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●ダンスパーティー
パーティーの始まり
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ヒダカは妹二人を選んだけど、実はパートナーが二人というのは珍しいながらに前例がある。何なら三人だったことや四人だったこともあるくらいだ。
人間族は基本的に一夫一妻制だけど、他の種族には違うところもあるし、地域によっても差があったりするからだ。
あれ以来、“ゲーム”についても、ヒダカの言葉の真偽についても何も話していない。
話す機会はあった。施設で何度か会ったし、仲間で食事に行ったりもした。
でも僕から何かを聞くことはしなかったし、ヒダカも話さなかった。
話したくないのだろうと理解するしかなかった。
別に、今までだって親友だったからと言って、全てを話したわけじゃない。
僕だって隠し事をしているし、血の契約のこと以外だって言っていないこともあったし、ヒダカもきっと話していないことがいっぱいある。
それが今回は“ゲーム”についてだっただけのこと。
ヒダカにとっては、触れられたくないのだろう大切なことで、僕にとっては、どうしても知りたかった大切なことだった。
それだけのこと。
ヒダカが乗っているだろう魔導車が見えることはなく、比較的に穏やかな気持ちで門戸を潜る。
僕のパートナーは義母が見繕った相手から厳選することにした。
小柄で可愛らしいことで有名な人だ。ダンスのときに見栄えが悪くならないように、というのも選んだ理由の一つだ。申し訳ない。
実際は、当然富裕層の人なのだけど、どうやら身分違いの恋人がいるらしいと密かに噂になっているからだ。
彼女の恋人は武勇に秀でているそうで、戦闘士として戦いに出るらしい。武勲を立てて、無事に凱旋した暁には求婚するつもりでいるのだろうか。
今回のパートナーは一回きりのことだし、僕としては将来的にどうこうできるわけではないので、お互いに利害関係を結べる相手がいたのは助かった。
義母が知らないわけないから、表面上だけでも僕と結婚させて恋人とは愛人関係を、とでも吹き込んでいるのかもしれない。
彼女には年の離れたお姉さんがいるらしく、その人を兄に、彼女を僕にと言うのが家の期待するところらしいから。本当に、どこも大変だ。
首都は中央議事堂を中心に富裕層の家々が囲んでいて、その外側に比較的に裕福な家が、そしてその外側に商人エリアが、と段々と下膨れに下層へと続いて行く。
そんな造りだから、フサロアスの本家は議事堂のすぐ側にあるし、彼女の家までも魔導車で十分もあれば着いてしまった。さらに彼女を迎えても他愛のない話をしている内にすぐ目的地に着いてしまう。迎えに行く必要性は? などと言ってはいけない。そういうものなんだ。
ダンスパーティーの会場は、少し離れたところにある緑化地域の後ろに建つ館で行われる。首都内では、議事堂、時計塔の次に背の高い建物で、主だった式典は全てここで行われる。
結婚式などの神事は教会で行われるので、そこはちゃんと棲み分けがされている。
館は剛健な石造りで、横に広く今回のような大規模な式典の際に遠くから訪っている要人たちの宿泊施設も兼ねている。
魔導車が門戸を潜ると、すでにたくさんの魔導車が御者や役人によって隅に並んで増えていっていた。
時間調整のためにしばらく魔導車で待ってから両開きの背の高い中央扉の前で降りる。
館の周り全てが煌々と照らされて、空の暗さとの差に気分が高まる。
逆に中からはオレンジ色の温かな明かりが来客を出迎えていて、一歩踏み込むと高い天井と立派な柱のある廊下、その正面に何百人も収容できる巨大なダンスホールが広がる。
天井には巨大な照明があり、明かりをより一層煌びやかに辺りに振りまいている。
彼女の手を取って胸を張って入場する。僕とパートナーの名前が高々と呼ばれた。
家柄的にも立場的にも僕の入場は最後の方だ。
この後には教授に手を添えているセナと、教会の関係者を数人連れたエルゥが続き、ヒダカが入場する手はずになっている。
最後に兄が側近だけを連れて入ってきたら、廊下に面した大きな扉は閉められる。
僕は会場を真っすぐに横切って、自然と輪になっている参列者の前列で待つ。
ヒダカが妹二人を連れて現れた。
華やかな妹の方は菫色のドレス。清楚な妹の方は桃色のドレスだ。事前の情報通りだったことに密かに安心する。エルゥもセナもドレスの色に問題がない。
そのとき、歓迎の空気に妙なざわめきが交ざった。不思議に思って表情は変えずに耳を澄ませる。
「右側……」
「エイデン様……!」
「どういうことだ?」
「まさかお二人のどちらかが?」
右側? なんのことだろう?
周囲の視線を追うようにじっくりとヒダカを見て、もう少しで僕も声を上げるところだった。
ヒダカが耳飾りを右耳につけていたのである。
意中の相手がいると宣言したのだ。
こんなときじゃなかったら姿勢と表情が崩れていたかもしれない。実際に参列者の中には分かりやすく動揺している人がたくさんいる。
ヒダカが堂々としているから余計に憶測が飛び交ってるけど、そんなことくらいじゃ式典は止まらない。
兄がヒダカと二人の妹を残して僕の前まで来て中央を向く。
すると中央に残った三人に向けて跳ねるような明るい曲が始まった。
始まりのダンスだ。
今回は女性が二人いることからこれが選ばれたのだろう。古い獣人族の曲で、仲の良い友人同士でも踊ることがある、三人以上で踊る陽気なものだ。
これが街中でかかると、誰かが歌い、誰かが躍り出すことすらある有名なもの。
ダンスパーティーの始めの曲としては少し格式から外れてしまっているけど、今回は状況を見て許可されたんだろう。
そもそも最終的な許可を出すのは兄なので、否が出ることはまずなかったのだろうけど。
ヒダカが交互に妹たちの手を取って、くるくると回転させる。妹たちが向かい合って手を繋いで片膝を付くヒダカの前で踊ってみせる。まるで劇団の一場面だ。
彼女たちのドレスの色と相まって、王子と花の妖精みたい。
楽器がそろって音をかき鳴らし、最も盛り上がった瞬間に曲を止めた。合わせて彼らのダンスも見事な終わりを見せて、一礼。
拍手喝采。先ほどの戸惑いなど綺麗に押し流して祝福の音が鳴る。
鳴りやまない拍手の音を割くようにパー! と楽器の音が響いた。
兄が中央に出て周囲を見渡す。
「ご来賓の皆さま! スラオーリ首相のロレンゼン・フサロアスです。本日はご列席誠にありがとうございます。今日、この日を迎えられたのも、皆さまの多岐にわたるご支援のお陰です。重ねてお礼を申し上げます」
一度言葉を切ると、深々と腰を折る。
「さて、ご存じの通り、本日のパーティーは勇者エイデン・ヒダカ・ヘンリット様のご無事と、我が国の勝利を願う激励会を兼ねております。勇者様や聖女様、賢者様、そして我が弟へ、どうか皆さまのお心を存分にお伝えください。この式典が勝利への礎となりますよう、盛大に執り行いましょう。――それでは、スラオーリに勝利を!」
その言葉を合図に、取りこぼしなく配られていたグラスを全員が掲げる。
『スラオーリに勝利を!』
参列者全員が高らかに口にしたことで、ダンスパーティーが始まった。
人間族は基本的に一夫一妻制だけど、他の種族には違うところもあるし、地域によっても差があったりするからだ。
あれ以来、“ゲーム”についても、ヒダカの言葉の真偽についても何も話していない。
話す機会はあった。施設で何度か会ったし、仲間で食事に行ったりもした。
でも僕から何かを聞くことはしなかったし、ヒダカも話さなかった。
話したくないのだろうと理解するしかなかった。
別に、今までだって親友だったからと言って、全てを話したわけじゃない。
僕だって隠し事をしているし、血の契約のこと以外だって言っていないこともあったし、ヒダカもきっと話していないことがいっぱいある。
それが今回は“ゲーム”についてだっただけのこと。
ヒダカにとっては、触れられたくないのだろう大切なことで、僕にとっては、どうしても知りたかった大切なことだった。
それだけのこと。
ヒダカが乗っているだろう魔導車が見えることはなく、比較的に穏やかな気持ちで門戸を潜る。
僕のパートナーは義母が見繕った相手から厳選することにした。
小柄で可愛らしいことで有名な人だ。ダンスのときに見栄えが悪くならないように、というのも選んだ理由の一つだ。申し訳ない。
実際は、当然富裕層の人なのだけど、どうやら身分違いの恋人がいるらしいと密かに噂になっているからだ。
彼女の恋人は武勇に秀でているそうで、戦闘士として戦いに出るらしい。武勲を立てて、無事に凱旋した暁には求婚するつもりでいるのだろうか。
今回のパートナーは一回きりのことだし、僕としては将来的にどうこうできるわけではないので、お互いに利害関係を結べる相手がいたのは助かった。
義母が知らないわけないから、表面上だけでも僕と結婚させて恋人とは愛人関係を、とでも吹き込んでいるのかもしれない。
彼女には年の離れたお姉さんがいるらしく、その人を兄に、彼女を僕にと言うのが家の期待するところらしいから。本当に、どこも大変だ。
首都は中央議事堂を中心に富裕層の家々が囲んでいて、その外側に比較的に裕福な家が、そしてその外側に商人エリアが、と段々と下膨れに下層へと続いて行く。
そんな造りだから、フサロアスの本家は議事堂のすぐ側にあるし、彼女の家までも魔導車で十分もあれば着いてしまった。さらに彼女を迎えても他愛のない話をしている内にすぐ目的地に着いてしまう。迎えに行く必要性は? などと言ってはいけない。そういうものなんだ。
ダンスパーティーの会場は、少し離れたところにある緑化地域の後ろに建つ館で行われる。首都内では、議事堂、時計塔の次に背の高い建物で、主だった式典は全てここで行われる。
結婚式などの神事は教会で行われるので、そこはちゃんと棲み分けがされている。
館は剛健な石造りで、横に広く今回のような大規模な式典の際に遠くから訪っている要人たちの宿泊施設も兼ねている。
魔導車が門戸を潜ると、すでにたくさんの魔導車が御者や役人によって隅に並んで増えていっていた。
時間調整のためにしばらく魔導車で待ってから両開きの背の高い中央扉の前で降りる。
館の周り全てが煌々と照らされて、空の暗さとの差に気分が高まる。
逆に中からはオレンジ色の温かな明かりが来客を出迎えていて、一歩踏み込むと高い天井と立派な柱のある廊下、その正面に何百人も収容できる巨大なダンスホールが広がる。
天井には巨大な照明があり、明かりをより一層煌びやかに辺りに振りまいている。
彼女の手を取って胸を張って入場する。僕とパートナーの名前が高々と呼ばれた。
家柄的にも立場的にも僕の入場は最後の方だ。
この後には教授に手を添えているセナと、教会の関係者を数人連れたエルゥが続き、ヒダカが入場する手はずになっている。
最後に兄が側近だけを連れて入ってきたら、廊下に面した大きな扉は閉められる。
僕は会場を真っすぐに横切って、自然と輪になっている参列者の前列で待つ。
ヒダカが妹二人を連れて現れた。
華やかな妹の方は菫色のドレス。清楚な妹の方は桃色のドレスだ。事前の情報通りだったことに密かに安心する。エルゥもセナもドレスの色に問題がない。
そのとき、歓迎の空気に妙なざわめきが交ざった。不思議に思って表情は変えずに耳を澄ませる。
「右側……」
「エイデン様……!」
「どういうことだ?」
「まさかお二人のどちらかが?」
右側? なんのことだろう?
周囲の視線を追うようにじっくりとヒダカを見て、もう少しで僕も声を上げるところだった。
ヒダカが耳飾りを右耳につけていたのである。
意中の相手がいると宣言したのだ。
こんなときじゃなかったら姿勢と表情が崩れていたかもしれない。実際に参列者の中には分かりやすく動揺している人がたくさんいる。
ヒダカが堂々としているから余計に憶測が飛び交ってるけど、そんなことくらいじゃ式典は止まらない。
兄がヒダカと二人の妹を残して僕の前まで来て中央を向く。
すると中央に残った三人に向けて跳ねるような明るい曲が始まった。
始まりのダンスだ。
今回は女性が二人いることからこれが選ばれたのだろう。古い獣人族の曲で、仲の良い友人同士でも踊ることがある、三人以上で踊る陽気なものだ。
これが街中でかかると、誰かが歌い、誰かが躍り出すことすらある有名なもの。
ダンスパーティーの始めの曲としては少し格式から外れてしまっているけど、今回は状況を見て許可されたんだろう。
そもそも最終的な許可を出すのは兄なので、否が出ることはまずなかったのだろうけど。
ヒダカが交互に妹たちの手を取って、くるくると回転させる。妹たちが向かい合って手を繋いで片膝を付くヒダカの前で踊ってみせる。まるで劇団の一場面だ。
彼女たちのドレスの色と相まって、王子と花の妖精みたい。
楽器がそろって音をかき鳴らし、最も盛り上がった瞬間に曲を止めた。合わせて彼らのダンスも見事な終わりを見せて、一礼。
拍手喝采。先ほどの戸惑いなど綺麗に押し流して祝福の音が鳴る。
鳴りやまない拍手の音を割くようにパー! と楽器の音が響いた。
兄が中央に出て周囲を見渡す。
「ご来賓の皆さま! スラオーリ首相のロレンゼン・フサロアスです。本日はご列席誠にありがとうございます。今日、この日を迎えられたのも、皆さまの多岐にわたるご支援のお陰です。重ねてお礼を申し上げます」
一度言葉を切ると、深々と腰を折る。
「さて、ご存じの通り、本日のパーティーは勇者エイデン・ヒダカ・ヘンリット様のご無事と、我が国の勝利を願う激励会を兼ねております。勇者様や聖女様、賢者様、そして我が弟へ、どうか皆さまのお心を存分にお伝えください。この式典が勝利への礎となりますよう、盛大に執り行いましょう。――それでは、スラオーリに勝利を!」
その言葉を合図に、取りこぼしなく配られていたグラスを全員が掲げる。
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