病弱王子は古の宰相を振り向かせたい

兎騎かなで

文字の大きさ
6 / 31

憂鬱な晩餐会

 今夜は一ヶ月に一回の、王族が揃って晩餐をとる日だ。

 体調が悪いからと出席を辞退してもいいのだが、昼間の暗殺未遂について情報がほしい。今回は出席することにした。

 定刻に間に合うよう身支度を整えて、ほどよい時間に部屋を出る。

 ダイニングルームについたのは、クラウスが一番最初だった。末の妹姫もまだ来ていない。机の端に腰かけて待っていると、妹がやってきた。

 末姫はまだ十二歳とデビュタントもまだだが、一人前の淑女のような顔で粛々と席につく。

 クラウスと同じ色合いの水色の目と金の髪をしていて、顔立ちが華やかで大層美しく見える。

「ご機嫌よう、クラウスお兄様」
「シルビア、今日のドレスも似合っているね」
「当然ですわ、わたくしのために誂えられたドレスですもの」

 鼻高々に威張る様子は可愛らしいが、少し心配にもなる。

 まずは兄であるクラウスより遅れてきたことに、一言謝罪があるべきなのだが……彼女につけられたマナー教師は詰めが甘いのではないか。

 億劫だがこの子の将来のために伝えてやるべきだろうと、重い口を開いた。

「ドレスの準備に手間取ったのかな、少し遅れてきたようだけど。本来は約束の時間の半刻前には来るべきだよ」
「お兄様が早く来すぎなんですわ」

 うん、そう言うだろうと思ってた……心外だと拗ねているシルビアは、こうなるとなんでもケチをつけてきてネチネチと面倒臭い。

 内心ため息をついていると、またも厄介な人が口を挟んできた。

「家族の団欒でマナーを指摘するなど、クラウスは意地が悪いですね。シルビアだってわかっていることでしょう、いちいち非公式の場で、口うるさく注意する必要などありません」
「エドワードお兄様!」

 入室すると同時に、嫌味ったらしい声がクラウスを詰る。

 シルビアは嬉しそうに頬を緩め、二番目の兄を歓迎した。見た目は繊細な美形であるエドワードに、彼女は懐いている。

 エドワードは何が気に入らないのか、クラウスのすることなすこと大体において、一度はケチをつけないと気が済まないらしい。

 前回の晩餐会でも、礼儀ばかりにこだわる無能だと罵られた覚えがある。思い出すと胃が痛くなってきた。

 エドワードの煌びやかな顔を見据えながら、笑顔を顔面に貼り付けていると、彼と同時に現れた人影が前に歩み出てくる。

「まあまあ、クラウスは生真面目なだけですよ、悪気があったわけじゃありませんって。なあ、クラウス?」
「セルジオ兄上」

 飴色の髪に碧紺の瞳を持つ、甘いマスクの腹違いの兄が、クラウスを庇うようにして発言した。席を立って不義理を詫びておく。

「すみません、本日は体調が優れず、兄上がせっかく呼んでくださったのに、伺えませんでした」
「いいよ、気にしないで。顔色が悪いけど、この場にも無理を押してきたんじゃないか?」

 心配そうな声音で顔を眺められたので、苦笑を返しておく。

(顔色が悪いのは常なので、そう心配なさる必要はありませんよ兄上)

 そう思いながらも早めに退出できる口実にしようと、体調が悪いことにしようと決める。

 病弱なイメージが加速しそうだが、どうせ元気だと訴えても信じてもらえない。

 頑張る機会もなく、王族の執務も任せてもらえないのだから、自由に動ける時間が多い方がいい。

「そうですね……あまり具合はよくありませんが、家族揃って食事をとりたいと思っていたので」
「そうか、無理だと思ったら遠慮せず帰れよ」
「はい」

 そこに王太子であるカルロスが現れた。彼は茶髪碧眼の堂々たる体躯の美丈夫だ。

 絶妙に悪い場の空気を切り替えるかのように、明るく挨拶をする。

「おや、みな揃っているな。父上と母上は、本日所用で来れないそうだ。今晩は兄弟水入らずで、仲良くしようじゃないか」
「カルロス兄上! お待ちしておりました」
「おお、エドワード。お前はいつも楽しそうでいいな」
「それはもう。今宵も兄上のご壮健な姿を見られて幸いです」

 第二王子エドワードが、猫のように兄に擦り寄る様子を、白けた目で見守った。エドワードはクラウスに対してはいつも塩対応で、笑顔なんて向けられた試しがない。

 カルロス兄上も一見人当たりがいいが、たぶん見かけだけだ。セルジオを経由して、仕事を任せてもらえるよう礼儀を尽くした手紙を出しても、すべて断られている……

 カルロスの補佐であるエドワードによって、勝手に断りの返事を書かれているんじゃないかと、穿ったことを考える日もある。こんな場所で尋ねるような、マナー違反なことはできないけれど。

 兎にも角にも、晩餐は始まった。誰も話を始めないので、クラウスは控えめに一つ年上の兄へと尋ねる。

「セルジオ兄上、お仕事は忙しいのでしょうか」
「風邪や疫病も流行っていないし、薬草の備蓄を増やしている程度だから、忙しくはないよ」

 セルジオの言葉を聞いて、カルロスは微笑む。

「医療部は滞りなく回っているようでなによりだ。クラウスも医療に興味があるのか?」
「え? あの、俺は……」

 突然話を振られてまごついてしまった。だが興味がないと言えば嘘になる。自身の体調に直結する分野だ。

 これはひょっとすると、公的に仕事を任せてもらえるチャンスかもしれない。慎重に言葉を紡ごうとしていると、エドワードが馬鹿にしたように被せて来た。

「無駄ですよ、兄上。すぐに答えられないということは、やる気がないってことですから。彼は医療部の世話になることはあっても、役に立つことなどできないでしょう」
「うふふ、ほんとそうよね。クラウスお兄様ったら、いつも偉そうなことばかり言うけど、口だけだもの」

 シルビアが言葉尻に乗って、クラウスへと嫌味を言う。カルロスは困ったように眉を寄せた。

「二人とも、やめないか」
「……ところで兄上、先日お話されていた新薬についてですが」

 セルジオの一言で、場の空気は変わった。クラウスはホッと胸を撫で下ろす。

 カルロスもクラウスに好意的だが、彼と話すとエドワードが漏れなく噛みついてくるから、ろくに話ができない。

 シルビアはクラウスに対して当たりが強いし、エドワードが辛辣で嫌味ったらしいのもいつものことだ。

 病弱な末王子に興味がない父王と、自分が腹を痛めて産んだ長子二人以外に目を向けない王妃。

 クラウスが家族間でまともに話せるのは、セルジオだけだ。
感想 13

あなたにおすすめの小説

ひとりぼっちの嫌われ獣人のもとに現れたのは運命の番でした

angel
BL
目に留めていただき有難うございます! 姿を見るだけで失禁するほどに恐ろしい真っ黒な獣人。 人々に嫌われ恐れられ山奥にただ一人住んでいた獣人のもとに突然現れた真っ白な小さな獣人の子供。 最初は警戒しながらも、次第に寄り添いあい幸せに暮らはじめた。 後悔しかなかった人生に次々と幸せをもたらしてくれる小さな獣人との平和な暮らしが、様々な事件に巻き込まれていき……。 最後はハッピーエンドです!

遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。

月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」 幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。 「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」 何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。 「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」 そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。 僕、殿下に嫌われちゃったの? 実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。

昔会った彼を忘れられないまま結婚します

はなみ
BL
魔法大国ラトランドと軍事大国ウィンター王国の間に結婚マッチング制度ができた。 ラトランドに住んでいるルシア。 つらい幼少期に出会った少年がいた。 彼と"将来再会して結婚しよう"と約束をしていたが、名前すら知らない彼とは会えそうにないと諦め、マッチングされたウィンター王国の第一騎士団長と結婚するためにウィンター王国へ行くが… イケメン騎士団長×美人魔法使い(ルシア) 魔法がある世界線 ハッピーエンド保証 誤字脱字は見つけ次第修正します 週一更新

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」 オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。 しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。 その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。 「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」 卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。 見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……? 追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様 悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。

娘の代用品にすぎない偽令嬢(男)は、聖女毒殺の罪で兄に焼き殺されて回帰する

人生2929回血迷った人
BL
侯爵家に拾われた孤児の少年は、死んだ娘の「代用品」として育てられた。 名前も、仕草も、笑い方さえも。 ──すべてが他人の模倣品。 家族の愛を渇望しながら、彼はリリアンヌ・ウィンスレットとして生き続けた。 そんな彼には、皇太子ルシアンという婚約者がいた。 リリアンヌのことが好きだと言ってくれた優しい婚約者。 しかし、男であるリリアンヌは、ルシアンの想いに応えられず、逃げるという選択肢を取った。 その結果、今彼の隣にいるのは聖女セレネ。 婚約者としての気遣いは受けるものの、彼の心はセレネにあった。 彼女の嫌味に耐え、出席した3人のお茶会。 セレネはリリアンヌが淹れた紅茶を飲んで、血を吐いて倒れた。 もちろんリリアンヌは毒なんて入れていない。 しかし、弁明の余地はなかった。 杜撰な証言と作り物の証拠だけで、彼の罪は確定した。 裁判は形だけで行われ、彼の人生を捧げた侯爵家は無言を貫いた。 彼の人生はいつもこうだった。 だれも彼を助けに来ない。 母が死んだあの日から、それは変わらない。 あぁ、でも……、やっと楽になれる?

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。