潮騒サンセットロード

内野蓉(旧よふ)

文字の大きさ
7 / 87
第一章

04

しおりを挟む

 大人の男が狭いバスルームに二人も入ると、余計に空間が窮屈に感じる。
 体が冷えたのか、洋太がくしゃみをしたのを見て、順平は疼いて仕方ない下半身を気合いでこらえている様子は微塵も見せず、先に湯舟に入っているように促した。
 洋太はユニットバスの浅い湯船で体を低くしてあごまでお湯につかると、シャワーを浴びる順平の見事な逆三角形の半身を見上げる形になった。 
 くっきりと割れた筋肉が歴史の教科書で見た西洋の彫刻みたいで、水がしたたる姿は芸術的ですらある。
 その完璧な造形はいつも組み敷かれている側から見ても惚れ惚れするようでもあり、同じ男としては細身の部類に入る洋太にとってはうっすら嫉妬心を掻き立てられるようでもあった。
「ちぇ。オレも、もっと頑張って筋トレしようかな……やってもあんまり太くならないんだけどさ、腕とか……」
「やめとけ……お前はそのままでちょうどいいんだ」
「えー? ……でも、なんかくやしいなあ」
 お湯のせいだけでなく顔を赤くしながら、洋太が今更ながらまじまじと順平の裸体を眺めていると、それに気づいた順平が面白そうに、自分の鍛え抜かれた大胸筋をとん、と親指で指さしながら声を掛けて来た。
「……そんなに興味があるなら、触ってみたらどうだ?」
 図星をさされて、思わず真っ赤になる洋太。
「興味って……! べ、別にそういうわけじゃ……」
 そこで、ふと思い直し
(……でも、確かにちょっと触ってはみたい、かも……)
 洋太はユニットバスの浴槽のへりに膝立ちになると、おずおずと指先で順平の腹筋に触れてみた。 
(お、力入ってない時は意外と柔らかいんだな……)
 そのままつーっと筋肉の凹凸に沿って指を滑らせて行くと、胸筋の下側から赤銅色の突起に近づいたあたりで相手の皮膚がかすかに震えるのがわかった。
「……あ……」
 目を伏せたまま、聞こえるか聞こえないかくらいの低いあえぎ声を漏らした順平に、軽く驚く洋太。
(うわ……こいつも、こんなセクシーな声出したりするんだ……やべえ可愛い)
 急にいたずら心が湧いて来た洋太、滅多にない機会にもうちょっと順平の体で遊んでみたくなってきた。
(いつもオレばっかり散々イカされて喘がされてるんだ、たまにはこいつにも――)
 大胆になった洋太が身を乗り出して順平の胸筋に唇を這わせると、ビクッビクッという皮膚の震えがいっそう大きくなった。相手が感じているという客観的な事実が嬉しくて、もっと顔を近づける洋太。
 浴槽のへりに片膝立ちのままで体重を順平のほうにあずけて、危うくバランスを崩しそうになっている。
 と、いきなり体が浮きあがった感じがして驚いて顔を向けると、両脇に手を突っ込んで洋太の体を軽々と持ちあげた順平が、洋太を見上げながら頬を紅潮させて、少し意地の悪い笑みを浮かべている。
「残念だな、サービスタイムはここまでだ。後はこっちのターン」
「あっ? ずりーぞ順平っ!」
「黙れ。あんまりイタズラしてるとお仕置きするぞ……」
 狩りの獲物よろしく肩に抱え上げられて、そのまま浴槽に運び込まれる洋太。 
 こういうことを期待していたわけではないが、ワンルームのわりに浴槽サイズはゆとりのある物件を選んだので、大人の男が二人で入ってもお湯が溢れるだけで特に問題はない。
 下側になった順平の腹の上に半ば仰向けで寝そべる格好になった洋太は、自分の胴に回された鋼鉄みたいな両腕に抱きすくめられている格好だった。順平の筋肉どころか、顔さえも見えないので戸惑う洋太。
「な、なに……お仕置きとかって、冗談だろ……?」
「どうかな、お前の態度による。こっちは散々焦らされたんだからな」
「えっ……? あ、やだ……そこ……っ……」
 さわさわと順平の両手が腹から脇を滑って、後ろから洋太の両胸の淡いピンク色の突起を柔く刺激し始めた。 
 風呂で温まってただでさえ感じやすくなっている体に、指先で円を描くようにじわりと中心に向かうにつれて敏感な箇所をこする力が強くなる。
「ん……あっ……順、平ぇ……」
 胸から電流のように下半身、そして全身に広がる快感に蕩けたような表情で、洋太は早くも潤んだ目を宙にさまよわせた。いつもなら熱い目線を絡ませ合う恋人が正面にいないので、どことなく不安になる。
「順平……顔っ、見えない、と……っ、なんか、オレ……ああ……あんっ」
「どうした洋太? オレはここにいるぞ……」
 耳元に口を寄せて、順平がいつになくセクシーな低音で囁く。 
 その鼓膜を震わせる甘い声と、さっきから絶え間なく両方のしこった突起に加えられるピンッ、ピンッと爪弾くような刺激、さらに腰を下から押し上げてくる熱く硬い脈動のせいで、洋太は体中が火照ってぐずぐずに溶けてしまいそうな気がした。
 洋太が強すぎる快感に身をよじるたびに浴槽のお湯がばちゃんっと跳ねて溢れ、開きっぱなしの口からは涎が細い糸になって口の端から垂れる。 
 獣のような笑みを浮かべた順平がそれを舌で舐めとって、そのまま顎から首筋へと美味そうに唇を這わせていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

今度こそ、どんな診療が俺を 待っているのか

相馬昴
BL
強靭な肉体を持つ男・相馬昴は、診療台の上で運命に翻弄されていく。 相手は、年下の執着攻め——そして、彼一人では終わらない。 ガチムチ受け×年下×複数攻めという禁断の関係が、徐々に相馬の本能を暴いていく。 雄の香りと快楽に塗れながら、男たちの欲望の的となる彼の身体。 その結末は、甘美な支配か、それとも—— 背徳的な医師×患者、欲と心理が交錯する濃密BL長編! https://ci-en.dlsite.com/creator/30033/article/1422322

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

処理中です...