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種
旅の記録
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「おかえりなさい。お姉ちゃん」
元気な声で出迎えたのは、おそらくこの若い女の弟だろう。クロノスは、若い女の後ろから、中の様子を伺った。
「この子は、モム。私の弟、そして私はラーシャ、あの酒場で働いているの。さあ、入ってお茶にしましょ」
「私は、そうだなKとでも呼んでくれ」
「ケイ君、よろしくね」
ラーシャは、手を差し出した。
「何だ?」
クロノスは訳が分からず、問い返した。
「握手よ。知らない?」
「すまない」
「手と手を握りあう挨拶なの」
クロノスはそう言われ、手を差し出し握り返した。彼にとって初めての握手だった。彼は不思議な感覚になる。手を通して感じるラーシャの温もりを感じていたのだ。
ラーシャの家は、親がいない父親と母親は幼い頃に離婚し、父親と暮らしていたが、父親は新しくできた恋人と家から姿をくらました。
そのとき、ラーシャは18で弟のモムは4歳。
クロノスは、この話を聞いたとき父親を非難することができなかった。むしろ、同族感のようなものを感じてしまうほどである。
「今の生活は、苦しいか?」
ふと出たクロノスの問いだった。
ラーシャは「そうね」と言って、突っ伏する。
「私は今年で、19になる。弟は、5歳に・・・苦しいと言えば苦しくないわけがない。でもね、こんな生活も悪くないって思ってる。お仕事して、帰って来て、モムのご飯作って、寝て、またお仕事に行く。仕事にすらろくに就けない人だっている世の中だもの、私はまだ幸せな方だわ」
「そうか」
「ケイ君の幸せってなにかしら」
「私の幸せ・・・」
クロノスは、考える。彼は幸せの体型は理解しているつもりだったが、いざ問われれば、これと言った答えが見つからない。
「強いて言うなら、人と話せることだ」
絞り出すようにクロノスは、答えた。
先の戦いで、自分は死んでいてもおかしくはなかった。だが、娘のゼウスに、命を繋いでもらったおかげで、今でもこうして、話すことができる。
「やっぱり、ケイ君は、大人っぽいのね。でも、私も些細なことで幸せを感じることがたくさんある」
「幸福の定義は、人それぞれだ。そのものにとって、1番大事だと思うことが、幸福となる」
「難しいこと言うのね。ようは、私がどう感じても、大切な事があることが幸せってことなのかしら?」
2人は、幸福について語る。神と人の幸福追求。
しかし、モムが2人の話に割って入る。
「遊ぼ」
ラーシャは、
「今大切なお話ししてるのよ」
と優しくあしらおうとするが、クロノスは、
「いや、いいんだ」
と言って、モムと2人家から出た。
「ごめんなさい。夕方までには戻って来てくださいね」
「わかった」
モムといくらか遊び、帰路につく。
モムはあぜ道をトコトコ歩いて行く。クロノスはそれを追うようについて行く。
すると、モムは急に立ち止まって、
「タネ」
と言って、小さな種を拾い上げた。
「ああ種だな。こいつは・・・」
クロノスには、見覚えのある種だった。妻であるレアとエデンを出て暮らしていた時によく植えた種であった。しかし、彼はどんな花が咲くのか思い出せなかった。
「レア・・・私は、まだ進めるだろか」
クロノスは、紅く染まり始めた空を眺めて、今は亡き最愛の妻に問うた。もちろん答えが返ってくるはずもなく、
「ふっ、私も少し歳をとったな」
と呟き、
「帰るぞモム」
「あい」
とモムが元気な声で答える。
家に着くと、ラーシャが夕飯を作って待っていた。
「何してきたんですか?」
「駆けっこ」
先にモムが答えた。
「そう、お兄さんが遊んでくれて良かったわね」
「うん、これあげる。タネ」
モムは、ズボンのポケットに手を突っ込んで、先ほどの種をクロノスに渡した。
「何の種です?」
「いや、わからん」
クロノスは、まだ思い出せずにいた。ここまでくると気になって仕方がない。
クロノスは、種を見つめて懸命に記憶を探っていた。
「今夜は遅いですし、泊まっていってください」
「助かる」
クロノスとモムは、床に着き電気を消した。ラーシャは酒場の計理の今後の見込み売り上げの計算をしている。彼女自身、勉強ができるわけではないが、「仕事ですから」と夜遅くまで、仕事をした。
だが、実際クロノスは眠っていなかった。というより、眠れなかったのだ。
月の光が優しく、ラーシャの影を映し出す。
クロノスは、不器用な男である。だから、別れの言葉を言うことができなかった。
「ラーシャそしてモム、世話になったな」
クロノスは、モムが拾った種が何であるか分かると、胸が熱くなり、眠れなかったのだ。
「今では、はっきりと分かる。私の幸せが、そなたたちと話せたこと嬉しく思う」
開けっ放しのドアから、クロノスは再び旅路についた。
スノードロップ。それがこの種が咲かせる花の名前。アダムとイブが、天使から授かった祝福の花。
「花言葉は、希望だったな」
彼はこれからも旅を続ける。しかし、これからは希望を持って旅をしようと、心に語りかけた。
彼の背は、月明かりに映え、静かな夜に消えていった。
元気な声で出迎えたのは、おそらくこの若い女の弟だろう。クロノスは、若い女の後ろから、中の様子を伺った。
「この子は、モム。私の弟、そして私はラーシャ、あの酒場で働いているの。さあ、入ってお茶にしましょ」
「私は、そうだなKとでも呼んでくれ」
「ケイ君、よろしくね」
ラーシャは、手を差し出した。
「何だ?」
クロノスは訳が分からず、問い返した。
「握手よ。知らない?」
「すまない」
「手と手を握りあう挨拶なの」
クロノスはそう言われ、手を差し出し握り返した。彼にとって初めての握手だった。彼は不思議な感覚になる。手を通して感じるラーシャの温もりを感じていたのだ。
ラーシャの家は、親がいない父親と母親は幼い頃に離婚し、父親と暮らしていたが、父親は新しくできた恋人と家から姿をくらました。
そのとき、ラーシャは18で弟のモムは4歳。
クロノスは、この話を聞いたとき父親を非難することができなかった。むしろ、同族感のようなものを感じてしまうほどである。
「今の生活は、苦しいか?」
ふと出たクロノスの問いだった。
ラーシャは「そうね」と言って、突っ伏する。
「私は今年で、19になる。弟は、5歳に・・・苦しいと言えば苦しくないわけがない。でもね、こんな生活も悪くないって思ってる。お仕事して、帰って来て、モムのご飯作って、寝て、またお仕事に行く。仕事にすらろくに就けない人だっている世の中だもの、私はまだ幸せな方だわ」
「そうか」
「ケイ君の幸せってなにかしら」
「私の幸せ・・・」
クロノスは、考える。彼は幸せの体型は理解しているつもりだったが、いざ問われれば、これと言った答えが見つからない。
「強いて言うなら、人と話せることだ」
絞り出すようにクロノスは、答えた。
先の戦いで、自分は死んでいてもおかしくはなかった。だが、娘のゼウスに、命を繋いでもらったおかげで、今でもこうして、話すことができる。
「やっぱり、ケイ君は、大人っぽいのね。でも、私も些細なことで幸せを感じることがたくさんある」
「幸福の定義は、人それぞれだ。そのものにとって、1番大事だと思うことが、幸福となる」
「難しいこと言うのね。ようは、私がどう感じても、大切な事があることが幸せってことなのかしら?」
2人は、幸福について語る。神と人の幸福追求。
しかし、モムが2人の話に割って入る。
「遊ぼ」
ラーシャは、
「今大切なお話ししてるのよ」
と優しくあしらおうとするが、クロノスは、
「いや、いいんだ」
と言って、モムと2人家から出た。
「ごめんなさい。夕方までには戻って来てくださいね」
「わかった」
モムといくらか遊び、帰路につく。
モムはあぜ道をトコトコ歩いて行く。クロノスはそれを追うようについて行く。
すると、モムは急に立ち止まって、
「タネ」
と言って、小さな種を拾い上げた。
「ああ種だな。こいつは・・・」
クロノスには、見覚えのある種だった。妻であるレアとエデンを出て暮らしていた時によく植えた種であった。しかし、彼はどんな花が咲くのか思い出せなかった。
「レア・・・私は、まだ進めるだろか」
クロノスは、紅く染まり始めた空を眺めて、今は亡き最愛の妻に問うた。もちろん答えが返ってくるはずもなく、
「ふっ、私も少し歳をとったな」
と呟き、
「帰るぞモム」
「あい」
とモムが元気な声で答える。
家に着くと、ラーシャが夕飯を作って待っていた。
「何してきたんですか?」
「駆けっこ」
先にモムが答えた。
「そう、お兄さんが遊んでくれて良かったわね」
「うん、これあげる。タネ」
モムは、ズボンのポケットに手を突っ込んで、先ほどの種をクロノスに渡した。
「何の種です?」
「いや、わからん」
クロノスは、まだ思い出せずにいた。ここまでくると気になって仕方がない。
クロノスは、種を見つめて懸命に記憶を探っていた。
「今夜は遅いですし、泊まっていってください」
「助かる」
クロノスとモムは、床に着き電気を消した。ラーシャは酒場の計理の今後の見込み売り上げの計算をしている。彼女自身、勉強ができるわけではないが、「仕事ですから」と夜遅くまで、仕事をした。
だが、実際クロノスは眠っていなかった。というより、眠れなかったのだ。
月の光が優しく、ラーシャの影を映し出す。
クロノスは、不器用な男である。だから、別れの言葉を言うことができなかった。
「ラーシャそしてモム、世話になったな」
クロノスは、モムが拾った種が何であるか分かると、胸が熱くなり、眠れなかったのだ。
「今では、はっきりと分かる。私の幸せが、そなたたちと話せたこと嬉しく思う」
開けっ放しのドアから、クロノスは再び旅路についた。
スノードロップ。それがこの種が咲かせる花の名前。アダムとイブが、天使から授かった祝福の花。
「花言葉は、希望だったな」
彼はこれからも旅を続ける。しかし、これからは希望を持って旅をしようと、心に語りかけた。
彼の背は、月明かりに映え、静かな夜に消えていった。
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