ゲームの悪役に転生した俺が、影の英雄ムーブを楽しんでたら、俺のことが大嫌いな許嫁にバレてしまった

木嶋隆太

文字の大きさ
29 / 107

29

しおりを挟む
 俺は両手に短剣を構え、迎え撃つ準備を整える。

「ガアアアア!」

 ハイウルフの威嚇するような咆哮が響き渡り、周囲の木々が揺れる。
 巨大な体躯が迫ってくる。俺は冷静に、集中力を高めながらハイウルフの動きを見切る。

 ハイウルフが飛びかかってきた。ギリギリまで引きつけてから、俺は攻撃をかわす。
 同時に短剣を振り抜く。
 ハイウルフは俊敏に身をかわし、俺の攻撃を避けるが、俺はさらに加速し攻撃を叩き込む。

 すっと、ハイウルフの横腹を俺の短剣が切り裂く。
 ……ミスリルナイフ。やはり、かなりのモンだな。

 武器に満足してばかりもいられない。ハイウルフはすぐ鋭い爪や牙で攻撃してくる。
 回避し、反撃を行う。集中力さえ切らさなければ、俺のほうがすべての能力が上回っている。
 確実にハイウルフの傷を増やしていき、その動きが鈍ったところで俺は空間魔法と短剣を合わせた一撃を放った。
 反応してかわそうとしたハイウルフだったが、踏ん張った足に力が入らなかったようで今度はかわしきれなかった。

 その首を切り落とすと、霧のように死体は消えていった。
 後に残った素材を回収した俺は、一息をついた。

 ……武器のおかげもあって、第三層もなんとかなりそうだな。
 ひとまず、しばらく第三層で鍛えていって……それから第五層に向かおうか。

 セーブ&ロードができないため、かなり安全牌を踏んできたが……もう大丈夫だろう。
 第五層には恐らく手付かずの宝箱がいくつかあるだろうからな。
 そこから、装備品を漁れば……今の俺が用意できる装備もかなり整うはずだ。
 そのためにも、さっさと第三層で鍛えないとな。



 第三層で鍛えるのと、特殊モンスター狩りを並行して、装備品を集め、武器庫にしまっていく。
 もちろん、息抜きの日もある。
 体を鍛える上では、休養も大切だからな。
 何もしない時間も大切なのだが、それはいつもリームの相手をする時に決めている。

「お久しぶりです、レイス様」
「ああ、久しぶりだ」

 にこりと微笑むリームは、初めの頃とは比較にならないほど笑顔が自然だ。
 彼女も大人に近付いているわけで、それだけ営業スマイルが上手になっているのかもしれない。
 成長しているのは何も俺だけじゃないってことだ。

 大人になるって嫌だねぇ。
 そんなことを考えながら、俺はリームを出迎える。

「ついこの前もきたけど、そんなに頻繁に来て大丈夫なのか?」

 今までは月に一度程度だったが、最近のリームは週に一度程度はくるようになっていた。
 まあ、転移石もあるので移動自体はかなり楽なんだろうけど、それでもそこまで多くきてもいいのだろうか?
 俺がそう問いかけると、リームは少し頬を膨らませる。

「会いに来ては行けませんか?」
「いや、別にそういうわけじゃないがな」

 ただ、どうしてそれほど会いにくるのかは疑問だった。

「レイス様は社交場には行けないでしょう? 私はいつもそういった場で誰ともいられず寂しいのですから」

 すでに世の多くの貴族には俺とリームの婚約関係は知れ渡っている。
 そういう女性は、社交場にて他の貴族と交流をすることはあっても、異性とともに動くことはない。
 そもそも、基本的にパートナーや婚約者などと一緒に行動するそうだ。

 ちなみに、社交会、晩餐会、舞踏会……名前を変えながら似たような会が毎週のように行われている。
 これも転移石のおかげで、だいたい王都にある大きな建物が会場になっているらしい。
 先ほどリームが話したように俺が参加することはほぼない。

 理由はシンデレラみたいなもん。家族が後で俺に自慢話をするための意地悪だ。
 家族がここまでレイスくんを虐めるのは、不遇な空間魔法持ちだと発覚したときに散々に周りの貴族たちから馬鹿にされたかららしいので、その腹いせのつもりのようだ。
 まったくもってそういったものに興味ないので、俺としてはまったく意地悪になっていないし、参加できないおかげで訓練する時間が取れていていいことづくめなんだけど、リームは少し寂しい思いをしてくれているらしい。

 初めて会った時ならそんな意見絶対出なかっただろう。
 評価が多少は上がってくれたようで、嬉しい限りだ。


「寂しい思いをさせているのは……悪いな。でも、どっちにしろそういった場は苦手だし、楽しませられるとも思えないが」
「……一緒に、いるだけで楽しいものなのです。それに一緒にダンスとかも踊りたいですし」

 別にここで一緒にいるんだからいいのでは? と思ってしまうのだが、その言葉をそのままリームに伝えればまた頬を膨らませるだろう。
 それにしても、随分とお世辞を楽しく話せるようになったものだ。

 今のリームなら、どこに営業を出しても大丈夫そうだな。
 前世の社畜だったことを僅かに思い出しつつ、俺はリームに笑顔を向ける。

「まあ、俺もリームと一緒に参加したい気持ちはあるけど、家族が厳しいからな」
「……そうですよね」

 しゅん、としてしまったリームに俺は苦笑とともに立ち上がる。

「それでも、いつかは参加するときもくるかもしれないからな。その時に恥ずかしくないように、ダンスを教えてくれないか?」
「今ここでですか?」
「ああ」
「任せてください」

 俺がそういうと、リームは嬉しそうに席を立った。
 さっきも踊りたい、と言っていたしここでくらいは一緒にやってあげたほうがいいだろう。
しおりを挟む
感想 82

あなたにおすすめの小説

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

無能認定され王宮から追放された俺、実は竜の言葉が話せたのでSSS級最凶竜種に懐かれ、気がついたら【竜人王】になってました。

霞杏檎
ファンタジー
田舎の村から上京して王宮兵士となって1年半…… まだまだ新人だったレイクは自身がスキルもろくに発動できない『無能力者』だと周りから虐げられる日々を送っていた。 そんなある日、『スキルが発動しない無能はこの王宮から出て行け』と自身が働いていたイブニクル王国の王宮から解雇・追放されてしまった。 そして挙げ句の果てには、道中の森でゴブリンに襲われる程の不遇様。 だが、レイクの不運はまだ続く……なんと世界を破壊する力を持つ最強の竜種"破滅古竜"と出会ってしまったのである!! しかし、絶体絶命の状況下で不意に出た言葉がレイクの運命を大きく変えた。 ーーそれは《竜族語》 レイクが竜族語を話せると知った破滅古竜はレイクと友達になりたいと諭され、友達の印としてレイクに自身の持つ魔力とスキルを与える代わりにレイクの心臓を奪ってしまう。 こうしてレイクは"ヴィルヘリア"と名乗り美少女の姿へと変えた破滅古竜の眷属となったが、与えられた膨大なスキルの量に力を使いこなせずにいた。 それを見たヴィルヘリアは格好がつかないと自身が師匠代わりとなり、旅をしながらレイクを鍛え上げること決める。 一方で、破滅古竜の悪知恵に引っかかったイブニクル王国では国存続の危機が迫り始めていた…… これは"無能"と虐げられた主人公レイクと最強竜種ヴィルヘリアの師弟コンビによる竜種を統べ、レイクが『竜人王』になるまでを描いた物語である。 ※30話程で完結します。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件

☆ほしい
ファンタジー
勇者パーティーで「役立たず」と蔑まれ、役立たずスキル【畑耕し】と共に辺境の地へ追放された農夫のアルス。 しかし、そのスキルは一度種をまけば無限に作物が収穫でき、しかも極上の品質になるという規格外のチート能力だった! 辺境でひっそりと自給自足のスローライフを始めたアルスだったが、彼の作る作物はあまりにも美味しく、栄養価も高いため、あっという間に噂が広まってしまう。 飢饉に苦しむ隣国、貴重な薬草を求める冒険者、そしてアルスを追放した勇者パーティーまでもが、彼の元を訪れるように。 「もう誰にも迷惑はかけない」と静かに暮らしたいアルスだったが、彼の作る作物は国家間のバランスをも揺るがし始め、いつしか世界情勢の中心に…!? 元・役立たず農夫の、無自覚な成り上がり譚、開幕!

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...