残念令嬢、家を追われて逃亡中〜謎の法術師様がなぜか守ってくれます

兎騎かなで

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26 牢屋といえば脱獄するもの、RPGではお約束の展開です

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 ミリアは敵に両腕を拘束されたまま、肌がピリピリするような赤い風に包まれる。いつもの瞬間移動の感覚と違い、どこか遠くに飛ばされた感じがした。
 目を開けると、煌びやかな装飾が目に飛びこんでくる。赤い絨毯の上に黄金色の王座があり、銀の髪の美しい女性が足を組んでミリア達を見下ろしていた。

「はぁい陛下、ただいま戻ったよー。ヴィヴィ様貸してくれてありがと、効果抜群だったわ」
「よくやったわねガヴィーノ。この小娘がミリアージュね」

 女王様……! ミリアは息をのんだ。女王リリエルシアは宝石がふんだんに縫いつけられた銀のドレスを華麗に捌いて、ミリアの元にやってくる。ラジェと同じくらい背が高い彼女の、血の色の瞳に見つめられて身が竦む。
 この人、なんて冷たい目をしているんだろう。

 顎を捉えられて、グッと上を向かされ強制的に視線をあわせられた。

「ふーん、凡庸ね」
「そう? そりゃ陛下やジニーほどじゃないけど、まあまあ可愛いじゃん?」
「例の鍵はどこにあるのかしら」
「ああ、首飾りらしいよ。ほら」
「やっ!?」

 ガヴィーノの手が無遠慮にミリアの胸元に突っこまれて、母の形見のネックレスを引っ張りだされた。

「ちょっと、変な声ださないでくれよ。僕はジニーにしか興味ないんだから」
「ガヴィーノ、気が散るからちょっとお黙りなさい」
「はーい陛下、仰せのままに」

 ガヴィーノはミリアを拘束したまま押し黙る。ヴィヴィアンヌもスッと足を浮かせて女王の後ろへ移動していた。

 えっ、あのヴィヴィ様って人、宙に浮いてる? あの人がボルドウィン様が仰っておられた幽霊なのかな? 怖い……女王様も怖いけど、あの人も何を考えているかよくわからない。

 女王はミリアの首にかかったペンダントをしげしげと検分している。よく見ようと引っ張られて、チェーンが切れてしまうかと一瞬ヒヤッとする。

 幸いチェーンが切れることはなかったが、首の後ろに食いこんで痛い。
 けれど引っ張られてチェーンが千切れてしまう方が嫌なので、ミリアはなるべく従順に見えるよう、身じろぎを我慢した。

「これが鍵……ガヴィーノ、解読可能かしら?」
「ちょっと見せてよ。んー、無理にこじ開けたら中の術式ごと吹っ飛びそうだから、やめといた方がいいんじゃなーい?」
「まどろっこしいわね。まだ発動条件も揃っていないし。ねえミリアージュ?」
「は、はい」
「あなた、コレの中身がなにか知っているのかしら?」
「あの、いいえ、わかりません……」

 ミリアはなんと答えるべきか一瞬迷ったが、結局素直にわからないと答えた。

「役たたずね。いいわ、鍵ごと牢屋にでもほおりこんでおいて」

 今はなにもできないとわかると、女王は急にミリアとペンダントに興味を無くしたようだった。
 ペンダントを払い除けるように手放すと、ミリアから視線を外す。

「あの、陛下! お父様とお兄様は、今どこに? 無事なんでしょうか!?」
「質問していいと許可した覚えはないわ。ガヴィーノ、後は適当にして」

 リリエルシアは赤い石を二つ床に転がした。ガヴィーノのそれを嬉々として拾いあげ、女王に退出の礼をする。

「畏まりました陛下、テキトーにしておきますねー。じゃ、行こうかミリアちゃん。せっかくだからお兄ちゃんのところへ連れてってあげよう」
「えっ、いいんですか?」
「陛下が適当っていったらテキトーにしていいんだよ。ほらほら、歩いた歩いた」

 ガヴィーノに小突かれながらミリアは絢爛豪華な王座の間を後にした。どことなく見たことのある廊下の景色から判断するに、ここはやはり王城であっているらしい。
 廊下を通り過ぎて長い階段を降りると、冷えた石造りの地下へ通された。

「はーい到着。ミリアちゃんの愛しのお兄様はどこかな?」
「……ミリア?」
「! キルフェスお兄様? お兄様なの?」

 暗くすえた臭いの漂う牢の一角から、懐かしい兄の声が聞こえた。
 ミリアが暗闇に目を凝らすと、髭の生えた痩せた青年が牢屋の中にうずくまっているのが見えた。いつも綺麗に整えられていた金の髪も精彩をなくし、薄汚れている。
 ミリアは記憶の中の立派な青年だった兄の見る影もないその姿に、悲鳴を上げそうになった。

「お兄様!!」
「ミリア、なぜここに……お前も捕まったのか」
「いいねえ、兄妹の感動の再会! やっぱり愛しあう兄と妹は引き離しちゃいけないよねえ。ミリアちゃんのお部屋はお兄ちゃんの隣にしてあげるよ、うんうん」

 ガヴィーノは意味のわからない理屈で、ミリアをキルフェスの隣の牢に入れることに決めたようだった。
 ミリアはガヴィーノにぐいぐいと背を押されて、牢の中に閉じこめられる。ガチャンと錠前が閉じられた音が背後から聞こえた。

「これでよし。ふー、いい仕事したぁ。おっと、ミリアちゃんもいちおー法術師なんだっけねえ、予言しか使えないけど。プププッ。それならこれで十分だよねーっと」

 ガヴィーノは、牢の端っこに赤い石を埋めこんだ装置のようなものをとりつけた。

「さてと。じゃあねミリアちゃん、君もテキトーに過ごすといいよ。世の中を楽しむコツは、ある程度テキトーに過ごすことだからね。陛下に歯向かおうなんて、そんな面倒くさいことしないほうがいいよ、マジで。それじゃあねー」
「あ、あの! 聞きたいことがあるんだけど…‥行っちゃった」

 ガヴィーノはミリアには目もくれず、赤い石を手の中で弄びながら去っていった。小柄な後ろ姿が見えなくなった頃に、キルフェスが控えめに声をかけてくる。

「ミリア、怪我はないのか」
「私は平気! お兄様こそ大丈夫なの?」
「怪我はしていないし、食事も……残飯のようなものだが一応出てくる。だがあれから父上と連絡がとれていないし、体力もずいぶん落ちてこの有様だ」

 キルフェスは自嘲するように、引きつった笑いを口元に浮かべた。その手元には重そうな手枷がかけられている。

「そんな、お兄様……」

 兄は随分と憔悴しているようにミリアには見えた。なんとかしてあげたい、でもどうすれば……

 ミリアは牢屋の中を見回ってみた。ゴワゴワした毛布と簡素な寝台、それと素朴な木製の水差し、トイレらしき桶が一つあるきりで、他には何もない。
 全体的に石造りでひんやりとしていて、明かりとりの窓なのか、手が届かない場所に少しだけ隙間が設けられている。他の囚人の姿もなかった。

 ミリアと兄の間には鉄格子が設けられており、隣同士の部屋とは言っても通路分の距離が離れていた。例えば手を出してキルフェスに触れようとしても、できないくらいには距離が設けられている。

「ミリア、お前はなぜ捕まったんだ。今まで逃げていたのか?」
「そうだよお兄様。私、頼りになる仲間に出会って王都の近くまで旅をしてきたの」
「マルセロにはお前を逃がすように伝えたはずなんだが? なぜ王都に近づいたんだ」

 キルフェスはいい含めるようにミリアに問いかけた。

「だって、お兄様とお父様が捕まっていると思ったら、いてもたってもいられなかったの。助けに行かなきゃって思って、仲間もそれを応援してくれて……それで捕まっちゃったんだから、失敗しちゃったけどね」
「そうか……とにかく、体を休めるといい。下手に体力を使っても消耗するだけだ」
「ううん、もう少しできることがないか調べたいの」
「散々調べ尽くしたんだが……まあいい、ミリアが気がすむまでやるといい」

 ミリアは数歩進めば壁に突きあたる牢の中を二、三周して、そしてガヴィーノが細工を施した赤い石を目にとめた。
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