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闇夜の撤退劇
しおりを挟む夜のS3エリア。広範囲への攻撃で一時的に平穏が訪れているその場所に、私は居た。
残りHPは一割以下、回復アイテムなし。 うん、まずいね!
「ちょーーっと走るよ!」
『お?』
『どしたん』
「いやー。ポーション切らしちゃってたの、忘れてた」
『草』
『いやいやw』
『悲報 受けるライフが尽きる』
『配信終了のお知らせ』
『真面目にまずくない?』
「まずい。とってもまずい! わたし、ライフがないとなーーんもできない!!」
これは本当にまずい。私の唯一無二の攻撃手段【GAMAN】に、アンデッド限定で火力になる【浄化】。
どちらも、高いHPが必須だ。
こんなところで死に戻りなんてしたくない。近いのは……S3セーフティエリアか。
新しいスケルトンがわらわらと湧いてくる前に、急いで走り出す。
AGI0の走りは、正直なところ大した速さではない。リアルの私は、そこまで運動が得意ではないからね。
だけど、急がないよりは遥かにマシだ。
早くも、カタカタという声が聞こえ始める。こんなにリポップ早かったっけ。
囲まれたら終わりだと思いつつも、少しでも早く足を動かす。
『うわぁ』
『スケルトンが……w』
『めっちゃ追ってくるじゃん』
『だが、遅いww』
『AGI0の聖女と下級骨兵士だもんな』
『亀と亀の追いかけっこww』
『いい勝負すぎて草』
やたらとコメントが盛り上がっている。ちくしょー他人事だと思って!
「こっちは必死なんだぞー! それと私は見世物じゃな……いやそうだったわ」
『笑った』
『余裕あるじゃん(』
『配信だもんね。見世物だよね』
『自己完結w』
そうこうしているうちに、もうエリアボスのゲートは視界に入っている。
あと数メートルというところで、前方地中から敵意が飛んできた。
数は多分1。なら、問題無い!
「邪魔ぁぁ!【浄化】」
地面が僅かに盛り上がる。その瞬間に、目の前へ向けて【浄化】を放った。威力は、HPの限界ギリギリ。
まさに今、ズズズっと身体が浮かび上がろうとしていたスケルトンに直撃。消し去っていく。
『え』
『やばw』
『先読み?』
『今のやばいな』
『未来を視たのか』
『一瞬地面盛り上がってたね』
『あー』
『先置きヒールならぬ先置き浄化だ』
『↑いつの時代のMMOだ』
『いやそんな次元じゃないだろw』
『直感の化け物なんだよなぁ』
開けた視界。飛び込むようにして、セーフティエリアに入った。
寄ってきていたスケルトンが帰っていくのをみて、ほっと息を吐く。
「ふい~。危なかった」
『おつ』
『お疲れ様』
『観てて面白かった』
「こっちは大変だったんだけどねー」
思わず地面に座り込んで、ぐっと伸びをする。
顔の前をふよふよと浮かんでいるカメラドローンをみていると、何となく笑ってしまった。
時刻は……もう23時前か。早いね。
「それじゃー、そろそろ今日は終わろうかな」
『おわるのか』
『短め?』
『まぁ時間も時間だからな』
「そうなんだよねー。あんまり夜更しはしたくなくて。色々と良くないじゃん?」
『えらい』
『心に刺さるw』
『それカナに言ってあげて』
『無限に言ったんだろうなぁ……』
「あはは、正解。あれは言っても止まんないから。たまに学校の日でも全然起きなくて、起こすの大変なんだよね」
『圧倒的保護者感』
『本当に同い年……?』
『朝弱いのはわかるんだよな』
『ユキママだったか』
「だーれがママだ。断固拒否だよ。もう」
『えー』
『殺生な』
『ママー』
「やんないって言ってんでしょうがっ! カナに焼かせるぞ!
……コホン。明日は多分朝九時には始めると思うから、よかったらみてね」
『カナww』
『草生えますわ』
『たのしみ』
『観る』
「それじゃあみんな、今日もありがと~」
ひらひらと手を振って、終了。
そのままログアウトして、今日もまた楽しい一日が終わった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
そして翌朝。朝食を取ってから軽く体を動かし、いくらか勉強を進めるというモーニングルーティーン。
いつも通りのそれをこなした私は、きっかり九時にまたログインをする。
ベッドに横たわり、装置を起動。
ちょっとした浮遊感を感じているうちに、気付けばS3のセーフティエリアに立っていた。
念のため、HPを確認。
うん、問題なく全快しているね。自然回復さまさまだ。
メニューを操作して、カメラドローンを呼び出す。
現れるやいなや、私の周囲をくるくると回り始めるドローン。思わず笑顔になっちゃうね。
「今日もよろしく」
なんとなくそんな声をかけて、配信を開始する。
うん。問題なく始まったみたい。
「はーいみんなおはよう。今日も配信やってくよ」
『わこ』
『わこつ』
『おはよう』
『今日も可愛い』
『わかる』
「みんな朝からありがとー。 そこ、反応に困る言葉は止めてもらえると助かるなぁ」
『照れた』
『照れたね』
『かわいい』
「っ……毎回毎回調子乗らないでっ! 探索出るよ!」
コメントにからかわれて探索を始めるのが、もはや日課みたいになってしまっている気がする。
非常に、ひっっじょうに納得がいかない。
『え?』
『そっち?』
「あーうん。ちょっと考えたことがあってさ」
早速S4の方面に歩きだそうとすると、いくつか懐疑的なコメントが浮かび上がってきた。
うん、まぁそういう反応になるよね。でも、ちゃんと理由があるんだ。
「私の今のHPって、4004なんだけども。回復アイテムが尽きている以上、自動回復を除いたらもうこれっきりな訳ですよ」
『ほう』
『せやな』
『これっきり(四千)』
『事実ではある(震え声)』
「なので、いちいちエネミーを相手していったら、途中で体力が足りなくなる可能性が大いに有る。
それならば、敵無視してエリアを突っ切ってしまえばいいんじゃないかなって。
名づけて、『ライフで受けてライフで逃げる大作戦』」
『は?』
『脳筋で草』
『結局何も考えてないのでは』
『それで何で先に?』
「んー。魔法をガンガン遠距離から撃たれるのが確定しているS3は、突っ切る過程で耐えきれないかもしれないから。それなら、未知のS4の方に賭けてみようかなって。
それに、そろそろ拠点的なものがあってもおかしくないと思わない? 街とかさ」
『あーー』
『なるほど……?』
『うーん』
『普通に考えるとs4の方がキツそうなんだが』
『街の存在に賭けるのは笑う』
「こっから見えてるんだけど、S4は平原っぽいんだよね。平原抜けたら次の街…………とかありそうかなって」
『うーん』
『言われてみれば』
『ゼロでは無さそう』
「でしょ? まーそれに、特攻して最悪ダメだったらそれはそれでネタとしてオイシイかなって」
『草』
『配信者の鑑じゃん』
『確かにどう転んでも美味しい』
『そういう問題なのかww』
「カナも言ってたしね。配信のコツは面白そうなことに突っ走ることだって」
迷ったときこそ直感を信じろ。これは誰の言葉だったかな。
だめだったところでそこまで痛くもないしね。この際ガンガン突っ込んでしまおう。
「それじゃあ、早速いってみよーー!」
『おー』
『やらかしの予感』
『これはあかんやつ』
『皆期待してなくて草』
『いやこれこそ期待だろ』
好き勝手騒いでくれちゃっているコメント群。
ふーん。観ているがいいさ。きっと新しい街にたどり着いてみせるから。
威勢良く、S4方面へと足を踏み出す。
じめっとした湿地は終わりを告げ、視界に広がるは一面の大草原。
左手からの陽射しが、少しだけ眩しくも温かい。
さあ、行くよ!
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