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5章
エピローグ
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この帝国には死神伯と呼ばれた男がいる。
戦場に出れば黒みを帯びた髪を黒い血液まみれにしながら辺りを血の海にする武人で、ひとたび銀色の恐ろしい目に睨まれた者は金縛りにあったように動けなくなると言われた。
本名、ユリシーズ・オルブライト。
戦場で出会うと生きて帰れないという噂から、死神伯という名で呼ばれ、そちらの方が有名になった。
ただ、彼の本性が人狼族の族長であることや、夜になるとふさふさの黒い尻尾とよく動く耳が生えることは知られていない。
人狼はひとりの伴侶を愛し抜く特性があり、生涯を通して愛妻家である……なんてことも、人狼族のみが知る事実だ。
「ユリシーズ!!」
私がどこから叫んでも、彼は駆け付けてくれる。
「アイリーン!!」
何かあったのだと思ったらしく、ユリシーズはすぐにバルコニーに現れた。
扉を開けて迎え入れると、ソワソワとしながら私の方をうかがっている。
「さて、何があったでしょうか?」
「ええっ!? そこでクイズなのですか??」
戸惑うユリシーズを見て、驚かせたい気持ちがふつふつと湧いてしまう。
どんな反応をするかしら?
「私……実は、禁酒しなくてはいけなくなったの」
ぱあっと目を輝かせたユリシーズが、私を抱き上げようとして「いや、ダメですね」と固まった。
思い直したように私の頬に頬を寄せ、「それでは、これから私も禁酒にします」と声を震わせる。
冷たいものを感じて離れると、ユリシーズは泣いていた。
「どうして泣いているの?」
「感動して……夢だったので」
そう言いながらぐすぐすと泣くユリシーズに「これから私たち、もっともっと幸せになれるわ」と頭をよしよししてあげても、嬉し泣きは止められない。
自分は死神伯と呼ばれた男だからと、人生を復讐に使おうとしていた人だったけれど。
本当はとても愛情深くて、身内を守る、優しい人なのだと知った。
なかなか泣き止まないユリシーズの頭を撫で続けていると、黒い耳が二つ、ぴょこっと左右に動く。たったいま、日が暮れたらしい。
「アイリーン、幸せ過ぎて怖くなってきたんだが……」
ぼそりと、夜のユリシーズが不安そうに呟く。
「そう? 私は楽しみよ」
「俺だって楽しみだ。でも、こんな幸せなことって起きていいのか?」
にこりとうなずくと、ユリシーズは大粒の涙を零した。
この人と出会ってから、日常の幸せを知り、嬉しくて泣くということを理解できるようになった。
かけがえのない毎日は奇蹟でできている。
部屋でそんなことを噛みしめていると廊下側がざわざわと騒がしくなっていた。
どうしたのかしらと扉を開けに行くと、人狼の使用人たちが各々の手に1本ずつ小さな野花を持ち、尻尾をフリフリと揺らしながら立っている。
ウィルの隣にはエイミーの姿もあった。
「おめでとうございます!!」
人狼たちは耳がいい。私たちの会話を聞いて、すぐに駆け付けてくれたらしい。
こういう時に私がみんなを優先すると、必ずと言っていいほどユリシーズは拗ねてしまうのだけれど。
「今日は許す! アイリーンを祝ってやってくれ!」
泣き顔のユリシーズがそう言って許可を出したので、使用人が一斉に私に飛びついてきた。
それぞれが手にしていたタンポポやシロツメクサ、すみれなどが私の髪やドレスに付いて、みんなのふわふわの耳が当たる。
くすぐったくて嬉しくて、声をあげて笑った。
「奥様あああ!!」
「オルブライト伯爵家!! バンザーイ!!」
「まだだってば……気が早いわ」
これは、私、アイリーンが、身代わり姫として人狼族の伯爵に嫁ぎ……人狼のみんなに囲まれて、幸せに暮らすまでのお話。
ユリシーズ・オルブライトは死神伯と呼ばれていたけれど、かわいい私の旦那様だ。
「ほらほら、みんな、落ち着いて。ユリシーズはもう泣かないで」
「……余韻に浸っていたい」
「そう。なら、もう少しこのままでいる?」
みんなを剥がしてひとりで私を抱きしめて泣くことにしたらしいユリシーズに、これからもたくさんの幸せを知っていってもらえたらと願う。
私抜きでは生きていけないような夫だけれど、それはきっと私も同じ。
昼も夜も、あなたを愛してる。
<Fin.>
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
2024.2.29 碧井夢夏
戦場に出れば黒みを帯びた髪を黒い血液まみれにしながら辺りを血の海にする武人で、ひとたび銀色の恐ろしい目に睨まれた者は金縛りにあったように動けなくなると言われた。
本名、ユリシーズ・オルブライト。
戦場で出会うと生きて帰れないという噂から、死神伯という名で呼ばれ、そちらの方が有名になった。
ただ、彼の本性が人狼族の族長であることや、夜になるとふさふさの黒い尻尾とよく動く耳が生えることは知られていない。
人狼はひとりの伴侶を愛し抜く特性があり、生涯を通して愛妻家である……なんてことも、人狼族のみが知る事実だ。
「ユリシーズ!!」
私がどこから叫んでも、彼は駆け付けてくれる。
「アイリーン!!」
何かあったのだと思ったらしく、ユリシーズはすぐにバルコニーに現れた。
扉を開けて迎え入れると、ソワソワとしながら私の方をうかがっている。
「さて、何があったでしょうか?」
「ええっ!? そこでクイズなのですか??」
戸惑うユリシーズを見て、驚かせたい気持ちがふつふつと湧いてしまう。
どんな反応をするかしら?
「私……実は、禁酒しなくてはいけなくなったの」
ぱあっと目を輝かせたユリシーズが、私を抱き上げようとして「いや、ダメですね」と固まった。
思い直したように私の頬に頬を寄せ、「それでは、これから私も禁酒にします」と声を震わせる。
冷たいものを感じて離れると、ユリシーズは泣いていた。
「どうして泣いているの?」
「感動して……夢だったので」
そう言いながらぐすぐすと泣くユリシーズに「これから私たち、もっともっと幸せになれるわ」と頭をよしよししてあげても、嬉し泣きは止められない。
自分は死神伯と呼ばれた男だからと、人生を復讐に使おうとしていた人だったけれど。
本当はとても愛情深くて、身内を守る、優しい人なのだと知った。
なかなか泣き止まないユリシーズの頭を撫で続けていると、黒い耳が二つ、ぴょこっと左右に動く。たったいま、日が暮れたらしい。
「アイリーン、幸せ過ぎて怖くなってきたんだが……」
ぼそりと、夜のユリシーズが不安そうに呟く。
「そう? 私は楽しみよ」
「俺だって楽しみだ。でも、こんな幸せなことって起きていいのか?」
にこりとうなずくと、ユリシーズは大粒の涙を零した。
この人と出会ってから、日常の幸せを知り、嬉しくて泣くということを理解できるようになった。
かけがえのない毎日は奇蹟でできている。
部屋でそんなことを噛みしめていると廊下側がざわざわと騒がしくなっていた。
どうしたのかしらと扉を開けに行くと、人狼の使用人たちが各々の手に1本ずつ小さな野花を持ち、尻尾をフリフリと揺らしながら立っている。
ウィルの隣にはエイミーの姿もあった。
「おめでとうございます!!」
人狼たちは耳がいい。私たちの会話を聞いて、すぐに駆け付けてくれたらしい。
こういう時に私がみんなを優先すると、必ずと言っていいほどユリシーズは拗ねてしまうのだけれど。
「今日は許す! アイリーンを祝ってやってくれ!」
泣き顔のユリシーズがそう言って許可を出したので、使用人が一斉に私に飛びついてきた。
それぞれが手にしていたタンポポやシロツメクサ、すみれなどが私の髪やドレスに付いて、みんなのふわふわの耳が当たる。
くすぐったくて嬉しくて、声をあげて笑った。
「奥様あああ!!」
「オルブライト伯爵家!! バンザーイ!!」
「まだだってば……気が早いわ」
これは、私、アイリーンが、身代わり姫として人狼族の伯爵に嫁ぎ……人狼のみんなに囲まれて、幸せに暮らすまでのお話。
ユリシーズ・オルブライトは死神伯と呼ばれていたけれど、かわいい私の旦那様だ。
「ほらほら、みんな、落ち着いて。ユリシーズはもう泣かないで」
「……余韻に浸っていたい」
「そう。なら、もう少しこのままでいる?」
みんなを剥がしてひとりで私を抱きしめて泣くことにしたらしいユリシーズに、これからもたくさんの幸せを知っていってもらえたらと願う。
私抜きでは生きていけないような夫だけれど、それはきっと私も同じ。
昼も夜も、あなたを愛してる。
<Fin.>
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
2024.2.29 碧井夢夏
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