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ワンハンドレッド
いちまるまる
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あるところに私がいました。
「ねぇ、コイオスちゃん。買い物に付き合ってくれない」
と真理亜様が、手を合わせて私にお願いするので、私は快くお供することにしたのです。彼女と2人きりで外出するのは、初めての事ではありませんでした。クリオスは、姉様の通う学校を覗きに行っては、よく2人で帰宅するのが、最近の習慣でした。なので、自動的に私と真理亜様が家に先に帰って来ているのが常でしたので、夕食の買い出しや部屋の片付けなど、2人ですることがよくありました。真理亜様が言うには、コイオスはインドア派と言う者で、クリオスはアウトドア派らしいのです。しかし、まあこの家を昼間だからと言って、もぬけの殻にする事は、できません。ですから私は、若様宅の警備要員として、止まっていました。
「大丈夫だよ。ヒルデさんも、そろそろ帰ってくるだろうし、それに日本は平和だよ」
「はい。ですが万一の事も・・・」
「コイオスちゃんは、心配性ね。ほんとに大丈夫だよ」
真理亜様は、私の言葉を遮って説得しようとします。
「その根拠は」
「こんきょ?・・・だって大切なものはみんな叔父さんの仕事場にあるのよ」
はぁー。やはり、危険です。大丈夫な根拠をこんなにもあさっりとお話になられてしまうだなんて。
「どうしても、このコイオスを連れて行くと言うのなら、しばしお待ちを」
私は、この家の周りに結界を張る。この結界に侵入した者は、その者が1番恐れているものに追われるという幻覚を見ることになる。
作業を終えて、私はついでに人間界で身につけている服を着て玄関へ向かった。
「お待たせしました。それでは、行きましょうか」
私たちは、バスに乗って都心へとやって来た。家を出てから20分が経つ頃ようやくバスから降りると、すぐ目の前の店に真理亜様は、スタスタと入ってしまわれた。遅れまいとすかさず私も店の中に入って行く。
「真理亜様、いったいここに何を買いに・・・」
「えっと、籠と箒とバケツと・・・まあいろいろかな」
「そんなにたくさん買うとお値段が、いささか大噴火状態に溢れてしまうのでは」
「あははは、ナイナイ」
「・・・」
真理亜様は、声を上げて笑いなさる。そして、人差し指を立ててこちらに向き直ると、
「ここでは、ほとんどの商品が100円で買えるのよ。だからこれも100円なの」
真理亜様は、ガラスの器を手に取って値札をひらひらさせる。なんと、こんな綺麗なガラス細工も100円とわ、
「ではあちらの刃物も」
「もちろん、100円よ」
私の背筋に、衝撃が走ったのです。100円というこの国で、最もタダの次に好まれること間違いなしの値段設定。並びにワンコインという響きも良し、なんということでしょう。商品の材質が決して悪いものでもない、いたって普通の材料を使っている筈なのに、この利益を全く求めていないかのような安定した品質と価格を実現し得る秘密とはなんなのでしょう。
「コイオス・・・ちゃん」
「ふふッフハハハハ、あははは」
「大丈夫、コイオスちゃん。ブレないことで有名なコイオスちゃんが、ブレブレ、キャラが定まってないよー」
なんという高揚感、これが、これが、人間の最たる愉悦。
「ああ、高ぶります」
「ねぇ、コイオスちゃん。冷たいものでも食べて頭冷やさない?」
「何を言っているのですか。真理亜殿、まだまだこれからではないですか。この店をじっくりと見聞しなくては、そして改めて聞きますがこの店の名は?」
「100円ショップよ」
「なんと」
100円ショップだとぉ。もしやここにあるものすべてが100円であることを隠そうともしないその自信、傲慢とまで言えるワガママプライス。
「うっ。真理亜様、私少し目眩が」
「やっぱり、どこかで、ひと休みしましょう」
その時、私の目に『刃先取り替えハサミ』という商品が目に飛び込んで来た。パッケージには、《工作、料理、裁縫、その場に応じて刃先をボタン1つで、カンタン交換》と書かれていた。またしても、私は打ちひしがれた。まだ100円ショップは、攻めるというのか、ただ単一の商品などではなく、状況に応じた汎用性、しかもボタン1つで交換ができるときた。ネジを回して着けてまた回す。その作業さへも克服してしまったと言うのか。恐るべき100円ショップ。奥が深い、否、私の考えが浅いと言うのか。
「ハッ」
いけません、いけません。また、取り乱してしまいました。しかし本当に素晴らしい商品ばかりです。
「おーい、コイオスちゃーん」
「心配をおかけしました。もう大丈夫です。軽いカルチャーショックというやつですね」
「へぇー、そうだったの大丈夫ならいいんだよ。私はね。あはは、は、はぁー」
真理亜様は、ヒドくお疲れのようです。早く用事を済ませて帰った方がいいかもしれませんね。
私と真理亜様は、目当ての物を買ってお店を出ることにしました。お会計の後、バス停までの道中私は、奴と出会ってしまったのです。
「なんか喉乾いたなぁ。あっいい所にワンコイン自販機。ラッキー」
真理亜様はポケットから100円を取り出し投入口に入れた。
「この商品も、100円なのですか?」
「うんそうだよ。あっコイオスちゃんも何か飲む」
「では、コーヒーを」
ボタンを押すと、ガタンッという音とともに、商品が取り出し口に出てきた。そして、私はコーヒーの缶のプルトップに指をかけ蓋を開ける。プシュッと圧縮された空気が外界に出て行き、それに続いてコーヒーの香りが、鼻腔をくすぐる。「しかし味はどうでしょうか。たかだか100円の安コーヒー大したことない筈・・・・」・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
こっ、コレハ。
香りだけでなく、コクも深いそれに程よい酸味がまたアクセントとして働き、豊潤な味わいを口の中に広げて行く。これが100円。またしても100円だと言うの。
「あのー、コイオスさん。もしもーしこーいーおーすーさーん」
いいのよ真理亜様、100円であることは恥じゃないわ。そうこれは100円という甘い誘惑、狂おしいほど欲しくなる。100円の罠に人類も神も嵌ってしまうのだわ。
「もー、100円均一なしには、生きてはいけない」
「はい?」
ワンハンドレッドオンリー。画期的なシステムね。これを考えた人間は天才?いいえ、これはカンタンなロジックね。100円ショップも100円自販機も皆、『ワンコイン』という響きと、端数を切り捨てた、簡略化されたお会計システムによって、人間の思考回路を麻痺させているのだわ。こんな事にも気づかないなんて、屈辱を通り越して少し笑えてくるわね。
「あ痛ッ」
誰か頭をチョップされた。気がつくとバスは、横の口を開けて待っている。「早く乗りなさいよね」
振り返ると、そこには姉様とクリオスの姿があった。
「姉様」
「真理亜は、乗っちゃったわよ」
そう言って姉様は先にバスの中に入って行かれた。
「コイオスさっ帰りましょう」
「あっ」
クリオスが私の手を引いてバスの中に連れ込んで、私とクリオスは、2人がけの椅子に隣同士で座った。
「コイオス、真理亜様とのお買い物は楽しかったですか?」
「もちろんよ。クリオス」
「いいなあ、今度はクリオスが連れて言って欲しいのです」
「ふふっなら、姉様のお迎えを交代しますか」
「むー。それもクリオスがしたいですねぇ」
「ふふふ」
「コイオス、何かいいことでもありましたか?」
「別に、なんでもありませんとも」
「あやしいのです」
クリオスは、眉間にシワを寄せて、「むむむー」と私の顔を覗き込んでは、訝しんでいます。そして、私はこう付け加えて言います。
「あったとしても、わたしだけの秘密ですから」
「ああっ、ケチー」
そうです、私はケチなのです。なので、100円ショップが好きになったのです。
「ねぇ、コイオスちゃん。買い物に付き合ってくれない」
と真理亜様が、手を合わせて私にお願いするので、私は快くお供することにしたのです。彼女と2人きりで外出するのは、初めての事ではありませんでした。クリオスは、姉様の通う学校を覗きに行っては、よく2人で帰宅するのが、最近の習慣でした。なので、自動的に私と真理亜様が家に先に帰って来ているのが常でしたので、夕食の買い出しや部屋の片付けなど、2人ですることがよくありました。真理亜様が言うには、コイオスはインドア派と言う者で、クリオスはアウトドア派らしいのです。しかし、まあこの家を昼間だからと言って、もぬけの殻にする事は、できません。ですから私は、若様宅の警備要員として、止まっていました。
「大丈夫だよ。ヒルデさんも、そろそろ帰ってくるだろうし、それに日本は平和だよ」
「はい。ですが万一の事も・・・」
「コイオスちゃんは、心配性ね。ほんとに大丈夫だよ」
真理亜様は、私の言葉を遮って説得しようとします。
「その根拠は」
「こんきょ?・・・だって大切なものはみんな叔父さんの仕事場にあるのよ」
はぁー。やはり、危険です。大丈夫な根拠をこんなにもあさっりとお話になられてしまうだなんて。
「どうしても、このコイオスを連れて行くと言うのなら、しばしお待ちを」
私は、この家の周りに結界を張る。この結界に侵入した者は、その者が1番恐れているものに追われるという幻覚を見ることになる。
作業を終えて、私はついでに人間界で身につけている服を着て玄関へ向かった。
「お待たせしました。それでは、行きましょうか」
私たちは、バスに乗って都心へとやって来た。家を出てから20分が経つ頃ようやくバスから降りると、すぐ目の前の店に真理亜様は、スタスタと入ってしまわれた。遅れまいとすかさず私も店の中に入って行く。
「真理亜様、いったいここに何を買いに・・・」
「えっと、籠と箒とバケツと・・・まあいろいろかな」
「そんなにたくさん買うとお値段が、いささか大噴火状態に溢れてしまうのでは」
「あははは、ナイナイ」
「・・・」
真理亜様は、声を上げて笑いなさる。そして、人差し指を立ててこちらに向き直ると、
「ここでは、ほとんどの商品が100円で買えるのよ。だからこれも100円なの」
真理亜様は、ガラスの器を手に取って値札をひらひらさせる。なんと、こんな綺麗なガラス細工も100円とわ、
「ではあちらの刃物も」
「もちろん、100円よ」
私の背筋に、衝撃が走ったのです。100円というこの国で、最もタダの次に好まれること間違いなしの値段設定。並びにワンコインという響きも良し、なんということでしょう。商品の材質が決して悪いものでもない、いたって普通の材料を使っている筈なのに、この利益を全く求めていないかのような安定した品質と価格を実現し得る秘密とはなんなのでしょう。
「コイオス・・・ちゃん」
「ふふッフハハハハ、あははは」
「大丈夫、コイオスちゃん。ブレないことで有名なコイオスちゃんが、ブレブレ、キャラが定まってないよー」
なんという高揚感、これが、これが、人間の最たる愉悦。
「ああ、高ぶります」
「ねぇ、コイオスちゃん。冷たいものでも食べて頭冷やさない?」
「何を言っているのですか。真理亜殿、まだまだこれからではないですか。この店をじっくりと見聞しなくては、そして改めて聞きますがこの店の名は?」
「100円ショップよ」
「なんと」
100円ショップだとぉ。もしやここにあるものすべてが100円であることを隠そうともしないその自信、傲慢とまで言えるワガママプライス。
「うっ。真理亜様、私少し目眩が」
「やっぱり、どこかで、ひと休みしましょう」
その時、私の目に『刃先取り替えハサミ』という商品が目に飛び込んで来た。パッケージには、《工作、料理、裁縫、その場に応じて刃先をボタン1つで、カンタン交換》と書かれていた。またしても、私は打ちひしがれた。まだ100円ショップは、攻めるというのか、ただ単一の商品などではなく、状況に応じた汎用性、しかもボタン1つで交換ができるときた。ネジを回して着けてまた回す。その作業さへも克服してしまったと言うのか。恐るべき100円ショップ。奥が深い、否、私の考えが浅いと言うのか。
「ハッ」
いけません、いけません。また、取り乱してしまいました。しかし本当に素晴らしい商品ばかりです。
「おーい、コイオスちゃーん」
「心配をおかけしました。もう大丈夫です。軽いカルチャーショックというやつですね」
「へぇー、そうだったの大丈夫ならいいんだよ。私はね。あはは、は、はぁー」
真理亜様は、ヒドくお疲れのようです。早く用事を済ませて帰った方がいいかもしれませんね。
私と真理亜様は、目当ての物を買ってお店を出ることにしました。お会計の後、バス停までの道中私は、奴と出会ってしまったのです。
「なんか喉乾いたなぁ。あっいい所にワンコイン自販機。ラッキー」
真理亜様はポケットから100円を取り出し投入口に入れた。
「この商品も、100円なのですか?」
「うんそうだよ。あっコイオスちゃんも何か飲む」
「では、コーヒーを」
ボタンを押すと、ガタンッという音とともに、商品が取り出し口に出てきた。そして、私はコーヒーの缶のプルトップに指をかけ蓋を開ける。プシュッと圧縮された空気が外界に出て行き、それに続いてコーヒーの香りが、鼻腔をくすぐる。「しかし味はどうでしょうか。たかだか100円の安コーヒー大したことない筈・・・・」・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
こっ、コレハ。
香りだけでなく、コクも深いそれに程よい酸味がまたアクセントとして働き、豊潤な味わいを口の中に広げて行く。これが100円。またしても100円だと言うの。
「あのー、コイオスさん。もしもーしこーいーおーすーさーん」
いいのよ真理亜様、100円であることは恥じゃないわ。そうこれは100円という甘い誘惑、狂おしいほど欲しくなる。100円の罠に人類も神も嵌ってしまうのだわ。
「もー、100円均一なしには、生きてはいけない」
「はい?」
ワンハンドレッドオンリー。画期的なシステムね。これを考えた人間は天才?いいえ、これはカンタンなロジックね。100円ショップも100円自販機も皆、『ワンコイン』という響きと、端数を切り捨てた、簡略化されたお会計システムによって、人間の思考回路を麻痺させているのだわ。こんな事にも気づかないなんて、屈辱を通り越して少し笑えてくるわね。
「あ痛ッ」
誰か頭をチョップされた。気がつくとバスは、横の口を開けて待っている。「早く乗りなさいよね」
振り返ると、そこには姉様とクリオスの姿があった。
「姉様」
「真理亜は、乗っちゃったわよ」
そう言って姉様は先にバスの中に入って行かれた。
「コイオスさっ帰りましょう」
「あっ」
クリオスが私の手を引いてバスの中に連れ込んで、私とクリオスは、2人がけの椅子に隣同士で座った。
「コイオス、真理亜様とのお買い物は楽しかったですか?」
「もちろんよ。クリオス」
「いいなあ、今度はクリオスが連れて言って欲しいのです」
「ふふっなら、姉様のお迎えを交代しますか」
「むー。それもクリオスがしたいですねぇ」
「ふふふ」
「コイオス、何かいいことでもありましたか?」
「別に、なんでもありませんとも」
「あやしいのです」
クリオスは、眉間にシワを寄せて、「むむむー」と私の顔を覗き込んでは、訝しんでいます。そして、私はこう付け加えて言います。
「あったとしても、わたしだけの秘密ですから」
「ああっ、ケチー」
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