悪役令嬢こっぱみじん

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悪役令嬢こっぱみじん

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 ドッカーン!
 悪役令嬢は爆発した。

「きゃっ! ロ、ロナリス様が粉々に!? ──えい! 蘇生魔法!」

 みょんみょんと爆発四散した肉片が集まって、ピカーッ!
 悪役令嬢は蘇生した。

「うぅ……ひどい目にあった……」

「あの、ロナリス様? いきなりの爆発は流石に私もびっくりしてしまいます。お控えいただけますと幸いです」

「あたしも好きで爆発していないからね!?」

 悪役令嬢であるあたし、ロナリス・リサイラムは激しく否定した。

「さようですか……? もしかして趣味で爆発されているという可能性も?」

「あってたまるかー!」

 真昼間の学園内で趣味で爆発する怪人物が居たら見てみたいわよ!?
 ……うっ、なんか自分にダメージが入った気がする。

「ロナリス様。命を大事にですよ?」

 どっかで聞いたフレーズをサラリと言い放ったコイツは『ドキドキライク』の主人公、聖女セイク・リッド。
 とっても神聖な感じのする名前とは裏腹に、天然毒舌の持ち主だった。
 それでいて、世界でただ一人の蘇生魔法の使い手な辺り、世の中ってなんとなく理不尽。

「あたしだって命を大事にしたいわよ……」

 爆発したくて爆発しているわけではないのだ。
 破滅的なフラグが立った時に否応なく爆発してしまう、そんな呪いをアタシは抱えていた。
 何を馬鹿なと言いたくなるだろうが、ガチである。
 冒頭のように毎度爆発して、割と死にまくっていた。

「私の魔法にロナリス様は感謝するべきだと、私は心の中で思いました」

「口に出てる! 思いっきり口に出ているから!」

 ほら? コイツ、いい性格しているでしょ?
 これでいて主人公を務めているんだから、昨今のゲーム主人公の個性豊かなことよ。

 ちなみにこの『ドキドキライク』は、乙女ゲームではなかったりする。
 ぶっちゃけ九割半以上の乙女ゲーで悪役令嬢は存在していないわけで、皮肉にも悪役令嬢が普通に存在しているこのゲームは一応美少女ゲームと呼ばれる分類。
 いや、美少女を攻略する恋愛ゲームに悪役令嬢が登場するのも意味分かんないんだけどね。

「本音はともかくです。ロナリス様の爆発する御病気は早めに治療されたほうが良いと思いますよ?」

「爆発を病気認定するアンタの思考回路が本当うらやま……待って。今、本音はともかくって言った?」

「ぷひゅー、ふひゅー」

「口笛吹けてないから! どんだけ誤魔化し方が下手なのよ?」

「もう! ロナリス様ったら手厳しいですよー! えーい、ぴとっ!」

 奴が急接近してくる!?

「ちょ、アンタ、やめ──」

 ドッカーン!
 悪役令嬢は爆発した。
 バッドエンド!

「えいえい! 蘇生魔法発動!」

 モゾモゾと爆発四散した肉片が集まって、もう一度ピカーッ!
 悪役令嬢は蘇生した。

「な、なにやってんのよ!? アンタ正気!?」

 いきなり抱き着いて来るとか、どれだけふざけているのコイツ!?

「あ! ロナリス様ってもしかして……私に触れると爆発する御病気だったのですか?」

「今更!? 私が爆発するようになってもう一ヶ月経っているでしょ! 原因くらい察していなかったの!?」

 ……分かった。コイツ、ワザとだ。
 あざとく舌をペロッと出してやがる。ゲージが半分くらい溜まってしまった。

「思えばひと月前のロナリス様は『ですわですわ~』と仰っていましたのに……私、少し寂しいです!」

「露骨に話を逸らすな! それに令嬢口調は疲れるからアンタの前ではやめるって言ったでしょ!」

「はっ!? つまり私への愛なのですね!」

 ドカン!
 悪役令嬢は爆発四散した。

「きゃ-っ!? ロナリス様!? 何故爆発を! ──蘇生魔法最大出力。……主よ、お願いします。どうか、ロナリス様を返して下さい……!」

 ビカー!
 聖なる光により悪役令嬢は蘇生した。

「もう、勘弁してよぉ……」

「よ、よかったです……ロナリス様……」

 蘇生したばかりの私とセイクはさめざめと泣いた。
 ……何でこの子も泣いているのかよく分からないけど。

 ともかく。
 先ほどの事例のように、悪役令嬢ロナリスの破滅フラグ成立は非常に簡単だった。
 何しろ、主人公セイクにドキドキしてしまうだけというシンプルさ。

 非攻略対象であるロナリスが主人公に好意を抱いた瞬間、いきなりライバルキャラのテンプレのように『あなたのこと、嫌いではありませんでしたわよ』とか『ふふ……あなたを倒すのは、このワタクシですの……』とか言い出して原作では即散ってしまう。

 理不尽! 何たる理不尽!
 ライバルキャラとしては美味しいかもしれないけど、そのロナリスに転生するほうの身にもなってみてよ! 一度転生してみなさいよ! 爆発するし九割方の役割が悪役だしで、めっちゃ大変なんだからねっ!!

「あ! もしかして、ロナリス様って私のことを……ほ、本当に……あ、愛されている? 可能性が……?」

 奴は赤面した。
 ……ふっ、それを目の当たりにしたあたしは当然。

 ドカーン!
 悪役令嬢は爆発した。

「ロナリス様!? またですか!?」

 そう。
 何が一番性質が悪いかって。

 この天然毒舌主人公を好きになってしまった自分自身の趣味の悪さよ!

 でもね! 原作の時から主人公が一番好きだったの! 転生までするくらいラブだったの! 悪い!?

 ……まぁ、そんなわけで。

 今日もあたしは主人公に蘇生されて、一所懸命動悸を抑えながら何とか生きています。



 ──ドッカーン!






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