残念令嬢、家を追われて逃亡中〜謎の法術師様がなぜか守ってくれます

兎騎かなで

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2 緊急事態

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 エスメラルダお姉様は怪訝な表情をしながらも部屋の中を見回す。一通り見回ると、キッと猫のように目を吊り上げた。

「誰もいないじゃないミリアージュ! こんな時にふざけないで!!」
「えぇっ?」

 パッと壁の方を見るが、そこに先程までいた背の高いシルエットはどこにも見当たらない。
 そんな、この部屋に隠れられるところなんてないはず……?

 部屋の中を探すため背を向けようとしたが、エスメラルダに肩を掴まれ阻止される。

「聞きなさいミリア! お父様とお兄様は、王立騎士団によって捕らえられたの。これから王都に連れていかれる。なぜか知らないけど、ミリアのことも探されているわ」
「な、なんで私? それに、なぜお父様とお兄様は捕まったの!?」

 お姉様は力無く首を振った。わからないってこと?

「今マルセロが情報をまとめているわ。とにかく、貴女は見つからないようにここから逃げるのよ」
「マルセロお兄様は無事なの? お姉様はどうするの?」
「マルセロは大丈夫。貴女が無事に逃げられるようにと、これを預かってきたわ」

 ジャラリと音がする重い袋を手渡される。簡素な麻袋に入れるには不相応なくらい、たくさんのコインが入っていた。
 そして、一振りの短剣。刃物なんて小さなナイフくらいしか使ったことのないミリアは、おっかなびっくりしながらそれを受けとる。

「私はこれから荷物をまとめて、婚約者の元に逃げる。貴女も連れていきたかったけれど……私達こんなに似てるんだもの。連れていったら貴女の居所がすぐにバレるわ」
「似ている? お姉様の方が断然綺麗だと思うけど」
「そんなことないわよ」

 だってお姉様の方が髪が黄金色に輝いていて、瞳だって美しいエメラルドで、身体つきだって女性らしくて素敵なのに。
 ミリアが現実逃避のようにそんなことを考えていると、エスメラルダは綺麗な顔をクシャリと泣きそうに歪める。そしてミリアージュを強く抱きしめた。

「力になれなくてごめんなさい。せめてこれを持っていって路銀にでもして。貴女の無事を祈っているわ」
「姉様……」

 コロリと手のひらに転がされたのは、姉のお気に入りのエメラルドの指輪だった。いつも姉が身につけていた覚えがある。
 こんな大事な物を私に預け、あまつさえ売ってしまえだなんて。ミリアはじわじわと、状況が深刻であることを実感しはじめた。

 エスメラルダはミリアの強張った体を少しの間抱擁し、離れた。エメラルドの瞳は決意に満ちていた。

「さあ、直ぐに荷物をまとめて。ここにはもう戻ってこれないかもしれないから、そのつもりでね。お母様のペンダントは持ってる?」
「あるよ! ここに」

 ミリアが胸元でギュッと手を握ると、エスメラルダは頷き、固いながらも微笑んでみせた。

「それなら大丈夫よ。きっとお母様がミリアのことを守ってくれるわ。私はマルセロを手伝って、ミリアの居場所がバレないよう時間を稼いでくる。荷造りをしたら裏口からこっそり出るのよ、わかった?」

 早口で必要なことを告げる姉に対して、ミリアは咄嗟に返事ができなかった。あまりにも想定外な出来事に、開いた口からははくはく・・・・と空気だけが漏れでていく。

「ミリア、ミリアージュ、しっかりして! 大丈夫よ、また会える! 私の結婚式には間にあわないかもしれないけど、また家族みんなで会える日がくる。そう信じて。いい? 絶対よ!!」

 エスメラルダは最後にミリアをもう一度抱きしめて、早足でミリアの部屋を出ていく。扉が閉められ足音が遠ざかり、たちまち部屋は静寂に満ちた。

「……支度、しなきゃ」

 ミリアはのろのろと動きはじめる。お兄様達もお姉様も、お父様も私を助けてくれない。ここから逃げるとしたら、体力のないカーツァも連れていけない。私一人で、どうにかしないと。

 なにがなんだかわからないながらも、川で泳いだり山に遊びにいく時に着る服を鞄に詰めていく。なにかの役に立ちそうと思ってシーツも詰めこむ。

 コインの入った袋と短剣、お姉様の指輪も忘れずに入れる。それから、できるだけ地味な藍色のワンピースに着替えた。

「裏口から逃げろって、お姉様は言ってた……」

 ちょうどミリアの部屋の窓から、屋敷の裏庭が見渡せた。そっと下を窺うと、王立騎士団のマントを身につけた騎士が裏口付近を彷徨うろついているのが見えた。

「どうしよう、逃げられないよ」
「ミリア、そろそろ支度はすんだ?」
「わっ!?」

 音も無く空中からアルトリアが現れた。軽やかにミリアの部屋に降り立った彼は、ミリアに手を差しだす。

「行こう。俺と行けば女王の騎士から逃れられるよ」

 それが救いの手なのか、それとも敵の罠なのか、ミリアにはわからなかった。わからなかったけれど、ミリアは縋れるものがほしかった。
 だから、迷って、躊躇ちゅうちょして、それでも差しだされた手を取った。
 アルトリオはホッとしたように笑うと、ミリアの手を強く握る。

「飛ぶよ、手を離さないでね」
「きゃっ!」

 風がミリアの髪を乱す。咄嗟に目をつむり、次に目を開けた時には、ミリアは外に立っていた。
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