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親友との初狩り

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「最近、歌ってって言っても歌ってくれないくせに、私のいないところで歌うなんて!」

 私の名前を叫びながらイノシシ顔負けの突進をかましてきたこの少女こそが、親友であるかなで
 友達としての贔屓目を抜きにしても、美人という表現が似合うはずの彼女だが…………今はそんな雰囲気が欠片も見当たらない。

「言われて歌うのは恥ずかしいって言ってるじゃん!
 それに1分も歌ってないよ!」

「それでも逃したのは悔しいの!  万単位の人が聴いたものをウチが聴けてないなんて!」

 ぐっと顔を寄せてくる奏に、思わず気圧されてしまう。

「あーもうわかった、わかったから! 今度カナの家行った時なにか歌うから」 

「やりぃ!約束だからね」

 ごねごねモードから一転。満面の笑みでガッツポーズを決める親友の姿に、思わずため息が零れた。
 まったくもう、昔からゴネだしたら聞かないんだから……

『唐突に始まる百合』
『距離感の近さよ』
『飛び込むカナも平然と受け止めるユキも大概』
『もはや夫婦?』
『妻のリクエストを拒めない旦那……アリですね』

「いや無しだよ!! そもそもその置き換え自体が無しだよ!?」

 目を離している隙に、コメントが物凄い方向に飛躍していた。
 私たちの距離感が近いのは認めるけど、夫婦ってもはやなんなんだ。そしてなんで私が旦那なんだ!!

「まぁそういう訳で、この子がウチの親友、ユキや」

 唐突に自身の配信用カメラに向き直ると、済ました顔で口を開くカナ。
 ん。やっぱり奏の方も配信してたんだ……じゃなくて!

「ユキです。ゲームも配信も初心者だけど、楽しんでやっていけるように頑張るよ!」

 両手をぐっと握って、笑う。
 カナが満足気にニヤニヤとしているので、これで問題ないだろう。

「こっちの方も。知ってる人の方が多いと思うけど……彼女が、カナ。いつもカナちゃんねるってところで配信してるよ」

「おおきに。カナちゃんねるのカナや。ユキとはもう長い付き合いでな?  本来、配信もゲーム自体も全然触れへん子やから……説得すんのはほんま骨が折れたわ」  

「あはは。カナが学校の課題以外であれだけ必死になるのって凄く珍しかったよね」

「いや、課題なんかよりよっぽど真剣やったな。この世界ならユキとも思う存分遊べるーー思うたからね」

 急に真面目な顔をしたかと思うと、にやりと笑ってみせるカナ。その不意打ちに、思わず言葉が詰まった。

「それに……配信、楽しいやろ?」

「……うん!」

『なにこれ』
『てえてえ』
『不意打ちはよくないとおもいます』
『ええんですかこんなものみせてもろうて』
『↑移ってんでw』
『関西弁聞いとるとうつるの、あるあるやんな』
『わかる』
『せやな』

「……コホン!  いつまでもグダグダしてたってしょうがないし、狩り行こ!」

 気恥ずかしくなってきたので、早々に切り上げるよう促す。
 カナも同意はしてくれたようで、ぐっと親指を立ててきた。

「ほな、どこいく?  とりあえず近いしこのまま南行こか」

「そうだね。いけるところまで行ってみようか」

『いけるところまで』
『とりあえず』
『この時は知る由もなかった』
『少女ふたりが、適当なノリでエリアボスを突破してしまうことを……』

「あはは。案外やれるんじゃない?」

「ん?なにがや?」

「私達だけでエリアボス倒せちゃうんじゃないかなーって」

「当然やろ? そのつもりで行くで!」

 にっと笑うと、そのまま駆け出してしまう。

 相変わらず、親友カナは頼もしい。
 そんなことを考えながら、私もあとを追った。



 暫く進むと、無限に草原が続くかに思われた北とは打って変わって、風景に変化が感じられた。
 と言っても、山や木々が増えたわけではなく、草原が湿地になったといった程度だけど。

「あ、早速モンスターがいるよ?」

「ん。このへんはうちに任せとき……【ファイアボール】」

 視界に入ってきたのは、薄い水色をしたアメーバのような流線型の生物。
 ゼリー状の身体を引き摺るようにして、こちらに向かってきている。

◆◆◆◆◆◆◆
 名前:スライム
 LV:2
 状態:平常
◆◆◆◆◆◆◆

 RPGの王道、スライム。 作品によって色んな特徴やら派生系やらがある代表格ではあるけど……今回は、ごくごく普通っぽい。
 カナのかざした右手から巻き起こった炎によって、一瞬で蒸発させられてしまった。

「ま、こんなもんよな」

「カッコいいね! 炎」

「やろ? これからどんどん凄くなるはずやで」

「楽しみだなー。カナのことだから、花火ーとかやってそう」

「ええねそれ! 空に打ち上げて、大爆発!」

「どーん☆ってね」

『ひぃ』
『この2人、可愛い顔して結構えげつない』
『きたねぇ花火だ……ってやるんですね分かりま(』
『嬉々としてやってそうだなぁ』

「酷いなぁ。私はあくまで提案しただけで、なにもしないよ?」

『提案する時点で同罪なんですがそれは』
『なんならユキもそのうち空に聖なる柱でもぶちあげるんでしょ』
『こわっ』
『天の怒りを受けなさい!ってか』
『神の裁きかもしれん』

「あーあー好き勝手言ってくれちゃって」

 相も変わらず、遠慮の無いコメント群である。
 でも、神の裁きか……おあつらえ向きに聖属性だし、案外かっこいい……かも?

「ほれほれ、そうこうしてるうちに、次きたで」

 言われて前方を見てみれば、派手な明かりに釣られたのか結構な数のスライムが寄ってきていた。
 さて私もやってやろうかと前に出ようとしたところを、手で制される。

「まーまー。ユキに任せると時間かかるやろ?ザコはウチが一掃するわ」

「んー、確かに。じゃあ、任せる」

『早っ』
『即座に退くのね』
『流石に数多そうじゃない?』

「ん? ああ、カナがいけるって言ったらぜったい大丈夫だから。いいの」

 私が言い切るよりも早く、カナの手から炎が迸る。
 先ほど発射された燃え盛る火球と違い、今度は火炎放射器のように広範囲を薙ぎ払っていった。

「どや? 火属性魔法のⅡで覚える、【ファイアブレス】や」

「迫力満点!! 映画見てるみたいだった!」

 一面の焼け野原。残っているスライムは一匹もいない。
 文字通り、焼き尽くしたみたいだ。

『この信頼感。まさに夫婦』
『流石やでぇ』
『これが……ファイアブレス…………?』
『ワイの知ってる火魔法じゃない』
『大魔王様の最下級魔法は我らの最上級魔法ってそれ一億年前から言われてるから』
『マオウ、コワイ』

「あはは、カナ、こっちで魔王って呼ばれてる」

「ほーん?  いま魔女呼ばわりしよったやつと合わせて、今晩南門前な?」

 わざわざカメラを睨みつけるようにして、言い放つカナ。流石だね。カメラ慣れしてるというか……
 期待通りに沸き立つコメント欄を見て、勉強になるなーと思った。

「さて、そろそろエリア変わるかな?」

「せやな。こっから先はけっこう被害報告で話題になってたところや」

「ふーん……まぁ、問題ないでしょ!」

「楽勝楽勝。猪だって簡単に捌けた訳やしな」

「だね!ガンガンいこー!」

 まもなく第二エリア。新しい顔が見られることだろう。
 まぁ、それに関しては言葉通り、問題ないと思う。一人だけならまだしも、カナと一緒なんだ。負ける気がしない。
 このまま一気にエリアボスとやらまで倒してやりたいぐらいだ。


 前を歩きながら炎をばらまいていくカナの姿は、とても活き活きとしていて。
 ああ、楽しいなぁ。   心からそう思った。






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