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しおりを挟む「騎士たちであれば私の命令を聞いてくれますので、無駄だと思いますよ?」
フードに隠れてはいるが口元が緩んでいるのは見えた。
……俺は掴まれた腕をはぐようにして、彼女と向き合う。
マーキングされている以上、どこに行っても逃げられはしないだろう。
ならば、アレクシアの話を聞き、二度と関わらないでくれとお願いしてしまったほうがもう面倒なことにもならないはずだ。
「あなたの家へ面会に行ったところ、すでにあなたはいないと聞きました」
「ああ。さっき誕生日だったからな」
「レクナ、でしたか? どうやら私が面会しにいった理由を誤解されてしまったようで、脱出にずいぶんと時間がかかってしまいましたよ」
……レクナや父、母のことだ。
きっとアレクシアにアピールしまくっていたんだろう。その光景は容易に想像できた。
「誕生日にあなたがいなくなるというのはどういうことでしょうか?」
「俺は今年で18歳だ。貴族が成人を迎えたらあとは分からないか?」
「……なるほど、そういうことですか。モスクリア家も、他家と同じ、ということですか」
短い話で理解してくれたようだ。
「殺されなかっただけマシかもしれないけどな」
「それは、そうですが……あなたなら、もしも殺されそうになっていれば逃げていたでしょう?」
「買いかぶらないでくれ。俺はただの一般人だ」
アレクシアのどこか期待した瞳から視線を外す。
「ただの一般人さんに質問です。本日、お婆さんを襲った強盗はDランク冒険者だったそうです」
「それがどうしたんだ? 一番いるランクの冒険者だろ?」
「それは確かにそうですね。ですが、Dランク冒険者に一般人が勝てるでしょうか?」
「人間ってのは脆いんだ。不意打ちを受ければどんな奴だって死ぬ」
俺が体験済みだ。
……まあ、あの場でも抵抗しようとすれば抵抗はできた。
ただ、逃げたところでそこからは逃亡生活の始まりだ。
そんなだるい生活はしたくない。
「それはそうかもしれませんが、犯人は逃亡中でした。決して、油断はしていなかったと思いますが」
「路地まで逃げきれた時点で多少は気がぬけていたんじゃないか?」
「ああいえばこういいますね」
「話を終わらせたがっているのに、無理やり繋げられているもんだからな。話はそれだけ
か? 俺は早いところ宿を見つけて休みたいんだよ。明日からは一人で生きていかないといけないもんでな」
俺がそういうと、アレクシアは笑顔を浮かべた。なんか、嫌な予感がする。
「それでしたらいい宿がありますよ」
「聖女様が泊まる宿だろ? 高いんじゃないか?」
「大丈夫です。衣食住のすべてを管理しますし、さらには毎月給与も支払われます。活躍に応じて特別報酬も与えられる。そんな素晴らしい仕事の斡旋に来ました」
「……」
その先の問いかけはしなかった。
アレクシアは俺の変化に気づいた様子もなく、笑顔とともに問いかけてきた。
「私の聖騎士になりませんか?」
「……」
「私の聖騎士になれば、衣食住はもちろん。先ほど話をされていた一人で生きていく、という問題も解決しますよ」
「……」
聖騎士。
あちこちで冒険者の真似事のようなことをし、おまけに聖女の面倒もみる。
面倒な貴族との顔合わせもあれば、他にも貴族がたくさんいる世界で活動をしていく仕事だ。
「断る」
俺が両手でバツを作ってやると、アレクシアは笑みを浮かべた。
……なぜここで笑顔を浮かべるのか。
こいつはこいつで、理解に苦しむ思考回路をしている。……一見しただけの俺を誘うあたりもな。
「その回答は予想していましたよ。理由を聞いても?」
「俺は聖騎士が……いや、教会が嫌いなんだよ」
「どうしてですか?」
「それは――面倒そうだからな」
……この時代の教会は知らないが、カインの時代の教会は酷かった。
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