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憂鬱な晩餐会
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今夜は一ヶ月に一回の、王族が揃って晩餐をとる日だ。
体調が悪いからと出席を辞退してもいいのだが、昼間の暗殺未遂について情報がほしい。今回は出席することにした。
定刻に間に合うよう身支度を整えて、ほどよい時間に部屋を出る。
ダイニングルームについたのは、クラウスが一番最初だった。末の妹姫もまだ来ていない。机の端に腰かけて待っていると、妹がやってきた。
末姫はまだ十二歳とデビュタントもまだだが、一人前の淑女のような顔で粛々と席につく。
クラウスと同じ色合いの水色の目と金の髪をしていて、顔立ちが華やかで大層美しく見える。
「ご機嫌よう、クラウスお兄様」
「シルビア、今日のドレスも似合っているね」
「当然ですわ、わたくしのために誂えられたドレスですもの」
鼻高々に威張る様子は可愛らしいが、少し心配にもなる。
まずは兄であるクラウスより遅れてきたことに、一言謝罪があるべきなのだが……彼女につけられたマナー教師は詰めが甘いのではないか。
億劫だがこの子の将来のために伝えてやるべきだろうと、重い口を開いた。
「ドレスの準備に手間取ったのかな、少し遅れてきたようだけど。本来は約束の時間の半刻前には来るべきだよ」
「お兄様が早く来すぎなんですわ」
うん、そう言うだろうと思ってた……心外だと拗ねているシルビアは、こうなるとなんでもケチをつけてきてネチネチと面倒臭い。
内心ため息をついていると、またも厄介な人が口を挟んできた。
「家族の団欒でマナーを指摘するなど、クラウスは意地が悪いですね。シルビアだってわかっていることでしょう、いちいち非公式の場で、口うるさく注意する必要などありません」
「エドワードお兄様!」
入室すると同時に、嫌味ったらしい声がクラウスを詰る。
シルビアは嬉しそうに頬を緩め、二番目の兄を歓迎した。見た目は繊細な美形であるエドワードに、彼女は懐いている。
エドワードは何が気に入らないのか、クラウスのすることなすこと大体において、一度はケチをつけないと気が済まないらしい。
前回の晩餐会でも、礼儀ばかりにこだわる無能だと罵られた覚えがある。思い出すと胃が痛くなってきた。
エドワードの煌びやかな顔を見据えながら、笑顔を顔面に貼り付けていると、彼と同時に現れた人影が前に歩み出てくる。
「まあまあ、クラウスは生真面目なだけですよ、悪気があったわけじゃありませんって。なあ、クラウス?」
「セルジオ兄上」
飴色の髪に碧紺の瞳を持つ、甘いマスクの腹違いの兄が、クラウスを庇うようにして発言した。席を立って不義理を詫びておく。
「すみません、本日は体調が優れず、兄上がせっかく呼んでくださったのに、伺えませんでした」
「いいよ、気にしないで。顔色が悪いけど、この場にも無理を押してきたんじゃないか?」
心配そうな声音で顔を眺められたので、苦笑を返しておく。
(顔色が悪いのは常なので、そう心配なさる必要はありませんよ兄上)
そう思いながらも早めに退出できる口実にしようと、体調が悪いことにしようと決める。
病弱なイメージが加速しそうだが、どうせ元気だと訴えても信じてもらえない。
頑張る機会もなく、王族の執務も任せてもらえないのだから、自由に動ける時間が多い方がいい。
「そうですね……あまり具合はよくありませんが、家族揃って食事をとりたいと思っていたので」
「そうか、無理だと思ったら遠慮せず帰れよ」
「はい」
そこに王太子であるカルロスが現れた。彼は茶髪碧眼の堂々たる体躯の美丈夫だ。
絶妙に悪い場の空気を切り替えるかのように、明るく挨拶をする。
「おや、みな揃っているな。父上と母上は、本日所用で来れないそうだ。今晩は兄弟水入らずで、仲良くしようじゃないか」
「カルロス兄上! お待ちしておりました」
「おお、エドワード。お前はいつも楽しそうでいいな」
「それはもう。今宵も兄上のご壮健な姿を見られて幸いです」
第二王子エドワードが、猫のように兄に擦り寄る様子を、白けた目で見守った。エドワードはクラウスに対してはいつも塩対応で、笑顔なんて向けられた試しがない。
カルロス兄上も一見人当たりがいいが、たぶん見かけだけだ。セルジオを経由して、仕事を任せてもらえるよう礼儀を尽くした手紙を出しても、すべて断られている……
カルロスの補佐であるエドワードによって、勝手に断りの返事を書かれているんじゃないかと、穿ったことを考える日もある。こんな場所で尋ねるような、マナー違反なことはできないけれど。
兎にも角にも、晩餐は始まった。誰も話を始めないので、クラウスは控えめに一つ年上の兄へと尋ねる。
「セルジオ兄上、お仕事は忙しいのでしょうか」
「風邪や疫病も流行っていないし、薬草の備蓄を増やしている程度だから、忙しくはないよ」
セルジオの言葉を聞いて、カルロスは微笑む。
「医療部は滞りなく回っているようでなによりだ。クラウスも医療に興味があるのか?」
「え? あの、俺は……」
突然話を振られてまごついてしまった。だが興味がないと言えば嘘になる。自身の体調に直結する分野だ。
これはひょっとすると、公的に仕事を任せてもらえるチャンスかもしれない。慎重に言葉を紡ごうとしていると、エドワードが馬鹿にしたように被せて来た。
「無駄ですよ、兄上。すぐに答えられないということは、やる気がないってことですから。彼は医療部の世話になることはあっても、役に立つことなどできないでしょう」
「うふふ、ほんとそうよね。クラウスお兄様ったら、いつも偉そうなことばかり言うけど、口だけだもの」
シルビアが言葉尻に乗って、クラウスへと嫌味を言う。カルロスは困ったように眉を寄せた。
「二人とも、やめないか」
「……ところで兄上、先日お話されていた新薬についてですが」
セルジオの一言で、場の空気は変わった。クラウスはホッと胸を撫で下ろす。
カルロスもクラウスに好意的だが、彼と話すとエドワードが漏れなく噛みついてくるから、ろくに話ができない。
シルビアはクラウスに対して当たりが強いし、エドワードが辛辣で嫌味ったらしいのもいつものことだ。
病弱な末王子に興味がない父王と、自分が腹を痛めて産んだ長子二人以外に目を向けない王妃。
クラウスが家族間でまともに話せるのは、セルジオだけだ。
体調が悪いからと出席を辞退してもいいのだが、昼間の暗殺未遂について情報がほしい。今回は出席することにした。
定刻に間に合うよう身支度を整えて、ほどよい時間に部屋を出る。
ダイニングルームについたのは、クラウスが一番最初だった。末の妹姫もまだ来ていない。机の端に腰かけて待っていると、妹がやってきた。
末姫はまだ十二歳とデビュタントもまだだが、一人前の淑女のような顔で粛々と席につく。
クラウスと同じ色合いの水色の目と金の髪をしていて、顔立ちが華やかで大層美しく見える。
「ご機嫌よう、クラウスお兄様」
「シルビア、今日のドレスも似合っているね」
「当然ですわ、わたくしのために誂えられたドレスですもの」
鼻高々に威張る様子は可愛らしいが、少し心配にもなる。
まずは兄であるクラウスより遅れてきたことに、一言謝罪があるべきなのだが……彼女につけられたマナー教師は詰めが甘いのではないか。
億劫だがこの子の将来のために伝えてやるべきだろうと、重い口を開いた。
「ドレスの準備に手間取ったのかな、少し遅れてきたようだけど。本来は約束の時間の半刻前には来るべきだよ」
「お兄様が早く来すぎなんですわ」
うん、そう言うだろうと思ってた……心外だと拗ねているシルビアは、こうなるとなんでもケチをつけてきてネチネチと面倒臭い。
内心ため息をついていると、またも厄介な人が口を挟んできた。
「家族の団欒でマナーを指摘するなど、クラウスは意地が悪いですね。シルビアだってわかっていることでしょう、いちいち非公式の場で、口うるさく注意する必要などありません」
「エドワードお兄様!」
入室すると同時に、嫌味ったらしい声がクラウスを詰る。
シルビアは嬉しそうに頬を緩め、二番目の兄を歓迎した。見た目は繊細な美形であるエドワードに、彼女は懐いている。
エドワードは何が気に入らないのか、クラウスのすることなすこと大体において、一度はケチをつけないと気が済まないらしい。
前回の晩餐会でも、礼儀ばかりにこだわる無能だと罵られた覚えがある。思い出すと胃が痛くなってきた。
エドワードの煌びやかな顔を見据えながら、笑顔を顔面に貼り付けていると、彼と同時に現れた人影が前に歩み出てくる。
「まあまあ、クラウスは生真面目なだけですよ、悪気があったわけじゃありませんって。なあ、クラウス?」
「セルジオ兄上」
飴色の髪に碧紺の瞳を持つ、甘いマスクの腹違いの兄が、クラウスを庇うようにして発言した。席を立って不義理を詫びておく。
「すみません、本日は体調が優れず、兄上がせっかく呼んでくださったのに、伺えませんでした」
「いいよ、気にしないで。顔色が悪いけど、この場にも無理を押してきたんじゃないか?」
心配そうな声音で顔を眺められたので、苦笑を返しておく。
(顔色が悪いのは常なので、そう心配なさる必要はありませんよ兄上)
そう思いながらも早めに退出できる口実にしようと、体調が悪いことにしようと決める。
病弱なイメージが加速しそうだが、どうせ元気だと訴えても信じてもらえない。
頑張る機会もなく、王族の執務も任せてもらえないのだから、自由に動ける時間が多い方がいい。
「そうですね……あまり具合はよくありませんが、家族揃って食事をとりたいと思っていたので」
「そうか、無理だと思ったら遠慮せず帰れよ」
「はい」
そこに王太子であるカルロスが現れた。彼は茶髪碧眼の堂々たる体躯の美丈夫だ。
絶妙に悪い場の空気を切り替えるかのように、明るく挨拶をする。
「おや、みな揃っているな。父上と母上は、本日所用で来れないそうだ。今晩は兄弟水入らずで、仲良くしようじゃないか」
「カルロス兄上! お待ちしておりました」
「おお、エドワード。お前はいつも楽しそうでいいな」
「それはもう。今宵も兄上のご壮健な姿を見られて幸いです」
第二王子エドワードが、猫のように兄に擦り寄る様子を、白けた目で見守った。エドワードはクラウスに対してはいつも塩対応で、笑顔なんて向けられた試しがない。
カルロス兄上も一見人当たりがいいが、たぶん見かけだけだ。セルジオを経由して、仕事を任せてもらえるよう礼儀を尽くした手紙を出しても、すべて断られている……
カルロスの補佐であるエドワードによって、勝手に断りの返事を書かれているんじゃないかと、穿ったことを考える日もある。こんな場所で尋ねるような、マナー違反なことはできないけれど。
兎にも角にも、晩餐は始まった。誰も話を始めないので、クラウスは控えめに一つ年上の兄へと尋ねる。
「セルジオ兄上、お仕事は忙しいのでしょうか」
「風邪や疫病も流行っていないし、薬草の備蓄を増やしている程度だから、忙しくはないよ」
セルジオの言葉を聞いて、カルロスは微笑む。
「医療部は滞りなく回っているようでなによりだ。クラウスも医療に興味があるのか?」
「え? あの、俺は……」
突然話を振られてまごついてしまった。だが興味がないと言えば嘘になる。自身の体調に直結する分野だ。
これはひょっとすると、公的に仕事を任せてもらえるチャンスかもしれない。慎重に言葉を紡ごうとしていると、エドワードが馬鹿にしたように被せて来た。
「無駄ですよ、兄上。すぐに答えられないということは、やる気がないってことですから。彼は医療部の世話になることはあっても、役に立つことなどできないでしょう」
「うふふ、ほんとそうよね。クラウスお兄様ったら、いつも偉そうなことばかり言うけど、口だけだもの」
シルビアが言葉尻に乗って、クラウスへと嫌味を言う。カルロスは困ったように眉を寄せた。
「二人とも、やめないか」
「……ところで兄上、先日お話されていた新薬についてですが」
セルジオの一言で、場の空気は変わった。クラウスはホッと胸を撫で下ろす。
カルロスもクラウスに好意的だが、彼と話すとエドワードが漏れなく噛みついてくるから、ろくに話ができない。
シルビアはクラウスに対して当たりが強いし、エドワードが辛辣で嫌味ったらしいのもいつものことだ。
病弱な末王子に興味がない父王と、自分が腹を痛めて産んだ長子二人以外に目を向けない王妃。
クラウスが家族間でまともに話せるのは、セルジオだけだ。
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