176 / 221
the 28th day 旅立ち
しおりを挟む
レナとサーヤが城を出ると、城門の近くでカイとサラがそれぞれ立派な毛並みの馬をブラッシングしていた。
カイの馬は黒い毛並みが美しい青毛(※肌の色と毛の色が黒い馬のこと)の馬で、サラの馬はカイの馬と体格の似た栗毛の馬だった。
それぞれ、馬と持ち主の髪の色が同じなのは偶然なのだろうかとレナは遠くから眺めていた。
近づくにつれて、その馬の大きさが明らかになる。レナは圧倒され、輝く毛並みの美しさに感動していた。
「カイ! サラ! 私、こんな綺麗な馬に乗れるなんて、嬉しい!」
レナは、あまり見たことのない大型の馬に、心を奪われた。
カイはその様子が分かると、
「ご存じかもしれないが、馬は人の言葉を理解するし、人間関係を観察して主従関係や社会を作る。こちらの黒い馬が『クロノス』で栗色の馬が『ウレア』だ。従兄弟同士で、馬同士の相性も良い」
とレナに説明した。
その説明の間、カイはクロノスのたてがみの根元にブラシを入れていたが、クロノスは左右の耳を器用に動かしながらレナを見て、カイの話をじっと聞いているようだった。
「綺麗な目。クロノスに触れても良い?」
レナは黒くて艶のある美しい瞳をしたクロノスをじっと見つめる。
「顔周りは少し苦手な奴だから、触れるなら身体にしてやってくれ」
カイはブラシを止め、レナを自分の脇に呼んだ。
「分かった」
レナはクロノスの前足の付け根から背中にかけて、少し強めに身体を叩くように触れる。クロノスは嬉しそうに後ろ脚をバタバタさせて鼻を鳴らしていた。
「気に入られたようだな」
カイはレナに声を掛けた後、サーヤの持っていた荷物をクロノスとウレアに器用にロープで括り付け、
「前はそこまで揺れないはずだが、道がそれなりに険しい場所もありそうだから落馬しないよう気を付けろよ」
と当たり前のように言い放つ。
それを聞いたサーヤは途端に青くなったが、
「大丈夫よ!私に寄りかかってもらえれば」
とサラが大きな口を開け、得意そうにサーヤに言った。
「私……こんな素敵な馬に乗って出かけられるなんて、夢みたい」
レナは、カイの愛馬に乗れることが嬉しくてたまらない様子だ。
「ほんと、ここのお姫様ってば度胸があるわね。落馬しないでよ」
サラは、全く臆することなくクロノスを見つめるレナに笑った。
「気を付けるわね」
レナは上機嫌だ。
サラとカイがそれぞれ馬にまたがると、馬上から手を差し伸べてレナ、サーヤを自分たちの座っている前に座らせる。
「高い……!」
サーヤが下を見ながら恐怖に怯えたが、目の前にカイがいてレナと密着している様子が目に入ると、そちらに目を奪われ、他のことが気にならなくなってしまった。
「ねえ、これからどの位の時間、馬で移動するの?」
レナは完全にカイに包まれる形になって身体を密着させながら、すぐ後ろのカイに尋ねる。
「まずは2時間程度走らせて、様子を見ながらところどころ休憩を入れるつもりだ」
カイの声が頭の上から聞こえて来る状況に、レナは動揺した。
悪いことをしているわけではないのに、密着して包まれているような距離感と状況に、これで良いのだろうかと鼓動が早くやかましく打っている。
(カイは私の護衛なんだから、良いんだろうけど……)
身体を寄せ合う状況になっていることに、レナはどうしようもなく後ろめたい気持ちが襲って来る。
この状況を、まるで当たり前のようにしているカイが信じられなかった。
「2時間で、どの位進めそうなの?」
レナはなるべく考えないようにカイに尋ねた。
「ところどころ速歩(※馬の走り方のこと)を使って行きたい。最初の村には到着できるはずだ」
カイはそう言って、手綱を一旦張ってサラの方を確認した。
サラも同じ姿勢を取っているのを目視すると、
「じゃあ、出発するぞ!」
と声を張り上げて手綱を緩め、かかとでクロノスの腹を蹴る。
クロノスは主人の声と合図に答えてゆっくり歩き始め、ピンと立った耳を左右に動かしていた。
レナは馬上の光景に心を躍らせながら、
「カイ、クロノスはとても賢いわね!」
と喜ぶ。カイは、はしゃぎすぎてうっかり落馬でもされたらたまらないと焦り、片手で手綱を握って片手でレナの身体を抱えた。
レナはカイに後ろから抱きしめられる形になってしまったことに大いに動揺する。
これは一体どういう状況だろうかと軽く混乱していた。
カイの馬は黒い毛並みが美しい青毛(※肌の色と毛の色が黒い馬のこと)の馬で、サラの馬はカイの馬と体格の似た栗毛の馬だった。
それぞれ、馬と持ち主の髪の色が同じなのは偶然なのだろうかとレナは遠くから眺めていた。
近づくにつれて、その馬の大きさが明らかになる。レナは圧倒され、輝く毛並みの美しさに感動していた。
「カイ! サラ! 私、こんな綺麗な馬に乗れるなんて、嬉しい!」
レナは、あまり見たことのない大型の馬に、心を奪われた。
カイはその様子が分かると、
「ご存じかもしれないが、馬は人の言葉を理解するし、人間関係を観察して主従関係や社会を作る。こちらの黒い馬が『クロノス』で栗色の馬が『ウレア』だ。従兄弟同士で、馬同士の相性も良い」
とレナに説明した。
その説明の間、カイはクロノスのたてがみの根元にブラシを入れていたが、クロノスは左右の耳を器用に動かしながらレナを見て、カイの話をじっと聞いているようだった。
「綺麗な目。クロノスに触れても良い?」
レナは黒くて艶のある美しい瞳をしたクロノスをじっと見つめる。
「顔周りは少し苦手な奴だから、触れるなら身体にしてやってくれ」
カイはブラシを止め、レナを自分の脇に呼んだ。
「分かった」
レナはクロノスの前足の付け根から背中にかけて、少し強めに身体を叩くように触れる。クロノスは嬉しそうに後ろ脚をバタバタさせて鼻を鳴らしていた。
「気に入られたようだな」
カイはレナに声を掛けた後、サーヤの持っていた荷物をクロノスとウレアに器用にロープで括り付け、
「前はそこまで揺れないはずだが、道がそれなりに険しい場所もありそうだから落馬しないよう気を付けろよ」
と当たり前のように言い放つ。
それを聞いたサーヤは途端に青くなったが、
「大丈夫よ!私に寄りかかってもらえれば」
とサラが大きな口を開け、得意そうにサーヤに言った。
「私……こんな素敵な馬に乗って出かけられるなんて、夢みたい」
レナは、カイの愛馬に乗れることが嬉しくてたまらない様子だ。
「ほんと、ここのお姫様ってば度胸があるわね。落馬しないでよ」
サラは、全く臆することなくクロノスを見つめるレナに笑った。
「気を付けるわね」
レナは上機嫌だ。
サラとカイがそれぞれ馬にまたがると、馬上から手を差し伸べてレナ、サーヤを自分たちの座っている前に座らせる。
「高い……!」
サーヤが下を見ながら恐怖に怯えたが、目の前にカイがいてレナと密着している様子が目に入ると、そちらに目を奪われ、他のことが気にならなくなってしまった。
「ねえ、これからどの位の時間、馬で移動するの?」
レナは完全にカイに包まれる形になって身体を密着させながら、すぐ後ろのカイに尋ねる。
「まずは2時間程度走らせて、様子を見ながらところどころ休憩を入れるつもりだ」
カイの声が頭の上から聞こえて来る状況に、レナは動揺した。
悪いことをしているわけではないのに、密着して包まれているような距離感と状況に、これで良いのだろうかと鼓動が早くやかましく打っている。
(カイは私の護衛なんだから、良いんだろうけど……)
身体を寄せ合う状況になっていることに、レナはどうしようもなく後ろめたい気持ちが襲って来る。
この状況を、まるで当たり前のようにしているカイが信じられなかった。
「2時間で、どの位進めそうなの?」
レナはなるべく考えないようにカイに尋ねた。
「ところどころ速歩(※馬の走り方のこと)を使って行きたい。最初の村には到着できるはずだ」
カイはそう言って、手綱を一旦張ってサラの方を確認した。
サラも同じ姿勢を取っているのを目視すると、
「じゃあ、出発するぞ!」
と声を張り上げて手綱を緩め、かかとでクロノスの腹を蹴る。
クロノスは主人の声と合図に答えてゆっくり歩き始め、ピンと立った耳を左右に動かしていた。
レナは馬上の光景に心を躍らせながら、
「カイ、クロノスはとても賢いわね!」
と喜ぶ。カイは、はしゃぎすぎてうっかり落馬でもされたらたまらないと焦り、片手で手綱を握って片手でレナの身体を抱えた。
レナはカイに後ろから抱きしめられる形になってしまったことに大いに動揺する。
これは一体どういう状況だろうかと軽く混乱していた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。
彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました!
裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。
※2019年10月23日 完結
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる
柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった!
※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる