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18 晩餐会にお呼ばれ
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ミリアは急いで部屋に戻り、一瞬躊躇してからラジェの部屋をノックする。
「ラジェ、いる? ごめんね、私ラジェの触れられたくないところに触れちゃったみたいだね。ごめん……」
ミリアが謝ると、ドアの向こうで誰かが動く気配がした。
「ミリアのせいじゃない」
「ラジェ!」
「ミリアの気持ちは嬉しい。けれど……まだ、時間が必要。今日はもう、一人にして」
ミリアの仲良くなりたいという気持ちは自体は、ラジェにとって迷惑ではないみたいだ。ミリアは安心して、ふうとため息をついた。
ラジェは自分の姿に思うところがあるのかな。今度からむやみに外見を褒めたり、綺麗にしようとしたりしないようにしよう。
「わかった、一人でドレス脱げる?」
「問題ない」
「じゃあ、私戻るね。なにかあったら呼んでね」
「わかった」
ミリアは一人部屋に戻ると、ベッドの端に腰かけて肩を落とす。
「うーん、ラジェ大丈夫かな? 落ちこんでるよね……そうだ、ちょっとだけ視てみよう」
ミリアは早速使えるようになった予見を行使した。この先、私はラジェと上手くやっていけるのかな?
ミリアが意識を集中させると、情景が目の前に浮かびあがってくる。
雪降るどこかの町角で、ミリアを気遣うように見つめるラジェがそこにいた。彼女は何かを話しかけてきたがその内容は聞こえず、少しだけ微笑んだかと思うとフッとその姿は消えてしまった。
「あ……途絶えちゃった」
雨が降るかどうかを視た時と違って、ずいぶんと曖昧な予見だ。けれど険悪な関係にはなっていないどころか、ラジェは前までよりも親しみを感じる目をミリアに向けてくれていたので、関係がこじれることはなさそうだ。
よかった。せっかく一緒にいるんだから、今後も仲よくなれるならそれに越したことはないよね。
そうだ! お父様とお兄様は無事かな? そっちも視てみよう。
ミリアは再び意識を集中させた。しかし、いくら視ようとしても一向に姿が浮かびあがらない。時の糸は確かに王都に続いているのに、途中でなにかに邪魔されているような感覚がする。
ただ、自分が王都に行かないといけないという感覚を強く感じた。
アルトもラジェも、ミリアについてくることで自分の目的が叶うと旅をはじめた頃に言っていた。それがなにかはまだよくわからないけれど、確かに自分が王都に行くことでなにかが大きく変わるということだけはわかった。
結局、父も兄も無事かどうかはわからなかった。ミリアははやる胸の内を落ち着けたくて、今日も身につけている母の形見のペンダントを見つめた。
ペンダントが柔らかく黄色の光を発しているのが、今のミリアには視えた。
安心できる、春の陽だまりのような光だ。ミリアはギュッとペンダントを握りしめた。
「どうかお父様とお兄様を守って、お母様」
ミリアが祈りを捧げていると、メイドが晩餐の用意ができたと声をかけてきた。もうそんな時間なんだと驚きながら、ミリアはメイドに道案内をされて広間にたどり着いた。
広間に入ると、アルトとフェルが大きな長テーブルの席に着いていた。
「やあミリア、いらっしゃい」
「麗しいなミリア嬢。まるでヴィオラの花のようだ」
「ありがとう。アルトとフェルも素敵だよ」
アルトリオは焦茶色のフロックコートにベージュのジレをあわせていて、柔らかな色彩の金茶髪と若草色の瞳を引き立てている。
フェリックスはグレーのフロックコートに瞳と同じ紫色のジレを着ていて、洗練された印象だ。
「フェル、私はどこに座ればいい?」
「ミリア嬢は俺の隣だ」
フェルにエスコートされてミリアも着席する。目の前の席のアルトがフワリと微笑んだ。
「ミリア、とてもかわいいよ。そのドレスにあってる」
「あ、ありがとう」
ストレートな褒め言葉に、ミリアは頬を染めてはにかんだ。
アルトもそういう服を着るとまさに貴公子って感じで、かっこいいなあ。目のやり場に困っちゃうな。
ミリアがもじもじしていると、彼女がやってきた方と反対の扉が開き、美しく着飾った貴婦人が現れた。
栗色の髪に青い瞳で、青色の上品なドレスを身につけている。ドレスに縫いつけられた宝石が、燭台の光にキラキラ煌めいていた。
「ごきげんよう。フェリックス、よくいらしてくれましたね」
「レティシア姉上、息災のようでなによりだ」
「夫はまだ手が離せないそうなの。主人が来るまでわたくしとお話致しましょう。そうそう、お客様方を紹介してくださる?」
レティシアはアルトリオとミリアに視線を寄越した。アルトリオが立ちあがり、優雅に一礼する。
「お初にお目にかかります、アルトリオ・シュゼフと申します」
「シュゼフ家……ごめんなさいね、どちらの地方の方?」
「ここから東にあるサルダ辺境都市のほど近くに領地を頂いております。最近子爵位を頂いたばかりですので、ご存じないかと思われます」
「そうでしたの。今夜はごゆるりと寛いでくださいな」
レティシアはアルトリオの丁寧な挨拶を受けて、機嫌よさそうにニコリと笑う。
アルト、子爵なんだ。本当かな? お父様の爵位を受け継いだって訳じゃなさそうだよね、そうだったら旅なんてできないだろうし。子爵子息って紹介でもなかったから、自分でなにか功績を上げたのか、それとももっと高貴な生まれの方なのかも。
ミリアはアルトリオの出自がとっても気になりはじめたが、とりあえずそれは置いておいてレティシアに挨拶するために、カテーシーを披露した。
ミリアに視線を移したレティシアは、持っていた扇子で口元を覆う。
「あら? わたくし、そちらのお嬢様に見覚えがありますわ。一年前のデビュッタントでお見かけしなかったかしら」
ミリアは一瞬体を強ばらせたが、フェルの様子を窺うと鷹揚に頷いている。そのまま自己紹介してもいいってことだよね、とミリアは判断した。
「ミリアージュ・ドレンセオです。再びお会いすることができて光栄です、奥様」
「まあ、ドレンセオ家の! こんなうら若いお嬢様がどんな事情があって旅をしているのかしら。なにか事情がおありのようね」
「姉上のおっしゃる通り、ミリア嬢は女王の圧政の犠牲者だ。父と兄の身柄を拘束され、彼女も捕まりそうであったところを辛くも逃れ、家族を助けだすために旅をしているところだ」
レティシアは眉を下げてミリアに同情した。
「まあ、お気の毒に。慣れない旅生活はさぞお辛かったでしょう、この屋敷にいる間はどうか自分の家だと思って寛いでちょうだい」
「ありがとうございます」
そこにボルドウィンもやってきて、夫人が二人を紹介した後夕食がはじまった。
ミリアもマナーを思いだしながら、静かに食事をする。お腹が空いていたせいか、豪華な食事のせいかとてもご飯が美味しく感じられた。
ミリアが黙々と食事を味わっている間、ボルドウィンとフェリックスが主に話をし、それに時々レティシアが相槌を打っていた。
フェルが王都にいた間の話や、その後エルトポルダにいた間に得た情報を話す。有力な貴族が次々に捕らえられている話を聞き、ボルドウィンは難しい顔で腕を組んだ。
「そうか、王都がきな臭くなりこちらに身を寄せたはいいが、ろくに情報が入ってこん状態だったのだ。よもやそのようなことになっているとはな」
「兄上はいざという時のために、こちらに留まった方がよろしいでしょう。今後は折をみて便りを出すこととしよう」
「ああ、期待している。しかし、女王陛下はどういうおつもりなのか。海側の国防に欠かせないドレンセオ辺境伯まで捕らえられてしまうとは、今後アーガルシア王国をどのようにしていくおつもりなのか」
ボルドウィンはチラリとミリアを見た。フェルもミリアを一瞥して力強く頷く。
「女王はなぜ特定の貴族を、罪をでっち上げてでも拘束するのか俺にもわからない。しかし目的はどうあれ、この国を再び戦火に晒されないようにするためには、誰かが止めなければならない。俺はそのために王都に行く」
ボルドウィンはフェリックスにひたと視線をあわせた。
「フェリックス、本当にお前がいく必要があるのか?」
「もう決めたことだ。このままこそこそと仲間内で非難を続けるだけでは、女王は止められない。俺は王都で騎士の仲間に根回しをして、女王の身柄を押さえるつもりだ」
「果たしてそう上手くいくかどうか。聞いた話によると、女王陛下は法術師だそうだぞ。並の騎士では凶行を止められまい。さらに詳しい者の話によると、その背には亡霊が張りついているとか。なにか怪しげな呪いでも行使しているのではないかと噂されておる」
「失礼、発言をお許しくださいますか」
「シュゼフ卿、どうされた? なんなりと話すがいい」
話の内容に反応したアルトが声を上げた。
「亡霊とは、一体どういう意味ですか? なにかの暗喩なのか、それとも本当になにか憑いているように見えるのですか」
「あくまでも噂だがな。女王につき従うようにして、まるで幽霊のように宙に浮かぶ女を見た者がいるらしい。全く、面妖なものだな法術というものは」
「それは本来法術では再現できない類の術のはずです……やはり、理を超えたのは本当のことなのか。女王の瞳は何色かわかりますか?」
「確か、一年前にラジエルシア陛下から王座を奪いとった時には、リリエルシア陛下は真っ赤な血のような瞳をしていた。幼少期のことはよく知らないが、なにか法術の影響で瞳が変色したのではないかと噂を聞いたな」
「そうですか」
アルトはそれきり深刻な表情で黙りこんでしまった。ミリアは声をかけるべきか迷う。
「ミリアージュ嬢、あなたも王都に向かうというのは本当なの? いくらフェリックスがついていてもあまりにも危険なのではなくて? ねえ貴方、ここで匿ってさしあげたら?」
レティシアがミリアを気遣いそんなことを言いだしたので、ミリアは慌てて遮った。
「いいえ、レティシア様。お心遣いは大変嬉しく思いますが、私は父と兄を助けると決めたのです。そのためには私が王都に向かう必要があるのです」
「そうなの? でもあまりにも危険よ」
「大丈夫です。フェリックス様も、こちらのアルトリオ様も。それに他の旅仲間も、私のことを守ってくれます」
ミリアは気丈に胸を張ってレティシアに微笑んでみせた。
「ラジェ、いる? ごめんね、私ラジェの触れられたくないところに触れちゃったみたいだね。ごめん……」
ミリアが謝ると、ドアの向こうで誰かが動く気配がした。
「ミリアのせいじゃない」
「ラジェ!」
「ミリアの気持ちは嬉しい。けれど……まだ、時間が必要。今日はもう、一人にして」
ミリアの仲良くなりたいという気持ちは自体は、ラジェにとって迷惑ではないみたいだ。ミリアは安心して、ふうとため息をついた。
ラジェは自分の姿に思うところがあるのかな。今度からむやみに外見を褒めたり、綺麗にしようとしたりしないようにしよう。
「わかった、一人でドレス脱げる?」
「問題ない」
「じゃあ、私戻るね。なにかあったら呼んでね」
「わかった」
ミリアは一人部屋に戻ると、ベッドの端に腰かけて肩を落とす。
「うーん、ラジェ大丈夫かな? 落ちこんでるよね……そうだ、ちょっとだけ視てみよう」
ミリアは早速使えるようになった予見を行使した。この先、私はラジェと上手くやっていけるのかな?
ミリアが意識を集中させると、情景が目の前に浮かびあがってくる。
雪降るどこかの町角で、ミリアを気遣うように見つめるラジェがそこにいた。彼女は何かを話しかけてきたがその内容は聞こえず、少しだけ微笑んだかと思うとフッとその姿は消えてしまった。
「あ……途絶えちゃった」
雨が降るかどうかを視た時と違って、ずいぶんと曖昧な予見だ。けれど険悪な関係にはなっていないどころか、ラジェは前までよりも親しみを感じる目をミリアに向けてくれていたので、関係がこじれることはなさそうだ。
よかった。せっかく一緒にいるんだから、今後も仲よくなれるならそれに越したことはないよね。
そうだ! お父様とお兄様は無事かな? そっちも視てみよう。
ミリアは再び意識を集中させた。しかし、いくら視ようとしても一向に姿が浮かびあがらない。時の糸は確かに王都に続いているのに、途中でなにかに邪魔されているような感覚がする。
ただ、自分が王都に行かないといけないという感覚を強く感じた。
アルトもラジェも、ミリアについてくることで自分の目的が叶うと旅をはじめた頃に言っていた。それがなにかはまだよくわからないけれど、確かに自分が王都に行くことでなにかが大きく変わるということだけはわかった。
結局、父も兄も無事かどうかはわからなかった。ミリアははやる胸の内を落ち着けたくて、今日も身につけている母の形見のペンダントを見つめた。
ペンダントが柔らかく黄色の光を発しているのが、今のミリアには視えた。
安心できる、春の陽だまりのような光だ。ミリアはギュッとペンダントを握りしめた。
「どうかお父様とお兄様を守って、お母様」
ミリアが祈りを捧げていると、メイドが晩餐の用意ができたと声をかけてきた。もうそんな時間なんだと驚きながら、ミリアはメイドに道案内をされて広間にたどり着いた。
広間に入ると、アルトとフェルが大きな長テーブルの席に着いていた。
「やあミリア、いらっしゃい」
「麗しいなミリア嬢。まるでヴィオラの花のようだ」
「ありがとう。アルトとフェルも素敵だよ」
アルトリオは焦茶色のフロックコートにベージュのジレをあわせていて、柔らかな色彩の金茶髪と若草色の瞳を引き立てている。
フェリックスはグレーのフロックコートに瞳と同じ紫色のジレを着ていて、洗練された印象だ。
「フェル、私はどこに座ればいい?」
「ミリア嬢は俺の隣だ」
フェルにエスコートされてミリアも着席する。目の前の席のアルトがフワリと微笑んだ。
「ミリア、とてもかわいいよ。そのドレスにあってる」
「あ、ありがとう」
ストレートな褒め言葉に、ミリアは頬を染めてはにかんだ。
アルトもそういう服を着るとまさに貴公子って感じで、かっこいいなあ。目のやり場に困っちゃうな。
ミリアがもじもじしていると、彼女がやってきた方と反対の扉が開き、美しく着飾った貴婦人が現れた。
栗色の髪に青い瞳で、青色の上品なドレスを身につけている。ドレスに縫いつけられた宝石が、燭台の光にキラキラ煌めいていた。
「ごきげんよう。フェリックス、よくいらしてくれましたね」
「レティシア姉上、息災のようでなによりだ」
「夫はまだ手が離せないそうなの。主人が来るまでわたくしとお話致しましょう。そうそう、お客様方を紹介してくださる?」
レティシアはアルトリオとミリアに視線を寄越した。アルトリオが立ちあがり、優雅に一礼する。
「お初にお目にかかります、アルトリオ・シュゼフと申します」
「シュゼフ家……ごめんなさいね、どちらの地方の方?」
「ここから東にあるサルダ辺境都市のほど近くに領地を頂いております。最近子爵位を頂いたばかりですので、ご存じないかと思われます」
「そうでしたの。今夜はごゆるりと寛いでくださいな」
レティシアはアルトリオの丁寧な挨拶を受けて、機嫌よさそうにニコリと笑う。
アルト、子爵なんだ。本当かな? お父様の爵位を受け継いだって訳じゃなさそうだよね、そうだったら旅なんてできないだろうし。子爵子息って紹介でもなかったから、自分でなにか功績を上げたのか、それとももっと高貴な生まれの方なのかも。
ミリアはアルトリオの出自がとっても気になりはじめたが、とりあえずそれは置いておいてレティシアに挨拶するために、カテーシーを披露した。
ミリアに視線を移したレティシアは、持っていた扇子で口元を覆う。
「あら? わたくし、そちらのお嬢様に見覚えがありますわ。一年前のデビュッタントでお見かけしなかったかしら」
ミリアは一瞬体を強ばらせたが、フェルの様子を窺うと鷹揚に頷いている。そのまま自己紹介してもいいってことだよね、とミリアは判断した。
「ミリアージュ・ドレンセオです。再びお会いすることができて光栄です、奥様」
「まあ、ドレンセオ家の! こんなうら若いお嬢様がどんな事情があって旅をしているのかしら。なにか事情がおありのようね」
「姉上のおっしゃる通り、ミリア嬢は女王の圧政の犠牲者だ。父と兄の身柄を拘束され、彼女も捕まりそうであったところを辛くも逃れ、家族を助けだすために旅をしているところだ」
レティシアは眉を下げてミリアに同情した。
「まあ、お気の毒に。慣れない旅生活はさぞお辛かったでしょう、この屋敷にいる間はどうか自分の家だと思って寛いでちょうだい」
「ありがとうございます」
そこにボルドウィンもやってきて、夫人が二人を紹介した後夕食がはじまった。
ミリアもマナーを思いだしながら、静かに食事をする。お腹が空いていたせいか、豪華な食事のせいかとてもご飯が美味しく感じられた。
ミリアが黙々と食事を味わっている間、ボルドウィンとフェリックスが主に話をし、それに時々レティシアが相槌を打っていた。
フェルが王都にいた間の話や、その後エルトポルダにいた間に得た情報を話す。有力な貴族が次々に捕らえられている話を聞き、ボルドウィンは難しい顔で腕を組んだ。
「そうか、王都がきな臭くなりこちらに身を寄せたはいいが、ろくに情報が入ってこん状態だったのだ。よもやそのようなことになっているとはな」
「兄上はいざという時のために、こちらに留まった方がよろしいでしょう。今後は折をみて便りを出すこととしよう」
「ああ、期待している。しかし、女王陛下はどういうおつもりなのか。海側の国防に欠かせないドレンセオ辺境伯まで捕らえられてしまうとは、今後アーガルシア王国をどのようにしていくおつもりなのか」
ボルドウィンはチラリとミリアを見た。フェルもミリアを一瞥して力強く頷く。
「女王はなぜ特定の貴族を、罪をでっち上げてでも拘束するのか俺にもわからない。しかし目的はどうあれ、この国を再び戦火に晒されないようにするためには、誰かが止めなければならない。俺はそのために王都に行く」
ボルドウィンはフェリックスにひたと視線をあわせた。
「フェリックス、本当にお前がいく必要があるのか?」
「もう決めたことだ。このままこそこそと仲間内で非難を続けるだけでは、女王は止められない。俺は王都で騎士の仲間に根回しをして、女王の身柄を押さえるつもりだ」
「果たしてそう上手くいくかどうか。聞いた話によると、女王陛下は法術師だそうだぞ。並の騎士では凶行を止められまい。さらに詳しい者の話によると、その背には亡霊が張りついているとか。なにか怪しげな呪いでも行使しているのではないかと噂されておる」
「失礼、発言をお許しくださいますか」
「シュゼフ卿、どうされた? なんなりと話すがいい」
話の内容に反応したアルトが声を上げた。
「亡霊とは、一体どういう意味ですか? なにかの暗喩なのか、それとも本当になにか憑いているように見えるのですか」
「あくまでも噂だがな。女王につき従うようにして、まるで幽霊のように宙に浮かぶ女を見た者がいるらしい。全く、面妖なものだな法術というものは」
「それは本来法術では再現できない類の術のはずです……やはり、理を超えたのは本当のことなのか。女王の瞳は何色かわかりますか?」
「確か、一年前にラジエルシア陛下から王座を奪いとった時には、リリエルシア陛下は真っ赤な血のような瞳をしていた。幼少期のことはよく知らないが、なにか法術の影響で瞳が変色したのではないかと噂を聞いたな」
「そうですか」
アルトはそれきり深刻な表情で黙りこんでしまった。ミリアは声をかけるべきか迷う。
「ミリアージュ嬢、あなたも王都に向かうというのは本当なの? いくらフェリックスがついていてもあまりにも危険なのではなくて? ねえ貴方、ここで匿ってさしあげたら?」
レティシアがミリアを気遣いそんなことを言いだしたので、ミリアは慌てて遮った。
「いいえ、レティシア様。お心遣いは大変嬉しく思いますが、私は父と兄を助けると決めたのです。そのためには私が王都に向かう必要があるのです」
「そうなの? でもあまりにも危険よ」
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