アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 26th day 邪(よこしま)な修道士

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 レオナルドは、修道院で「リオ」としての1日を始めていた。周りの修道士の様子を観察しているが、特に何か変化が見られるという事もない。ミリーナの掛けた術は何だったのか、そして、外国人兵が現れたのは誰のどういう狙いによるものなのか。謎は解決されないまま時間が過ぎ、次の一手に詰まっていた。

(あの女の術が、もう少し分かりやすく影響を及ぼすと思ったんだけど……)

 レオナルドは、修道士の「リオ」を演じながら、核心を突けないもどかしさと戦っていた。目の前で様々なことが起こっているのに、なぜここまで全体が掴めないのか。レオナルドは時折苛ついていた。

 毎朝の礼拝を終え、一旦自室に戻ろうとした時、レオナルドは離れた場所に何かの気配を感じた。

(近くに、何かが来ているな……数は……ざっと10人以上か……)

 レオナルドはなるべく外を見渡せる場所に行き、何が起きているのかを確かめようとした。その時、ふいに後ろから声を掛けられる。

「リオ、どこに行くんだい? 君の部屋はあっちだろ?」
 いつもであれば親切なその行為で、周囲の視線を集めてしまったレオナルドは、
「実は、僕の妹が今日、この辺を通ることになっていて、上から見たら馬車でも見えないかなーって……」
 と苦し紛れに説明する。

「へえ……君、妹がいるんだ? そういうことならあっちの階段を使って上に上がると、屋上に登れるから、遠くまで見られるよ」
 親切な先輩の声に従って、レオナルドは言われた階段を上ることにした。最後の階段を上ると、確かに屋上に繋がっていた。

(当たりか……あの人に感謝しないと)

 レオナルドは屋上から周囲の気配を必死に探った。人の気配のする方にじっと目を凝らしてみる。

(うーん……遠すぎて、分からない)

 レオナルドの視力は人並みで、誰かが隠れているのは分かっても、それがどういった人物なのかは見ることが出来なかった。それでも、何故か無性に気になって、その方向をじっと見つめる。人影が少しずつ動いているのを見ていると、身に覚えのある赤い色味の服装がレオナルドの目に飛び込んできた。

(ポテンシア兵か……!)

 レオナルドは、とうとうルイスか国王が動いたのだ、と一瞬で把握した。上ってきた階段を一気に駆け下りて、自室を目指して必死に走る。途中何人かの修道士とぶつかりそうになり、それを華麗に避けるとレオナルドは修道士の数人に驚いた顔でハッキリと見られた。

(始まる……今日……とうとう……)

 レオナルドは身体中から力がみなぎってくるのを感じると、自室でいそいそと短剣を身体に仕込み、小さな声で肩を震わせて笑った。

(信仰心に篤い『リオ』は今日でおしまいか。ああ、さっきの礼拝が最後だと分かっていたら、もっと感慨深くお祈りしたのにな)

 もうすぐ、本来のレオナルドに戻る時間がやってくる。そして、今、この国で起きていることの全貌が分かるかもしれない。レオナルドはふと、机の上においた分厚い聖書をじっと見た。

(この、よくできた聖書とも、今日でお別れか)

 レオナルドは聖書を手に取ると、マッチを取り出して燃やしてしまおうかと思う。これだけの紙に火をつけたら火事が起こせそうだ。

(いや、まだポテンシア側がどんなことを狙ってこちらに来るか分からないから、変な騒ぎを起こすのはやめておこう。混乱を起こした方が、都合がいいかもしれないけど)
 レオナルドは思い直して聖書をそのままにすると、身体のストレッチを始めた。

(早く……早く来ないかな……)
 レオナルドは部屋でひとり、笑いを抑えきれずに身体を震わせた。
(もうすぐおしまいだ。ホント、愉快だね)
 レオナルドは暫く一人で声を殺して笑い続けていた。
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