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第5章 第十五次帝国戦役編
第364話 中隊長の素性
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「起床! 戦闘準備! 戦闘ー準備!」
戦場は眠らない。
アラタ達第301中隊がミラ丘陵地帯に入ってからというもの、前線の至る所で小競り合いが頻発していた。
彼らがまだ小隊だった頃、初戦で帝国軍を打ち破って以来、ずっとそんな調子である。
出てくるのはせいぜい数百やそこらで、偵察程度の戦力しか投入してこない。
だが、それでも虚を突いて砦を落とすことも可能な規模感。
漫然と対処しているようではいつか付け込まれる。
厳とした態度でもって、強力な武力で敵を排除する必要がある。
そう、たとえ夜だったとしても。
「301の準備完了しました」
「よし、うちがもうすぐ揃うから合わせて出撃する。歩兵は先に出して道を照らすように指示を出せ」
「聞いたな? 頼むぞ」
「分かった」
アラタとハルツは騎乗するのでその場に残り、アーキムが歩兵をまとめて出撃していく。
本来は彼も専用の馬を所有しているが、副官の彼は301中隊の歩兵を束ねる立場でもある。
現代戦において中隊は単一の兵科で構成されることがほとんどだが、こと異世界ではそうでもないらしい。
そもそも文明水準的にはもう少し前に遡りそうな気さえしている。
軍隊と言っても、もっとざっくばらんな戦闘集団と捉える方が理解しやすい。
アーキムが出てから数分後、アラタの元には愛馬のドバイが雄々しく立っていて、出撃を今か今かと待ち構えている。
馬も夜に起こされて興奮気味だ。
「で、カイワレとの訓練はどうだ?」
「訓練も何も、最初以来は全部1人ですよ」
「そうなのか? あいつ……」
彼にはカイワレが教師役をさぼっているように聞こえたらしく、少し怒っている。
実情としてはそこまで手取り足取り教える内容でもないので、放置しているに過ぎない。
「今度またお願いしてみます。今は1人の方が都合がいいので」
「む……そうか」
「中隊長殿! 出撃準備完了しました!」
「「よし!」」
「あ……ハルツさんどうぞ」
ここに中隊長は2人いるので、そのように呼ばれるとつい返事をしてしまう。
現在第301中隊の指揮権はハルツに委譲しているので、指揮官として名を呼ばれるのはハルツの方だ。
アラタは彼に先を譲る。
「すまんな。206! 301! 出るぞ!」
ハルツの号令で主力騎兵が出撃した。
目指すは八番砦前、十一番砦の後方から右側に位置する平野である。
先頭のハルツがピシャリと鞭を入れると、馬が急加速して突き進んでいく。
その道の先には篝火が焚かれていて、馬が道に迷うことなく直進していく。
正直、アラタだけの話をすれば明かりは必要ない。
彼には【暗視】のスキルがあるし、馬も暗がりを怖がる性格ではない。
むしろどちらかと言えば人間に驚くことがある子なので、アラタ的にはそちらの方が心配である。
乱戦に馬ごと突っ込むときはいつもひやひやしながら戦っていた。
歩兵を簡単に追い抜いて、なおも突き進む2個中隊の騎兵たち。
隊員数は2つ合わせて178名、その内騎兵は23騎。
足の速い騎兵で敵を捕捉しつつ、頭数のある歩兵で敵を撃滅する。
前情報では、すでに十一番砦の部隊と敵が交戦状態に入っているらしかった。
アラタの眼に、一筋の光が射す。
「いました!」
「感知班!」
ハルツの号令で、アラタは隊員と共にスキルを起動する。
彼が行使したのは【暗視】と【感知】の2種類。
いずれも索敵に絶大な効果を発揮する優れたクラスだが、直接戦闘系のクラスではないという理由でホルダーが少ない。
やはり、スキルは相応の訓練を積んだものが発現を望むことで生み出されるという説は正しい気がする。
そう考えながら索敵を行うアラタの眼に不審な影は映っていない。
他の班員からも特段おかしな報告はない。
どうやら杞憂に終わったようだ。
「報告!」
「伏兵ありません!」
「よし! 突っ込むぞ! 錘形の陣だ!」
「寄れ! 密集! 盾持ちは外に回れ!」
ドドド、と馬の蹄の音が響く。
それは歓声どよめく戦場においても良く届く種類の音だ。
「少尉殿! 敵の新手です!」
「引くぞ」
「は、はやっ」
「不服か?」
「いえ! 直ちに退却しましょう!」
ハルツ、アラタ中隊の騎兵20騎あまりが突撃しようという時に、敵は乱戦を解いて退却を開始した。
ハルツの顔はやる気に満ち溢れている。
それもそうだ、こちらは馬に乗っていて、敵はほとんどが徒歩、歩兵である。
このまま追撃すれば敵の一番おいしいところにがぶりと食いつくことが出来るから。
「吶喊!」
剣を抜き、我先にと先頭を駆けていくハルツ。
勇ましいこと、大変素晴らしいことであると認識しつつ、アラタは刀を収めて話しかけた。
「ストップ。伏兵です」
「どこに!」
「退路の左側です。狙われてます」
「……魔術で薙ぎ払え!」
あくまで追撃を行いたいハルツは強硬策を選択する。
伏兵がいようと、見えているのなら蹴散らせばいいだけ。
そんな脳筋的発想の持ち主が、聖騎士ハルツなのだ。
彼に指示されるがままに、アラタは右手を掲げる。
魔力同士をこすり合わせるように、静電気を溜め込むイメージで練り上げていく。
僅かな抵抗感を覚えたところで魔力を安定的に供給し続ける。
ここから難易度が跳ね上がる工程に入るわけだが、前述した雷属性の魔力供給を継続しつつ、体外に魔力を放出、維持する。
体内でこれだけの魔力を循環させるには安全面に不安が残るため、必要な処置だ。
あとは外部に出したエネルギーをコントロールし、それから槍の形に整形していく。
体外魔力の制御は個人の感覚や裁量が大きなウエイトを占めるため、穂先の形は流派や師匠によって千差万別である。
アラタは賢者アラン・ドレイクに師事していて、師と同じ直槍のような形状をしている。
他には真田幸村が使用したと言われる十文字型のそれや、銛を模した三叉槍もある。
どれも造形難易度はそこまで違い無く、ほぼ好みの問題だった。
「行きます」
「やれ」
馬上からの雷槍。
夜の暗黒を斬り裂くように一直線に突き進む青白い光は、道筋を一瞬だけ明るく照らしたかと思えばすでに遠くにある。
時速は100km/h前後、アラタでも110km/h出れば速い方である。
球技をしていれば避けられない速度ではない。
したがって、通常時はしっかりと当てられる距離感と状況を作り出さねばならない。
今回、牽制の意味も込められて放たれたアラタの魔術は、そちらの要素が欠けていた。
そこそこ出来る相手に対して、生半可な攻撃は何の焦りも与えることが出来ない。
「だぁー。ハルツさん、相手結構強いっす」
掻き消された雷槍を見て、アラタは早くもあきらめムード。
やる気がない兵士は通常なら、ハルツによるお叱りがあるところだが、今回はハルツもあきらめムードだ。
先ほどまであんなにいきり立っていたのに、もう落ち着いている。
「全軍停止! 味方と合流して撤退!」
23頭分の嘶きが夜の平野に響いた。
ほとんど平野なのに極稀にある林に突っ込むようなことがなくて良かったと、エルモは胸を撫でおろした。
どっからどう考えても騎兵を殺すための絶好のロケーション、これで突撃するようなら転職を考えるところだった。
そして、今日も日和見主義のエルモは301中隊に残る。
結局、その日は現場を十一番砦の兵士に任せて2個中隊は撤退した。
交戦は起こらなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※
煙草が止められたんだから、これもいけるはず。
そんな謎理論を振りかざしながら、彼は今日もスキル制御の訓練に勤しんでいる。
緊急出撃から帰って来たばかりだというのに、もう今日は何があっても仕事は無いと言われたからすることがこれ。
練習中毒も大概にしないと、いつか大事な時に動けないときがやってくる。
アラタはハルツ、アーキム、リャンに第301中隊のことを丸投げし、今日も今日とてルーラル湖の湖畔にやって来ていた。
今日は徒歩ではなく愛馬のドバイと一緒。
わざわざ長いロープを持ってきて、ドバイの活動範囲を広く設定してやっている。
水を飲んだり、草を食んだり、厩舎では出来ないような広々とした動きにご満悦のように見える。
これ以上は吐く、という限界ギリギリまでアルコールを摂取するのによく似ている。
あ、やばいかも、と脳が認識した時には時すでに遅し、まだまだイケると言いながらチビチビ飲んでいるようではいつまで経っても酔うことは出来ない。
丁度いいところ、力を引き出せて暴走しない分水嶺。
それを探そうと試みているのだが、中々難しい。
【狂化】のスキルは確かにオンになるが、効果を実感するほど強くは出来ない。
アクセルの踏み方が、マニュアル車よりも遥かに難解なのである。
「はー…………くそっ」
ひとしきり汗をかいて、時間を費やして、集中力が潰えた所でその日の訓練は終了した。
馬を駆って八番砦に戻り、ドバイを厩舎に送り届ける。
もっと遊んでいたかったとご機嫌斜めな馬には人参を食べさせるに限ると、アラタは次々に口元にくれてやった。
ドバイはグルメな馬で、ニンジンが大好きなくせに葉の部分は頑なに食べようとしない。
そのくせバナナの皮は食べるのだから、もう意味不明だ。
水浴びくらいはして寝るかと考えつつ、アラタが兵舎に戻って来た時だった。
夜だというのにまだ焚火の光が漏れている。
今日は出撃したからそのまま朝までというのは珍しくなく、どの部隊でも黙認されていることだ。
だが、一応寝ることを推奨する管理職としては、見過ごすわけにはいかない。
「おいお前ら。はよ寝ろよ」
「隊長ー! 丁度良かった!」
「なに?」
「誰にも昔の話をしないでください!」
「……は?」
突然何を言い出すかと思えば、とシリウスの方を見た。
彼は少々出来上がりすぎているようで、焚火の光も相まって非常に顔が赤くなっているように見えた。
まず間違いなく酔っている。
「言わねーから早く寝ろ。明日も全く仕事がないわけじゃないんだから」
「何かあるんですか?」
「待機だ。順番的には3番目だから、一応準備しておけ」
「隊長それは休日ですよ」
「いいからはよ寝ろ」
何回か注意して、一同はようやく火を消し始めた。
それもダラダラと、挙句の果てにはダリルが尿で火を消そうとしたのでテントから出てきたアーキムがしばいて沈静化した。
集まっていた人間の中で一番的もそうだったデリンジャーに、先ほどの話を尋ねる。
「昔の話って何のこと?」
「あぁ、隊長が表舞台に出てきたのって去年くらいからじゃないですか。だからその前をみんなで予想しようって言ってるんです。だから正解はNG。お願いしますよ? 今銀貨5枚まで来てるんですから」
「賭けてんのかよ」
「僕の予想としてはですね、さすらいの旅人として各地で剣の腕を磨いてですね……」
「はいはい、もう寝ろ」
「はーい」
部下を解散させたところで、アラタも寝ることにした。
もう体を綺麗にしていないとかどうでもいい。
今日も今日とて色々あったから。
「昔話……むかしむかし、あるところに……」
魂半分だけ転生させられた、哀れな男がおりました。
男は刀を取って戦い続け、やがて——
「…………考えるな」
そんな昔話、何の感動も喜びも得られないと、アラタは目を瞑って寝た。
戦場は眠らない。
アラタ達第301中隊がミラ丘陵地帯に入ってからというもの、前線の至る所で小競り合いが頻発していた。
彼らがまだ小隊だった頃、初戦で帝国軍を打ち破って以来、ずっとそんな調子である。
出てくるのはせいぜい数百やそこらで、偵察程度の戦力しか投入してこない。
だが、それでも虚を突いて砦を落とすことも可能な規模感。
漫然と対処しているようではいつか付け込まれる。
厳とした態度でもって、強力な武力で敵を排除する必要がある。
そう、たとえ夜だったとしても。
「301の準備完了しました」
「よし、うちがもうすぐ揃うから合わせて出撃する。歩兵は先に出して道を照らすように指示を出せ」
「聞いたな? 頼むぞ」
「分かった」
アラタとハルツは騎乗するのでその場に残り、アーキムが歩兵をまとめて出撃していく。
本来は彼も専用の馬を所有しているが、副官の彼は301中隊の歩兵を束ねる立場でもある。
現代戦において中隊は単一の兵科で構成されることがほとんどだが、こと異世界ではそうでもないらしい。
そもそも文明水準的にはもう少し前に遡りそうな気さえしている。
軍隊と言っても、もっとざっくばらんな戦闘集団と捉える方が理解しやすい。
アーキムが出てから数分後、アラタの元には愛馬のドバイが雄々しく立っていて、出撃を今か今かと待ち構えている。
馬も夜に起こされて興奮気味だ。
「で、カイワレとの訓練はどうだ?」
「訓練も何も、最初以来は全部1人ですよ」
「そうなのか? あいつ……」
彼にはカイワレが教師役をさぼっているように聞こえたらしく、少し怒っている。
実情としてはそこまで手取り足取り教える内容でもないので、放置しているに過ぎない。
「今度またお願いしてみます。今は1人の方が都合がいいので」
「む……そうか」
「中隊長殿! 出撃準備完了しました!」
「「よし!」」
「あ……ハルツさんどうぞ」
ここに中隊長は2人いるので、そのように呼ばれるとつい返事をしてしまう。
現在第301中隊の指揮権はハルツに委譲しているので、指揮官として名を呼ばれるのはハルツの方だ。
アラタは彼に先を譲る。
「すまんな。206! 301! 出るぞ!」
ハルツの号令で主力騎兵が出撃した。
目指すは八番砦前、十一番砦の後方から右側に位置する平野である。
先頭のハルツがピシャリと鞭を入れると、馬が急加速して突き進んでいく。
その道の先には篝火が焚かれていて、馬が道に迷うことなく直進していく。
正直、アラタだけの話をすれば明かりは必要ない。
彼には【暗視】のスキルがあるし、馬も暗がりを怖がる性格ではない。
むしろどちらかと言えば人間に驚くことがある子なので、アラタ的にはそちらの方が心配である。
乱戦に馬ごと突っ込むときはいつもひやひやしながら戦っていた。
歩兵を簡単に追い抜いて、なおも突き進む2個中隊の騎兵たち。
隊員数は2つ合わせて178名、その内騎兵は23騎。
足の速い騎兵で敵を捕捉しつつ、頭数のある歩兵で敵を撃滅する。
前情報では、すでに十一番砦の部隊と敵が交戦状態に入っているらしかった。
アラタの眼に、一筋の光が射す。
「いました!」
「感知班!」
ハルツの号令で、アラタは隊員と共にスキルを起動する。
彼が行使したのは【暗視】と【感知】の2種類。
いずれも索敵に絶大な効果を発揮する優れたクラスだが、直接戦闘系のクラスではないという理由でホルダーが少ない。
やはり、スキルは相応の訓練を積んだものが発現を望むことで生み出されるという説は正しい気がする。
そう考えながら索敵を行うアラタの眼に不審な影は映っていない。
他の班員からも特段おかしな報告はない。
どうやら杞憂に終わったようだ。
「報告!」
「伏兵ありません!」
「よし! 突っ込むぞ! 錘形の陣だ!」
「寄れ! 密集! 盾持ちは外に回れ!」
ドドド、と馬の蹄の音が響く。
それは歓声どよめく戦場においても良く届く種類の音だ。
「少尉殿! 敵の新手です!」
「引くぞ」
「は、はやっ」
「不服か?」
「いえ! 直ちに退却しましょう!」
ハルツ、アラタ中隊の騎兵20騎あまりが突撃しようという時に、敵は乱戦を解いて退却を開始した。
ハルツの顔はやる気に満ち溢れている。
それもそうだ、こちらは馬に乗っていて、敵はほとんどが徒歩、歩兵である。
このまま追撃すれば敵の一番おいしいところにがぶりと食いつくことが出来るから。
「吶喊!」
剣を抜き、我先にと先頭を駆けていくハルツ。
勇ましいこと、大変素晴らしいことであると認識しつつ、アラタは刀を収めて話しかけた。
「ストップ。伏兵です」
「どこに!」
「退路の左側です。狙われてます」
「……魔術で薙ぎ払え!」
あくまで追撃を行いたいハルツは強硬策を選択する。
伏兵がいようと、見えているのなら蹴散らせばいいだけ。
そんな脳筋的発想の持ち主が、聖騎士ハルツなのだ。
彼に指示されるがままに、アラタは右手を掲げる。
魔力同士をこすり合わせるように、静電気を溜め込むイメージで練り上げていく。
僅かな抵抗感を覚えたところで魔力を安定的に供給し続ける。
ここから難易度が跳ね上がる工程に入るわけだが、前述した雷属性の魔力供給を継続しつつ、体外に魔力を放出、維持する。
体内でこれだけの魔力を循環させるには安全面に不安が残るため、必要な処置だ。
あとは外部に出したエネルギーをコントロールし、それから槍の形に整形していく。
体外魔力の制御は個人の感覚や裁量が大きなウエイトを占めるため、穂先の形は流派や師匠によって千差万別である。
アラタは賢者アラン・ドレイクに師事していて、師と同じ直槍のような形状をしている。
他には真田幸村が使用したと言われる十文字型のそれや、銛を模した三叉槍もある。
どれも造形難易度はそこまで違い無く、ほぼ好みの問題だった。
「行きます」
「やれ」
馬上からの雷槍。
夜の暗黒を斬り裂くように一直線に突き進む青白い光は、道筋を一瞬だけ明るく照らしたかと思えばすでに遠くにある。
時速は100km/h前後、アラタでも110km/h出れば速い方である。
球技をしていれば避けられない速度ではない。
したがって、通常時はしっかりと当てられる距離感と状況を作り出さねばならない。
今回、牽制の意味も込められて放たれたアラタの魔術は、そちらの要素が欠けていた。
そこそこ出来る相手に対して、生半可な攻撃は何の焦りも与えることが出来ない。
「だぁー。ハルツさん、相手結構強いっす」
掻き消された雷槍を見て、アラタは早くもあきらめムード。
やる気がない兵士は通常なら、ハルツによるお叱りがあるところだが、今回はハルツもあきらめムードだ。
先ほどまであんなにいきり立っていたのに、もう落ち着いている。
「全軍停止! 味方と合流して撤退!」
23頭分の嘶きが夜の平野に響いた。
ほとんど平野なのに極稀にある林に突っ込むようなことがなくて良かったと、エルモは胸を撫でおろした。
どっからどう考えても騎兵を殺すための絶好のロケーション、これで突撃するようなら転職を考えるところだった。
そして、今日も日和見主義のエルモは301中隊に残る。
結局、その日は現場を十一番砦の兵士に任せて2個中隊は撤退した。
交戦は起こらなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※
煙草が止められたんだから、これもいけるはず。
そんな謎理論を振りかざしながら、彼は今日もスキル制御の訓練に勤しんでいる。
緊急出撃から帰って来たばかりだというのに、もう今日は何があっても仕事は無いと言われたからすることがこれ。
練習中毒も大概にしないと、いつか大事な時に動けないときがやってくる。
アラタはハルツ、アーキム、リャンに第301中隊のことを丸投げし、今日も今日とてルーラル湖の湖畔にやって来ていた。
今日は徒歩ではなく愛馬のドバイと一緒。
わざわざ長いロープを持ってきて、ドバイの活動範囲を広く設定してやっている。
水を飲んだり、草を食んだり、厩舎では出来ないような広々とした動きにご満悦のように見える。
これ以上は吐く、という限界ギリギリまでアルコールを摂取するのによく似ている。
あ、やばいかも、と脳が認識した時には時すでに遅し、まだまだイケると言いながらチビチビ飲んでいるようではいつまで経っても酔うことは出来ない。
丁度いいところ、力を引き出せて暴走しない分水嶺。
それを探そうと試みているのだが、中々難しい。
【狂化】のスキルは確かにオンになるが、効果を実感するほど強くは出来ない。
アクセルの踏み方が、マニュアル車よりも遥かに難解なのである。
「はー…………くそっ」
ひとしきり汗をかいて、時間を費やして、集中力が潰えた所でその日の訓練は終了した。
馬を駆って八番砦に戻り、ドバイを厩舎に送り届ける。
もっと遊んでいたかったとご機嫌斜めな馬には人参を食べさせるに限ると、アラタは次々に口元にくれてやった。
ドバイはグルメな馬で、ニンジンが大好きなくせに葉の部分は頑なに食べようとしない。
そのくせバナナの皮は食べるのだから、もう意味不明だ。
水浴びくらいはして寝るかと考えつつ、アラタが兵舎に戻って来た時だった。
夜だというのにまだ焚火の光が漏れている。
今日は出撃したからそのまま朝までというのは珍しくなく、どの部隊でも黙認されていることだ。
だが、一応寝ることを推奨する管理職としては、見過ごすわけにはいかない。
「おいお前ら。はよ寝ろよ」
「隊長ー! 丁度良かった!」
「なに?」
「誰にも昔の話をしないでください!」
「……は?」
突然何を言い出すかと思えば、とシリウスの方を見た。
彼は少々出来上がりすぎているようで、焚火の光も相まって非常に顔が赤くなっているように見えた。
まず間違いなく酔っている。
「言わねーから早く寝ろ。明日も全く仕事がないわけじゃないんだから」
「何かあるんですか?」
「待機だ。順番的には3番目だから、一応準備しておけ」
「隊長それは休日ですよ」
「いいからはよ寝ろ」
何回か注意して、一同はようやく火を消し始めた。
それもダラダラと、挙句の果てにはダリルが尿で火を消そうとしたのでテントから出てきたアーキムがしばいて沈静化した。
集まっていた人間の中で一番的もそうだったデリンジャーに、先ほどの話を尋ねる。
「昔の話って何のこと?」
「あぁ、隊長が表舞台に出てきたのって去年くらいからじゃないですか。だからその前をみんなで予想しようって言ってるんです。だから正解はNG。お願いしますよ? 今銀貨5枚まで来てるんですから」
「賭けてんのかよ」
「僕の予想としてはですね、さすらいの旅人として各地で剣の腕を磨いてですね……」
「はいはい、もう寝ろ」
「はーい」
部下を解散させたところで、アラタも寝ることにした。
もう体を綺麗にしていないとかどうでもいい。
今日も今日とて色々あったから。
「昔話……むかしむかし、あるところに……」
魂半分だけ転生させられた、哀れな男がおりました。
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そんな昔話、何の感動も喜びも得られないと、アラタは目を瞑って寝た。
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