187 / 221
the 29th day 甘やかし
しおりを挟む
「ああ、気が付いたか」
レナが目を覚ますと、目の前にカイの顔がある。いつの間にか倒れて抱きかかえられていたらしい。レナは驚いて身体を起こすと、教会前の階段に腰かけたカイの腕の中にいた。
「大丈夫ですか、レナ様……」
サーヤが心配そうにレナを見つめていた。サラもサーヤの隣でハラハラしている。
「あ……私……。術の使い過ぎと母様のことで、気を失ったのね」
レナは自分を抱えていたカイに、
「あなたには、本当に助けられてばかりね」
と笑う。カイは、そのレナを見て困ったような顔をしていた。
レナは、少し離れた場所にいるレオナルドの姿に向かって、
「さっきは責めてしまってごめんなさい。レオナルドにも、助けられていたのかしらね」
と声を掛ける。
「別に……僕はあなたのためになることは、何もしていませんよ」
レオナルドはそう言って横を向いていた。
「素直じゃないな」
カイがそう言ってレオナルドをからかうと、
「うるさいなあ、ハウザーさんはいちいち男前で気に入らないんですよ」
とレオナルドはぶつぶつ文句を言っている。
「城に戻る前に、休まなくて大丈夫か? どこかで1泊しておいた方が良いと思うんだが……」
カイがレナの身体を気遣った。
レナは、ずっと抱きかかえられたままでいることに、くすぐったさを感じる。
「どうかしら……。早く帰りたい気もするけど、さっき倒れたばかりだから自信がないわ。慣れない術を使ったし、自分で思ったよりも消耗しているのかもしれない」
レナが不安そうに言ったのを、カイは「そうか」とだけ返事をした。カイは立ち上がってレナを抱きかかえたまま歩き出す。
「ちょっと……カイ」
全員に見られている中、いわゆる「抱っこ」をされている恥ずかしさでレナは真っ赤になった。
カイの体格に比べて小柄なレナは、子どものように軽々と持ち上げられてしまう。
「無理をするな。もう少し、護衛に甘えることも覚えておけ」
カイは小さな声でレナに囁いた。
「!!」
その瞬間、レナの顔は真っ赤に紅潮し、何も言えなくなってしまう。
「サラ、サーヤ殿、殿下を休ませることにした。適当に時間を潰しておいてくれ」
カイがあっけに取られているサラとサーヤにそう言うと、
「分かったけど、団長はどこに行くつもり?」
とサラは大きな声でカイに尋ねた。
「宿で寝かしつける。どうせここ数日まともに眠れていなかったんだ。少し休んでおいた方がいいだろう」
カイがそう言うと、レオナルドと近衛兵たちは、
「じゃあ、もう解散ですね。こっちはこっちでやることがあるんで」
と別行動に移ることにしたようだった。
レナは、すぐ側にあるカイの顔をまともに見ることができずにいる。嬉しくてたまらないのと、恥ずかしいのとで、相変わらず顔は赤いままだ。
サーヤはレナを運ぶカイを眺めながら、
「サラさん、私もハウザー様みたいな護衛が欲しいです……」
と羨望の視線を送っていた。
「いやだからさ、今はちょっと格好よく見えるかもしれないけど、団長ってそんなに、アレよ?」
サラはそう言ってサーヤの目を覚ませようとしたが、サーヤの耳には届いていない。
「ねえ、カイ」
レナは勇気を振り絞ってカイに声を掛ける。
「甘えるって、どうやったらいいかしら? 私、今、すごく……あなたに甘えるってことをやってみたいの」
レナの意外な言葉に、カイは穏やかに笑う。
「そうだな、いつもは出来ることを、あえてやらずに済むように命令してくれればいい。今は、歩けないから運べ、が甘えだとすれば、簡単だろ」
「それって……食事を食べさせてもらったり、寝かしつけてもらったり?」
レナは、信じられずにカイの表情を窺う。
「王女殿下の仰せのままに」
カイはそう言って得意気な顔で笑った。
レナが目を覚ますと、目の前にカイの顔がある。いつの間にか倒れて抱きかかえられていたらしい。レナは驚いて身体を起こすと、教会前の階段に腰かけたカイの腕の中にいた。
「大丈夫ですか、レナ様……」
サーヤが心配そうにレナを見つめていた。サラもサーヤの隣でハラハラしている。
「あ……私……。術の使い過ぎと母様のことで、気を失ったのね」
レナは自分を抱えていたカイに、
「あなたには、本当に助けられてばかりね」
と笑う。カイは、そのレナを見て困ったような顔をしていた。
レナは、少し離れた場所にいるレオナルドの姿に向かって、
「さっきは責めてしまってごめんなさい。レオナルドにも、助けられていたのかしらね」
と声を掛ける。
「別に……僕はあなたのためになることは、何もしていませんよ」
レオナルドはそう言って横を向いていた。
「素直じゃないな」
カイがそう言ってレオナルドをからかうと、
「うるさいなあ、ハウザーさんはいちいち男前で気に入らないんですよ」
とレオナルドはぶつぶつ文句を言っている。
「城に戻る前に、休まなくて大丈夫か? どこかで1泊しておいた方が良いと思うんだが……」
カイがレナの身体を気遣った。
レナは、ずっと抱きかかえられたままでいることに、くすぐったさを感じる。
「どうかしら……。早く帰りたい気もするけど、さっき倒れたばかりだから自信がないわ。慣れない術を使ったし、自分で思ったよりも消耗しているのかもしれない」
レナが不安そうに言ったのを、カイは「そうか」とだけ返事をした。カイは立ち上がってレナを抱きかかえたまま歩き出す。
「ちょっと……カイ」
全員に見られている中、いわゆる「抱っこ」をされている恥ずかしさでレナは真っ赤になった。
カイの体格に比べて小柄なレナは、子どものように軽々と持ち上げられてしまう。
「無理をするな。もう少し、護衛に甘えることも覚えておけ」
カイは小さな声でレナに囁いた。
「!!」
その瞬間、レナの顔は真っ赤に紅潮し、何も言えなくなってしまう。
「サラ、サーヤ殿、殿下を休ませることにした。適当に時間を潰しておいてくれ」
カイがあっけに取られているサラとサーヤにそう言うと、
「分かったけど、団長はどこに行くつもり?」
とサラは大きな声でカイに尋ねた。
「宿で寝かしつける。どうせここ数日まともに眠れていなかったんだ。少し休んでおいた方がいいだろう」
カイがそう言うと、レオナルドと近衛兵たちは、
「じゃあ、もう解散ですね。こっちはこっちでやることがあるんで」
と別行動に移ることにしたようだった。
レナは、すぐ側にあるカイの顔をまともに見ることができずにいる。嬉しくてたまらないのと、恥ずかしいのとで、相変わらず顔は赤いままだ。
サーヤはレナを運ぶカイを眺めながら、
「サラさん、私もハウザー様みたいな護衛が欲しいです……」
と羨望の視線を送っていた。
「いやだからさ、今はちょっと格好よく見えるかもしれないけど、団長ってそんなに、アレよ?」
サラはそう言ってサーヤの目を覚ませようとしたが、サーヤの耳には届いていない。
「ねえ、カイ」
レナは勇気を振り絞ってカイに声を掛ける。
「甘えるって、どうやったらいいかしら? 私、今、すごく……あなたに甘えるってことをやってみたいの」
レナの意外な言葉に、カイは穏やかに笑う。
「そうだな、いつもは出来ることを、あえてやらずに済むように命令してくれればいい。今は、歩けないから運べ、が甘えだとすれば、簡単だろ」
「それって……食事を食べさせてもらったり、寝かしつけてもらったり?」
レナは、信じられずにカイの表情を窺う。
「王女殿下の仰せのままに」
カイはそう言って得意気な顔で笑った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。
彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました!
裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。
※2019年10月23日 完結
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる
柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった!
※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる