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第1話
しおりを挟む生まれたその瞬間から、私には前世の記憶があった。
とはいえ、あったからなんだって話が当時の私の意見だった。
……でも、今は違う。
目の前にいる少女を見て、私は小さく息を吐いた。
そこにいたのはリア・トメスゴッドと呼ばれる公爵家の長女だ。
つまりまあ、ただの使用人である私なんかよりもはるかに位の高い人でありとてもとてーもわがままな人だ。
そんな彼女に対して私がこのように失礼極まりない思考をしている理由はただ一つだ。
「……やっぱり、ここは『サクラマジックアカデミー』の世界なのよね」
前世でやっていた乙女ゲームの一つの世界であり、目の前にいるリア様は、悪役令嬢だったからだ。
〇
私は現在十歳。リア様もまた同い年だった。
そんな私が使用人として仕事をしているのはやんごとなき理由があり――まあ、家計が苦しかった家に売り飛ばされ、それからトメスゴッド家に買われて今に至る。
奴隷商に売り飛ばされたときは、これからは体を使って生きていかなければならないのか、とかそんなことをやんわりと思っていたものだったが、結果的には私の想像する体の使い方ではなかった。
私としては助かった、といわざるを得ないし、奴隷商に売り飛ばされた女性の末路としては、公爵家の使用人というのはかなり素晴らしい結末だったといわざるを得ないだろう。
……奴隷として購入されたが、現在は奴隷の位からは解放され一使用人として扱ってもらっているしね。
ただ、購入された先が問題だった。
トメスゴッド家。
国内でも力のある公爵家であるのだが、この家は将来没落する。
それは、今も遠くで、無邪気に他の貴族をいじめているリア様が原因だ。
原作開始となるのは、これから五年後。15歳になったとき、リア様は国立魔法学園に入学する。
そこに、原作の主人公も入学し……リア様の婚約者がとられてしまうのだ。リア様は誰を攻略するときにも出てくる。手抜きなの? ってくらい、全部のルートで悪役令嬢として参戦してくるのだ。
わりと一本道であり、最初の選択肢で攻略するヒーローが決まるのだ。
その最初の選択肢では誰を選んでも、リア様がそのヒーローの婚約者になる。
主人公はいかにリア様の妨害をかわしながらヒーローと仲良くなっていくかのゲームになっている。
この世界では、さすがにそんなことはないようでリア様の婚約者は王子様として決定しているようだけど。
とにかくリア様は原作の主人公に嫉妬して、見事な悪役令嬢となる。
……なられては困るのだ。勤め先が没落によって消滅するなんて。
私は小さく息を吐いてから、リア様のほうに近づいていく。
来世はもっとのんびり生活したいものだ。
そんなことを考えながら、貴族のご令嬢の髪を引っ張って楽しそうに笑っているリア様の前に立った。
リア様はこちらを見て、不思議そうにしていた。髪を引っ張られている子は今もわんわん泣いている。
「あら、どうしたのあんた?」
「リア様。彼女、髪を引っ張られて泣いています」
「ええ、そうね楽しいわ!」
「……リア様は髪を引っ張られたことありますか?」
「ないわよ! 使用人のくせに、うるさいわよ! さっさとどこかに行きなさい!」
「失礼しました。ですが、そうやって弱い者いじめをしているようでは、立派なレディにはなれませんよ」
私はそれだけを残して、すっと頭を下げた。
これで、少しでも考えを改めてくれれば没落も回避できるかもしれないわね。
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