もっと「えんじぇる おぶざ~ば~」

蒼上愛三(あおうえあいみ)

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守りたいもの護るべきもの

ムネモシュネの残響

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 「あー、面倒くさいですねー。戻ってきたら戻ってきたで、あの子にはこき使われてますしー。うざったいです。はい、次々と行きなさい。ここもそろそろ終わりなんですから」
「あの~、私はいつまで盾役をしてればいいのでしょうか」
「終わるまでですよー。脳みそ人間なんですか?ああ、あなた人間でしたねー」
「はあー」
 呑気に会話をしているようだが、彼女たちは会話の他は戦闘に集中している。意識はお互いに向けているのに、体はどういうわけか敵を押しのけ、霧散させていく。
 ムネモシュネはもともと天使を使役することを得意としているため、会話しながらでも別の作業が出来るのは、語るまでもないが、北東水季きたがしみずき彼女に関しては驚きを禁じ得ない。
 アテナとの同調率が良いのか、超人としては目を見張る性能を発揮している。
 人と神とが融合することがどれほど危険かが窺える。俺の記憶ではもう少し、シンプルなデザインの盾だと思っていたが、おそらく水季のイメージを掛け合わせた結果、現代的な、そうSF的な独特のフォルムの盾、いや装甲板だなアレは。
 ともかく、非常に防御力もさることながら、攻撃力を通り越して殺傷力の高そうな高性能かつ多機能な決戦兵器を創造してしまっている。
「そういえば、アテナって槍持ってるんじゃないんですか」
「はい、そうなんですけど、その、なんと言いますか」
「はっきり言いなさい」
「は、はいっ!そのですね。槍は強すぎるから私が扱うと、私の体が自壊するそうです」
「はぁあ?槍の使えないアテナなんて、壁にしかならないじゃない」
「だからですかね、この盾いろいろと仕掛けがあるみたいなんですよ」
 えいっ。と盾の持ち手にある四つのトリガーのうちの一つを引くと、盾の表面が割れて、禍々しい光線を放つ。
たちまち直線上の黒騎士たちは、石化し以降ピクリとも動かなくなった。
「・・・メドューサの瞳ですか」
「コッチはなんでしょうか、えい」
 盾は変形し剛鉄の翼が形成される。
「あー、だからここに背負うためのバンドがあるんですね」
 水季は早速盾を背負うと鎧と盾が金属音を立て一体化する。
「マッハで飛べるんじゃないんですか?」
「そうですね。それ・・・・・」
 水季の声を遠くに聞くムネモシュネは「すごー」と感嘆を自然と漏らしていた。
 ムネモシュネの隣にいた天使もつられて空を見上げている。
「あれ、追いつける」
「無理だねぇ」
「あー、無理だな」
「マスター、敵は大分減ってきたみたい」
「マスター、エネルギー補給を推奨します」
「たーまーやーってこの国では言うんだっけこいう時」
「さあ、でもまだ破裂してないから」
「あっなんか光った」
 天使の一同は「「おお~お」」などと呑気に水季が放ったであろう光に感動する。
「風流ですなぁ」
「いやまだ、春だし」
 ムネモシュネはやれやれと、天使を元の本に返していくのだった。

 一方水季は、飛び上がったのは良かったが、そこは敵の真っ只中だった。
「敵がいっぱいいるよぉ~」
 盾を背負うのをやめた水季は、自由落下に入る。しかし勝手に盾の握る手に力が入ると残った二つのトリガーを引いていた。盾はまた開きメドゥーサの瞳が露わになると、開いた両側のパーツの蓋がさらに開く。出てきたのは鏡で、水季は家にある洗面台の三面鏡のようだと思った。
 そして四つ目のトリガーの効果はメドゥーサの瞳にモザイクカバーをかけるものらしく。カバーのかかった瞳が石化の光線を放つと、カバーを通り抜けるときに乱反射し、それらがさらに鏡に反射する。無軌道に反射した光線は水季の頭上の敵に次々と当たり、そしてその光景が終了する頃、これまた何故か石化した黒騎士は爆発し霧散していった。
「たーまーやー。かーぎーやー」
 水季もまたふざけて見せるのである。
「よっと、とうーちゃーく」
「下はとっくに片付いちゃいましたよ」
「そう見たいですね」
 ムネモシュネは、脱力するように瓦礫に座り込む。その隣でガツンと重鈍な音を立てて盾を大地に突き立てた水季が、頬を盾に載せ突っ伏する。
 春の風が二人の髪を背後から撫でて行った。
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