄でもないことが頭によぎる。が、何を血迷っているんだと慌てて頭の中からその考えを消し、レナから目を逸らした。
重ねられたレナの手は、少しだけカイの手を包むように握られている。決して力の強くない小さなその手を、カイは振り払うことができそうになかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。
彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました!
裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。
※2019年10月23日 完結
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる
柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった!
※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる