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第一章
04
しおりを挟む大人の男が狭いバスルームに二人も入ると、余計に空間が窮屈に感じる。
体が冷えたのか、洋太がくしゃみをしたのを見て、順平は疼いて仕方ない下半身を気合いでこらえている様子は微塵も見せず、先に湯舟に入っているように促した。
洋太はユニットバスの浅い湯船で体を低くしてあごまでお湯につかると、シャワーを浴びる順平の見事な逆三角形の半身を見上げる形になった。
くっきりと割れた筋肉が歴史の教科書で見た西洋の彫刻みたいで、水がしたたる姿は芸術的ですらある。
その完璧な造形はいつも組み敷かれている側から見ても惚れ惚れするようでもあり、同じ男としては細身の部類に入る洋太にとってはうっすら嫉妬心を掻き立てられるようでもあった。
「ちぇ。オレも、もっと頑張って筋トレしようかな……やってもあんまり太くならないんだけどさ、腕とか……」
「やめとけ……お前はそのままでちょうどいいんだ」
「えー? ……でも、なんかくやしいなあ」
お湯のせいだけでなく顔を赤くしながら、洋太が今更ながらまじまじと順平の裸体を眺めていると、それに気づいた順平が面白そうに、自分の鍛え抜かれた大胸筋をとん、と親指で指さしながら声を掛けて来た。
「……そんなに興味があるなら、触ってみたらどうだ?」
図星をさされて、思わず真っ赤になる洋太。
「興味って……! べ、別にそういうわけじゃ……」
そこで、ふと思い直し
(……でも、確かにちょっと触ってはみたい、かも……)
洋太はユニットバスの浴槽のへりに膝立ちになると、おずおずと指先で順平の腹筋に触れてみた。
(お、力入ってない時は意外と柔らかいんだな……)
そのままつーっと筋肉の凹凸に沿って指を滑らせて行くと、胸筋の下側から赤銅色の突起に近づいたあたりで相手の皮膚がかすかに震えるのがわかった。
「……あ……」
目を伏せたまま、聞こえるか聞こえないかくらいの低いあえぎ声を漏らした順平に、軽く驚く洋太。
(うわ……こいつも、こんなセクシーな声出したりするんだ……やべえ可愛い)
急にいたずら心が湧いて来た洋太、滅多にない機会にもうちょっと順平の体で遊んでみたくなってきた。
(いつもオレばっかり散々イカされて喘がされてるんだ、たまにはこいつにも――)
大胆になった洋太が身を乗り出して順平の胸筋に唇を這わせると、ビクッビクッという皮膚の震えがいっそう大きくなった。相手が感じているという客観的な事実が嬉しくて、もっと顔を近づける洋太。
浴槽のへりに片膝立ちのままで体重を順平のほうにあずけて、危うくバランスを崩しそうになっている。
と、いきなり体が浮きあがった感じがして驚いて顔を向けると、両脇に手を突っ込んで洋太の体を軽々と持ちあげた順平が、洋太を見上げながら頬を紅潮させて、少し意地の悪い笑みを浮かべている。
「残念だな、サービスタイムはここまでだ。後はこっちのターン」
「あっ? ずりーぞ順平っ!」
「黙れ。あんまりイタズラしてるとお仕置きするぞ……」
狩りの獲物よろしく肩に抱え上げられて、そのまま浴槽に運び込まれる洋太。
こういうことを期待していたわけではないが、ワンルームのわりに浴槽サイズはゆとりのある物件を選んだので、大人の男が二人で入ってもお湯が溢れるだけで特に問題はない。
下側になった順平の腹の上に半ば仰向けで寝そべる格好になった洋太は、自分の胴に回された鋼鉄みたいな両腕に抱きすくめられている格好だった。順平の筋肉どころか、顔さえも見えないので戸惑う洋太。
「な、なに……お仕置きとかって、冗談だろ……?」
「どうかな、お前の態度による。こっちは散々焦らされたんだからな」
「えっ……? あ、やだ……そこ……っ……」
さわさわと順平の両手が腹から脇を滑って、後ろから洋太の両胸の淡いピンク色の突起を柔く刺激し始めた。
風呂で温まってただでさえ感じやすくなっている体に、指先で円を描くようにじわりと中心に向かうにつれて敏感な箇所をこする力が強くなる。
「ん……あっ……順、平ぇ……」
胸から電流のように下半身、そして全身に広がる快感に蕩けたような表情で、洋太は早くも潤んだ目を宙にさまよわせた。いつもなら熱い目線を絡ませ合う恋人が正面にいないので、どことなく不安になる。
「順平……顔っ、見えない、と……っ、なんか、オレ……ああ……あんっ」
「どうした洋太? オレはここにいるぞ……」
耳元に口を寄せて、順平がいつになくセクシーな低音で囁く。
その鼓膜を震わせる甘い声と、さっきから絶え間なく両方のしこった突起に加えられるピンッ、ピンッと爪弾くような刺激、さらに腰を下から押し上げてくる熱く硬い脈動のせいで、洋太は体中が火照ってぐずぐずに溶けてしまいそうな気がした。
洋太が強すぎる快感に身をよじるたびに浴槽のお湯がばちゃんっと跳ねて溢れ、開きっぱなしの口からは涎が細い糸になって口の端から垂れる。
獣のような笑みを浮かべた順平がそれを舌で舐めとって、そのまま顎から首筋へと美味そうに唇を這わせていった。
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