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第一章 領主の屋敷と青嵐の導き
6 つきあってってどういうこと!?
俺は田中昴、18歳。人よりちょっぴりデブでブサイクな、どこにでもいる大学生だったんだけど、都会の生活に馴染めなくて悩んでいたら、何故か異世界にトリップしちゃって、銀髪イケメン眼帯男につきあえって言われちゃいました! うん、意味がわからない。
ヘルムートさんは大きな目の中の瞳孔を見開いて、俺を逃すまいと隙なく見つめてくる。
海の中に差し込む太陽の光みたいにユラユラと、水色の光が煌めかしく瞳の中で揺れていた。うわー、綺麗だなあ。じゃなくて。
「なあ、今のはハイって返事したのか?」
「ちがっ、その! 聞き返したというか、びっくりしてつい出てしまったというか、だから返事じゃないです!」
「そうか、ならもう一回言うぞ。俺とつきあってくれ! いや、つきあってください!!」
ちょっと待って、これ、告白って訳じゃないよね? 俺に告白なんて、ないよね? 今ちょっと勘違いしちゃったと思うんだ、あーびっくりした。
お前ちょっとつきあえや、ぁあん? ってことだよね、きっと!
「あの俺、本当に見ての通りお金持ってないので……」
「金はいらねえ。お前がほしい」
「ファッ!?」
予想外の返しに固まっていると、ヘルムートさんは何故か焦りだした。
「ち、違う! 身体目当てじゃねえぞ!? 本当に、一目見てビビっときたんだ! お前は俺の運命だ!!」
ギュッと力強く手を握られ、更に身体を寄せられる。うああぁVネックからのぞく鍛えられた胸筋が眩しいよおおぉ!
「あっあはっ! ちょっと、クロちゃん今の聞いた? お前は俺の運命だっキリッ! ですって!! 普段口を開けば皮肉と暴言しか吐かないヘルがよ!? あははははっ、ひーっ! お腹痛いっ」
メイヴィルさんがお腹を抱えるようにして笑っている。バッと顔を上げたヘルムートさんは、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「テンメエエェー! 笑ってんじゃねー!!」
「キャーッ、怖~い!!」
キャッキャとはしゃぐメイヴィルさんに、ヘルムートさんの長い脚が襲いかかる。
メイヴィルさんはそれをかろうじて避けて、眉を釣り上げて怒った。
「ちょっと! アタシの顔に傷がついたらどーしてくれんのよ!?」
「ブスが顔なんて気にしてんじゃねー!」
「ひどーい!! スバルちゃん、今の聞いた!? こいつ、人の気にしてることをズバズバ指摘しちゃう、思いやりのない冷血漢なのよ!」
「スバルに変なこと吹き込んでんじゃねーよ!」
ここでそれまで静かに立っていたクロノスさんが、俺を庇うように前に出た。
「二人とも止めなさい。こんな狭い場所で争って、スバルに包丁でも飛んでいったら大惨事ですよ」
二人はピタリと動きを止めた。おお、流石クロノスさん。クロノスさんはヘルムートさんを非難するように視線を送った。
「ヘルムート、貴方のせいでスバルが怯えています。仮にも交際を申し込むのなら、最低限守るべき順序とマナーがあるのでは?」
するとヘルムートさんはハッと目を見開いた。
「わ、悪い! 怖がらせるつもりはなかったんだ」
そ、そういうセリフはせめて包丁をまな板の上に置いてから言ってほしかったかなー……どうしても腰が引けてしまう。
「や、その……」
俺の歯切れの悪い様子に焦れたのか、ヘルムートさんは勢いよく包丁を作業台の上に置いた。
「チッ! くそっ!!」
そして、舌打ちするとそのまま逃げるように外へと飛びだして行ってしまった。
「え? ヘル!? 仕事放り出すんじゃないわよ! おい!!」
最後はドスを効かせながら、メイヴィルさんも彼の後を追って出て行く。
「あいつを連れ戻して、ボスのとこにも行って来るわ! 開店時間までは好きに過ごしてて!!」
バタバタと嵐のように二人はいなくなってしまった。残されたクロノスさんと二人、見つめ合う。
「どうしよっか? クロノスさんは何して過ごすの?」
クロノスさんは、ヘルムートが作業途中で投げ出した包丁を拾い上げた。
「私はヘルムートのサボった分の仕事を今から補おうと思います。スバルは料理が出来ますか?」
「やったことない。けど、手伝いたい!」
「では、私が教えましょう。さあ、こちらへ」
クロノスさんは非常にわかりやすく料理のイロハを教えてくれた。
へーっ、豆の筋って端っこを切ると、すーっと上手く取れるんだね!
しばらく黙々と作業をしている時間が続く。
クロノスさんはボールに食材を浸したり、その間に次の野菜を切ったりとスムーズに動き回っていた。
手慣れてるなあ。料理ができる男の人って素敵だよね、俺も覚えたい。
下ごしらえがほとんど終わった頃にヘルムートさんが帰ってきた。
なんか風が吹き込んできたな? と思って扉の方に視線をやったら、顔が半分のぞいていてビビった。
「ひえっ」
「スバル? ああ、ヘルムートですか」
ヘルムートさんはバツが悪そうに、俺たちをチラチラ伺いながら厨房へと入ってきた。
「遅かったですね、既に下ごしらえは終わっていますよ」
「……っ! 勝手なことしてんじゃねーよ! 礼なんて言わねぇからな!」
「別に感謝されたくてやった訳ではないので、構いませんが」
え、え? なんか怒ってます? 余計なことやっちゃった?
「おい、スバル」
「ひゃい!?」
「……さっきは驚かせて、わ、悪かったな。けど、俺の気持ちは嘘じゃねぇから。よく覚えとけ」
ヘルムートさんは決まり悪そうに腕組みしながら宣言すると、ドシドシ音を立てながら階段を登って行ってしまった。
俺の気持ち、って……付き合えとか、ほしい、とかが本気だってこと?
えっと、それは……どうしよう。想定外すぎて頭がショートしそうで、まともに考えられないんだけど。
「クロノス! 今日の晩メシは俺が作るからな! 手出すんじゃねーぞ!!」
「わかりましたよ」
やれやれ、と言葉の響きに呆れを含ませながら、クロノスさんは残った洗い物を片付けた。
「これでおしまいです。私達も休みましょうか」
二階に戻ったら鉢合わせるかとドキドキしたが、どうやらヘルムートさんは自分の部屋に籠ってしまったようだった。
クロノスさんと二人、お茶を飲みながらのんびりと過ごす。
ヘルムートさんのことはどうしたらいいかわからないので、とりあえず頭の隅に追いやりお茶を味わうことに集中した。
ふう、暖かいお茶って落ち着くなあ。
窓の外はもう日が沈み、もうすぐ夜が訪れるところだった。蒼くて、地球の月の三倍は大きな月が昇って来ていた。
「スバル、見て下さい。今夜は双月共に満月ですよ」
「そうげつ?」
目を凝らしてみると、大きな月に寄り添うようにして小さな赤い月が浮いているのに気づいた。ああ、双子の月って意味なんだ。
大小二つの月が浮かぶ夜空は幻想的で、とても不思議だ。
はー……なんで俺は今、異世界の人とこうして月を見ているんだろう。
「綺麗だね……」
「スバルの方が綺麗です」
グッ! も、もうちょっとでお茶を吐き出すところだった!!
「大丈夫ですか?」
「う、ぐふっ、だ、大丈夫」
なんとか口の中に収めきれた。クロノスさんが背中を宥めるように撫でてくれていたが、不意にその手がピタリと止まった。
「スバル、知っていますか? 双月共に満月の夜に願い事を唱えると、願いが叶うそうですよ」
「へえー、そうなんだ。クロノスさんも何か叶えたい願い事があるの?」
灰銀の瞳が蒼月に照らされて青みを帯びて光る。銀のプリズムがチカチカと、瞳の中で星のように瞬いた。
「……ええ。けれど今は口にしません。しかし全て事が収束した暁には、貴方に聞いて頂きたいことがあります」
「な、なんだろう?」
「フフ、なんでしょうね?」
ニコリと麗しい顔を笑みに染めるクロノスさん。く、空気おかしくない? なんか夜になったはずなのに暑くなってきたよ??
うん、ちょっと別のことでも考えようかな!
そーだ、なんでここの人はみんな目がキラキラ光って見えるんだろうなー? イケメン効果でそう見えてるだけかなー??
ドギマギしていると、ノックの音が扉から聞こえた。返事を待たずに人が入って来る。
「やあ、あんたらか、匿ってるやつっていうのは。クロノス」
「はい、そうです。この度はご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません」
クロノスさんが頭を下げると、ガッチリとした体格の男の人は、片手を腰に当て首を横に振った。
「いいってことよ。クロノスがいなけりゃこんなに早くやつの尻尾を掴んでなかったろうしな。後は俺らがやるから、あんたはしっかりお姫さんを守っとけ。で、こちらが噂のお姫さん?」
男の人がこちらを向く。青い髪、黒い瞳の人で、ブサイクでも美人でもない普通の顔立ちの人だった。
「こんにちは、スバルです。お世話になります」
「おお、礼儀正しいな。俺はブルーリーだ、こちらこそよろしく。こりゃすんげぇ美人だな、メヴィが騒ぐのもわかるわ」
うんうん、と納得したように頷くブルーリーさん。メヴィって、メイヴィルさんのことだな、きっと。
「こんなに美人なら魔力の才もすげえんだろうなぁ。スバルの属性はなんだ?」
属性? 何の話だろう? 戸惑っていると、ブルーリーさんは軽く手を振った。
「ああ、答えたくないならいいぜ。ここは脛に傷を持つヤツばっかだかんな、余計な詮索はしないに限る。身を守る程度はできんのかって気になっただけだ」
「あー、自信ないです……逃げ足だったら人並みにはあるかな?」
「そうか、ならしっかりクロノスが面倒みてやるんだぞ」
「ええ、言われずとも」
クロノスさん頼もしいな。俺も足を引っ張らないようにがんばらなきゃ。
「じゃ、俺は下に行ってるぜ。クロノスも来い、スバルも来るか?」
「行ってもいいの?」
「いいぜ。ここに来るヤツはみんな俺の仲間だ。店の中なら自由に動き回っていいぞ」
ブルーリーさんはニカッと笑って階下を指差した。そして彼の黒い瞳の中に僅かに光る銀色を見た。
目の中の光はイケメン効果じゃなかったみたい。ここの人達の特徴なのかな?
三人で下に降りると、店内には既にちらほらと人が集まっていた。ヘルムートさんは厨房に、メイヴィルさんはカウンターにもたれかかって何やら話をしている。
あれ、なんか眼鏡の人が多いな。クロノスさん達程じゃないけど顔が整った人は、例外なく眼鏡をかけていた。
オシャレ伊達眼鏡とか流行ってるのかな?
俺が登場すると途端に場が騒ついた。顔をまじまじと見られてる、み、見ないでえぇ!
「おーい! 聞いてくれ。今日からここで匿うことになったクロノスとスバルだ。クロノスはもう知ってるよな?」
そう告げてブルーリーさんはクロノスさんの肩に手を置く。続いて、俺の背中を軽く叩いた。
「こっちはスバルだ。すんげぇ美人だからって、余計な詮索すんじゃねぇぞ? わかってんなお前ら!?」
「はい、ボス!」
「わっかりましたぁ!」
「ひゃー、僕あんな美人見たの初めて……」
「おい、マシュー! 返事は!?」
「は、はいぃ!」
マシューと呼ばれた瓶底眼鏡の男の子は慌てふためいている。あんな分厚い眼鏡、マンガでしか見たことないや。
「さあ、作戦は大詰めだ! 気合い入れてくぞ!!」
「「「おー!!!」」」
かくして、俺はレジスタンス『青嵐の導き』の保護を、正式に受けることとなったのだった。
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