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あなたへの電話・加賀峰鮮花編

7、お悩み解決しますby座敷わらし

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 ※※※下記はプロット版のため後半が未完成です※※※ 



 四月の下旬。
 北国の路肩から雪は姿を消し、ようやく暖房要らずの陽気がやってくる。

 我が家に居着いた座敷わらしも、ファンデーションの肌ノリが良くなったことを喜び、今日はいつもよりも気合を入れてメイクをしている。
 気合を入れ過ぎて、化粧下地からやり直す羽目になったのはご愛嬌あいきょう
 本人たっての希望により、一人で登校することになった僕は、久方ぶりの閑散かんさんとした教室で朝の涼しさを身に浴びる。肌寒さではなく、涼しさである体感に、短い春の訪れを僕も密かに喜んだ。

「よう、壱多」

 窓際最後列の一つ前席、いち早くこちらに気付いたやや長身の友人が右手を挙げる。
 スポーツ刈りを長くした髪型はさわやかな印象を与えてくれるが、戸住隼太《とすみはやた》の焦げ茶髪は勿論自身で染め直したもの。中学時代に地毛で通しきった剛の者だった。

「おはよう、隼太。今日は珍しく早いね?」

 春の席替えの激戦を制した僕の席は、隼太の真後ろ。
 入学初日の初期配置席と奇跡的に同一だった。
 目の前の友人曰く主人公席で羨ましいとのことだが、意外に教師陣からは目立つ位置なので、学生生活全てをこの席で過ごすだろう主人公には同情を覚えてしまう。

「今日はカガグラの発売日だったからな。朝一でゲットしてきたんだぜ」

 高揚抑えきれない様子で、ヒラヒラと片手で月刊誌『カガミネプラモグラフィック』を振る中学校からの友人。
 光沢放つその表紙は週刊誌よりも高級感漂う大判で、厚みある背表紙が相応の重さを窺わせた。
 机の端に置かれている白ビニール袋は有名コンビニエンスストアのもので、発売日の朝一番に並べられたものをどうやら買ってきたらしい。

「壱多見ろよ。今月号の表紙はレイファイブだぜ! このメチャクチャ細かいディテール! くはー、ホント堪らねえ! オレさ、レイファイブだけは絶対買うって決めてたから、今回の作例はほんと楽しみだったんだよな」

 興奮した様子で、雑誌に写る人型ロボットの模型写真をグイグイ指差す隼太。
 自分の席に座りつつ僕も、友人絶賛のカッコいい表紙の模型雑誌を見やる。
 精緻な造りはプロフェッショナルの腕によるもので、撮り方も"分かっている人"ならではのものであることは一目瞭然だった。
 ちなみに、レイファイブとは有名ロボットアニメ『装甲戦騎ブレイド』に出てくる人型兵器のサブポジション機体の名称だ。

「凄い出来だね、これ。レイファイブって五月の頭に発売だったっけ?」

「そうなんだよ! ゴールデンウィーク直前だから入荷が遅れないか心配でさぁ」

 楽しみにしていた雑誌を慎重にめくる隼太。
 開いてすぐ新発売商品レイファイブの一面広告があり、友人のテンションがさらに上乗せされた。
 デカデカと書かれた発売日は記憶と差異はなく僕は隼太に。

「予約しているなら大丈夫じゃない?」

 と言ったが、気持ちの昂る友人はグワッと顔を突き出し。

「発売日当日に欲しいんだよ! ああ、でもな、こっちの地域ってたまに一日入荷が遅れることもあるしなぁ……」

「単行本とかは確実に一日遅れだよね。雑誌は何故か大丈夫だけど」

 そんな風に隼太と趣味の話から地域柄の辛い宿命の話までを繰り広げていると。

「ねえ、和音。ちょっといい?」

「加賀峰さん? 良いけど、何かあったの?」

「ちょこ見てないかなって思って。あの子、最近和音と一緒に居ること多いでしょ?」

「それはなんとも言えないけど、学校では見ていないかな。連絡も付かない?」

「電源が切れているって音声ガイドが鳴ってた。ちょこって少し機械音痴なんだよね」

「そ、そうなんだ。大変なんだね」

「まぁね。とりあえず、ありがと。悪いけど、もしちょこに会ったら、私が探しているって言ってもらっても良い?」

「うん、了解。電源も入れておくように言っておくよ」

「助かるよ。じゃあね」


「壱多、お前すげぇな。加賀峰鮮花と知り合いだったのかよ?」

「知り合いと言えば知り合いかな。宇座敷さん経由で多少は話したことがあるくらいだけど」

「壱多の姉さんが宇座敷と友達なんだっけ? それもすげぇって言うか、ワケ分からんけど」

「それに関しては同意見。だけど、宇座敷さんは結構話しやすいよ」

「……でも、ギャルって怖くね?」

 ひそひそ声。

「ギャル……うーん、ギャルか……」

 なんとも言えない感じである。
 そして、結局宇座敷さんは遅刻したので、こっそり気配消しをして教室に入ってきていた。
 化粧は残念ながらいつも通りになってしまったようだった。


◇◆◇◆◇◆◇

「壱多。今日からアタシ、部活始めるから」

 気配消し中。

「突然だね。何か部活に入ったの?」

「入ったんじゃないわ。部活を作ったのよ。校長センセーにお願いしてね」

「一応保護者みたいな感じなんだっけ?」

「そ。」

 落とし物とか怪我をしかけたとか小さな不幸が目に付くようになっていた。
 その解決のため、千代子は部活を新設したのだ。

潔癖姫と普通に話せるのかよ」

「潔癖姫?」

「あー、そんなあだ名が付いているんだよ」


 そんなこんなで、宇座敷さんとの風変りな部活動の初日が過ぎていった。



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